第一高校・一科三年の関本勲は優等生である。
入学当時から理論・実技ともに優秀な成績を維持し、魔法純理論だけに注目するなら第一高校の誰にも負けないという自負があり、そしてそれは決して独りよがりの自称ではなく客観的に基づいた純然たる事実である。
二年生の後半からは教職員推薦で風紀委員も拝命しており、それはこの関本が魔法実技において校内有数の実力者であると教師ーーつまり、現役のA級魔法師達に認められたという事に他ならない。
だからかどうかは定かではないが彼は少々選民思想の嫌いがあり、同じ理論派の市原鈴音を女風情がと内心で見下していたし、風紀委員に二科生の星・司波達也が選ばれた事を不快に感じていた。
まぁ、彼はそれなりに理性がある方なので、何処かのモブとは違ってあからさまな態度を出すことはなかったのだが・・・
しかし、兼ねてより狙っていた論文コンペの発表者の地位を市原に持っていかれ、あまつさえその発表メンバーに関本ではなく二科生如きを加えた事が彼には我慢ならなかった。
確かに今年行われる会場は横浜で、横浜で行われる論文コンペはその性質上、純理論を重視する京都とは違い実用的な技術を重視する傾向があるので関本が適していないことは彼自身が理解しているだろうが、だからと言って納得できるかは別問題なのだ。
(クソッ! 市原め、舐めやがって!!)
関本勲は苛立っていた。
論文コンペの代表争いに敗れた事は、まぁ業腹ものではあるものの何とか納得出来なくもない・・・
しかし、辞退した平河の代わりに二科生を加えるなんて事は許すわけにはいかない。
最悪の事態は回避したものの、CADの細工に気付かなかった時点で自分の落ち度であると言って譲らなかった平河小春は、今回の論文コンペを辞退していた。
そのことを聞いた関本は、代役に選ばれるのは自分であると考えていた。
なにせ、魔法幾何学を専門とする純理論畑の五十里啓が選ばれるくらいなのだ。
十分、自分が入る余地はあると関本は内心で笑っていた。
しかし、選ばれたのは一年生でしかも二科生だった。
その事実は関本のプライドを酷く傷付け、市原鈴音に会う度に嘲笑われる錯覚を覚えるほどだった。
だからか知らないが、さっきも中庭で行われている論文コンペのデモ実験会場で二科生に八つ当たり気味に当り散らしていた。
(今に見てろよ、市原・・・そして司波達也ぁ!! ちょっとCADが上手く弄れるからって調子に乗りやがって・・・)
明らかにちょっとどころではないが、純理論派の関本にそれを理解することは難しい。
仮に理解できても、見下している二科生が自分より上だという事実を彼は認めないだろう・・・
関本勲は自分教室に向けて歩を進め、そして扉の横で立ち止まった。
教室の中から、自分の名前が聞こえてきたからだ。
「関本の一番困るところって、カラオケでいっつもアイドルの新曲を歌うところだよな~?」
「言えてる言えてる! めちゃくちゃノリノリだから、ツッコむ事もできねぇしよぉ~」
「マジかよ!? 普段、硬派気取ってるくせにアイドル? 引くわぁ~」
教室の中では、数人の男子生徒が関本勲の話題で盛り上がっていた。
「そういやぁ関本って、パイナップルが嫌いらしいぜ?」
「へぇ~なんで?」
「なんでも、小学生の時に殻ごと丸かじりして口の中血だらけになったらしいぜ?」
「「「ギャッハッハッハッハッハッハッ!!!」」」
「マジかよ!? 普段から『俺、頭いいです』ってオーラ全身から出してるくせに、行動は完全にバカ丸出しじゃねぇーか!」
「これぞまさに“馬鹿と天才は紙一重”ってかぁ~?」
「「「ギャッハッハッハッハッハッハッ!!!」」」
場は物凄く盛り上がっており、よく見ると教室に残っている他の生徒たちもクスクスと笑っていた。
「そういやぁ俺、関本と同じ小学校だったんだけど、初めて親にCADを買ってもらって凄い喜んでてな? 何を思ったか部屋暗くして魔法を発動させたんだよ!」
「ふぅ~ん、それで?」
「そんで、魔法発動させたかと思ったら、いきなり『これは不良品だ!!』とか言って床に思い切り叩き付けたんだよ。でもそれ、ローゼンの最新型だから不良品なわけないじゃん? なんでそんな事言うんだって尋ねたら、アイツなんて言ったと思う?『CADは起動すると電波が見える筈だ! これにはそれがない!』って自信満々に言うんだよ! どうやらアイツ、CADと携帯端末を一緒に考えていたようだぜ!!」
「「「ギャッハッハッハッハッハッハッ!!!」」」
「まず、電波なんて見える訳ないのにな!!」
「CADと携帯端末を一緒にって・・・今時、幼稚園児だってまちがわねぇーよ!」
「「「「「「「ギャッハッハッハッハッハッハッ!!!」」」」」」」
今度は教室中が爆笑の嵐に包まれた。
関本勲は、時の人となっていた。
「・・・あっ、そういやぁ俺、小学生の時に関本に悪戯したことがあったなぁ」
「へぇ~どんな?」
「アイツの体操着のズボンと、当時クラスでめちゃくちゃ嫌われてて、あだ名が『タイタン』て呼ばれてる女子の体操着のズボンを交換したんだよ。流石に履き心地が違うだろうから、すぐに気付いてツッコんでくれるって思ったよ! でもアイツ、全く気づかずにそのまま卒業しちまったんだよ!!」
「「「「「「「ギャッハッハッハッハッハッハッ!!!」」」」」」」
「タイタンだって気付いたのによ! アイツ、どんだけ鈍いんだよ!!」
「「「「「「「ギャッハッハッハッハッハッハッ!!!」」」」」」」
教室の前にいた関本は限界だった。
自分の過去を暴露し合って笑う奴らを止めるために教室に入り、彼らの前に立った。
「・・・よぉ」
「「「「「ウゥース・・」」」」」
少しだけ、教室に静寂が包み込む。
今まで関本の過去で爆笑していた男たちと関本本人が、無言で見つめ合う。
しかしすぐに男たちの視線は関本から外れて、再び話し出した。
「あっ、そういやぁ関本のとっておきの情報があってさぁ!」
「え、なになに?」
「マジかよ、どんな?」
再びワイワイ話し出した男たちを、関本は愕然とした表情で見つめていた。
(本人前にして、まだ続けるのかよ!!?)
これが原因なのかはさだかではないが、関本勲はこの後、産業スパイの現行犯で後輩の上司と憎き二科生に捕縛されてしまう。
目的は白状したものの、犯行を行おうとした動機だけは渡辺摩利の自白剤を持ってしても最後まで黙秘を貫いた為、取りあえず洗脳されていたという事にして決着がつき、彼は取りあえず学校は卒業出来た。
風紀委員会本部にて・・・
摩利「全く、関本にも困ったものだ・・・」
千代田「関本? 誰ですか、先輩?」
摩利「は?」
千代田「司波君、知ってる?」
達也「さぁ? 上級生の誰かですか?」
千代田・達也「「ハッハッハッハッハッハッハッ!!」」
摩利 (コイツ等・・・関本の存在を記憶から消去しやがった!)