とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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運命の交差(クロス)編
1.運命の出会い①


 

 

 

 

 

 年も明け、新たなスタートを刻むこの季節。

 

 社会が新しいムードに包まれる中、ボーダーもまた新しい環境に変わろうとしていた。

 今日は新入隊員の正式入隊日。

 それは戦力を期待された新人を迎え入れ、いつか来るであろう危機に対して対抗できるような力を持たせるための1ステップとも言える。

 

 

 当然、ミサカもまたその一員としてボーダーに加わるのだが.........

 

 

 

(なぜこんなことになってしまったのでしょうか。と、ミサカは周りにわからないように内心悪態をついてみます)

 

 

 

 表向きには無表情。しかし、思い通りにいかない現実に彼女は辟易していた。

 

 自身の特異な出自を考慮しあまり目立たずに無難な行動をしていたはず。

 ボーダーという組織の性質上、自分が不穏分子であるのは明確だからだ。

 

 そんな彼女の行動にも関わらず、目の前の現状は真逆も真逆。

 

 

「へぇ………おねーさん、()()()()()()()()()

 

 

 その一言に逸る鼓動と焦燥感。

 

 ミサカは今、窮地に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

一時間前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「________君たちはC級隊員として、いわゆる訓練生として入隊するわけだが三門市の、そして人類の未来は君たちにかかっている。日々研鑽し、正隊員を目指してほしい。君たちと共に戦えることを心待ちにしている」

 

 

 

 

 

 

 壇上の忍田による熱い激励の言葉がなされた。それはボーダー隊員としての意識と期待を表していると言っても過言ではない。

 そして、その場にいるミサカを含めた新入隊員たちに緊張感が走る。同時にひそひそと声が聞こえてきた。

 

 

「なんかやる気出てきたわ。がんばれそうな気がする!」

「確かに〜。なんか『役に立てる』って思わせてくれたよね〜」

 

 

(なるほど、適度な緊張感と期待されてるという感情を抱かせることによって意欲を煽る……なかなか良い演説でした)

 

 

 

 囁き声を皮切りに伝播していく話し声。周囲がざわめく中、1人ミサカは冷静にボーダーというコミュニティを分析していたのだった。

 

 いくら仮想空間でいくらでも訓練できるからといって戦闘であることに変わりはない。

 戦闘に対しての意識をあくまで『殺し合い』としてではなく『市民を守る』と動機づけることによっていくらか精神的負担を軽減する、そんな狙いもあるのかもしれない。

 

 

(……と、そんなことを考えている間にも何やら次のステップに進みそうですね)

 

 

 式、とは言ってもただ入隊を宣言するだけではないのがボーダー隊員の入隊式。最後まで気は抜けない。

 

 

「私からは以上だ。ここからの説明は嵐山隊に一任する」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、辺りは先ほどよりも大きくざわめいた。それもそのはず、広報部隊として名をボーダー内外で馳せている嵐山隊だ。少なくともボーダーの存在を知っている人たちの中で彼らを知らないものなどいない。

 

 

「わぁ〜、嵐山さん!」

「マジか!嵐山隊、本物だ!」

「相変わらず人気だな、アラシヤマ。」

 

 

 何やら1人だけ嵐山のことを呼び捨てにしていた白い髪の人間がいたが、ミサカは特に気にすることもなかった。それよりも彼女には気になったことがあった。

 

 

(先日の戦闘で遠征組と相対していた彼らですか……特に目立った処分などは下されていないようにも見えますね……)

 

 

 黒トリガー争奪戦

 ボーダーの勢力が二分化し、それぞれの力でもって己が主張を通す戦い。

 

 嵐山隊は本部と相対する形で戦闘を行なったわけだが、結果は痛み分け。いや、目的である黒トリガーを奪取できなかったと考えれば本部側の敗北とも言えるだろう。

 だが、本部派が敗北したからといって派閥自体が解散させられるわけでもない。以前としてボーダーのトップは城戸司令であり、さまざまな処罰も彼が下す。

 であれば、本部派と正面衝突した玉狛や嵐山隊もとい忍田派になんらかの処分が下るものと考えるのは妥当である。

 

 

(考えられるのは、まず処分を下せないほどに両陣営の戦力が拮抗しているということ)

 

 

 ボーダーについてここにきてからの一ヶ月ほどである程度の知識は吸収できたミサカではあるが、正式入隊する前にボーダー内をうろうろするわけにもいかないために隊員(迅以外)との接触を取らないように行動していた。

 そのため彼女はボーダー隊員の明確な派閥争いや勢力差などを観測できなかったのだ。

 

 

(ならば処分を下してしまった方が相手派閥の弱体化につながるような気もしますが……それをするとボーダー全体の戦力を低下させてしまいますからね)

 

 

 派閥単位での考え方ならそれもまた一つの手なのかもしれない。しかし、彼らはあくまでボーダーという一つの組織でもある。

 第一前提として市民の安全の確保を掲げている以上、余計な戦力の弱体化や求心力の低下を招く事態を起こすことは無いのだろう。

 

 

(であれば、『そもそも初めから争う気がなかった』と言ったところでしょうか。ではなんのために黒トリガーを奪取しに……)

 

 

 あるいは、黒トリガーを奪うという行為が最初から不可能とわかっていて行動に移した可能性。

 一見、なんの意味もない行動にも思えるが、ミサカには一つだけ心当たりがあった。

 

 

(三輪のあの様子を見るに、かなり限界に近い状況だったと記憶しています。近界民(ネイバー)が私の他にもう1人侵入してきたとなれば尚更のはず)

 

 

 城戸は己の派閥が「反近界民」を掲げていることは重々承知しているはず。

 どんな役割を果たし、そしてどんな対応をとっていくのが普通なのか。

 

 方向性を決めるのはもちろん城戸なのは言わずもがな

 つまり城戸派のメンバーの意思は城戸の思惑と考えることができる。

 

 

(ある程度の城戸派の隊員のガス抜きもかねて…そして、ミサカのテストも同時に行なっていた………?)

 

  

 当然、城戸にも黒トリガーの奪取を達成しようという考えがあっただろう。だが、ミサカはそれだけではないと感じた。

 強硬手段だって取ることもできただろうに、しないで戦闘を行わせる。

 

 まるで()()()()に意味があるかのように。

 

 

 ミサカは周囲から浮かないように他のC級隊員の動きに合わせながら思考を続けようとした。

 

 

(いえ……ダメですね。今のミサカが持っている情報では判断はできかねます。一旦目の前のことに集中するとしましょう)

 

 

 しかし、考える時間も虚しく城戸の本当の狙いに達することができなかった。

 組織のトップの考えがそう易々と悟られてしまうのもそれはそれで健全ではないので放っておくとして。

 

 ミサカはひとまず目の前のオリエンテーションに集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからオリエンテーションを始めるわけだがまずはポジションごとに別れてもらう。攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)を志望する者はここに残り、狙撃手(スナイパー)を志望する者はウチの佐鳥について訓練室に向かってくれ。」

 

 

 嵐山はそう言って戸惑うC級隊員たちを丁寧に誘導した。

 これから起こることに期待で胸を膨らませる彼らをすぐに沈めるのはまさしく彼らの手腕、なだたる経験の賜物だろう。

 

 

「ふむ……悩みますね。基本的にはあの…あすてろいど?とやら以外は遜色なく使えますが……」

  

 

 一方、意外なことにも彼女は自分のポジションについて迷っていた。

 彼女は見た目通りの武器も握ったことすらない女子中学生……ではない。一方通行(アクセラレータ)と交戦するためにプログラミングされた知識と1万回をも超える経験により武器という武器はあらかた使用が可能。

 

 具体的にはサブマシンガンから手榴弾、ナイフにスナイパーライフルにアサルトライフル、と多岐に渡る。

 

 

「トリオンを失う可能性を排除するなら攻撃手(アタッカー)はあまり得策とは言えませんね。と、ミサカは一旦近接格闘路線を選択肢から排除します。」

 

 

 まず彼女のポジションの候補から外れたのは攻撃手(アタッカー)

 文字通り近接で戦闘を行うポジションである以上、ある程度の損傷は覚悟しなければならない。

 

 だが、彼女は現状体内に足りない生命力をトリオンで賄っている状態なのだから、模擬戦はともかく防衛任務などの屋外戦闘でトリオンを失いやすいポジションになるのは避けるべき候補の一つなのだ。

 

 

「であれば、残るのは銃手(ガンナー)狙撃手(スナイパー)ですか………射手(シューター)はまぁ……初めからなかったことにしましょう。」

 

 

 何やら不穏な言葉が聞こえたが、ミサカは一瞬でそのことを脳内から排除した。 

 さあ、残るのは銃手と狙撃手。

 

 完全に距離をとりながら戦うことができて、かつ各個撃破が得意な狙撃手か。

 

 はたまたほどほどの距離をとりつつ、どちらかというと仲間のサポートに長けている銃手か。

 

 

(戦闘における最悪の事態を考えるとするならば狙撃手を選ぶのが安全な選択といえます。ですが、功績を稼ぎやすいのは機動力のある銃手であるのもまた事実)

 

 

 彼女にはやるべきことがある。そのためには、一刻も早く元の世界に戻らなければならない。

 

 確かに狙撃手は相手の攻撃が届かない距離から安全に敵を撃退することが可能。万が一、という展開は他のポジションより訪れないだろう。

 しかし、目的の他に彼女にはタイムリミットがある。

 

 現状、彼女が持ち得ない生命エネルギーをトリオンという未だ完全に解明されていないエネルギーで補っているのだ。

 

 今のところは無事ではあるものの、いつかの均衡が崩れるかは未知数。

 もし、元の世界に帰る前に活動停止してしまったら元も子もない。

 よってミサカが求めるのは安全性と効率のバランスということになる。

 

 

(安定をとるなら狙撃手も視野ですが.......今はそんなことを言ってる場合ではありませんね)

 

 

 戦場では狩るべき敵が悠長に残っているとも限らない。リロードしているうちに仲間が敵を片付けていることだって当然ある。

 なるべく自分の手で功績を上げることを必要とするミサカにとってそれは好ましくない。

 

 よって、自分の考えをまとめた彼女は再び前方でC級隊員たちに指揮する嵐山の方を向き、攻撃手、銃手ブースの方へと足を運ぼうとした。

 

 が、その時のことだった。

 

 

 

 

 

「お前は攻撃手、銃手ブース(そっち)じゃなくて狙撃手訓練室(こっち)だろ」

 

 

 

 

 

「........ッ!?」

「うおっ、()()()()()反応はえーな、オイ」

 

 

 

 

 肩に何かが触れた気がした

 そう感じ取った瞬間、ミサカは勢いよく後ろを振り向き平坦な顔でその手の持ち主の顔を見た。

 

 

「あなたは........どうして.........」

「あん?ああ、あんときは換装体じゃなかったからな。これでどうだ。見覚えくらいあんだろ?俺は当真勇。よろしく」

「いえ、そういう問題ではないのですが......」

 

 

 そしてその青年はトリガーを起動して換装体になる。

 彼女の目に映ったのはこれでもかと強調されたリーゼントの青年、当真勇その本人だった。

 

 幸い換装体どうのこうの以前に目立つ髪型があるためにこの青年が誰であるかはすぐにわかる。

 以前黒トリガーを玉狛から奪取するために参加した戦闘で同じ本部側であったのにも関わらず交戦してしまった時の大馬鹿だ。

 

 だがミサカにとっての疑問はそこではない。

 

 

(どうしてミサカがここにいると?目立たないように影を薄くしていたはずですが.....)

 

 

 ミサカの隠密は申し分なかった。なるたけ目立たないよう感情を抑えていた。

 

 だが、相手はボーダーの誇る狙撃手1位の男。

 

 

「いや、他のやつは気づかねぇかもしんねーが、あれだけ『無個性』を演じてるのはお前だけだったからな。あれじゃ逆に目立っちまう」

 

 

 流石というべきなのだろうか。ミサカの想定していないところから当真は彼女の姿を捉えていたのだ。

 高すぎる技術がゆえに見つかってしまった。つまり、初めからミサカは当真に見つかる運命だったのだろう。

 

 今更知らないふりをしても無駄だろうと考えたミサカは対話の意思を示した。

 

 

「んで、お前あんとき狙撃手だったろ。なんでそっち行くんだ?」

「別に私の勝手でしょう。というかミサカの肩を掴んで訓練室の方に連れてくのをやめてください」

「ん?なんか言ったか?」

 

 

 わざとらしくとぼける当真は止まることを知らない。がっしり掴まれたミサカはされるがままに運ばれていた。

 

 というか、先ほどから嫌な気配がしてならない。

 何か悪いことや迫られるようなことが起きる、というわけではない。

 こう、なんというか、厄介ごとに巻き込まれる気配だ。

 

 

 

(はぁ.....ミサカの元には災難しか降りかからないのでしょうか。と、ミサカは個体差などないはずなのに同位体との格差にうんざりしてみます)

 

 

 

 一足遅れて訓練室に運送される彼女の顔は無表情。

 

 だが、内心はどこぞの輩よろしく『不幸だー!』状態なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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