見栄
それは、クリスマス・イヴの日の事・・・
北山雫がUSNAに留学するにあたり、達也達いつものメンバーは、これまたいつもの喫茶店「アイネ・ブリーゼ」を貸し切って送別会を行う事となった。
雫の留学の経緯や、USNAで最近活動が活発な人間主義団体の話や、交換でやってくる留学生などで話は大いに盛り上がって、そろそろ終わりも見えてくる時間帯となった頃、西城レオンハルトが何気無く呟いた。
「そういやぁ、お前ら明日は予定あるの?」
「明日か・・・それなりにな」
「僕も、ちょっと予定が・・・」
「まぁ、そうだよな」
司波達也と吉田幹比古の返答は、レオンハルトが予想してた通りだったのでさして驚くものではない。
達也は妹の相手で忙しいだろうし、幹比古はなんだかんだ言って古式魔法の名門の生まれでそれ関係の付き合いがあるのだろう。
そのまま話を流そうとしたが、そんなレオンハルトの思惑を知ってか知らずか千葉エリカが目を光らせて食いついてきた。
「何々? いきなり、どうしたの?」
「・・・あー、俺は明日も暇だからよ。クリスマスも皆で何かしようかと思ってな?」
「うわぁ、クリスマスが暇って、寂しい男ねぇ」
「うっせえよ! そう言うテメェはどうなんだよ⁉︎」
「お生憎様! 何処かの寂しい男とは違って、クリスマスの予定くらいあるわよ‼︎ ねぇー、美月!」
「へ⁉︎ あ、うん・・・」
突然、エリカに話を振られて驚く柴田美月だったが、エリカの問い掛けに頷く美月を見て、レオンハルトは両手を後頭部で組みながら椅子に背中を押し付けた。
「あぁーあ、認めんのは癪だけど、クリスマスに暇なのは俺だけかぁ・・・」
そんな様子のレオンハルトにみんな苦笑するが、ふと思い付いたように達也がほのかに顔を向けた。
「雫は留学の準備で忙しいだろうけど、ほのかはクリスマスはどうなんだ?」
「へ? あ、その‼︎ 私はその、ひ・・・い、忙しいんですよね、これが‼︎」
達也に問い掛けられてアタフタして何を言っているのかわからなかったほのかだったが、最終的に彼女は忙しいと答えた。
その答えに納得したように達也は頷く。
「クリスマスは誰だって忙しいのだろう。レオだって、暇だ暇だと言っていられるのは今だけかもしれないぞ?」
「そんなもんかね・・・?」
達也の後ろで涙を流すほのかに苦笑しつつ、レオンハルトがそう答えた。
その後は恙無く送別会は進行し、すぐにお開きとなって皆は帰路についた。
クリスマス当日・・・
(やっぱ、暇になったかぁ・・・)
予想出来た答えだったのか、レオンハルトは少しだけ苦笑いを浮かべながらクリスマスムードの街を歩く。
西城レオンハルトには姉がいるが、その姉は魔法師ではない一般人である。
人間の範疇を遥かに超えた耐久力を持つ魔法師であるレオンハルトを、近年では化物であるかのように考えているのをレオンハルトは知っていた。
勿論、姉が家族として自分を大事に思っているところもあるというのも知ってはいるが、無意識からくる恐怖というものは如何ともし難いものがある事も、レオンハルトは理解している。
だからなのか、彼は本能的に家をよく離れている。
特に、こういう御祝い事がある時はいつも・・・
(さて、この雰囲気の中を一人で歩くのは少しキツイもんがあるな・・・)
周りはカップルで溢れていて、この中を一人で歩くのはどんなに図太い神経を持っていても難しいだろう。
あの歩く朴念仁・司波達也にも出来ない事かもしれない。
そうやって歩いているうちに、一軒の店がレオンハルトの視界に収まる。
そこは漫画喫茶と呼ばれる店だった。
旧時代ほど創作物が作られにくい風潮がある今の日本だが、それでもそういった類いのものは出版され続けているのだ。
それに、旧時代に溢れていた漫画や雑誌は現代でも人気があり、そういった書物は旧時代を意識しているのか昔ながらの「漫画喫茶」という形で残っている。
(漫喫か・・・そういや高校入ってからごたごたばっかで、カイジの沼編の続き、まだ見てねぇな)
どうせやることもないレオンハルトは、そのまま漫画喫茶の中に入っていく。
コースを決めて料金を払い、レオンハルトは迷う事無くカイジが納められている本棚へと向かう。
現代では紙製の漫画は手に入りにくく、更に不特定多数の人間の手で触れられていくとすぐに駄目になる為か、今はコミックス位の大きさのケースにそのタイトルの漫画のデータが入ったカートリッジを入れて、それを持って個室に備え付けの画面付きの端末で楽しむという方式になっている。
勿論、旧時代と変わらずフードやドリンクなども充実しているので、レオンハルトは中学時代に結構利用していた。
お目当ての漫画のケースを手に取り、自分に割り当てられた個室に向かう途中で、レオンハルトは見知った顔を目撃した。
「み、幹比古・・・!」
「れ、レオ⁉︎」
その手には漫画のケースが五つほどあり、タイトルは超有名な名言を多数生んだ伝説のバスケ漫画のものだった。
二人は驚いた表情で暫く見つめ合っていたが、すぐにそれは崩れる事になる。
「げっ⁉︎ アンタら・・・」
その声がした方向に二人が振り向くと、そこには金持ちの学校に一人の庶民が入学して様々な波乱が起こる往年の恋愛漫画のタイトルが綴られたケースを持つ、千葉エリカの姿があった。
その顔は物凄く驚愕に満ちていて、以前レオンハルトが初めてエリカの家の道場に行った時に、偶然にもエリカのセミヌードを見てしまった時の彼女の表情より驚きと焦りが伝わってくる。
そしてエリカは何を思ったか、端末を取り出して誰かに連絡を入れ始める。
すると、ある個室で端末の呼び出し音が鳴り出し、中の人が慌てて個室から飛び出してきた。
飛び出して来た人物は、光井ほのかだった・・・
「え⁉︎ え⁉︎ え⁉︎」
可哀想になるくらい狼狽した彼女の個室の奥では、何やらアニメの映像と大量の紙コップとお菓子の袋が散らばっていた。
ちなみにアニメは、旧時代の日曜日の朝にやっていた女児向けのものだった・・・
『・・・・』
その場の時間が止まった・・・
まるで、そこだけが空間ごと抉り取られているのかと錯覚するくらい彼等の周りは異界化していた。
そして、空気を最初に崩したのはレオンハルトだった。
彼は全員の顔をゆっくりと眺めていき、最後は優しい表情で皆を見つめた。
そしてゆっくりとその場を離れていき、自分の個室の中へと消えていった。
「・・・」
レオンハルトが消えた事で時間は動き出し、エリカが何事も無かったかのように歩き出して自分の個室の中に入っていく。
ほのかもまた、個室の扉を閉じて姿を消した・・・
「・・・」
最後に残ったのは幹比古だった・・・
彼は暫く去って行った三人が消えた扉を見つめ続けていたが、再び動き出した時に彼はポツリと言葉を溢した。
「柴田さんとの待ち合わせの十七時までの時間潰しで寄っただけなのに、何か誤解された気がする・・・」
何とも言えない表情をした幹比古は、やがて自分の個室に向かって歩き出して個室の中へと消えた・・・
達也「メリークリスマス、深雪」
深雪「はい、お兄様! 今年もお兄様と御祝いが出来て深雪は嬉しいです‼︎」
真紀夜「何か、私達のことナチュラルに無視してるわね、あのキモウト・・・」
文弥「ア、アハハ・・・」
亜夜子「仕方ありませんわ、何と言っても“氷界の貴族”様ですもの。千年を生きる真祖の吸血鬼は私達みたいな凡人とは違うのでしょう?」
真紀夜(氷界の貴族・・・?)
深雪「亜夜子ぉぉーーーっ‼︎‼︎‼︎‼︎」
水波(我が主人、御乱心ナウ)ポチポチ