第一高校生の日常   作:ジャスティスⅡ

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※擬態

 

 

人は仮面を被る生き物である。

 

 

 

人によく思われたい・・・

人に畏怖される存在になりたい・・・

人に愛されたい・・・

人に避けられたい・・・

 

 

 

理由は様々だが、誰もがその時自身の“本心”を隠しているのは間違いないだろう・・・

 

それは悪い事ではない。

 

本当に悪いのは、その仮面を用いて人を騙すという事なのではないだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りに赤い花が咲き乱れる・・・

 

何処か遠くから、珍しく司波達也が妹と自分の名前を叫ぶのが聞こえてくる。

その事に、四葉真紀夜は違和感を感じる。

 

 

 

彼は確か、母親によって幾つかの情動を抹消されていたはすなのだ・・・

 

だがそれは必要な事で、消された本人も納得している。

 

本来、遺伝によって魔法師の一族はみんな似通った魔法特性を持って生まれてくる為、名のある魔法師一族にはよく二つ名がある。

例えば十文字の“鉄壁”や千代田の“地雷源”などが有名であろうか?

 

そして四葉の魔法師には、そういった二つ名はない。

 

四葉の前身である第四研の研究テーマである「精神干渉魔法による魔法演算領域の拡張による魔法力の増強」という実験により、四葉家の魔法師は精神干渉魔法を有するか、その歪な魔法演算領域から生まれる固有に近い強力な魔法を持つという特性がある為、同じ魔法を有する人間はなく十人十色といった状況なのだ。

 

そして達也は後者にあたり、生まれながらに“分解”と“再成”の二つを持っていた。

 

通常の魔法は精々並程度の実力しか持たなかったが、この二つの魔法の範囲内なら神の如き力を行使出来るのだ。

 

しかし、この分解は諸刃の剣といったものであった。

 

何せ水滴一つをエネルギーに分解するだけで、戦艦一つを消滅させる威力を持っているのだ。

もしも達也が何か嫌な事があって、その感情の赴くままに知覚範囲全ての質量をエネルギーに分解したら、理論上は地球だけでなく太陽系そのものを崩壊させる危険性を孕んでいる恐るべき魔法なのだ。

 

だからこそ、達也は進んで“ある一つを除いて”自分の情動を消し去った・・・

 

 

 

『“妹”を守る』という、ただ一つの・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撃たれた箇所から血が流れ続ける。

 

深雪を庇うように盾になった真紀夜だったが、小学生の女の子一人ではアサルトライフルの壁になるには薄かったのだろう。

銃弾は容易に真紀夜を貫通し、深雪の腹を貫いた。

 

折り重なるように倒れた二人の側に、達也が必死の形相で駆け寄って二人の手をそれぞれ握った。

すると撃ち抜かれた傷が綺麗に無くなり、二人の鼓動が再び正常な動きをみせる。

 

これが達也のもう一つの神の如き魔法『再成』である。

 

二十四時間以内なら、情報体をフルコピーして対象に上書きする事で復元を可能とする魔法・・・

 

その力が、二人の死を否定したのだ。

 

 

 

「う・・・」

 

「気が付いたか?」

 

「深雪姉さんは・・・」

 

「無事だ、何も心配いらない」

 

 

 

真紀夜が気怠げに起き上がり、深雪を見やった。

 

彼女は達也によって抱き起こされており、その様子を見る限り本当に心配は要らなそうである。

 

 

 

「なら、問題は・・・」

 

 

 

そう言い掛けて、真紀夜はシェルター内の異変に気付いた。

まだ内部には、反乱を起こした兵士がいたはずだが、その声が全く聞こえないのである。

慌てて真紀夜が出入口付近に向き直ると、そこには縦にも横にも巨大な男ーー肉戸豚之介が両手で反逆兵の頭を握り潰しながらそびえ立っていた。

 

その様子は異様で、何時ものおちゃらけた雰囲気を全く感じない・・・

 

そして豚之介は、まるでペットボトルでも捨てるかのように握り潰した兵士を投げ捨て、そのまま真紀夜の元に近付いた。

 

 

 

「真紀夜氏、オーダーを・・・」

 

「・・・本気?」

 

「拙者は、真紀夜氏の命を守るのが仕事デブ〜。その命を拙者は守れず、のうのうとは出来ないブヒ。守れなかったならせめて、この場の安全を確保するまで拙者は止まれないでござる」

 

「・・・だから、語尾がぶれてんのよ? 何度言ったら解るのかしらね、この豚は・・・」

 

「豚だから理解出来ないブヒ〜」

 

 

 

少しだけおちゃらけた豚之介に、真紀夜は溜息を吐いて達也の方を見やった。

どうやら彼も相当お冠らしく、謝罪にきた将校らしき軍人に何やら交渉している。

 

 

 

「・・・オーダーを出すわよ、我がガーディアン・肉戸豚之介・・・いや、豚の皮を被った猪よ‼︎ 侵攻勢力の人間全てを、皆殺しにしなさい」

 

 

 

そのオーダーを聞いた瞬間、豚之介の身体が激しく蠢き出し、そして身体の穴とい穴から白い何かが噴き出した。

 

その光景に何も知らない深雪は唖然とし、事情を知っている深夜・穂波・華波は青い顔をする。

 

そして噴き出した白い何かの山から、何やら人影が這い出てきた。

白いスーツを着こなし、背は高いが痩せ型の優男といった風貌だが、顔は割とイケメンでぱっと見だが何処かのホストのような出で立ちの男だった。

 

 

 

「だ、だれですか?」

 

 

 

恐る恐る深雪が尋ねると、ホスト風の優男は流し目を深雪に向けながら薔薇を口元に寄せた。

 

 

 

「ブ〜、この僕を忘れるなんて悲しいな? 僕だ、肉戸豚之介だよ、ブ〜」

 

「へ・・・?」

 

 

 

訳がわからないのか唖然とした深雪を無視して、豚之介と名乗った優男は真紀夜に向かって跪いた。

 

 

 

「麗しい姫よ、貴女のオーダー通りにこの僕が敵の身体で地獄を作ろう、ブヒ」

 

「そっちのアナタは、別の意味で気持ち悪いわね? いいから、もう早く行きなさい」

 

「ブ〜」

 

 

 

ニヤリと笑い、豚之介はシェルターを出て行く。

 

そしてその姿が見えなくなると、深雪が再び再起動して真紀夜に詰め寄った。

 

 

 

「ま、真紀夜! あ、あれは一体・・・⁉︎」

 

「落ち着きなさいな、深雪姉さん? ちゃんと説明しますから、兎に角今は移動しましょう?」

 

 

 

そう言った真紀夜に押し黙り、豚之介を除いた一行は将校の軍人の導きで、ここより安全な司令部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令部に辿り着いた一行は漸く人心地ついたが、深雪は目の前のモニターに釘付けだった。

 

モニターには、変身した豚之介が白い流動的な何かに乗って突き進み、手を翳すだけで敵兵が白い何かを噴き出して死んでいくのだ。

相手の銃弾の雨も味方ごと白い何かで防ぎ、国防軍はどんどん敵兵を駆逐していっていた。

 

 

 

「凄い・・・」

 

 

 

深雪は、呆然としていた。

何の取り柄もない豚だと思っていた男が、これほどの実力を持っていた事にただただ感動するしかなかった。

 

 

 

「あれは、一体・・・」

 

「脂肪よ」

 

「えっ⁉︎」

 

 

 

感動は、すぐに霧散した。

 

真紀夜が放った言葉に思わず振り向くと、真紀夜は口元を押さえて気持ち悪そうにしていた。

よく見ると母である深夜もそのガーディアンである穂波も真紀夜の使用人の華波も、吐きそうな顔をしながら口元を押さえている。

 

ただその中で、達也だけが真剣な表情でモニターを見つめていた。

 

 

 

「加速・加重・移動・振動・収束・吸収という複数の系統を、同時に運用する事で可能となる肉戸豚之介の固有魔法・・・その名を『脂肪遊戯《ラード・コントロール》』という!」

 

「ら、ラード・・・?」

 

 

 

深雪は、真面目な顔で解説する兄を初めて解らなくなった。

 

 

 

「人間・・・いや、生物ならば必ずその肉体には脂肪が存在する。その脂肪を振動系の魔法で解きほぐして柔らかい状態にした後に、今度は吸収系の魔法で体内から分離・・・そしてそれを収束系魔法で集めてそれらを加速・加重・移動系の魔法で思い通りに操作・・・この工程をほぼ一瞬で、しかも繊細なコントロールを持って連続発動するという神業のような魔法だ」

 

「うっぷ・・‼︎ た、達也兄さん、止め・・・」

 

「そして、あの敵兵から脂肪が噴き出す魔法だが、あれは『脂肪爆散《ラード・フルバースト》』といい、先程の脂肪遊戯で柔らかくした体内の脂肪を発散系魔法で肉体から弾けさせ、その衝撃で人体をぐちゃぐちゃに・・・」

 

「た、達也・・・お願い、もう止め・・う、吐く」

 

 

 

母である深夜の言葉で漸く達也の説明は終わったが、時すでに遅く、深夜は口を押さえながら化粧室に向かって走り出した。

更に我慢出来なくなったのか穂波と華波も後に続き、よく見たら司令部にいた何人かの軍人も姿が見えなかった。

 

 

 

「何て魔法だ・・・」

 

 

 

そして、若干気持ち悪そうにしているものの、唸るように言葉を発した将校の軍人ーー風間玄信は、食い入るようにモニターを見つめ続けていた。

 

軍人の鏡のような風間とは対照的に、四葉一行は散々たる光景だった。

既に半数の人間が化粧室に消え、主人としてのプライドだけで耐えていた真紀夜も限界が近い。

達也はなんか、画面の気持ち悪さよりも豚の魔法の緻密さに感心しているのか仕切りに頷いているが、彼は感性がイカれているので数に入れるのは憚られる。

 

そして深雪だが、暫くは呆然としていたのだが、途中で何かに気付いたのか必死な表情で真紀夜に向き直った。

 

 

 

「・・・気付いたようね。そう、あの魔法こそが彼に失敗作のレッテルが貼られた原因・・・。ラード・・・体内脂肪を自由自在に操るということは、つまり女性の味方であると同時に天敵でもあるのよ?」

 

 

 

緊張感を孕んだ表情をしながら、深雪はゴクリと喉を鳴らした。

 

 

 

「対生物戦において絶大な効果を発揮する魔法である反面、あの力は平時の時は女性にとってただただ脅威。故に研究所の女性職員達に烈火の如く嫌われ、声高々に廃棄処分を迫っていたそうよ?」

 

「でも、メリットもある筈・・・」

 

「メリットよりもデメリットが上回ったのよ・・・。廃棄処分寸前で、その絶大な魔法を買われてウチに来たけど、その頃には完全な女性不信に陥っていて二次元に逃げ込んでいたわね・・・。そして完全に二次元に染まり、今のようにぶくぶくぶくぶくと・・・」

 

「えっ⁉︎ つまりあれが・・・」

 

「そ! あの姿が本来の姿・・・。豚モードの時の反動か、物凄いナルシストで気持ち悪いのよね。惚れた?」

 

「惚れません! 例え、地球上に私とあの豚だけしかいなくなっても、私と彼が結ばれる事はありません‼︎ まぁ、でも・・・」

 

 

 

モニターでは、敵の上陸部隊を完全に駆逐し、思いっ切りカッコ付けている痩せた豚の姿があった。

 

 

 

『戦えない豚はただの豚さ、ブ〜』

 

「力だけは、認めてあげなくもないわ・・・」

 

 

 

モニターに勝利の凱歌が響く中、司令部には警報が鳴り響いていた。

敵の艦隊が、沖縄に向けて進撃しているというのだ。

 

 

 

「間違いなく、大亜連合ね・・・。大漢の復讐かしら?」

 

 

 

いつの間にか、司波深夜が真紀夜と深雪の背後に立っていて、神妙に呟いた。

しかし顔色は悪く、モニターに映る白い塊を見るだけでまた吐きそうになっていたが・・・

 

 

 

「まぁ流石にあれは私もどうかと思ったけど、だからと言ってみすみすやられて上げる程、私達は優しくないわ・・・達也?」

 

「はい」

 

「あの豚は対生物特化・・・戦車や機動兵器くらいだったら搭乗者を破裂されて黙らせるだろうけど、流石にあの距離は無理でしょう。あの距離から集中砲火されれば、幾らあの豚の防御力が強靭でもいずれ限界が来ます!」

 

「わかっています」

 

「だから、あの艦隊は貴方が駆逐しなさい。頼みましたよ! 頼みましたからね?」

 

 

 

まくし立てるように達也にそう言った深夜は、また口元を押さえながら司令部を出て行く。

かなり駆け足だったので、限界はすぐそばなのだろう。

そして今だに、桜井姉妹の姿は見えない・・・

 

 

 

「お母様、どうしてあんなに・・・」

 

「深夜叔母様と桜井姉妹は、昔、あの豚の魔法実験の時に不幸にもあの脂肪の海に飲まれた事があるのよ・・・それ以来、痩せモードのアイツの姿を見ただけで吐き気が止まらなくなったそうよ」

 

「成る程、だから普段は豚なのね・・・」

 

 

 

あの見苦しい姿こそが周りの精神衛生に配慮したものだという事実に、深雪はもはや何も思うことはない・・・

 

幾ら考えても頭の中に浮かぶのはあの白い塊だけなので、そのうち深雪は、考えるのを止めた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大亜連合の艦隊は、我等の神・司波達也のマテリアルバーストで消滅させた。

 

これが、沖縄における戦闘の全てである・・・

 

 

 

余談であるが、司波家では達也以外は暫く肉や油を使った料理が口に入らず、ご飯と冷奴と味噌汁が長期間食卓を占め続けていた・・・

 

 

 

エピローグへ続く・・・




後の魔法史・・・



『2092年8月11日』
・大亜細亜連合が日本の沖縄に侵攻し沖縄海戦が勃発。
・白い塊が陸上を席巻し、その後大亜細亜連合艦隊が謎の光と共に消滅したことから「白光事変」と呼ばれる。
・同時期、旧埼玉で大規模な爆発事件が勃発。警察省は大亜細亜連合の工作員によるテロと断定し、国防軍に捜査協力を求めるも国防軍は拒否。

『2092年8月15日』
・国防軍国家保安部の司令室に勤める高級将校の数人が、謎の辞令で左遷される。本人達は特に反論もなく辞令を承認した。この事から、警察省は国防軍内に大亜細亜連合と繋がりがある者がいるのではないかと考え、先日の旧埼玉爆発テロ事件と関連して捜査を継続。

『2092年8月17日』
大亜細亜連合の侵攻と同時に展開されていた、新ソビエト連邦の侵攻部隊を佐渡の義勇軍が駆逐に成功。
しかしゲリラ戦が長期化した影響で一般人の被害が大きく、復興には二年以上の時間を要した。




『肉戸豚之介・痩せモード』

モデルは、探偵オペラ・ミルキィホームズのラード神。
体内脂肪を操る女性の天敵。
性格がかなりナルシストになる。
趣味は、ラード100%のフレッシュジュースを飲みながら、高いところで下界を見下ろすこと。
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