かつて、一人の悪魔が関東で猛威を振るっていた・・・
悪魔の暴虐に多くの小学生達は怯え、南関東にある公園や空き地は悪魔の勢力下に置かれた。
しかし、そんな悪魔に対抗するべく、南関東の各地から腕に覚えがある小学生が集まり、悪魔討伐に動き出した。
集められた勇士達は多くの敵と戦い続け、遂に悪魔の拠点である悪魔城 (廃棄されたビル) に辿り着いて決戦を行った。
戦いは熾烈を極め、多くの犠牲 (死んでない) を払って勇士達は悪魔を南関東の地から追い出した。
最も、この戦いが北関東に巣食うもう一人の悪魔と激突する要因となったのは皮肉な話ではあるが・・・
兎に角、悪魔を撃退した勇士達は集まった人数が十人であった事から “関東十勇士” と呼ばれ、伝説となった。
クリスマスも過ぎたこの日、都内にあるカラオケ店の一室には、八人の男女の姿があった。
男女比が四対四あるところを見るに、どうやら合コンをしているようである。
ことの始まりは、今回の合コンの参加者の一人である壬生沙耶香が中学時代の友人 (以後、友人A) に面子集めを頼まれた事から始まった。
そういう経験もなく、ましてや付き合っている彼氏のいる身で合コンに参加するのは壬生には流石にハードルが高過ぎたのだが、友人Aの土下座も辞さない必死の説得により首を縦に振ってしまい、すぐさま彼氏である桐原武明に相談を持ち掛けたのだ。
硬派気取りの軟派野郎である桐原は、彼女の頼みを二つ返事で快諾して、ウキウキ顔で二人の男女を集めて来たことで、合コンは開催されてしまうのだった。
合コンが始まって少々の時間が過ぎた。
桐原君と一高からの参加者の一人である服部君は、相手側の女子とこちら側の女子である羽原さんと何やらフィーバーしていた。
二人とも明らかに普段とテンションが違い、服部君に至っては普段のクールキャラが完全に崩壊しており、先ほどからマイクを決して離さず熱唱していた。
・・・彼等の近くには何やら不思議な缶が大量に転がっていたが、あんな幻覚を見てしまうとはどうやら私は疲れているようだ。
私から見えるアレらは、断じてア○コール系の飲み物などではない。
まぁ、普段は姿が見えるだけで震えが止まらない服部君があんなに楽しそうにするには、あれくらいのドーピングが必要なのかもしれない。
未成年の飲酒は流石に不味いが、まぁ私には関係ない。
いざという時は、あの二人を生贄にしてさっさと逃げさせてもらおう。
土下座までして合コンを開催させた友人Aは、向こうの学校の参加者である男子生徒と何やらいい感じである。
どうやら私は利用されたようだ。
彼女はこの合コンという雰囲気を利用して、気になる彼と一気に関係性を決定付けようとしているのだろう。
普段は引っ込み思案の大人しい女子の癖に、こういう時だけ狩人にジョブチェンジするから昔から彼女は苦手だ。
こうなると、必然的に向こうの学校の男子生徒と余り者組を結成せざるを得なくなる。
先ほどから私達は、ジュースを飲みながら向こうの喧騒を眺める観客に徹していた。
まるで都会の美しいネオン街に憧れるスラムのストリートチルドレンのように、決して届かない別世界をじっと眺めている私は、客観的に凄く儚く神秘的な雰囲気を醸し出していて結構イケてるのではないだろうか?
ないか? ないな・・・
「な、なぁ・・・」
向こうの男子生徒 (以後、男子A) が、馬鹿騒ぎを続ける桐原君達を眺める私に声を掛けてくる。
そのしゃくれた顎に相応しく、聞こえてくる声は少しばかりくぐもっていて端的に言うと少しばかりキモい。
「ちょっと、いいか?」
これは、ドラマの合コンのシチュエーションでよくある誘い文句ではないだろうか?
頷いた私を誘導するように、男子Aは部屋のドアを開いて外へといざなった。
カラオケ店の屋上には、壬生と男子Aの姿があった。
手すりに手をかけて空を見つめる男子Aを、壬生はその背中を静かに見つめていた。
暫し静寂が屋上を支配していたが、その空気を先に破ったのは、さっきまではしゃくれ顎だった筈の男子Aだった。
その容姿は先程までとは一変していて、憂さと爽やかさが全面に押し出されていた美青年だった。
「アークデーモンの奴は、大人しくなったようだな」
「・・・いやぁ、あんまり」
「直接監視しているお前からは、そう見えるのかね?」
そう言うと、男子Aは壬生に向き直る。
「私生活で普通の女子高生やってるなら、とりあえずは上々だろう?」
「・・・まぁ、学校でもあの頃に比べれば大人しいものよ。三校の佐久間さんの話題はタブーだけど」
「そうか・・・」
そう呟いた男子Aは何か考え込むように俯いていたが、暫くすると顔を上げて再び空を見上げた。
「知っての通り、俺たちは十人でアイツを囲んでブチのめした訳だが、今思うとそんな事に意味があったのだろうかって思うんだよ」
男子Aは、過去を悔やむかのように顔を歪めて深く息を吐いた。
「あいつを変えることが出来るのは他でもない、あいつ自身だけなんだ・・・。あの時、俺たちがやったことは本当にあいつの為になったのかどうか・・・」
「九校戦の決勝・・・貴方、見てなかったの?」
「・・・九校戦と言えば、どうしてお前は出場してないんだ? あのアークデーモンを倒せないまでも、足止めぐらいはやってのけた南関東最強の “壊刃” が、なんで二科生に・・・」
「話、聞いてる?」
どうやらこちらの話を聞く気はないようだ。
しかし、懐かしい名前を出してきたな・・・
小学生の頃、私は実戦剣技において敵なしといえる程の強さを誇り、その荒々しい破壊の剣技から “壊刃” なんて呼ばれていた。
けれど、あのアークデーモン討伐戦での死闘を経験した私は、自身の殺人剣では真の意味で人を救えないと思い、剣術を捨てて剣道を志した。
あの時決意したはずなのだが、やはりどこか鬱屈した想いがあったのだろう。
たかだか入試の成績や国際基準の魔法力がちょっと高いくらいで見下す一科生達の事を、内心では『実戦で立ち会えば一瞬で斬り殺せるのに』って思っているから、あんなちゃちなマインドコントロールに引っかかるはめになったのだ。
あの時は本当に悔しくて、保健室では自身のあまりの体たらくに愕然として思わず泣いてしまった・・・
心を落ち着けてよくよく考えれば、渡辺先輩だって実戦なら一撃で仕留められる。
自分より格下から剣を学ぼうなんて、あの時の自分はどうかしていた・・・
うん、全部あの司一って奴が悪い! 反省反省!
「・・・今日のあいつを見て、俺は確信したよ」
あっ! 話、全然聞いてなかった。
「あいつはあいつなりにちゃんとまともになろうとしている・・・それを確かめられただけ、今日は来てよかったと思うよ」
・・・まぁ、彼も彼なりに気に掛けていたのだろう。
かく言う私だって、あれだけの死闘を演じたアークデーモンーー羽原さんと今ではそれなりに友達付き合いをしているのだから、人間、変われば変わるものだ。
なんせ四月のテロの後、私の入院先にあのアークデーモンが御見舞いに来てくれたのだから。
御礼参りしか知らないような彼女が、ちゃんと御見舞いをしてくれただけでもかなりの更生ではないだろうか?
男子Aはもう一度空を見上げながら深く息を吐き、そして再び私に向き直った。
その顎は・・・しゃくれていた。
「さ、戻るか?」
「ねぇ、その口元はワザとやってるの・・・?」
服部「一体、昨日は何があった・・・」
愕然とした表情を浮かべながら、服部は震える手で自身の端末を掴んでいた。
メール『服部くん、昨日は楽しかったね!✨
もしよかったら、初詣に一緒に行かない?
連絡、待ってます♥️ 羽原真央』
メール『あれっ、まだ寝てるのかな?
連絡、いつまでも待ってます 』
メール『本当は起きてるんじゃないですか (笑)』
メール『ねぇ、起きてるんでしょ』
メール『返事、しろ』
服部「・・・会長、僕はここまでのようです」