とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


6、何をしに此処へ③

 

 

 

「なんだね、これは!こんなものを信じろっていうのがおかしいねぇ!」

「だが、これが本当なら……鬼怒田室長、こういうことは実際にありえるのか?」

「先ほど言った通り、この量であれば本来はとっくに死んでおる!前例がない以上、なんとも言えんが……」

 

 

 先程まで品定めするかのように見ていた上層部の面々の顔は一気に戸惑いへと変わる。

 

 冷静さを欠かさずにいた唐沢と林道もまた、一筋の汗を流した。

 

 『トリオン』

 

 それは、人間であれば量に個人差こそあれど必ず()()()()()()()()

 

 その人間の持つ生命エネルギーを象徴する存在であり、このトリオンを巡ってボーダーと近界民(ネイバー)は戦っていると言っても過言ではない。

 

 それだけの重要なエネルギーであり、ボーダーを支えていると言ってもいいシロモノなのだ。

 

 だが、彼女のデータの示すトリオン量の値は『0』。

 

 その数値は、彼女がすでに死中にあるということを表していた。

 

 

「しかし、今こうして彼女は生きておる。おそらくではあるが、此奴は……」

「はい。鬼怒田さんの考えている通り、彼女のトリオンを作り出す器官、トリオン供給器官自体は存在します。だが、()()()()()()()。」

 

 

 人間にはトリオンを生み出す器官が存在する。

 

 彼女の検査結果によると、実際に存在はしていた。だが、ただそこにあるだけ。

 

 機能は完全に停止しており、裂傷具合も無理やり行使したかのようにズタズタになっていた。

 

 ただの空っぽの入れ物。それが今の彼女のトリオン及び器の状態だった。

 

 

(トリオン供給機関………何を言っているかはわかりませんが……おそらく命に関わる器官なのでしょう。)

 

 

 先ほどから聞こえる生き死にに関わる情報。答えが導き出されるのは容易いことだ。

 

 

(そもそも私にはもう時間がそう"残されていない"。)

 

 

 彼女には彼女の事情がある。

 

 クローン体であるミサカは急激な成長に伴い、意図的にホルモンバランスを崩している。

 

 このまま適切な処理をしていかなければ死は免れられない。

 

 

(しかし、トリオンとやらが生命に関わるエネルギーなのだとしたら……可能性は低いですがひょっとするかもしれません。)

 

 

 もし、トリオンとやらで延命措置が行えるのなら。

 

 もし、迅のサイドエフェクトとやらが彼女の未来を映しているのなら。

 

 その可能性も否定はできないだろう。

 

 

「そ、それがなんだというのだね!彼女にはトリオンがない、ただその事実を告げられたとしても話が見えてこないなら意味がないね!」

「……まさか!」

「唐沢さん、その『まさか』です。」

 

 

 前代未聞の状況に劣勢を悟ったのか根付は息巻いて話を促した。だが、一度変わってしまった流れはもう変わらない。

 

 唐沢の気付きに呼応するように、周りのメンバー達も気付き始める。

 

 

「迅くん、それは彼女を()()()()()()()ということに他ならない。彼女がそうなってもいいんだな?」

「大丈夫です、唐沢さん。俺のサイドエフェクトがそう言っています。」

 

 

 唐沢の顔は先ほどの冷静な顔から少しだけ真剣なものへと変わっていた。

 

 それはボーダー外の、ましてや近界民(ネイバー)である彼女の未来をボーダーが決めてしまうことに他ならないからかもしれない。

 

 迅は自信満々にそう言うと、ミサカの方を向き直し、真面目な顔で言った。

 

 

「まずは、勝手に話を進めてすまない。だが、俺はキミが生きる選択をしてくれると信じている。」

「いきなり何を言い出すのでしょう。と、ミサカは廻り巡るこの状況についていけません。」

「ミサカちゃん、キミには二つの道がある。このまま死ぬか、もしくは一生ボーダーの元で生き続けるか。」

「……………」

 

 

 いきなり告げられた二つの道に彼女は呆然とすることしかできなかった。

 

 自分の未来がこうもあっさりと絞られてしまうなんて。

 

 

(このまま何もせずにいたら死ぬのはわかっていました……だからといって、ボーダーの元で何をされるかわからない状況で生き続ける……)

 

 

 似たような状況は前居た世界、学園都市でもあった。

 

 事件事故が日常茶飯事な世界で、いつかくる死の実験まで怯えることすら許されずに生きるだけ。

 

 果たしてそれは死ぬことよりも優先されることなのだろうか。

 

 それではなんのために此処にきたのか。

 

 彼女にはそれがわからなかった。

 

 

「迅、いきなり聞くには彼女にとってあまりに酷と言うものだ。少し考える時間を…」

「忍田さん、俺は彼女がなんと答えるかは視えています。それも、不思議なくらいに一本だけ。」

 

 

 数ある未来から一つを選ぶ迅のサイドエフェクト。

 

 本来であれば視える未来は莫大な量を抱えているはずだった。だが、ミサカが選ぶ未来、その一点においては一つだけに収束していたのだ。

 

 ボーダーは迅のこのサイドエフェクトに頼ってきた過去がある分、その事実の重みは十二分にある。

 

 

「ミサカちゃん、キミに過去何があったかはわからない。でも、これからなら変えられる。」

「これから………」

「そうだ。だからこれから何をしたいかよく考えよう。」

 

 

 生きて、したいこと。

 

 他の言い方をすれば、生きなければできないこと。

 

 ミサカは一度死んだ時のことを思い出した。

 

 

 

 

『すみません。約束は守れそうにありません。とミサカはあの青年に伝わるはずのない謝罪をしてみます。』

 

『あァ?そォか。』

 

 

 

 

 一方通行(アクセラレータ)と交わした最初で最後の会話。

 

 

(そうだ……私はあの青年と………)

 

 

 それは、もう二度と果たされることのなかったはずの約束。

 

 それでいて、彼女の行動パターンに影響を及ぼしたほどに響いた約束。

 

 そして彼女の目の前にはその約束を果たすことのできるほんの少しの猶予がある。

 

 

(ふふ………もしかしたら、それのために私はここにいるのでしょうか。)

 

 

 そんなことはないと彼女自身もわかっている。だが、そう思わせてくれるくらいに神はいたずらなようだ。

 

 ここに、彼女の意思は決まった。

 

 もう彼女の決断に揺らぎはない。

 

 

「そうですね。ミサカは生きる選択をします。()()()()()()()()()()()()と、ミサカは思い出に想いを馳せながら意志を伝えます。」

「………!なら、ボーダーにいるのが最適だな!」

「全然話が進まないのだが早くしてもらっていいかね!?こちらも暇じゃないんだよ、全く……」

 

 

 苛立ちをあらわにしつつ水を差す根付。だが、迅はそれを気にも留めず話し出す。

 

 

「今から説明するから待ってくださいよ、根付さん。今から話すのは彼女のトリオン量と彼女がボーダーに従属する根拠の関連性です。」

「そうだ。それがなくちゃ賛成しようにもできねぇからな。」

 

 

 林道は確信した顔をしながら迅の話を促す。

 

 

「まず、彼女はこのままだと確実に死ぬ。これはご理解いただけたかと。それでもって自らの器官でトリオンが生成できない以上、外部からのトリオン供給が必要になる。例えば、トリオンを人工的に供給する、とか。」

「だが、トリオンを直接打ち込むのは事実上不可能なのでは?そこのところどうなんです?鬼怒田開発室長。」

「唐沢くんの言う通りだ。人によってトリオンを貯められる量には限度がある。トリオンを人工供給した直後に容量超過(キャパオーバー)でもしたら命に関わるぞ!」

 

 

 トリオンには先ほどもあった通り個人差がある。

 

 容量、回復する速度、性質

 

 万が一本人が抱えられる以上のエネルギーが溜まってしまったら、その先に待っているのは爆発しかない。

 

 

「だからこそです。彼女はトリオンを()()()()()()()()。ただ彼女は()()()()()()()()()()()()()()。」

「なッ………」

「彼女はこれから生き続けるためにトリオンが確保できる場所、すなわちボーダーにずっと頼っていかなければならない。」

 

 

 トリオン供給器官に障害を抱えているものの、資料には貯蓄機能の安全が記載されている。

 

 彼女は自然生成されるトリオンがない。

 

 供給された分のトリオンしか使えないかわりに不慮の事故の可能性がゼロに等しい。

 

 

「なるほど。生きたければなんとしてでもボーダーからの要望に応えなければいけない状況にしてしまう、ということだな?」

「その通りです、城戸さん。これならボーダーの言うことに従う根拠になるでしょう?」

「だ、だがねぇ……」

 

 

 いまだに根付は納得していない様子だった。

 

 

「そ、そうです!鬼怒田室長!実際にそういう機械等は作れるのでしょうか!?」

「む………」

 

 

 根付は苦しそうに何か粗がないか探し始めた。そこで彼は機械、技術の面に目を向けた。

 

 少し難しそうに唸る鬼怒田。何か言いたいことでもあるのだろうか。

 

 

「………ある。」

「え?なんです?」

「作れる……というかある分にはあるんじゃが……」

「!?」

 

 

 鬼怒田から漏れたのはかなり重要な情報。

 

 これから作る以前にもうすでにあったのは計算外だったのだろうか。迅も含めた一同が皆、目を丸くしていた。

 

 

「なんでそんなものがあるんですか!?」

「ええい!かつてトリオン量の少なさで嘆いておった隊員がいたのを見て、試作で作っただけじゃ!結局、自然生成のトリオンがネックとなって計画は頓挫したがのう……」

 

 

 意外と厳しいようで優しい面があった鬼怒田だった。

 

 だが、これによって事情は一気に変わってくる。今まで作ったことがなかった機械とある機械では、改良もといリニューアルにかかるあらゆるコストが文字通り桁違いとなる。

 

 幸い実験対象には事欠かない。そう言う約束なのだから。

 

 

「いいだろう、迅。その方向で進めても。」

「城戸司令!お言葉ですが……」

「我々には今までよりもっと戦力が必要になる。いかに近界民(ネイバー)であろうと命令を遵守させられるののであれば問題ないのではないか?」

「…………異論……ありません……」

 

 

 ボーダー上層部において城戸の命令は絶対に等しい。

 

 もちろん全体の方針は合議でもって選択するが、最終決定権は城戸にある。

 

 城戸自身の凄みもあってか、根付はそれ以上何も言わなかった。

 

 

「それでは今回の採決を取る!今回の件の人型近界民(ネイバー)には一定のトリオン供給を条件にボーダーに従ってもらうということで異論はないか!」

「異論無し。」

「異論……ありません……」

「んじゃ、異論無し〜」

「異論は無い!」

 

 

 忍田が全体を総括して決をとった。

 

 続々と異論無しと表明し、あとは城戸、そして当事者を残すのみとなった。

 

 

「異論無しだ。」

「異論はありません。不束者ですがどうぞよろしくお願いします。と、ミサカは誠心誠意懇願してみます。」

 

 

 もちろん、彼女にも彼にも異論の意思はない。

 

 ここに、彼女の身の安全と主従関係が完全に結ばれたのだった。

 

 安堵する者。面白がる者。対応に今からもう胃を痛め始める者。

 

 今回の会合でボーダーは大きな爆弾と強力な戦力を手に入れた。

 

 一方で、ミサカ側もなんのために此処にきて、なんのために生きるかを見つけることができた。

 

 少々歪ではあるものの、両者得をした形なのかもしれない。

 

 

「水を差すようですまないが、迅、今から席を外してもらえないか。あと君はこの場に残るように。」

「了解です、城戸さん。今回はありがとうございました。あと、やったな、ミサカちゃん。」

「ぐっじょぶです。と、ミサカは迅の活躍に素直な賞賛を送ります。」

 

 

 今回の一件は迅無しでは到底辿り着けなかった決結末だろう。

 

 流石に彼女でもそのくらいはわかるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに迅だけが会議室からいなくなり、その場には上層部のメンバーとミサカだけになった。

 

 

「君には見て欲しいものがある。こちらに来るといい。」

「了解しました。と、ミサカはボーダーの最初の命令に従ってみます。」

 

 

 案内されたのは何もない建物中央の空間が自由にみられる場所。

 

 案外豆腐っぽい建物の中はドーナツのように中が空洞になっているようだった。

 

 

「………ッッ!!」

 

 

 ミサカにはこれから何かが起こる気配がよぎった。彼女の嫌な予感はこの世界に来てから外れていない。おそらく今回も当たるような気配がする。

 

 そして城戸の目は何かを企んでいるような目だった。

 

 

 

【ゲート発生、ゲート発生。遠征艇が着陸します。付近の隊員は注意してください。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから来る隊員たちは君の最初の()()()()だ。目に焼き付けるといい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ〜。ひとまずはこれで大丈夫だな。」

「確かにその通りです。本当に感謝します。迅。と、ミサカは重ね重ね感謝の気持ちを表現します。」

 

 

 何やら用事が終わったミサカを待っていたのは今回の大立ち回りのMVP、迅だった。

 

 先ほどの真面目モードとは異なり、和やかな表情で彼女に話しかけている。

 

 

「トリオン………」

「急にどうしたんだ?もしかして、トリオンに興味津々か?」

 

 

 迅はミサカが漏らした独り言に気づくや否や揶揄うように声をかけた。

 

 想定していたのは年相応の恥ずかしがった反応だったのだが、彼女は決してそんなことはしない。

 

 

「はい。あの刺客が使っていた武器等はトリオンというものなのでしょう?それに……」

「おお、大正解。それと………お前の延命か?」

「そうですね………にわかには信じ難いですが……」

 

 

 それもそのはずだ。

 

 彼女にとっては未知のエネルギー。その存在をを初めて知ったのはつい先ほどなのだ。

 

 

「大丈夫だって。少なくとも俺のサイドエフェクトがそう言ってる。」

「それについてもおいおい教えてくださいね。まだ信用に値しませんから。と、ミサカは近々に説明の機会を求めます。」

「あいよ。」

 

 

 危ない綱渡りをしているのはいうまでもない。

 

 だが、今は藁にでも縋りたい、いや縋らざるを得ない状況なのだ。

 

 それも迅は理解している。

 

 すこし暗い雰囲気になり気まずい空間となってしまったようだ。

 

 迅はその空気に耐えかねて、ミサカへの声がけを続ける。

 

 

「で、どう?どう?俺が実力派エリートなの、わかってくれた?」

「はいはい。と、ミサカはいい加減ウザくなってきた恩人を持て余します。」

「え〜、なんか酷くな〜い?とりあえずぼんち揚げ食う?」

 

 

 本来であれば相入れぬ敵同士。ボーダー隊員と近界民(ネイバー)。彼らには切っても切れない怨念とも言いきれないような確執がある。

 

 だが、そこには確かな信頼関係があった。

 

 すると、ミサカは突然迅に身を預けた。唐突な出来事に迅は対応できないか……と思いきや、何も言わず彼女を支えた。

 

 ずっと年相応な態度をとってこなかったミサカ。ここにきて緊張が解け始めているのかもしれない。

 

 

「ん、どうした?まさかこの俺のエリートさにようやく気づいたか?」

「………ません。」

「ん?なんてなんて?というか、体を掴む力強くな〜い?」

 

 

 

 

「とはいえ、勝手に人の体を検査に出すのはいただけません。と、ミサカはこの非常識男に制裁を試みます。」

 

 

 

 

 

 数分後、ボーダー中に放電音とある1人の男性隊員の悲鳴が響き渡ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





PS、根付さんもいい人です。ただ、彼はメディア担当なので面倒ごとが冗談で済まないんですよね……

<次回予告>

 一旦、迅の手によって捕獲されてしまったミサカ。彼女はようやく安全に辿り着いたのも束の間、ボーダーと結んだ契約によって最初の本格的な仕事に駆り出されてしまう。

「これがトリオン体……なかなか悪くありません。と、ミサカは本音をこぼします。」

 闇に溶け込む彼女は裏の世界の裏をかく。

 次回、黒トリガー争奪戦へトリガー・オン!!

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