人生とは、思いも掛けない事態が起こるものである。
例えば人の出会い・・・
その善し悪しに関わらず、人と人との出会いには大きな影響をお互いに与えてしまうものである。
例えば世の中の変動・・・
世界的に影響のあるテロや、大国の侵攻など世界情勢が変化する事柄は多分に存在する。
直接的な原因が些細なことでも、その結果が世界の行く末を左右する一大事に発展する可能性も小さいとは言えないだろう。
例えば自己の改革・・・
自分自身を省みる事で自身の行いに反省し、その後の言動に影響を与えることもあるだろう。
中々難しい事だが、あり得ない訳ではない。
つまり、その後の運命を変えると思う出来事は結構あるものである。
黒羽家のパーティーがある日に来た四葉真紀夜一行はその後数日を黒羽家の別荘で過ごしたが、黒羽家が本拠地に帰る日になるとそのまま司波深夜一家に合流してバカンスを楽しんだ。
司波深雪の隠れた趣味や様々なブツを深雪に横流ししていた豚への折檻など色々あったが、とりあえずかねがね楽しむことは出来たのだろう。
途中で、魚雷に撃たれるという事態に遭遇するも、スーパーヒーロー・司波達也によって消滅させたので殆ど問題はない筈である。
問題があるとしたら、その事で国防軍と縁が出来て達也が軍基地に招待されたことが深雪のお気に召さず、暫く不貞腐れていたことくらいだろうが?
兎に角、楽しんで“いた”のだ。
「この状況は、些かヤバイですわね・・・」
「些かどころか物凄く不味いですよ、お嬢様」
「ブヒィ・・・」
お嬢様と使用人と豚という奇妙な三人組だが、幸か不幸か今の彼女達の周りはそれに疑問に思う事はなかった。
それは突然だった・・・
警報がけたたましく鳴り響き、テレビからは謎の軍勢からの侵攻があるという情報が流れたのだ。
緊張感が漂い出す中、真紀夜の母である四葉真夜に便宜を計って貰い、軍基地の避難シェルターに入れて貰える事になったのだ。
その際、軍人と共に行動するために四葉を名乗れないので“司波真紀夜”と名乗る事にした。
そして避難シェルターに入って一安心というところで、突然の銃声が響いてきたのだ。
「軍基地・・・それも避難シェルターに響くくらい近くでの銃声って事は・・・」
「はい、お嬢様! 敵がもうここまで侵攻してきたか、もしくは・・・」
「流石に国防軍がそこまで脆弱という事はないでしょう。ならば、間違いなく“反乱”でしょうね・・・」
そこまで考察して、何やら辺りが騒ついている事に真紀夜は気付いた。
目線を向けると、何やら同じく避難している男性と司波達也・桜井穂波が揉めている光景があった。
その男性は差別用語を頻繁に口にしていて、真紀夜の使用人である桜井華波は眉をひそめた。
「今だ、そんな事を言う人がいるとは・・・」
「あら、私は理解出来るわよ? 自分にない才能を持つ人間というのは、得てして他人に差別されるものよ。この国はね、百年以上前から病気なの・・・“平等”という名の病気なのよ。確かに素晴らしいでしょう。みんな一列に並んで、前に出ようとする人間を叩いて列に戻し、列から遅れている人間がいれば周りが引っ張って列に引き入れる。そんな社会で成長はあり得ないわ! 真の成長を望むなら、前に出る人間を妨げてはならない・・・でも人は羨むわ。羨ましいから、その人を下に見る事で安心する。自分より優れた人間をこき使えるのは快感でしょうね? だからこそ、優れた人はその現状に不満を持つわ・・・」
「不満、ですか?」
「何も優れてる必要はないわ。人間なら、だれでもただこき使われる現状は不満でしょう? そして人は反乱を起こす・・・。過去に多くの市民革命があったのがいい証拠でしょうね? そして私たち魔法師は、無手で大量破壊を行う事も可能な人種よ。ならば、ああやって私達を奴隷と定義して安心を得ようとする人間も理解出来るわ・・・」
「だけど・・・お嬢様は、それでいいんですか?」
「理解はできる・・・でも、納得はしないわ。魔法師は人間よ! お腹も空けば、眠くもなる。病気にだってなるし、撃たれれば死ぬ・・・魔法以外、普通の人達と何も変わらないと、私は思う・・・」
「お嬢様・・・」
そう締めくくった真紀夜は、少し話過ぎたと思ったのかちょっとだけ顔をしかめた。
そのまま言い争い・・・というより、一方的に男性が騒いでいる現場に近付き、達也に顔を向けた。
「外の様子が気になるわね?」
「あぁ、俺が見に行きたいんだが、母さん達を置いて行くと不測の事態が起こった時・・・」
「そうね? なら・・・」
真紀夜は振り返り、どこから出したのかハンバーガーが大量に入っている紙袋を抱え、一心不乱にかぶりついている肉戸豚之介に視線を向けた。
「豚、仕事よ」
「ブヒィ・・・今、食事中だブ〜」
「いいから外に行け‼︎」
文字通り蹴り飛ばし、真紀夜は豚之介をシェルターの外に出した。
豚之介も渋々といった表情をしながら、ブツブツと文句を言いながら様子を見に行った。
「とりあえず、出来る事はこれで終わりかしら?」
「あぁ、後は出たとこ勝負といったところか・・・」
「あの・・・」
豚之介を外に出した事で満足気な真紀夜と達也に、深雪がおずおずと話しかけた。
「あの豚、本当に大丈夫なんですか?」
「あら深雪姉さん、何を言って・・・あぁ、深雪姉さんは知らないのね?」
意味深な言い回しに、深雪は眉をひそめた。
「確かに、あの見た目では信用出来ませんけどね?」
「普段はただの豚ですから・・・」
桜井穂波と華波の二人も、言いながら苦笑する。
そして最後に、気怠げにソファーに座り込んでいた司波深夜が答えた。
「見た目は本当にただの豚よ、あの男は・・・そう、見た目だけはね・・・」
「見た目、ですか・・・?」
やはり、深雪にはわからない・・・
思考の迷路に入った深雪だったが、事態の急変に急遽思考を停止させた。
「失礼します! 空挺第二中隊の金城一等兵であります!」
金城と名乗る軍人が、数名の軍人を引き連れてシェルターに入って来た。
彼らが言うには、敵の一部が基地に侵入しているので、ここより安全な地下シェルターに案内するというらしい。
とりあえず、桜井穂波が応対するのか彼女が前に出た。
「どうする、達也兄さん?」
「俺は危険だと思う。アイツらの指を見てみろ」
達也が示したところを見やると、そこには指輪が存在していた。
本来、軍人は指輪をしない。
指輪が銃の引き金に引っかかり、思わぬ誤射やもしもの時に撃てなかったりとデメリットが大きいからだ。
「アンティナイト、かしら?」
「見たことがないからわからないが、その可能性が高いかもしれない・・・」
「壊せる?」
「あそこまで小さいと、正確に消滅させるのは難しいだろう・・・。CADもないしな」
そのような遣り取りをしていると、司波深夜が桜井穂波の元に近付いていった。
どうやら、着いていかないと言っているようだ。
自分達も同意見だから特に何も言わずにしていたのだが、それが彼女達の運命を決定した。
今だにごねている金城達の元に、一人の軍人がやってきた事で銃撃戦が始まったのだ。
更に金城の仲間がアンティナイトを使用したことで、迎撃しようとした桜井姉妹の起動式が消し飛ばされた。
だが一番の問題は、アンティナイトから発せられるキャスト・ジャミングのサイオン波によって、司波深夜が苦悶の表情を浮かべてながら膝を着いたことだろうか。
彼女は身体があまり良くない為、最近はサイオンに対する抵抗力が著しく低下しているのだ。
達也はすぐに走って行って深夜を庇うように立ち、分解を行使してサイオン波を無効化する。
そして深雪が、母を助けようとキャスト・ジャミングの元凶に向かってコキュートスを放った。
精神が凍結されて永遠に生ける屍となった兵士を見て、深雪は安心したように息を吐いたのが致命的な隙だった。
深雪に銃口が向けられていた・・・
そして、それを一番最初に理解した真紀夜が、考えるよりも先に深雪の元に走り出した。
アサルトライフルの銃声と共に、辺りに血花が咲き乱れた・・・
続く
沖縄侵攻が行われている同時期、旧埼玉にて・・・
アークデーモン「・・・」
シルバーデビル「・・・」
国防軍司令部「こちら司令部。状況を報告せよ!」
国防軍軍人A『こちらA。かなり危険な状況だ!』
国防軍軍人B『こちらB。同じく、想子が嵐のように渦巻いている・・・まるで十師族、いや十師族にもあれほどの力を持つ者など何人いるか・・・』
国防軍軍人C『こちらC。現在、接近を継続ちゅ・・・う、うわぁぁぁーーーーっっ‼︎‼︎⁉︎』
国防軍司令部「どうした? 応答しろ‼︎‼︎」
国防軍軍人C『・・・・』
国防軍司令部「クソったれ‼︎ 今、沖縄は大変な事になっているのに、こんな時に何故・・・」