とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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2、イレギュラー②

 

 

 

「ニャー」

「猫ですか。と、ミサカは少々興奮しながらも接近を試みます。」

 

 

 不思議と彼女に緊張感はなかった。その証拠にこうして突然現れた猫と戯れようと試みている。

 

 そのリラックス加減は、驚きと初見で溢れている学園都市にいた影響ももちろんあるだろう。

 

 だが、それ以上に考えることが多すぎて一旦思考を放棄せざるを得なかった方が大きい。

 

 

「ニ"ャーッ!フシャーッ!!」

「おや、嫌われてしまいましたか。と、ミサカはここでも猫には嫌われるのかと若干の不満を愚痴ります。」

 

 

 触れようと一歩足を踏み入れた瞬間、猫は警戒心丸出しで逃げていった。

 

 ここへ飛ばされる前にも彼女は猫に嫌われていた。

 

 彼女の体から漏れ出る微弱な電磁波が動物を刺激するのが原因らしい。

 

 これだけ異変が起こっているのだから少しくらいは動物に懐かれるかと思っていたが、それはどうやら浅はかな想定だったようだ。 

 

 

(さて……と、思考が一旦クリーンになりました。さっきの続きといきましょう。)

 

 

 目の前に広がる光景。そして、自分を取り囲んでいる未知の状況。

 

 呆けている場合ではないのはわかっている。加えて今は現状把握にリソースを割くべきなのもわかっている。

 

 だが、目を離さずにはいられない。

 

 

「なんですかこれは……と、ミサカは目の前の光景に人目を気にせず言葉を漏らします。……あんぐり。」

 

 

 一つの都市レベルとは言わずとも、一つの街くらいなら軽く飲み込んでしまいそうな白い建物。

 

 正体はわからない。だが、彼女の第六感が激しく鳴り響いている。

 

 なぜこの街のど真ん中に大きい建物が位置しているのか。

 

 そしてなぜ人気(ひとけ)が全くと言っていいほど無いのか。

 

 

(そういえば、家があるのに人がいない………?駅も活動している様子はないし、まるでジオラマのよう……)

 

 

 彼女が今いるのは間違いなく住宅街。そこに家があると言うことは誰かが住んでいたと言う証拠でもある。だと言うのに人の気配が全くない。

 

 少し周りを探索し、駅や売店を発見するもいずれも人の気配のけの字もなかった。

 

 

(建物の損壊具合を鑑みると、何かの生命体がここから人間を追い出した……もしくは人が住めなくなるほど感染力の高い病原体の隔離……)

 

 

 今までの彼女の脳に刻まれている常識とことごとく違う現実。

 

 目を疑うような光景と決して普通ではない住宅街の雰囲気。

 

 嫌に感じるこの違和感。

 

 すなわちこの世界はやはり…

 

 

 

「後ろを向いたまま手を上げろ!近界民(ネイバー)!」

 

「………ッ!?」

 

 

 

 いきなり声が後ろから発せられた。彼女の思考はその声によって遮られてしまった。

 

 それは鉄板の脅し文句。だが、その言葉からは熱意と本気が感じられる。

 

 だが、彼女は振り向かないどころかあえて振り向き、そしてそのまま手を上げずに警戒心をむき出しにした。

 

 心なしか彼女の体の周りには見えないくらい微量のプラズマが舞っているように見える。

 

 なぜ彼女は脅しに屈せず、振り向いたのか。

 

 

「それで脅しているつもりなら無駄ですよ。と、ミサカは忠告をしながらおもむろに後ろを振り向きます。」

「何ッ!?」

 

 

 無論、無数の死線を何度も経験していたからだ。

 

 銃や銃火器なんて当たり前、超能力が跋扈している世界から迷い込んできたのだ。今更銃程度に臆する彼女ではない。

 

 先ほどの脅しを放った声の主の正体は、怪訝な顔をした黒い髪のヘッドホンが特徴的な青年だった。

 

 ただし、普通の日本の青年とはだいぶ違った装備を身につけている。

 

 

(拳銃…それに腰にあるのはおそらく刀…この国の銃刀法はどうなっているのですか。)

 

 

 明らかに刃渡15センチをゆうに越している刀を見る限り、この日本は法整備がなされていないのだろうか。

 

 先ほどの違和感は確信へと変わり、自ずと彼女の行動も決定されていく。

 

 

(まず、ここが普通の日本でないのは確定。あとは何が特別なのかを探る必要アリ。)

 

 

 なるたけこの青年から情報を引き出す。

 

 その方向へと彼女は舵を切った。

 

 

「ん?人型じゃねぇか!なぁ秀次、あれ、俺がやっていいか?前のやつは迅さんのせいで消化不良なんだよ。」

「黙っていろ、陽介。近界民(ネイバー)は俺が殺す。」

 

 

 先ほどから潜伏していたのだろうか。家の陰からもう1人の青年が現れた。

 

 片手に携えているのはこれまた銃刀法もびっくりな槍。

 

 槍の先が光っているのは注意しなければならないポイントだろう。

 

 

(2人は明らかに日本人。背丈を鑑みるに普通の男子高校生と断定。しかし武器を平然と持っている。)

 

 

 彼女のデータに刻まれている情報は彼らが2人とも日本人であることを証明していた。

 

 ただ、武器を持つという一点を除けばの話ではあるが。

 

 

(きっと武器を持たなければならない事情があるのかもしれない………)

 

 

 武器とは人間の生み出した敵に抗うための利器。であれば力を振るうための対象がいるのは自明の理であろう。

 

 その対象がなんなのかは未だわからないままであるが。

 

 

「あなた達はなぜ武器を………ッッ!!」

 

 

 だが、少女の思考と質問は突如として遮られた。

 

 青年から突如として放たれた銃弾によって。

 

 

「何を考え事している。お前がするべきことは黙って殺されることだけだ。」

「ほぉ〜、あれを避けるってことは近界民(ネイバー)確定だな?」

「何いきなりぶっ放してるんですか。と、ミサカはあまりの倫理観のなさに呆れてしまいます。」

 

 

 その通りである。ただし、それは普通であればの話。

 

 彼らの目に映る少女はあまりにも()()()()()

 

 一つ、彼らからしてみれば見たこともない制服を着た少女が立入禁止区域にいた。

 

 二つ、暗視ゴーグルと思われる謎の機器をつけている。

 

 三つ、何よりも、銃を突きつけられても平然と要求に逆らった。

 

 そして、仮に彼女が近界民でなかったとして、普通の人間に銃弾が避けられるものなのだろうか。

 

 

「なぜ、だと?お前が近界民(ネイバー)だからに決まっているだろう!」

「先ほどからあなた達の言っているねいばー?とはなんなのでしょう。と、ミサカは純粋な疑問をぶつけてみます。」

「ん?お前、しらねぇのか?近界民(ネイバー)。」

 

 

 彼女には先ほどから目の前の青年たちが言っている謎の存在、近界民(ネイバー)がわからない。

 

 ただ、近界民であると断定した瞬間に彼らは襲撃してきた。

 

 詰まるところ、彼らが武装している理由はおそらくその近界民のせいと考えるのが妥当。

 

 

(おそらく近界民とは、私のように意味もわからずこの場所で目覚めた人のことを刺すのでしょうね。)

 

「余計な会話をするな、陽介。とぼけても無駄だ!お前がゲートから出てきたのは確認済みだ!」

 

 

 銃使いの青年は彼女の言葉に反応するかのように言葉で覆い被せた。

 

 まるで、近界民から放たれた言葉に聞く耳を持たないかのように。

 

 

(彼は近界民とやらに対して強い忌避感……と言うよりも憎悪を示している。ここは友好的に振る舞うのが得策でしょう。)

 

「げーととやらは聞いた覚えも見た覚えもありません。それにあなたはどうして怒っているのでしょう。と、ミサカは友好的姿勢を見せておきます。」

「……ッ!!近界民に話す義理はない!陽介、さっさと2()()()片付けるぞ。」

「ん?オッケー!そんじゃあ……一番乗りはおれッ…だッ!!」

 

 

 会話が終わるや否や、槍使いは急激にスピードを上げて彼女に接近した。

 

 ひと薙ぎ

 

 字にしてしまえば軽く見えてしまうが、その一撃は生身の人間では到底避けられないような一撃。

 

 不意打ちは卑怯だと言われるかもしれないが、それも戦闘法の一つ。

 

 当たった、そう2人は確信した

 

 だが、瞬時に地を這った彼女には当たらない。

 

 槍はリーチが長い分それだけ機動性にやや難がある。外したならまるまる隙を晒しているようなものだ。

 

 

「遅い。と、ミサカはいつか言ってみたかったセリフをここで消化します。」

「と、思うじゃん?」

「ッッ!?」

 

 

 槍使いは外したとわかった瞬間に強引に槍を自分側へ引き戻す。

 

 彼女が気づくと、頭上の方からすでに槍の先端部分が差し迫っていた。

 

 しかし、それも反応。

 

 より槍使いの体に接近して逆に足払いを仕掛けた。

 

 

「何ッ!?」

 

 

 槍使いはこれを持ち前の槍捌きで捌く。

 

 まさかここで攻勢に出るとは思っていなかったのか、槍使いは槍を守りに回さざるを得なかった。

 

 彼女の体には同じクローン体に刻まれた一方通行(アクセラレータ)との戦闘データがある。

 

 少々意表をつかれたが、時には亜音速をも越える彼の一撃に比べれば、槍の軌道など予想するのもそう難しくないのだ。

 

 

「うっひょー!コイツ、また避けやがった!しかもカウンターまで!今回()なかなか強そうだぜ!」

()?他にもいたのですか?と、ミサカは思いがけない同種との出会いに胸を膨らませます。」

 

 

 彼女にとって、クローン体仲間である同種、いわば『シスターズ』がいるのは何よりも心強い。

 

 ネットワークで繋がっている彼女()は互いに情報交換が可能であり、スムーズに事が運べるからだ。

 

 だが、その発言は悪手だった。

 

 

「やはり()()()の仲間だったか!迅め、これも計算の内か!」

 

 

 彼女の発言はあらぬ勘違いを生んでしまったのだった。

 

 余計に銃使いの青年を怒らせてしまったようだ。

 

 

「オマエ、あの白くてちっこいやつの仲間だったのか?どうりで強いわけだ。」

「白いやつ?まさか…いやそんなはずはありません。と、ミサカは最悪の可能性を否定します。」

「お?違うのか?」

 

 

 白くてちっこいは彼女の仲間には1人もいない。むしろ白いやつでピンとくるのは彼女をこの世界に送り込んだ元凶でもある一方通行(アクセラレータ)くらいのものだ。

 

 どうやら『シスターズ』ではないようだ。

 

 一瞬の喜びが単なるぬか喜びだと知り、彼女は落胆した。

 

 だが、その様子を見て戦意が削がれるような2人ではない。

 

 

「ま、俺は特に恨みはないけどッ!ほらよッ!次、いくぜぇッ!」

「実力行使ですか……嫌いではありません。と、ミサカは戦闘の意思表明をします。」

近界民(ネイバー)に楽しませる趣味はない。すぐに楽に……いや、できるだけ姉さんの苦しみを味わわせてから殺してやる!」

 

 

 戦闘を楽しみたい者。

 できるだけ相手から情報を引き出したい者。

 とにもかくにも目の前の少女、否、近界民を抹殺したい者。

 

 

 三者三様の思惑が交差するとき、そこに特異点が生まれる_____!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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