とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字報告感謝です

遅まきながら読者の皆様、あけましておめでとうございます。
今年も昨年同様、期を見つつ更新に尽力していきますのでどうぞご愛読の程よろしくお願いします。


5、運命の出会い⑤

 

 

「……ってことがあったってワケ。オサムの言う違和感ってのに当てはまるのかはわからないけど、とりあえず言ってみた」

「ああ……教えてくれてありがとう、空閑。……あれ?夏目さんは?」

「話してる途中で帰った。なんか親御さんがもう迎えにきてるってさっき言ってたじゃんか」

「あ、いや……聞いていなかった……」

 

 

 三雲は未だ取れない思考のもやに悩まされながらも、空閑にとりあえず礼を述べる。

 その深い思案は夏目が帰ったことすらも気づかなくしてしまうほど。

 

 空閑が言うにはミサカは『生身』であの場にいたということらしい。

 彼女はあえてトリオンでできた隊服を着て、他のC級隊員たちと共に忍田本部長や嵐山隊の話を聞いていたのだ。

 

 生身でいることに別に問題があるわけではない。だが、()()()()()()()が三雲は気になっていた。

 

 換装体は万能だ。

 ありとあらゆるダメージから身を守り、運動能力を飛躍的に上昇させる効果を持つ換装体は例え訓練だとしても基本的に身に纏わない理由はない。

 そんな換装体を周囲の人間が身に纏っている状態で1人だけ生身なのは安全面からしてみても理解し難い行動と言える。

 

(わざわざあの場でトリオン体に換装しなかった理由………)

 

 三雲は様々な理由を挙げ、それらの妥当性を模索していく。

 

(例えばトリオン量が僕みたいに少ないからトリオン消費を抑えるために……)

 

 初めに上がったのは、三雲としても身近な悩みであるトリオン量にまつわる問題。

 

 トリオン量には個人差があり、極端に多くのトリオンを保持している者もいれば豆粒のようにわずかなトリオンしか持たない者もいる。

 例えば雨取のように壁に大穴を開けることができる人間はボーダーで数えても片手で足りるほどしかいない。

 

 一方で、三雲は彼女はおろか普通の隊員と比べてもトリオン量において天と地ほどの差がある。

 一般的なB級隊員はトリオン量が5〜7の数字で表されるのに対し、三雲のトリオン量の数値はなんと2。

 トリオン量の差が露骨に出るトリガー戦闘において、この数字の差は想像よりもはるかに大きいのだ。

 

 しかも、純粋な戦闘に使うリソース不足だけで無く、換装体が損傷した時にトリオン切れで緊急離脱するまでの時間にも関わってくる。

 

 よって彼は他の隊員よりもトリオンを何に使うかで厳しい配分を強いられており、なるべくトリオンを無駄に消費しないようにする考え方が身に染み付いていた。

 そこから考えるに、彼女もまた三雲のようにトリオン弱者という位置付けなのかもしれない。

 

(けどそんなことはありうるのか?)

 

 三雲はそう自分の過去と照らし合わせながら思案する。

 

 トリオン量『2』というのはボーダーの指標で言うとオペレーターやエンジニアが持つトリオン量と同等、またはそれ以下である。

 事実、三雲自身もボーダーの試験を突破できずにいた。そこから色々あってB級と言う立場にいるのだが、そこまでしてきた行動を振り返ってみると果たして彼女も同じことができるだろうか。

 

 もしトリオン量が三雲と同じくらいなのにも関わらず彼女が入隊できたのなら、何かしらアクションを起こしたのは間違いない。

 だが、三雲は彼女にそのような何かしら危険な選択肢を選ぶイメージを抱くことはなかった。

 

(突発的な行動をとる人には思えなかった……むしろ理知的と言うか、千佳の一件のときも特に慌てている様子はなかった)

 

 あの場で真っ先に千佳の元に駆け寄り、声をかけていた彼女。

 ただ、元気づけるように声を上げるでもなく、それでいて慰めるような優しい声でもない。

 

 側から見ればそれは優しくないように見えるかも知れない。

 だが、当時の雨取にとっては過剰に反応されることの方が心に多大な負荷がかかる。

 

 ミサカの行動は幸か不幸か雨取を正しい形で救っていたのだ。

 彼女がそれを知っていたかどうかは重要ではない。特に騒ぎ立てることも無く声をかける。それだけで良かったのだ。

 

 ただそれは、淡々と『事務作業』をこなしている、言うなれば機械の様な行動にも見て取れる。

 

(トリオンが少ないからって言う考えは流石に安直すぎるか?)

 

 三雲自身、もっとも身近なコンプレックスだったためか真っ先に浮かんできたこの仮説だが、流石に安直すぎたのか候補からは自然と外れていった。  

 

(そもそも僕が感じていた違和感は何だったんだろうか……)

 

 続いて三雲は自分の違和感の原点に立ち返る。

 この感覚の元は初めて彼女に会った時。あまりにも平坦な声と態度に度肝を抜かれたあの場面。

 

『よろしくお願いします。ミサカの名前はミサカです』

『えーっと…みさか……何さん?』

『何さんもなにも、ミサカの名前はミサカです、とミサカは至極当然の出来事だと自信を持って答えてみます』

 

 この会話の時、自分は彼女に対してどんな印象を持ったか。

 

(大人……達観……いや違う!)

 

 大きな爆発音がした少し後に三雲たちは訓練室にやってきた。だが、少し時間が経っていたのにも関わらず彼女は平然としていた。

 A、B級隊員はともかく、C級隊員はアイビスを使った雨取だけでなく皆その場から動けなくなるほど動揺しいていたと言うのに。

 

(彼女の態度があまりにも普通すぎる!まるで()()()()()()()()()()()()ように!)

 

 何度も言うが、彼女はC級隊員だ。階級だけで言えば雨取と何ら変わらない初心者も初心者。トリガーにすらふれたことのないものがほとんどだ。

 雨取や空閑は少々例外だが、それでも雨取には彼女のようにしていられるほどの度胸は現時点では無いだろう。

 

 しかし、彼女は違った。

 あまりにも普通すぎたのだ。

 

 あの程度の爆発が日常にあるかのように。

 まるで悠々自適に観察できるほどのことでしか無いかのように。

 

(どうやってそんな精神性を得たのか……ダメだ……まだ情報が足りなすぎる)

 

 後もう少しで違和感に到達できる。そんな感覚は確かに存在するのだが、いかんせん三雲の保持している情報は少ないと言わざるを得ない。

 かといって、空閑は彼女と違って攻撃手(アタッカー)の訓練に参加していたため、あの演説の場でのことしか情報を持っていない。

 

 ただ、この場にはもう1人の仲間がいる。

 そうだ。雨取ならばミサカと同じポジションでありつつ、彼女にもっとも接近した人物と言える。

 

 

「千佳、ちょっといいか」

「何?修くん」

「千佳から見て何か彼女に対して違和感を感じたりしたか?こう……嫌な感じとか不安とか」

「不安………」

 

 

 まだ足りない情報を埋めるために三雲は雨取に当時の状況を話してもらえるよう協力を仰いだ。

 それに応えるように雨取は手でかき分けるように過去を思い出していく。

 

 ミサカと初めて会った時、監督官である佐鳥にうまく出席の意を言えないでいた自分の代わりに言ってくれた彼女

 

『横から失礼します。その人数は誤りです。と、ミサカは話を遮ってしまったことに謝罪をしつつ、人数の訂正を進言します』

 

 そしてアイビスで壁に穴を開けた時、彼女は真っ先に駆けつけて安否を確認してくれた。

 

『大丈夫ですか、とミサカはこの惨状を引き起こした張本人を心配してみます』

『さっ……あ、ありがとうございます……』

 

 そのまま夏目と一緒に友達になってくれて、新たな仲間がボーダーの中で出来上がったあの高揚感。

 

 

「あ………」

「どうしたんだ!?」

 

 

 不意につき出されたかのように声を出す雨取。

 なにか心当たりがあるとみた三雲は食い入るように続きを促す。

 

 

『あーあー、怖がらせちまって。入隊早々オマエに目ぇつけられるなんておぉカワイソ〜』

『冷やかさないでください、とミサカは彼女の()()()()()()()()()()対応にショックを受けていることに対して愚痴をこぼしてみます。というか、いつまでここにいるんですか』

『別にいいだろ?むしろ友達ができない可哀想な後輩に目ぇかけてやってんだぜ?礼くらい言ってほしいもんだ』

 

 

 思い出されるのは初めて彼女に出会った時、自分はどんなことを感じていたか。

 リーゼントの隊員とミサカから聞こえてきた話は鮮明に思い出せる。

 あの時自分は彼女に冷たい態度をとってしまった。けれど、何も理由がなくそうしたわけではない。

 

 それは『恐怖』だった。

 今にしてみれば大変失礼だったなと後悔しつつも、それでも間違ってはいなかっただろう。

 早く会話を切り上げたい。早くこの場から去りたい。早くこの人から離れたい。

 そんな普通なら抱かないであろう感情。

 

 そして、雨取はその感情に覚えがある。それに何度も苦しめられてきたから。

 

 

「お…修くん……わ……私……」

「千佳!無理するな!」

 

  

 どこからどう見ても尋常ではない震えと焦り。いままでその症状を幾度となくみてきた三雲は自分の選択を後悔し、静止を試みる。

 それでも雨取は話を止めようとしない。

 

 雨取には幼少期からある力が備わっていた。

 その『力』故に生まれた過去のトラウマから他人に助けを求めず、自己犠牲的な行動を取ってしまう傾向にある。

 

 「門」の出現やそこから現れた近界民を察知できる。

 その力はこれまで彼女だけを助けてきた。だが、その力が雨取自身に刃を向くとは今まで考えてこなかったことだ。

 

 確かにそれと同じ感覚はあった。だが、()()()()()()の出来事だったために気のせいかと考えてしまった。

 事実、二回目に助けてくれた時には彼女に対して恐怖を覚えなかった。

 しかし、少なくともあの一瞬、あの顔を見合わせた瞬間に反応しただけでも十分な判断材料になりうるはず。

 

 頭の中では理解していた。だが、そうであって欲しくない、そんな気持ちがどこかにあったのも否定できない。

 だが、思い返せば他の人には反応しなかった副作用(サイドエフェクト)による何とも言えぬ不快感は確かにあったのだ。

 

 それでも信じたくなかった。認めたくなかった。決定づけたくなかった。

 二度も助けてくれて、夏目、自分両方に何の偏見もなく接してくれた。

 そしてあんな身近に脅威が近づいていただなんて。

 

 

 そんな彼女がまさか()()()だなんて

 

 

「ミサカちゃん……もしかしたら、ううん……」

「もしかしたら……?」

「……ミサカちゃんは……ね、近界民(ネイバー)……だと思う……」

 

 

 廊下を通る乾いた空気に響く少女の声。

 その声の残す情報は言葉足らずだが、確かに仲間には伝わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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