平和とは、次への戦争の準備期間である。
旧時代の第一次世界大戦が終了した後、国際連盟が組織されて表面上は平和となった。
しかし数十年でその平和は破綻し、すぐに第二次世界大戦が勃発するなど人類史は常に戦争と共にあった。
その後は国際連合が新しく組織され、人類は恒久的平和へ向けて歩き始めた。
が、衣食足りて礼節を知るとはよく言ったもので、突如始まった世界寒冷化による食料事情の激変で人類は少なくなった食料とエネルギー資源を巡って第三次世界大戦が勃発した事で、世界人口は九十億から三十億を下回る程に激減した。
人口の減少により人類は変わらざるを得なくなり、その後の世界は局地的な戦争があるくらいで概ね平和であると言えるだろう・・・
しかし、この世には変わらないものがある・・・
「あぁ、また負けましたわ!」
旧山梨県にあると言われている日本の魔法師の深淵・四葉本家の邸宅の一室には、一人の少女が持っていたコントローラーを投げ捨てて頭を抱えていた。
彼女の名は四葉真紀夜・・・
四葉家現当主・四葉真夜の一人娘である。
「お嬢様、はしたないですよ?」
そう言って嗜めるのは彼女の御付きの使用人である桜井華波であり、本来なら真紀夜のガーディアンを務める筈だったのだが真紀夜の飼っている豚があまりにも攻守共に逸脱している為に、本来ならかなりの腕を持つ魔法師なのにその力を発揮する機会は今だない。
嗜められた真紀夜は不満気ではあったが、投げ捨てたコントローラーを拾って再びパソコンの前に座る。
「何時の時代になっても、ネトゲは面白いですわね?」
「いくら面白いからと言って、沖縄から帰ってからずっとゲームばかりじゃありませんか! 幾ら何でもやり過ぎですよ? 豚ウイルスに感染でもしましたか?」
「豚に会う前から、私はネトゲの虜でしたわよ?」
「・・・そろそろ止めないと、また御当主に叱られますよ?」
実際、沖縄から帰還してすぐに真紀夜は母である四葉真夜に説教を受けたのだ。
大体が豚の全力を解放した事に対する叱責で、解放しなくても十分対応可能だったのに態々オーバーキルをする必要があったのか?という事らしいのだが、真紀夜は必要な措置だと思っていた。
あの沖縄戦は、豚ーー肉戸豚之介の魔法を深雪に見せる絶好の機会だったのだ。
深雪は豚をただの肉の盾だと思っていた節があったので、ここらでアレの力を教えておけば今後の展開に役に立つと真紀夜は考えていた。
(私は当主になる気はありませんし、最有力候補の達也兄さんも、四葉の当主の座より魔法の研究の方が興味がおありみたいですから多分次期当主レースからは棄権が濃厚。なら、次期当主は深雪姉さんか文弥君のどちらかという話になり、この二人なら今は深雪姉さんの方が有力でしょうね・・・)
今後の展開次第ではどうなるかわからないが、とりあえず深雪が今は最有力であろう。
ならば深雪が当主になった時に、将来は四葉家直属の高位魔法師として力を振るうだろう豚に、深雪は今のうちから慣れておく必要があるのだと真紀夜は思った。
「私も、何時迄も四葉にいられる訳ではありませんものね・・・」
「・・・何か言いましたか、お嬢様?」
「いいえ、何も?」
(本当、これからが楽しみだとは思いませんか? “達也異母兄さん”・・“深雪異母姉さん”・・・)
しれっと言葉を返す真紀夜に、華波は首を傾げながらもとりあえず納得する。
そして真紀夜は、今はここにいない二人の異母兄と異母姉に思いを馳せた・・・
彼女はその生まれのルーツ故に、当主継承権が高い割に実際に当主になれる可能性はそこそこ低めと言わざるを得ないのだ。
だからこそ、彼女は始めから当主レースそのものに見切りをつけて他家への嫁入りに有利になるような策略と、自分がいなくなってもある程度の影響力を四葉に与えられるような準備をしなければならない。
そして最も気掛かりなのは、自分がいなくなった後の肉戸豚之介の処遇である。
他家に嫁入りなりすれば、豚之介は真紀夜のガーディアンを自動的に解任される事になる。
その時は既に新当主が四葉に君臨しているだろうから、その時に彼がしっかり四葉に居場所を作れるように真紀夜は画策する。
(ま、これも飼い主の義務ですわね・・・)
「そろそろ、豚小屋 (豚の部屋) に行って豚の様子を見に行きますよ?」
「はぁ・・・」
「穂波さん、またご飯と味噌汁と冷奴ですか?」
「すみません、達也さん。肉や油は・・ちょっと・・・」
「お兄様、申し訳ありません・・・」
「不甲斐ない母でごめんなさい、達也・・・」
桜井穂波が作った司波家の今日の夕食も、ご飯・味噌汁・冷奴の三点セットだった。
既に一週間もこのメニューが続き、所々で多少は違うものが出てくる事もあったが、かねがねこの三つが食卓を支配し続けていたのだ。
流石の達也も抗議の声を上げるのだが、母・深夜とそのガーディアン・穂波に妹・深雪の今だに青白い顔を見れば、食事の不満も自然と収まるものだ。
あの沖縄で司波家が受けたダメージは、思いの外大きかった。
まず、あの脂肪の山を直視した影響で司波家の女性陣が肉ーー特に豚肉ーーや油に強い拒否反応を示すようになり、料理を担当している穂波は沖縄から帰還してすぐの調理でフライパンに油を垂らした瞬間に悲鳴を上げた。
深夜と深雪の状態も深刻で、肉を見ようものならすぐに口元を押さえてトイレに直行し、ならば魚を出してみても食べたには食べたがその量は非常に少ない。
まともに食べられるのは先に上げた三点セットだけだ。
三人は現在、精神科医に掛かって療養中であり、司波家の食卓に普通の料理が並ぶ日はまだまだ遠い。
「あぁ、そういえば達也さん。御当主様から連絡がありましたけど、そろそろ水波の教育が終わるそうです」
「そうですか・・・なら、すぐにでも深雪に付けるのですか?」
「暫くは側仕えで研修ですけど、華波は中々の腕前だと褒めていましたから、大丈夫だとは思いますよ?」
二人が言っているのは、今は本家で桜井華波の元で訓練している遺伝子上は穂波・華波の姪にあたる調整体魔法師の第二世代・桜井水波の事である。
今まで深雪のガーディアン候補に色んな魔法師が就こうとしたが、その全てを達也は却下してきたのだ。
大事な妹を守る存在が半端者ではいけないという達也の示す基準は高く、多くの魔法師が脱落してきた中で、漸く達也のお眼鏡に適う人材が現れたのだ。
「水波には期待してますからね・・・。望んだ事とはいえ、多くの感情を抹消した俺でも深雪を任せてもいいと考えられる奴ですから・・・」
達也の言葉に少ししんみりとなる食卓だったが、この言葉は正確とは言いにくい。
人間の脳には成長性があり、特に十代は一番その伸び幅が大きいのだ。
まだ一桁の年齢の頃に感情を抹消した達也だが、その後の成長次第では感情を取り戻す可能性も無い訳ではない。
そのため、今の達也もほんの少しだが感情を取り戻しているのだ。
まぁ、少しだけど・・・
そして今だ達也の感情の大部分を占めている『兄妹愛』という思いが、達也の僅かに芽生えた他の感情をも刺激しながら、自身の“二人”の妹へ思考をシフトさせる。
「楽しみですね、本当に・・・」
そう言って、達也は席を立ってリビングを出た。
食事には、全く手をつけて無かった・・・
「・・・やっぱり怒ってますね」
「お兄様、ごめんなさい・・・。深雪は心が弱い子です」
「世界最強の精神干渉魔法の使い手たる私も・・・自分のトラウマには無力なのよ」
司波家の食卓に明るさが戻るのも、まだまだ先の話である・・・
そして物語は現代へと戻っていく・・・
彼等の過去に起こった出来事が、どのように今に繋がるのかは・・・
運命のみが知る・・・
NEXT 来訪者編へ・・・
次回予告?
深雪「私が、ですか・・・?」
深雪に突き付けられた残酷な運命・・・
レオ「御免、俺、うどんより蕎麦派なんだ」
達也「見損なったぞ、レオ!」
親友との決別・・・
シルヴィ「麺と言えばラーメンです!!」
USNAの来訪者一味も、華麗に参戦。
幹比古「確かに、僕の魔法の隠密性なら女湯も覗ける」
紳士達が、神秘を求めて動き出す・・・
真夜「さぁ、深雪さん‼︎ 受け入れるのです、運命を‼︎」
夜の魔王の言葉に、深雪の心が動く・・・
リーナ「日本も、スターズと同じ・・・」
スターズ総隊長は、今日も頭を抱える・・・
深雪「見てて下さい、お兄様‼︎ これが私の新たな力です」
真夜「そうよ、そして叫ぶのよ‼︎ 四葉脅威のテクノロジーが生み出したその力を・・・‼︎」
深雪「私は今日から、ツインテールになります‼︎ テイル、オン‼︎‼︎」
深雪の勇気が世界を救うと信じて・・・
次回、第一高校生の日常・来訪者編
『私、ツインテールになります‼︎』
真夜「どうだったかしら、四葉が隠れて出資してる番組制作会社に作らせた新しいドラマのデモなんだけど・・・」
真紀夜「・・・」
華波「・・・御当主」
真紀夜「お母様、病院行こ?」
真夜「へっ・・・?」