とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字訂正、誠に感謝です。おかげで心の平穏が保たれています。


黒トリガー争奪戦編
1.暗躍①


 

 

 

 とある宵闇。

 

 辺りには人が住んでおらず、光はかろうじて残っている街灯のみ。

 

 その中でも一際高い建物に影が一つ現れる。

 

 その影は音を立てることもなく周りを見渡し、何かを見つけるや否やそこへ直行する。

 

 曇りしかないその目は、一つの目的しか眼中にない。

 

 本来であればいなかったはずの存在。

 

 それは、あるべき未来の流れからほんの少しだけ軌道を変えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ミサカが会議室を出た一時間程後〜

 

 

 

 

 先程到着したボーダーの精鋭、遠征組が会議室に顔を出した。

 

 特に目立った異変等はなく、五体満足で帰ってきたようだ。

 

 

「以上が今回の遠征の成果です。そしてこれが....」

「おぉ!よくやったぞ!これが新しいトリガーだな!?未知のトリガーが四本も!素晴らしい。これでボーダーのトリオン技術は更なる進化を遂げるぞ。」

 

 

 ボーダーの位置するこの世界とは別の世界、近界民世界(ネイバー・フッド)から帰還した彼らは、この世界とはまた違う技術を持ち帰ってきた。

 

 彼らの使用する武器であるトリガーは起源を辿れば外界のものだ。

 

 ボーダー最高司令官、城戸の前には、遠征から戻ったトップチームの主要メンバーが顔を揃えていた。

 

 

 

 No.1攻撃手(アタッカー)、そして個人総合1位でもあり、ボーダー内でも最強に近い実力者。A級1位太刀川隊隊長、太刀川慶(たちかわけい)

 

 A級2位冬島隊所属のNo.1狙撃手(スナイパー)、リーゼント頭が特徴的な当真勇(とうまいさみ)

 

 No.2攻撃手(アタッカー)であり、個人総合3位。A級3位風間隊の隊長、風間蒼也(かざまそうや)

 

 

 

 錚々たる面子が互いに肩を並べている。

 

 三輪隊からの状況説明が終わり、城戸は3人を見据えて本題に入った。

 

 

「玉狛に(ブラック)トリガー持ちが加わった。」

「!?」

「玉狛、ねぇ。」

 

 

 (ブラック)トリガー。

 

 それはボーダー隊員数十人分以上とも言える力を持つ非常に強力なトリガーを指す。

 

 1人いるだけで戦況を変えてしまうくらいとも言える。

 

 ボーダー玉狛支部ではすでに黒トリガー持ちが1人いる。一方ボーダーにも1人。

 

 このまま行くと玉狛が二個黒トリガーを所持することになってしまう。

 

 

「このまま玉狛に(ブラック)トリガーが渡れば、ボーダー内で保たれていたパワーバランスは玉狛側に大きく傾く。それだけは、なんとしてでも阻止しなければならない。」

 

 

 顔の傷に指を当て、渋い顔をより一層渋くして命令を告げる。

 

 

「お前たちには、(ブラック)トリガーを確保してもらう。手段は問わない。」

 

 

 その命令が意味するところを察して、当真が大仰に両手を挙げた。

 

 

「うへぇ。玉狛に殴り込みとはまたバチバチになるじゃねーの。」

「当真。」

「わーってますよ、風間さん。任務は任務だ。最低限のことはやりますよっと。」

 

 

 と、今度は当真の隣の太刀川が、顎に手を当てながら口を開いた。

 

 片方の口角を上げて話すその姿はどこか余裕が感じられる。

 

 

「で、その黒トリガー持ちが玉狛に出入りしている時間帯は?1人になる時間帯とか決まってんの?まさか玉狛全員とやり合うわけにはいかないだろ?」

「朝の7時ごろには玉狛へ。その後、夜の9時から11時には玉狛を出るようです。現在もうちの隊の米屋と古寺が見張っています。」

 

 

 三輪隊スナイパー、奈良坂が答えた。

 

 ミサカとのやりとりが上層部間で白熱していた間にも、三輪隊のメンバーは別件で駆り出されていたのだった。

 

 

「チャンスは毎日あるわけだねぇ。それではしっかりと作戦を練って………」 

「……いや、襲撃は今夜にしましょう。今夜。」

 

 

 何気ない太刀川の呟きに、会議室はざわめきの波で覆い尽くされる。彼ら遠征部隊はつい先刻帰還したばかり。だというのに即襲撃に向かうようだ。

 

 

「こ、今夜じゃと……?」

「いくらなんでもそれは早すぎるのでは……」

 

 

 同席していた根付や鬼怒田が難色を示す中で、三輪が口火を切って反論する。

 

 

「太刀川さん、いくらあんたでも、相手を舐めない方がいい。」

「舐める? 三輪、人型近界民(ネイバー)に二度も負けたお前が言うか?」

「なっ……!?」

「しかも、そいつの黒トリガーは学習するトリガーなんだろ?今頃ウチのトリガーを学習していてもおかしくない。時間が経つほどこっちは不利だ。サクッと終わらせようや。」

 

 

 報告にあがっている人型近界民(ネイバー)は何も黒トリガー持ちだけじゃない。

 

 生身で三輪隊丸ごと相手どり、あまつさえ撃退までして見せた新手の人型近界民(ネイバー)

 

 思わぬ強敵の増加に胸中の高鳴りが抑えられない太刀川。

 

 もしかしたら早く会えるかもしれない。それもまた、今夜に襲撃を決めた要因なのだろうか。

 

 

「太刀川、三輪を挑発して何がしたい。お前もだ、三輪。落ち着いて会話をしろ。」

「……すみません」

「いやいや。俺はむしろ、場を盛り上げようとだなぁ……で、どんなやつだった?戦闘中の性格とか会話とか……」

「…………太刀川。戦闘は手段であって目的じゃない。いい加減にしておけ。」

「失礼、失礼。ただ、俺にとって戦闘は手段でもあり目的でもあり、最高の趣味です。」

 

 

 風間に釘を刺されるも太刀川は引き下がるそぶりは見せない。黒コートの裾が武者震いで震える。

 

 城戸の傷が刻まれた顔がより一層険しくなりその双眸は太刀川に注がれた。

 

 

「指揮はお前に任せる。だが、くれぐれも油断はするな。場合によっては『風刃』を持った迅との戦闘もあり得る。いや、十中八九使っててくるだろう。」

 

 

 城戸が口にしたその可能性に、室内は先ほど以上にざわめいた。

 

 黒トリガーを使うと言うことはそれだけ本気度が高いと言うことを示す。暗に本部との徹底抗戦を望んでいることを示すのと同じことだ。

 

 しかし、ただ1人。太刀川だけは彼の言葉に飄々と笑みを浮かべてこう言い放った。

 

 

「そいつは願ったり叶ったりですよ。ようやく『風刃』を持ったアイツと戦り合える。面白くなってきたな。」

 

 

 三輪は、こんな余裕のある笑みを浮かべる男をもう1人知っている。

 

 太刀川慶と迅悠一。この2人は、どこか似ている。その笑顔も、見透かしているような態度も、そしてその強さも。

 

 だから、自分が太刀川も迅も苦手なのは、何らおかしいことではない。むしろ他の何人かは同じことを考えているだろう。そう考えた。

 

 

「すみません。もう一体の人型近界民(ネイバー)の参戦はあり得るのでしょうか。万が一掻き回されたりでもしたらあの単騎性能じゃ一筋縄では行かないかと……」

「その可能性は十分にあり得る。もし遭遇しても、今回の目的はあくまで黒トリガーの奪取だ。()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 ミサカの存在(ランダムエンカウント)

 

 彼らはまだ彼女がボーダーと契約したことは知らされていない。彼らの中には近界民(ネイバー)を極度に嫌う者がいるからだ。

 

 だからこそ、不特定な要因は計画に支障をきたすのかもしれないという不安感が古寺を襲っていた。

 

 一方、太刀川は露骨に態度を悪くしていた。

 

 もし件の人型近界民(ネイバー)と偶然遭遇したとしても戦闘をしてはならない。

 

 彼にとってはカモが自らに味付けをした状態でやってくるようなものだ。

 

 そんなものが目の前にあると言うのに手出しできない。その事実がもどかしくて、そしてもったいない。

 

 

「一応、偶然ソイツに遭遇しちまって、やむをえなく戦闘に発展してしまった場合は?」

「おい。太刀川。」

「どうしてもそうなってしまった場合には戦闘を許可しよう。そうなる可能性は低いだろうがな。」

「了解。」

 

 

 戦闘狂(バトルジャンキー)は止まることを知らない。

 

 彼が彼たる、いや、圧倒的一位たる所以はおそらくそこにあるのだろう。

 

 

「それじゃあ、今夜の作戦を簡単に決めましょうや。えーっと……」

「俺は確実に当たると思ったところにしか撃たねぇぞ?」

「俺が迅とやり合うのは確定で、あとは風間隊でまとめる感じで大丈夫?」

「無論だ。」

 

 

 おおかた決行とその時間帯が決まった瞬間に彼らは次の行動へ移りだす。

 

 玉狛、もとい迅への研ぎ澄まされた刃で入念に狙いを定めながら。

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくお前を倒す機会が来た。本気で行くぞ、迅。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、作戦決行の夜。

 

 太刀川達は、夕闇に包まれた住宅街を風を切るかのように疾駆する。

 

 トリオン体の反応をレーダーから見えないようにするマント状のトリガー、バッグワームは当然のように装着済みだ。

 

 隠密用の装備も完璧、コンディションも最年長の一名を残して他は良好。

 

 太刀川隊の射手、出水公平(いずみこうへい)

 

 A級2位冬島隊の狙撃手、当真勇

 

 A級3位風間隊の風間蒼也、歌川遼(うたがわりょう)菊地原士郎(きくちはらしろう)

 

 たった1人の敵に向かわせるようなメンツではない。そう、相手がただの敵であればの話ではあるが。

 

 加えて、前方を走るのはA級7位三輪隊の三輪秀次と奈良坂透。ここに米屋陽介と古寺章平まで狙撃ポイントで待機している。ここまでA級が揃うなどそうあり得ない。

 

 

「黒トリガーの奪取に人型近界民(ネイバー)への警戒。やること多くてやになっちゃうぜ。」

「なんだ当真?今からでも降りるか?」

「違うよ、太刀川さん。仕事だってんのに今更降りれるかよ。伊達にA級はやってねーし、任務放り出したらウチのオペレーターが怖いぜ。」

「あー、うん。なんかすまん。」

「別にいいっすよ。今頃隊長はこっぴどく罵倒されてることだろうし。」

 

 

 当真と軽口を叩きあっていた太刀川は、先にいる人影に気づき、足を止める。

 

 それに釣られたように他のメンバー達も足を止めて前方を見た。

 

 

「一旦止まれ!」

 

 

 太刀川はその影を見るや否や交戦的な笑みを浮かべ、対照的に 

 

 

「迅……!!」

「ひさしぶり、太刀川さん。みんな揃ってどちらまで?もしこれ以上進むなら……俺も戦わざるを得ない。」

 

 

 軽々しく、それでいて重厚感を纏わせながら玉狛支部所属の黒トリガー使いことS級隊員、迅悠一は言った。

 

 

「うっはっ! 迅さんじゃん!マジでいんのかよ!これは面倒だぜ。」

「よお、当真。冬島さんはどうした?いや、言わなくてもわかる。真木ちゃん、怖いもんな。」

「迅さんの方からもなんか言ってやってくんねー?マジで年下の態度じゃねぇっすよ。」

「余計なことは言うなよ、当真」

 

 

 口を滑らせかけた当真に、風間が鋭く釘を刺す。

 

 ふーん、と迅は周囲を見渡した。

 

 どうやら迅が探している奴の正体はまだ現れていないようだ。

 

 

「迅、なんの真似だ? まさか近界民を庇う気なのか?」

「悪いね、風間さん。()()()はもう玉狛の隊員なんだ。遠征も終わったことだし、帰って休んだら?」

「断る。」

「そりゃ残念。こうなったのはアンタらの決断だ。可愛い後輩のためにコレを抜かせてもらうよ。」

 

 

 迅は腰に差していた黒い長刀に手を添えて、慣れた様子で引き抜く。まるで散々使い抜かれた道具のように。

 

 迅悠一が、S級隊員たる所以。単体で戦局を左右するほどの力を持つ、特別なトリガー。

 

 

「黒トリガー、風刃。遠隔斬撃を主に主力とするトリガーだ。弾数は合計八本。リロードの隙をつくぞ。」

「迅、まさか1人で俺らを迎え撃つつもりか?」

「まさか。太刀川さん達を相手にしていいとこ勝負は五分五分だ。だから当然、援軍は呼んである。」

 

 

 迅が言い放つタイミングを見計らっていたかのように、彼らは宵闇の戦場へ降り立った。

 

 赤い隊服に、胸には五つ星のエンブレム。それは彼らと同じくA級を表していた。

 

 

「嵐山隊、到着した!これよりS級隊員迅悠一を忍田本部長の命により援護する!」

 

 

 嵐山准(あらしやまじゅん)時枝充(ときえだみつる)、そして木虎藍(きとらあい)。A級5位、嵐山隊の面々がそこにいた。

 

 

「嵐山隊……?」

「嵐山……玉狛と忍田本部長派は手を組んだのか?」

 

 

 三輪が苦虫を噛み潰したかのような顔で呟き、一方、風間は1人疑問に走る。

 

 2人の心中は一見違うようで、同じく穏やかではない。

 

 迅の隣に彼らがいる、つまりボーダーの三派閥の内の『忍田本部長派』と『玉狛支部』が手を組み、『城戸司令派』と相対しているということに他ならない。

 

 

「おう、嵐山。ナイスタイミング♪助かるぜ。」

「いや、ギリギリだったな。遅れてすまない。」

 

 

 こうなれば派閥単位で見ても1対2。加えて片方には黒トリガーもある。どちらが有利かなんて語るまでもないだろう。 

 

 

「どうする太刀川さん? 正直、嵐山達がいればこっちが勝つよ?おすすめは今から反対を向いて帰ること。」

 

 

 誰が見ても皆そう答えるくらいには見え透いた挑発。

 

 太刀川はそれを鼻で笑って、腰のブレードトリガー、弧月に手を掛けた。

  

 迅を見詰めるその姿は獣と形容しようか。

 

 目には目を、歯には歯を。挑発には挑発を。

 

 弧月を引き抜きながら、太刀川も言葉を紡ぎながら臨戦態勢に突入する。

 

 

「おもしろい。お前の予知を、覆してみたくなった。」

「来なよ、太刀川さん。俺らの仲間に手出しはさせない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まだ、()()()の動きは無い。このまま何事もないのが一番なんだけどな………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





珍しくミサカ視点ではない展開。

まぁ、うん……

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