私、千葉エリカは自他ともに認める美少女である。
小さい頃からそんな自覚があった私は、その容姿を最大限に活かしながら生きてきた。
でも、顔だけで中身のない人間になりたくないから実家の剣術や勉学にも精を出して、今は雑草(ウィード)とか言われているけど、中学までは才色兼備とは私のことを指していた。
お母さんが死んでからは父親の家に住んでるけど、家族との折り合いはすごぶる悪い。
自分を台所のGより嫌う血縁上の姉は精神がいかれていると思うし、上の兄は今も昔も色ボケだ。
昔から優しくしてくれて尊敬していた下の兄も、最近はあの女のせいでやや色ボケに転じてきているものの、まぁ、今の生活にそれほど不満はない。
いつまでも続くと思っていた・・・
この瞬間までは・・・
私ーー千葉エリカの剣士としての本能が警鐘を鳴らす。
逃げろ、逃げろとけたたましく鳴り響く。
エリカは、数時間前の自分の選択を呪っていた。
そもそもの発端は、第一高校のチーム・モブが運営委員の不手際で全滅した事だった。
緊急の措置として、第一高校は新人戦男子モノリス・コードの代役を立てる事が許可されたのだ。
そこで代役となったエリカの友人達は、見事、第三高校のチーム・プリンスを討ち破って優勝をもぎ取った。
これを見て火が着かない剣士はいないだろう・・・
エリカは剣士としての本能から、自らが鍛えに鍛えてきた剣の腕をあの舞台で振るってみたい衝動に駆られた。
だがそれは、叶わぬ願い・・・
直接持った武器で相手を打ちのめすのはルール違反だから、エリカにはモノリス・コードのルールは不利である。
そして一番の理由は、エリカが二科生ということだろう。
女子モノリス・コードは本戦のみの競技であり、第一高校の代表は既に先輩の一科生で占められている。
舞台はあるが、資格がない・・・
エリカは自嘲気味に笑いながら、現在行われているミラージ・バットに視線を向けた。
しかし、天はエリカを見捨てなかった。
何と、本戦女子ミラージ・バットの代表選手である小早川景子が落ちて、そのままリタイアしてしまったのだ。
彼女は最後に行われる女子モノリス・コードにも登録している選手である。
つまり、既に決まっている渡辺摩利の代役とともに、女子モノリス・コードに参加できる可能性が出てきたのであった。
更に事態は転がっていき、なんと友人である司波深雪のCADのチェックに不祥事があり、小早川景子のCADにも同様の細工があったかもしれないという疑惑が浮上したのだ。
運営委員の顔色は、皆真っ青だった・・・
ただでさえ、不祥事に次ぐ不祥事、そして日本魔法協会からの無茶振りで行った男子ミラージ・バットは兎に角不評で、先ほどから抗議の電話が鳴り止まない。
ちなみに優勝は第一高校の服部で、優勝が決まった瞬間、彼は涙を流しながら嘔吐していた・・・
とにかく、何でもいいから最後の競技であるモノリス・コードは絶対に失敗は許されないのだ。
そんな事情は全く知らない千葉エリカは、達也から女子モノリス・コードへの参加を打診された時はあまりの驚きに、よく考えもせずに頷いたのだ。
彼から受け取ったモノリス・コード用にカスタマイズされた刀剣型CADを持って、もう一人の代役である北山雫と二年生の先輩と共にエリカはフィールドに降り立った・・・
(無理無理無理! この人マジでヤバイ!! そばにいるだけで生きてる気が全くしない!!!)
エリカは思わず、この地獄に放り込んだ元凶に睨みを効かせた。
銃弾すら見切るエリカの視力を持ってすれば、遠く離れたスタッフルームにいる元凶ーー司波達也を見据えることなど造作もない。
そして元凶たる達也は、エリカの視線に気が付いたのか親指を立てて激励をした。
(巫山戯んな、馬鹿! 後で殺す!!)
そうは思っても今は何も出来ないエリカ。
そしてエリカの脅威の視力を観客席に向けた瞬間、エリカの怒りは怒髪天を貫いた。
(あれは三年の小早川!? リタイアしたんじゃないの?)
再起不能と聞いていた小早川景子は、自分の担当エンジニアだった平河小春と談笑していた。
ちなみにこの小早川・・・
魔法が発動せずに落ちた時は確かに恐怖を感じてはいたが、審判に助けられた瞬間に「あぁ、これでモノリス・コードに出なくて済む・・・」という安心感が上回り、特に魔法を失うといった事態にはなっていないのだ。
渡辺摩利も同様で、バトル・ボードのリタイアは涙を飲むほど悔しかったが、モノリス・コードに出なくて済むと思うと悔しいより安心が上回っていた。
(畜生! だからあの女、次兄上とあんなにイチャこけられてたのか!!)
あれは、無念のリタイアをした人間の顔ではない。
地獄から生還した、サバイバーの顔である。
エリカは諦めたように顔を向き直り、唯一、この気持ちを共有できる友人ーー北山雫に視線を向けた。
彼女は直立不動で敵がいる方向を見据えていた。
彼女もまた、戦士なのだろう・・・
その無機質な瞳に宿るのはどんな思いなのか、傷心中のエリカには伺う事が出来ない。
(ん?)
そしてエリカは、ある事に気付いた。
北山雫は、立ったまま意識を失っていたのだ。
彼女は戦士などではない、お嬢様なのだ。
未だ嘗てないプレッシャーに晒され続けた雫の精神は既に限界を超え、自己の保全を図るためにとうの昔に意識をシャットダウンしていたのだ。
それでも意識のない状態でここまでやってこれたのは学年二位のプライド故か・・・
(雫、あんた・・・)
その凄まじき執念にエリカは心の中で敬礼して、そして覚悟を決めた。
必ず、かの邪智暴虐の悪魔を除かなければならぬと決意した。
エリカには、学内のパワーバランスは分からぬ。
エリカは、北辰一刀流を現代に伝える千葉家の娘である。
剣を振り、兄と戯れて暮らして来た。
けれども邪悪に対しては、一歩も引かずに戦う覚悟を培ってきたつもりだ。
エリカは自身の手にある刀剣型CADを強く握り締め、目の前の悪魔を見据えた。
「そんなに緊張しないで、エリカちゃん。大丈夫、きっと勝てるよ!」
そんな優しい言葉に騙されるほど、エリカの生きてきた人生は軽くない。
悪魔とは、親しげな言葉と共に近付いてくるのだ。
しかし、目の前の悪魔は無邪気に笑うだけで表面上は危険を全く感じない。
「もううちの優勝は決まってるんだから、順位なんて気にしないで楽しむつもりでやろうよ!」
この悪魔は、何を楽しむというのだろうか・・・
ここに来て、エリカの防衛本能は最高潮の警報を発する。
「でも・・・」
不意に、悪魔の声が1オクターブだけ低くなった。
この瞬間、エリカの心はポッキリ折れた。
「三高にだけは、負けないでね? もし負けたら・・・」
悪魔ーー羽原真央は、その正体を現した。
「明日の朝日は、もう見れないかもね・・・!」
既にエリカに意識はない。
あるのは、この舞台に立ってしまった後悔だけだ。
「さぁ、行こっか!」
極めて軽い口調で、一高のアークデーモンは進撃を開始した。
決勝は熾烈を極め、試合は一高と三高の同率優勝で勘弁してもらった・・・
後日・・・
千葉パパ「まぁ、何だ・・・お前は頑張った。よくやったと思うぞ、うん・・・」
千葉姉「そ、そうよ。アンタにしては上出来よ!」
寿和「そうだぞ、エリカ。あれはしょうがないって」
修次「もう大丈夫だから。だから、早く部屋から出てきなさい」
エリカ「・・・」
メンバー決め・・・
真由美「女子モノリス・コードのメンバーは、三年生から優先的に決めたいと思います」
鈴音「来年の事を考えると、一年生や二年生から選ぶのは酷というものです。我々が貧乏クジを引かねばならないでしょう・・・」
摩利「お前、出ないだろ?」
真由美「どうせ立候補はいないでしょうから、ここは古来の様式に則ってアミダくじで決めましょう。この星マークに当たった二名は、女子モノリス・コード代表ーーアークデーモンのチームメイトです」
そして・・・
摩利「ノオオォォォォォーーーーッ!!!!?」
小早川「嫌あぁぁぁーーーーっ!!!!」
真由美「それでは女子モノリス・コードの代表は、三年の渡辺摩利・小早川景子、二年の羽原真央の三名に決定しました! 皆、拍手! (危ない危ない、あと一つずれてたら私だったわ・・・)」
代役・・・
真由美「いいですか、北山さん? 渡辺摩利、小早川景子の両名が事故でリタイアした以上、女子モノリス・コードに代役を立てねばなりません」
雫「・・・」
真由美「つまりですね? 三年は神、二年は人間、一年は奴隷なので、北山さんには女子モノリス・コードの代役をお願いします。達也君は、もう一人のメンバーを拾ってきて下さいね?」
達也「分かりました。活きのいいのを連れてきます」
雫(コイツらは悪魔や・・・ホンマもんの悪魔や!)