森崎駿は、優等生である。
例え結果や実績が伴わず、折角の舞台で事故に遭ってその優秀な魔法の腕を披露する事も叶わずに退場するという、もはや呪われているんじゃないかと錯覚するくらいに恵まれていなくても、彼は国際魔法協会が定める基準でいえば優等生の中でも指折りの実力者の筈である。
最初に比べ、今は殆ど影も形も見えないくらいに表舞台に出てこないが、それでも彼は魔法大学進学率毎年トップの第一高校が誇る一科・1-Aの生徒であり、あの文武両道美少女トリオである司波深雪・北山雫・光井ほのかのクラスメイトである。
最もこの三人は、最近一年女子を中心に拡がっているとある宗教の信者であり、しかもその中でも幹部格と目されている三人なので、同じだからと言ってあまり意味はないのだが・・・
一学期の中間テストは総合九位で、実技に至っては第三位という高得点をマークしており、理論だって悪くはない筈である。
成績だけで判断するならば、彼は一年男子で最強でなくてはならない。
だが彼は、入学してすぐに二科生の女子に土をつけられ、学校にテロリストが雪崩れ込んだ時は演習場でそこそこ活躍出来ていたが、殆ど誰も見ていなかった事と二科生の西城レオンハルトがめちゃくちゃ目立っていた事もあって、誰も彼の活躍に触れる事はなかったし、しかもその後、変な部活に強制入部させられて何時も死線を彷徨っている。
九校戦も散々だったし、夏休みで悪漢に襲われる女性を助けたのだがそれだって誰かが見ていた訳でもないし、しかもこの一件で森崎は内情にマークされるという事態になったものの、この件に関しては彼自身も大凡満足した結果だと思っているので、まぁいいのだろう。
しかし、来たる横浜事変で彼は会場内の警備を担当していたのだが、全く役に立たなかったという結果に終わってしまった事が彼に「自分は本当に優等生なのか?」という疑問を抱かせる切っ掛けとなった。
まぁ、彼の魔法は対人戦を想定したものであり、今回の敵はでかい機動兵器を投入していたので、大規模領域魔法が苦手な彼ではあまり役には立たなかっただろう・・・
せめて、一条将輝と共にあれば対人戦が割と多かったので彼も活躍出来ただろうが、彼は地下シェルターに避難する人達の護衛を行っていて、地下での遭遇戦の時も戦闘には参加せずに護衛を優先していたので、彼の活躍は終ぞ無かった。
まぁ、ボディーガードを生業にする彼にとってはそれこそが正しい姿なのだが・・・
しかし、幾らボディーガードが護衛を中心にしているとはいえ、それが彼の活躍が無い事への言い訳にはならないのだ。
護られる方だって、活躍して実績のある人にやってもらった方が安心だろう・・・
まぁとどのつまり、彼は悩んでいた・・・
(クソッ! 最近、何をやっても上手くいく気がしねぇ・・・)
森崎駿は、いつかの河辺に座り夕陽を見つめながら一人で黄昏ていた。
入学当時はあんなに希望に溢れていたというのに、今では自身のアイデンティティすら分からなくなる程に彼は憔悴していた。
森崎駿は色々と考えているうちに、色んなことを悟り始めていた。
結局、学校の成績など実戦では殆ど役には立たないのだ。
実戦で必要なのは、百の訓練でなく一の実戦経験であり、そこがあの司波達也と森崎駿の決定的な違いであり、大きく差を付けられる最重要要因であるのだ。
(そう考えると、僕がアイツに魔法実技の成績以外で勝てないのは自明の理かもしれないな・・・)
実際、現在の風紀委員会で上級生達に重用されているのは司波達也だし、新委員長の千代田花音なんか何時も側に置いて頼りにしていた。(押し付けていたともいう)
巡回だって検挙率ナンバーワンだし、しかも魔法解析能力が卓越しているからか今まで被疑者が言い逃れ出来た試しは皆無である。
対して森崎は、無難に普通に例年通りの結果しか出せていないという有様である。
しかも最近では、森崎と同じ教職員推薦枠で風紀委員になった関本勲が産業スパイの罪で逮捕されるという事件もあり、一時期だが同じ教職員推薦枠の森崎も白い目で見られていたものだ。
これには流石に堪え、あの司波達也が森崎に同情的な視線を向けてくる程に結構悪い状況だった。
今はとりあえず何とかなっているが、今後もこんな事が起こらないとも限らない。
そう考えると、森崎は憂鬱な気分になる。
(ん、誰だ?)
不意に、森崎は自分の背後に誰かの気配を感じた。
気だるげに振り向くと、そこにいたのは何と現在の風紀委員会で唯一の味方と言ってもいい司波達也だった。
(何故、此奴がここに・・・って言うか、どこ見てんだ?)
達也は森崎には目もくれず、じっと夕陽を見つめていた。
髪が風に靡き、その姿は図らずも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そして達也は、不意にその口を開く。
「俺は、この風が好きじゃない・・・」
(ちょっ!? お〜い達也さ〜ん、何言っちゃってんの〜)
思わず森崎が心配するほど、達也の発言は意味不明だった。
しかしそんな森崎の様子など一顧だにせず、達也は更に言葉を続けた。
「風は何時も、俺の大事なものを奪い去ろうとしていく・・・」
(何浸ってんだ、お前!? 戻ってこ〜い)
「でも、達也さん・・・。この風は何か、泣いています・・・」
(何か増えたし!?)
いつの間にか達也の左側に立って言葉を紡いだのは、森崎のクラスメイトである光井ほのかだった。
憂いを秘めた表情で、夕陽を見つめながら達也の言葉に返事を返していた。
「風も、好きで奪っていくのでは無い事は知っている。だが、それでも俺には、譲れないものがある・・・」
(何が譲れないんだよ? もう、見てるこっちが恥ずかしいよ!!)
「ならば、私がお兄様の代わりに・・・この風を止めて見せましょう・・・」
(ちょっ、司波さ〜ん!? アンタもか? アンタもなのか!!?)
そして、またまたいつの間にか達也の右側には、まるでここが自分の定位置と言わんばかりに立つ司波深雪の姿があった。
彼女の表情は何かを決意したようなものがあり、何やら妙な威圧感を森崎は感じた。
「なら、みんなで行こう。この風を止める為に・・・」
「はい、お兄様!」
「何処までも、お供します!」
そう言って、三人は去って行く。
その後ろ姿を呆然と見つめていた森崎は、再び視線を夕陽に向けて思考を再起動させた。
(前回、僕もあんな事をやってみたが見事に痛い人になってしまったが・・・成る程、流石は司波達也だ。何時も僕の上を行くだけはある。何か、かっこよかったし・・・)
先程の独特な雰囲気に飲まれてしまったのか、森崎は妙なテンションになっていた。
そして再び、森崎は自分の背後に誰かがいる気配を感じた。
(よし、僕だってやってやる! トバすぜぇ〜、最高にスカした言葉を!!)
そう考えて森崎は、不意に立ち上がって夕陽を見つめる。
数秒ほど見つめた後、その口を開いて自身の考える最高にカッコいい言葉を紡いだ。
「今日の風は、嫌な感じがするな・・・」
「はぁぁ!? 何言ってんの、アンタ?」
その声にハッとして振り向くと、そこにいたのは怪訝な表情で森崎を見つめる千葉エリカの姿があった。
「ち、ちちち千葉!!?」
「変な奴だとは思ってたけど、まさか頭も変なんてね? アンタあまりにモブだから、なんかキャラ付けでもしようとしてんの?」
その性格からズケズケと物を言うエリカの言葉は、鋭い刃となって森崎の心を抉る。
その辺は、流石『剣の魔法師』として名を馳せる千葉家の人間といったところだろう。
「あんまり変な事ばっかやってると、同じ一科生からも嫌煙されるわよ?」
そう言って、エリカは去って行った。
一体何しにここに来たのかはさっぱり分からないが、今の森崎にそれを考える余裕はない。
森崎は目を細めて夕陽を見つめる。
そして、再び座り込んで体育座りをしながら顔をうずめた。
「誰か、僕を殺してくれ・・・」
達也「・・・よし、クリスマスに雫の家のホームパーティーでやる余興の練習はこれでいいだろう」
深雪「流石はお兄様! とても様になっておりました」
ほのか「うぅ〜、恥ずかしかったぁ〜」
達也「そういえば、河辺に誰かいなかったか?」
深雪「さぁ? 影が薄過ぎてよく見えませんでした」