とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ) 作:さくらぎ おきの
「は?」
ミサカは突如として生まれた閃光と轟音、そして地面から出た煙に感覚を余すことなく奪われた。
その時間は一瞬であったが、彼女の想像を超えるには十分。
あのアイビスより小さな少女が分厚いボーダーの壁をターゲットごとぶち抜いたのだ。
その破壊を語るならば、一瞬にして突貫工事が行われていたようなもの。
当然、大型近界民を模したターゲットは跡形もなく消し飛んでいる。
(狙撃の基礎を習っているとはいえ......一体どのくらいのトリオンがあればこんな爆発が起きるのでしょう)
少しの間ののち、ミサカは素直に雨取に対して関心を持った。
初めはどこにでもいるやや小さめな少女のように映っていた。
自分を見ただけで怖がるような臆病さを持っていたために、その印象に拍車がかかっていたのかもしれない。
だが、途中からその印象も変わっていく。
狙撃に関して他の者よりも豊富な知識を持っており、何より胆力と冷静な判断力がある。
『動じない』ことは狙撃手にとって大きなアドバンテージ。
それを持っている雨取は同世代よりも一歩先に進んでいると言えるのだ。
極めつけにはあのトリオン量。
狙撃トリガーおよび銃トリガーは込められるトリオン量が射手トリガーよりも少ない。
銃という媒体を通してトリオン攻撃を行うため、そこにトリオンが割かれてしまうからだ。
だというのにあの火力。
他の隊員、およびトリオン量が勝手に決められているミサカからしてみれば羨望の的でしか無い。
もし彼女がアステロイドやハウンドを使うようになったとしたら....
あまり考えたくは無いことだ。
(火力だけみれば
ミサカは身をもって体験しているからこそわかる。
雨取の特異性は何も雨取本人に関わることだけでは無い。
ミサカはこの世界に来てからの記憶を頼りにある一つの結論に辿り着いていた。
トリオンは生命エネルギーを元にした万能物である、と。
ボーダー本部の外壁や施設、そして装備は全てトリオンでできている。
耐久性能も申し分なく、実物となんら変わりはない。
トリオンで物を作れる以上、個人でそのリソースを抱えているのは戦術的価値が高い。
それに、まだトリオンは完全には解明できていないらしい。
これからの技術の発展次第では彼女の価値は飛躍的に高まると言っていいだろう。
聞いた話によると、病弱で動けない人間もトリオン技術によって運動ができるようになるという事例もあるらしい。
もしかしたら、ミサカのようにトリオンが供給できない人間に分け与えるということもできるかもしれない。
彼女自身に力がなくとも、強い隊員のトリオンタンク要員になれば高精度の無限遠距離爆撃なんていうこともできる。
(本体性能も鑑みれば「
ミサカの元いた世界、もとい学園都市では能力者が実力ごとに区別されている。
その中でも最上位に位置する人間は総人口230万人のうちたったの7人。
相手への攻撃にも使えて、かつ物体生成、医療、味方の戦力補強と様々な点で判断される中で、トリオン強者は汎用的という点でかなり優位性がある。
化け物じみた人間たちに組みいるポテンシャルがある。
それがミサカの彼女に対する評価だった。
能力だけ見ればシンプルかつ強力な膨大なトリオン量
学園都市でも最上位まで食いつくその脅威
しかし、ミサカは彼女をあくまで
(それにしても彼女は不思議なところでメンタルが脆いですね……)
先ほどの試発の時には人が変わったように狙撃に集中できていたのに、終わったらやらかしたことの大きさに気づき顔面を蒼白させていた。
普通であればあのトリオン量があれば高慢になってもおかしくない。
そうしないのは自信のなさの表れか、それともそれ以外の要因か。
なんにせよ、つけいる隙が多すぎるのはマイナスポイントだ。
(とは言っても周りの人たちは慌てるか口を開けてばっかり。少しは彼女のことも心配したらどうなのでしょうか)
ミサカが他の誰よりも早く我を取り戻しただけなのだが、それに気づく由もない。
流石のミサカといえども気にはなったのだろう。
どうすれば良いかわからずあたふたしているだけの雨取に気遣うように声をかけた。
「大丈夫ですか、とミサカはこの惨状を引き起こした張本人を心配してみます。」
「さっ……あ、ありがとうございます……」
肩の震えを抑え、ミサカの差し伸べられた手を握る。
そしてミサカは手を離すことはなくしばらくの間握手の形を続けていた。
「あっ…えっ……手……」
「……すみません、とミサカは気をとり直したように貴方の手を放します」
ミサカはそう言って数秒間繋いでいた手を名残惜しそうにしながら解く。
どこかまだしたりない不満足感も漂わせながら。
雨取は立ち上がって周りを見た。
顔の下半分を手で隠して隣の隊員と話す者
若干引いた目で傍観している者
「………」
その全ての視線が彼女を責め立てる。
「ハァ………」
「ご、ごめんなさい………」
「あなたは何に謝っているのですか、とミサカは呆れながらあなたに質問してみます」
「え?」
雨取はため息を吐いたミサカに怯え、いつもの癖で謝ってしまった。
自分のせいで迷惑をかけていないか
周りの人たちを傷つけたりしていないか
だが、その考えとは裏腹に彼女に怒るようなそぶりはない。
むしろ返ってきたのは質問だった。
「何にって……ボーダーの壁に穴を開けちゃって……迷惑かけちゃって……」
「貴方の場合それは問題ないような気がしますが」
ミサカはそう言って先ほど空けられた穴を見た。
壁に穿たれた大きな穴は彼女のトリオン量をそのまま物語っている。
確かに破壊したのは事実だが、それを加味してもあまりあるくらいの収穫物が見つかったわけなのだから、多少の被害に関しては十分目を瞑ってくれるだろう。
「そもそも貴方は訓練生、ましてや今は体験です。例えそれで問題が起こったとしても責任は引率者にあるはずです。違いますか?と、ミサカは一番貫禄のあるロン毛の隊員さんに問いかけます」
「ああ、その子の言う通り、今のは訓練中の事故だ。責任は現場監督のそこの佐鳥に取らせる」
「ええッ!あ、
ミサカの想定していた通り、雨取に責任がのしかかるわけではなかったようだ。
一瞬だけ安堵の表情を見せた雨取は続けて質問をする。
「あ、あと……私のせいで玉狛支部の先輩たちが怒られたりとかは……」
「しないしない。責任は
「で、ですよね……ヤッパリ………」
悲しきかな、雨取の質問に対し東は労わるように優しく答えた。
だんだん顔から血の気が消えていく佐鳥。
まるでそれはこれから地獄に行く者かのような風貌だった。
そんな可哀想な隊員こと佐鳥を尻目に、ミサカは新たな隊員の気配を感じ取った。
急いで訓練室に突入してくる影が二つ。
遠目で見える限り、その影のうち一つは小さく、もう一つはそれより一回り大きいくらい。
そしてそれらは雨取が
「千佳、大丈夫か!?」
「お、
1人はメガネが特徴的な理知的そうな青年。
もう1人は先ほど忍田が演説していたホールにいた白髪の少年だった。
あの場で1人だけ嵐山を呼び捨てにしていたからだろうか、ミサカの記憶には少しだけ印象が残っている。
とはいえ、一応2人とミサカは初対面。
雨取はこの2人と交友関係を築いているだろうが、ミサカは違う。
誰だろう、と首を傾げる2人に今気づいた雨取は取り繕うように慌てて説明する。
「お、修君、この人はさっき私が壁ごと撃っちゃった時に真っ先に来てくれたの」
「白い服……ってことは千佳と同じC級隊員か。僕は
「どうも〜」
そう言って片手をヒラヒラとさせながらミサカに顔を向ける空閑。
だが、その目は何かしら疑いを持っている目だった。
「よろしくお願いします。ミサカの名前はミサカです」
「えーっと…みさか……何さん?」
「何さんもなにも、ミサカの名前はミサカです、とミサカは至極当然の出来事だと自信を持って答えてみます」
ミサカの自己紹介を聞いた三雲は理解が追いついていない様子だった。
一人称もミサカで名前もミサカだけという状況に三雲だけでなく、雨取も疑問符を浮かべている。
とは言え話の論点はそこではなかったため、三雲は気を取り直してミサカに礼を述べる。
「僕たちが来るまで千佳を診ていてくれて本当に助かりました。ありがとうございます、ミサカ…さん?」
「ミサカでいいですよ、とミサカはむず痒い気分になったので訂正を求めます。」
やけに三雲はかしこまっていた様子であったが、それには理由があった。
もちろん2人が初対面だったからというのもあるが、それ以上に彼女が大人びて感じられたからだ。
三雲の身近な女子といえば
プライドが高く自他ともに厳しい性格の持ち主であり、中学生でA級になったことに誇り(と強いエリート意識)を持っている。
当然、木虎はすごい人間だという認識は三雲も持っており、トリガー技術など一部尊敬する点もある。
だが、それ以上に大人ぶろうとしているという評価も三雲は下していた。
周りに負けないよう努力するその対抗心は「舐められないため」というある種大人への羨望とも取れる価値観からなっているのだ、という
反対に、ミサカからはその話し方をみても木虎のような価値観を感じることはなかった。
ただ、淡々と話すべきことだけを話す。そんな意思が感じ取れる。
達観している
そんな第一印象を持ってしまった三雲は目の前の彼女は年上なのかもしれない、そう無意識に判断してしまったのだ。
「それで、お二人はどうしてここに?とお三方の関係性について問いてみます」
「僕たちは玉狛支部の隊員で千佳がB級に昇格したらそのままチームを組む予定なんだ。ここの空閑と一緒に」
「そうなのですね」
一方、ミサカはさりげなく雨取に関する情報を整理しようとしていた。
あのトリオン量を有する人間のことだ。引く手数多なのは想像に難くない。
加えて狙撃に関しての意識も申し分ないのだから、もしランク戦等で戦う機会があれば真っ先に警戒しなければならない対象とも言える。
であれば雨取の周りの人間、具体的には同じ隊になる人間に関しても調べておく必要がある。
ここで関係性を聞くことができたのはミサカにとってまさに僥倖であった。
(三雲……はまだ未知数ですが、空閑とやらはかなり厄介そうですね……)
先ほどから空閑に視線を移すたびに表情とは違う感情がが見え隠れしている。
表面上はどこにでもいる中学生。身長だけでいえば小学生でも通じてしまう。
だが、その内に秘める違和感をミサカは感じ取っていた。
(当真が言っていたことがようやくわかりました。彼の裏は「無」という感じがします)
つい先ほどミサカは目立たないように影を薄くしていたのだが、偶然そこにいた当真に見つかってしまうという出来事があった。
彼曰く、『目立たなすぎて逆に目立ってしまっている』とのことだった。
もちろん、彼の感性も関与しているだろうが、空閑に対しても通ずるものがあるらしい。
あまりに裏側を伏せすぎて、目立っている。
そのようにミサカは考えていた、その瞬間のことだった。
「コラ!一体そこで何をしておる……ってなんじゃぁコレはぁ!」
「すみません、鬼怒田さん!この穴の責任は全て僕にあります!」
「そんな当たり前のことを聞いとらんわい!一から全部説明せい!」
怒髪天、そう形容できるくらいにはカンカンな鬼怒田の姿がそこにあった。
おおかた先ほどの爆発音を聞いて急いできたのだろう。かなりの焦燥感が感じ取れる。
その怒りを一身に受けるのは言うまでもなく
「おっと、まだ訓練中でしたね。戻りましょうか、とミサカは貴方にもう一度手を差し伸べてみます」
「う、うん!」
あんな出来事があったとはいえ、まだ訓練中であるのは紛れもない事実。
加えていくら佐鳥が責任を負うとはいえ、状況説明のためには雨取本人がいなくてはなにもはじまらない。
色々と三雲や空閑から聞きたいことは残ってはいるが、同じボーダー隊員なのだ。いくらでも話す機会はあるだろう。
ミサカは雨取と一緒に絶賛叱責中の鬼怒田と佐鳥を尻目にこっそりともとの場所へと戻っていった。
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「なぁ、レプリカ。アイツって……」
「もしかしたら
Reboot計画始動おめでとうございます
今はただプロジェクトチーム、原作者様共々に感謝を
話の展開を考慮してちょっとだけこの章の内容を変えました。具体的には最初の部分です。