第一高校生の日常   作:ジャスティスⅡ

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モブ

 

 

森崎駿・・・

 

 

 

一部からは「モブ崎」などというあだ名を付けられるという不名誉を押し付けられながら、何故か根強い人気があるモブ界のホープである。

漫画では割とマシなデザインだったのに、アニメでは完全なモブ顔を晒しながらも尚人気がある不思議な生命体である。

 

彼の口から紡がれる言葉はその殆どが滑稽であり、その口から発せられた言葉が達成されたことは無いと言っても過言ではない。

 

更に空気が全く読めないという社会で生きていくには絶望的なスキルを持っていて、同じA組の女子・・・いや、一年の女子で彼に親愛を持っている奴はほぼいないだろう。

 

 

 

そんな彼、モブ・・・いや森崎は、一人河辺で黄昏ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、何であの雑草(ウィード)ばかり・・・」

 

 

 

意味もなく呟いた言葉は風の中に溶けて消えていった。

 

彼の脳裏によぎるのは、金持ちの家にありそうな豪華なソファーの真ん中に座った司波達也が、その両腕を妹と光井ほのかの背中に置き、周りに多くの女を侍られて高笑いを上げている姿である。

何処かの妹妻が聞いたら憤慨して冷凍刑にしてしまいそうな思考であるが、幸いにもここに森崎の不毛な考えを咎める者はいない・・・

 

今回、栄えある第一高校の九校戦メンバーに選ばれ、しかも九校戦の花形とも言えるモノリス・コードに選出された事など、今の森崎の慰めにはならない。

何せ、あの憎きアンチクショーは今も学校で一年女子達とキャッキャウフフな戯れをしているに違いないのだ。

 

A組の美人どころは大体司波達也のシンパだし、一年だけでなく第一高校の美少女はかなりの確率で達也のお手付きだ。(18禁的な意味にあらず)

更に巨乳美人のカウンセラーとも仲がいいみたいだし、つい最近では街中で年上っぽい黒髪のお嬢様と高級なフレンチを一緒に食べているところを森崎は目撃していた。

 

 

 

「・・・何なんだ、あいつ。流石に多すぎだろ?」

 

 

 

しかし、これが現実である。

 

 

 

流石に妹ほどでなくても同じ血統だけあって容姿はそれなりに整っているし、体格は理想的な細マッチョで運動能力は抜群なんて言葉が霞むくらいに万能。

頭脳は学年随一で、並び立つ奴はおそらく他校にもいないだろう。

魔法は苦手っぽいがそれを補って余りあるCAD調整技術を持ち、将来は間違いなく第一高校の一科生如きなど裸足で逃げ出すレベルの金持ちになるだろう・・・

 

森崎が勝てる要素など、もはや無に等しい。

 

こんな優良物件、現実を見る女どもがほっとく訳がない。

女という生き物は、有名無実な称号よりも実質剛健な実体を好むものであるので、この現実はまさに妥当の一言だと思う。

 

 

 

「僕は、一体・・・」

 

 

 

森崎が自身の存在に自信を失い出した頃、ちょうど森崎の後ろあたりに一人の女生徒が腰を下ろした。

髪が肩にかかるくらいの長さの、眼鏡をかけた美少女だ。

 

 

 

(で言うかコイツ、二科の眼鏡じゃないか?)

 

 

 

森崎の近くに座ったのは、入学してすぐに校門であったいざこざの直接的原因を作ったと言っても過言ではない二科生の少女ーー柴田美月であった。

 

 

 

(き、気まずい!! な、何だ? 何で無言なんだ? このクソ広い河辺で、わざわざ僕の後ろに座るなんて)

 

 

 

背中から確かに感じる視線に、森崎の心の波は荒れに荒れる。

 

 

 

(何の用かは知らないが、やはり僕から声をかけるべきなのか? 結構前とは言ってもあんな事があったあとだと、何となく後ろめたいものが・・・)

 

 

 

森崎なりに、あの出来事は反省すべきことだったとは理解している。

しかし森崎の持つ小さな器では、謝るという行為はかなりハードルの高い行動なのである。

 

勘違いしてもらっては困るが、この森崎駿という男は決して傲慢なだけの男ではない。

ボディガードを生業とする百家支流の家に生まれ、幼き頃より血の滲むような鍛錬を積み重ねてきた生粋の努力家である。

 

想子量はお世辞にも多いとは言えず、事象干渉力もそれほど高くはない。

 

だからこそ森崎は自身に残された最後の武器である“速さ”を磨きに磨き上げ、見事、第一高校の一科生の地位を獲得したのである。

だからこそ、彼が一科生という立場にかける情熱は並々ならぬものがあるし、少々空回りすることも多々あるわけだが・・・

 

 

 

(やはり、僕から声をかけるべきか・・・。でも、女の子に気の利いた台詞なんて言えねえよ・・・)

 

 

 

思考のスパイラルに嵌りかけた森崎は、ふと顔を上げて夕陽を見つめた。

 

 

 

(夕陽が綺麗ですね・・・いかんいかんいかん! そんなありきたりな台詞はこの状況に合わない!! おそらくコイツは、ロマンチックで非現実的なボーイミーツガール的なものを期待しているのでは・・・)

 

 

 

そう考えて森崎が振り向くと、後ろにいた柴田美月と目が合った。

目が合った美月は驚いた表情をしたと思ったら、すぐに恥ずかしそうに顔を伏せた。

 

 

 

(どうもそんな感じだぁーーっ!!)

 

 

 

再び森崎は正面を見据え、夕陽を見つめながら思案する。

 

 

 

(となるとイカした一言か・・・。とにかく、彼女の期待に応えなければ一科生の名が廃る。トバすぜぇ~スカした言葉を!)

 

 

 

そう考え、森崎は格好付けるように足を組み、夕陽を見据えるように目を細めてその口を開いた。

 

 

 

「今日は、風が騒がしいな・・・」

 

 

 

言っておくが、森崎には気体流動制御の適性など全くない。

ただ単に、森崎自身のセンスからくる、精一杯の格好付けなのである。

 

 

 

(し、死にたくなってきた。恥ずかしいとかそういうのすっ飛ばして、なんかこう~・・・死にたい)

 

 

 

激しい自己嫌悪に襲われるも、なけなしの勇気を振り絞って森崎はチラリと背後の様子を伺う。

 

柴田美月は、何かをこらえるように震えていて、チラチラと森崎に視線を送っていた。

 

 

 

(・・・嬉しそうだ。ちょっと精神が崩壊しかけたがやってやったぞぉ~! よし、このままもう一回・・・)

 

 

 

美月の反応に気を良くした森崎は、再度気の利いた言葉をかけようとしたが、その機会は永遠に訪れることは無かった。

 

 

 

「お~い、柴田さーん!」

 

「吉田君!」

 

 

 

遠くから駆け寄ってくる男の声に返事をしながら、柴田美月は立ち上がった。

そして少し走ってから立ち止まり、美月は森崎に困った顔をしながら振り向いた。

 

 

 

「あ、あの森崎君? 独り言・・・気を付けた方がいいよ?」

 

 

 

そう言い残して、柴田美月は去って行った。

 

残された森崎は暫し呆然としていたが、どうにか再起動すると、自然と体育座りとなって膝の内側に顔をうずめた。

 

 

 

「・・・死にたい」

 

 




達也「よし、今日のところはこのくらいでいいだろう。各自でクールダウンをしてから、気を付けて帰れよ?」

ほのか「達也さん、帰りにどこかに行きませんか」

エイミィ「お、いいねぇ~。行こうよ!」

達也「しょうがないな。少しだけだぞ?」

深雪「お兄様、お供します」
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