第一高校生の日常   作:ジャスティスⅡ

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新世代

 

 

夏休みも終わり、秋の季節がやって来た。

 

 

 

色々あったが、見事、九校戦を制した第一高校に世代交代の風が吹き始めていた。

 

特に七草真由美の後釜争いは混迷を極め、多くの立候補と推薦の嵐が第一高校を包んでいた。

 

 

 

本命・服部刑部少丞範蔵

対抗1・中条あずさ

対抗2・司波深雪

大穴・羽原真央

勇者・司波達也

ネタ・桐原武明

モブ・森崎駿

 

 

 

一体誰が、この熾烈な会長選を制するのか・・・

 

今後も目を離せないだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、桐原・・・」

 

「どうした、服部? 辛気臭い顔しやがって」

 

 

 

第一高校の無駄に広い食堂の片隅には、今や混迷極まる会長選の有力候補たる服部刑部少丞範蔵と、ネタ以外何物でもない理由で推薦を受けた桐原武明の姿があった。

 

ちなみに、桐原が会長選の推薦を受けたと自身の彼女・壬生紗耶香に話したところ、壬生は腹を抱えて爆笑した。

 

 

 

「いや、な・・・。夏休みなんだが、新学期の為に必要な物を買うためにショッピングモールに行ったんだ・・・」

 

「へぇ〜」

 

「買い物が終わって帰ろうとした時に、私服の七草会長を見つけたんだ」

 

「・・・まぁ、夏休みなんだし、私服でも別におかしいことはないだろ?」

 

 

 

桐原は怪訝な表情で服部を見据えた。

 

一体、この男は何が言いたいんだ?

 

 

 

「そこで、その・・・」

 

「勿体ぶるなよ。言いたいことがあるならはっきり言いやがれ!」

 

 

 

良くも悪くも真っ直ぐが性分の桐原だ、元より気が長い方ではない・・・というか、むしろ短気だ。

 

しかしこの服部は九校戦で、恐らく一生涯、思い出す度に頭を壁に打ち付けたくなる衝動と戦い続けなければならない宿命を背負ってしまったのだ。

いかに忍びが耐え忍ぶ者だとしても、この仕打ちはあんまりではないのだろうか・・・

 

だが、桐原に彼の心を癒す術はない。

ならせめて、彼の悩みくらいは気長に聞いてやるべきだと桐原は考えた。

 

そう考えると、不思議と桐原は自身の心が広がる感覚を覚えた。

成る程、“悟る”とはこのような感覚なのかもしれない。

かの仏教の開祖として有名な釈迦も、きっと自分と同じ気持ちを味わったことだろう・・・

 

 

 

「・・・すまねぇ、服部。ゆっくりでいいぞ?」

 

「あぁ、すまない桐原」

 

 

 

やはり、かなり疲れているのだろう。

服部は暫く頭を押さえながら唸っていたが、やがて決心したのか重い口を開いた。

 

 

 

「・・・会長の、その・・下半身に密着させるタイプの布を、その・・・」

 

「は? 何言ってんだ、お前・・・」

 

「その・・・下着を、見てしまったんだ・・・」

 

 

 

段々言葉尻が小さくなって後半が聞き取り辛かったが、要約すると『七草会長のパンチラ見たんだぜ、ラッキー!』と言いたいのだろう。

 

 

 

「違う! 断じてラッキーなどと思っていない!!」

 

「でも見たんだろ?」

 

「・・・あぁ」

 

 

 

何とも難儀な忍びである。

相手も気付いてない・・・あの会長だと気付いている可能性もあるが、特に咎めに来る様子もないのだから気にしなければいいのに・・・

 

いや、気付いてはいるが、こうやって服部が苦悩する様を眺めて悦に浸っている可能性も無きにしも非ず・・・

 

とにかく桐原は、この生真面目な忍者・ムッツリ君のフォローをするべく、少しだけ身を乗り出した。

 

 

 

「会長は何も言ってないんだろ? なら気にするだけ無駄だって!」

 

「しかし、一人の男として・・・」

 

「いくら今はそういう節度ある付き合いってのが流行りってもな、そんな事故みたいなのいちいち気にしてたら生きていけねぇぞ?」

 

「なら、お前は気にしないと言うのか!? 罪悪感はないのか!?」

 

「無いね! 七草会長のパンチラなんて、ラッキー以外何物でもないわ! パンツは幸せの象徴だぜ?」

 

「・・・なら、一回見てみればいい。罪悪感で思わず自殺したくなる衝動に駆られるから」

 

「おいおい、服部。その肝心のパンツはどこから持ってくるんだ?」

 

「・・・」

 

 

 

暫し押し黙った服部は、何を思いついたのかおもむろに立ち上がった。

 

 

 

「・・・行くぞ」

 

「行くって、何処へ?」

 

「パンツだ」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、しょうがないなぁ〜」

 

 

仕方なさそうにしてはいるが、彼女ーー中条あずさは実に嬉しそうに生徒会室に併設されている資料室に、服部と桐原を伴って入っていく。

 

 

 

「すまんな、中条。資料集めを手伝ってもらって・・・」

 

「悪ぃな」

 

「私も忙しいんだから、今回だけだからね?」

 

 

 

そうは言うが、中条あずさはとにかく嬉しそうである。

普段は小動物扱いされて先輩や同級生はおろか、後輩にも頼られずにマスコットや愛玩動物の扱いをされ続けたあずさは、自分が頼られている今の状況にひどくご満悦なのである。

 

 

 

「えぇと、過去の部活動の活躍記録は・・・」

 

 

 

殆どがデータベース化された現代社会でも、紙資料はデータよりも秘匿性が高いとして重宝されている。

何せ管理さえ万全ならば、外部に漏れる心配はないからである。

 

その資料は、ちょうど棚の一番上に存在していた。

これは十文字会頭の身長でもちょっと届かない場所にあるので、あずさは困った表情で服部と桐原をチラ見した。

 

二人は自分を頼ったのだ。

 

普段頼られることのないあずさは、変な使命感を持ってフンスと気合いを入れた。

近くにあった脚立を持ってきてそれに登り、小さな身体を精一杯伸ばした。

 

 

 

(桐原!)

 

(あぁ、わかってる)

 

 

 

二人は音も立てずにあずさの乗る脚立のそばに滑り込み、その頂きに向けて視線を上げた。

 

そこにあるのは、男子禁制の秘密の花園だった。

 

やや発育不良気味ではあるものの、世間的には美少女にカテゴライズされるだろう中条あずさの秘密の部屋には、バジリスク以上のお宝が眠っていたのだ。

今だその秘密の部屋には主人も継承者も存在しないという事実が、一層の神秘性を醸し出していた。

 

二人は暫くその神秘を見つめていた。

そのため、背後にいる明確な“死”を察することが出来なかった。

 

 

 

「はぁ〜とりくぅ〜ん、きぃりはらくぅ〜ん・・・なぁにをしているのかなぁぁ〜〜?」

 

 

 

背後に振り向くと、そこにいたのは閻魔大王だった。

自分達に判決を下したくて仕方が無いというほどの怖い笑顔と「怒」マークを頭に付けた七草真由美は、哀れな性犯罪者達を笑いながら睨んでいた。

 

服部が恐る恐る後ろを見ると、中条あずさは羞恥心によるものなのか脚立の上にしゃがみ込み、真っ赤な顔で服部を睨んでいた。

正直全く怖くはないが、服部はその顔を見て自分の辿る運命を半ば理解した。

 

 

 

(あっ、死んだ・・・)

 

 

 

運命を悟った忍びは、最後の最後まで耐え忍ぶ者の名に相応しい男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

服部刑部少丞範蔵は会長選から脱落し、しかし勢力を盛り返して部活連会頭の地位へと短期間で昇り詰める。

 

余談だが、桐原武明も会長選から姿を消し、自殺未遂を起こしたが奇跡的に軽傷だった・・・

 

 




闇組織幹部A「第一高校会長選の結果次第では、我々に降りかかる被害総額は百万以上になる。ホンコンじゃないぞ、ステイツドルだ!!」

闇組織幹部B「何としても、当選大本命の服部刑部少丞範蔵にはどのような手段を用いても消えて貰わねばなるまい・・・」

下っ端「それについて、御報告が・・・」

闇組織幹部C「なんだ?」

下っ端「服部刑部少丞範蔵が、会長選から脱落したそうです。詳細はまだ不明ですが、何でも覗きの現行犯で捕まったとかどうとか・・・」

闇組織幹部一同「・・・・」
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