第一高校生の日常   作:ジャスティスⅡ

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バス

 

 

北山雫はお嬢様である。

 

 

 

家はとんでもない金持ちであり、生まれてこのかた金銭面で悩んだことは無いに等しい。

 

よく金持ちや上流階級のお子様にありがちな『お金なんて関係ない本当の友達がほしい』とかいう寝ぼけた戯言も、光井ほのかという親友を持つ彼女には当てはまらない。

 

魔法師としても豊かな才能を持ち、胸は心許ないがそれでも高水準の美少女であると自負している。

 

 

 

しかし、いくら金持ちで天才魔法師で美少女な彼女でも、予期せぬ事態には失敗する事もある。

 

 

 

例えば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスが走り出して三十分くらい経っただろうか・・・

 

 

 

一科の一年男子どもの策略に嵌ってしまった我等の勇者・司波達也は、遅れてくる七草真由美を迎える為に太陽が照り付けるバスの外で待たされるという拷問を受けていたのだ。

 

その為、先程まで深雪の機嫌がとにかく悪くて、隣に座るほのかはずっとあたふたしていたが、そこは金持ちで才色兼備な北山雫。

 

達也が受けていた拷問を、中々出来る事ではない偉業であると話をすり替えることで、見事、深雪の機嫌を取ることに成功したのである。

この際、さり気なく一年男子共をディスる事も忘れない。

 

抜け目のないお嬢様・北山雫である。

 

しかし、そんな時間も過ぎてしまえばもはや過去の事象でしかなく、三人の間には暇な時間が流れていた。

 

 

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「暇じゃない?」

 

「ん~・・・」

 

 

 

かなり暇なのだろう・・・

 

深雪という、完全無欠のお嬢様の口からあり得ない言葉?が出るあたり、深雪の暇は相当なものなのだろう・・・

 

 

 

「暇だったら、古今東西ゲームでもしてみる?」

 

「古今東西、ですか?」

 

「うん。百年くらい昔からある伝統的な遊びなんだって。一つのテーマに沿った答えを順番に答えていく遊びらしいよ? こういう暇な時は盛り上がるんだって」

 

「へぇ~そうなんだ」

 

「じゃあ、折角ですしやりましょうか? どうせやることもありませんし・・・」

 

 

 

そう言って深雪は居住まいを正すが、次の瞬間、何かを思い付いたかのようなお嬢様らしからぬ笑みを浮かべて、深雪はほのかと雫に向き直った。

 

 

 

「どうせやるなら、罰ゲームでも決めない?」

 

 

 

この言葉に難色を示したのは、やはりというかほのかである。

こういった罰ゲーム的なものに抵抗を感じるのは、彼女の心根がまっすぐないい証明だろう。

 

しかし、この罰ゲームのルールを加えたのは我等の女王様である。

根が小市民な彼女では、女王の圧政に抗う術は持っていないだろう・・・

 

やはりというか、結局、罰ゲームは敢行することとなり、哀れな小市民はその御触れが出されるのを緊張した面持ちで待ち構える。

 

 

 

「・・・三回失敗したら、一年一科生の男子の誰かを殴るというのはどう?」

 

 

 

やはり、女王様は先ほどのことを根に持っていらっしゃるようだ。

普段なら絶対に言わないようなことをさらりと言ってしまうあたり、その腹の中には噴火寸前のマグマが溜まっているのだろう・・・

 

しかし、殴るのはいただけない。

 

こんな罰ゲームは、心優しい少女である光井ほのかには耐えられないだろう。

助け舟でも出そうと雫が口を開きかけた時、ほのかの身体がゆらりと動いた。

 

 

 

「・・・やりましょう」

 

 

 

・・・恋する乙女の強さというものを、少しなめていたのだろうか?

虫も殺せぬ少女だった親友は、いつの間にか夢見る少女じゃいられなくなってしまったようだ。

 

 

 

ならば私も親友として腹を括ろう・・・

 

 

 

例え私が敗北するようなことがあっても、二人の思いを絶対にこの拳に乗せてあげるから。

 

 

 

「じゃあ、まずは私⇒深雪⇒ほのかの順でいくから。それじゃあ、いくよ? 古今東西・・・」

 

 

 

私の灰色の頭脳が、素晴らしいテーマを閃かせた。

 

 

 

「忍者の本名! 服部刑部少丞範蔵先輩!」

 

「九重八雲先生!」

 

「え・・・え?」

 

 

 

何も答える事ができず、一回戦はほのかの敗北となった。

 

ちなみに余談だが、いきなり自分の名前がフルネームで出てきた某忍者は、飲んでいたコーヒーを盛大に吹いて隣の人に迷惑をかけていた。

 

 

 

「じゃあ次は私がテーマを決めるわね?」

 

 

 

形の良い顎に指を這わせ、深雪が少し考え込むように目を閉じた。

その姿は同性である私すら魅了するほどの美しさを放っており、私よりもミーハーな性格のほのかではもうノックアウト寸前だろう。

 

 

 

「・・・決めたわ」

 

 

 

どうやらテーマが決まったようだ。

 

女王様は一体どんなテーマを出してくるのか・・・

順番で自分が最後だからか、自然と緊張で顔が強張るのが感じられる。

 

 

 

「古今東西、十師族の次期当主の名前! 五輪洋史さん!」

 

「一条将輝さん!」

 

「十文字克人先輩」

 

「二木○○さん!」

 

「え、えぇっとぉ〜・・・」

 

 

 

結局ほのかの口から答えは出てこず、二回戦もほのかの敗北で終了した。

 

 

 

「ほのか、弱過ぎよ?」

 

「もっと努力すべき」

 

「え? う、うん・・・ゴメンね」

 

(あれっ? 何で私が責められてるの?)

 

 

 

この流れに若干の不満を持つほのかだが、二連続の敗北というのはやはり些か不味いものがある。

何としても次は勝利を納めねばなるまい。

 

決意を胸に、光井ほのかは必勝を誓って自身に有利なテーマを考える。

 

暫く静かな時間が流れたが、ほのかは閉じていた両目をカッと見開いて二人の怨敵の姿を捉えた。

 

 

 

「古今東西・・・」

 

 

 

深雪と雫は自然と身構えた。

あの光井ほのかが、必勝を誓って自信満々に繰り出してくる珠玉のテーマである。

 

一体どんなものがくるのか・・・

 

なんとも言えぬ緊張感とともに、ほのかはその必勝のテーマを繰り出してきた。

 

 

 

「達也さんに負けた人! 桐原武明先輩!」

 

「ぐはっ!!?」

 

 

 

少し離れた席で、一人の剣術を極めんとする漢が沈んだ。

 

 

 

「服部刑部少丞範蔵先輩」

 

「うぐっ・・!!」

 

 

 

お前は何か、彼に恨みでもあるのか?

 

本日二度目のフルネームの名前呼びと黒歴史を抉られた反動で、苦しき宿命を背負った第一高校の忍びの意識は絶たれた・・・

 

 

 

「司甲先輩!」

 

 

 

部活勧誘週間の時の闇討ちをカウントしたのならば、この妹は一体どこで見ていたというのか?

 

やはりこの女王は底が知れない・・・

 

一巡目が終わり、回答権は再びほのかに回ってきた。

しかし、ほのかの表情は暗い。

 

 

 

「うっ・・・もう、わかんない」

 

「何を言ってるの、ほのか? お兄様に負けて地べたに這い蹲った人なんて一杯いるじゃない」

 

「・・・」

 

 

 

確かに深雪の言うとおり、達也は風紀委員として毎日誰かを地べたに這い蹲らせている。

しかしこれは彼の嗜好では断じてなく、あくまで風紀委員の業務の一環なのである。

 

そして妹よ・・・何気に酷いぞ?

 

そして深雪の問い掛けに言いづらそうにしていたほのかは、意を決して重い口を開いた。

 

 

 

「名前、知らない・・・」

 

「「「ゴォハァァ!!!?」」」

 

 

 

何人か居たのだろう、達也に敗北した人達が一斉に血を吐いて倒れてしまった。

名前すら忘れ去られた哀れな彼らには、最早かける言葉すらない・・・

 

 

 

「じゃあ、ほのかの負けね? 罰ゲームよ!」

 

「誰を殴るの?」

 

「え、えっとぉ〜・・・」

 

 

 

まるで今日の晩御飯のメニューでも尋ねるかのような気楽さで殴る相手を聞くあたり、この二人は何処か精神がいかれているのかもしれない。

 

本当は殴りたくないけど罰ゲームだから仕方ないと自分に言い聞かせ、殴っても全く後腐れがないであろう“彼”の名前を出そうとほのかが口を開こうとしたその時・・・!

 

 

 

「危ない!!」

 

 

 

なんと、反対車線の車がこちらに火を上げながら飛んでくるではないか!

バスの中は一気に緊張感に満ち、それぞれがこの緊急事態に対処する為に行動を始める。

 

そんな中ほのかだけは、皆とは全く違う事を考えてホッと息を吐いた。

 

 

 

(罰ゲーム、有耶無耶になりそう・・・)

 

 

 

ほのかは密かに、この事故を起こしたであろう車の運転手に黙祷を捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに深雪と雫から逃げる事は出来ず、宿泊先に到着した時に、ほのかはある男子生徒の顔を思い切り殴った。

 

 




達也「重力制御魔法式熱核融合炉」

五十里「ロビンソン環化反応」

達也「また“う”ですか? ウォラストニト 」

五十里「別名を答えるのも卑怯じゃないかい?」

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