第一高校生の日常   作:ジャスティスⅡ

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遅れて申し訳ありません


モブ 3

 

悩める少年・森崎駿は今日も悩んでいる。

 

 

自身を見つめ直し、そして少し周囲を見渡して悩みに悩んだ結果、彼はそこそこ心に余裕を持つ事が出来た。

それは夏休みでのあの出会いと事件がかなり影響しているのだろうが、それは彼にとって歓迎すべき事なのは間違いないだろう。

落ち着いた思考で自分と奴ーー司波達也を再評価すれば、「雑草(ウィード) の癖に」という妬みよりも「なんでアイツが雑草なんだ⁉︎」という驚愕の方が勝る。

 

彼が雑草ならば、世のA級魔法師達のなんと滑稽な様か・・・

 

森崎の知る限りの魔法師や魔工師達は司波達也の実力の前に膝を折るだろう。

そして将来の収入もヤバイ事になるだろう。

 

 

「いや、あの腕だ。実はもう、何処かで非公式に魔工師として活動してるのかもな・・・」

 

 

いつもの夕暮れ時の河辺で、森崎駿はそう呟く。

あまりいい思い出のない場所であるが、人通りの殆どないこの場所は考え事をするのに最適なのだ。

 

普段、一科生である事を過剰なまでに誇示してはいるが、今迄の森崎はその肩書きと言動に見合う活躍を全くしてはいなかった。

 

入学して早々、クラスメイトとなった司波深雪に同じ一科生である事を理由にお近付きになろうとして食堂で迷惑を掛けてしまった。

今考えてみても、あれはない。

どう見ても迷惑以外何物でもなく、自分が司波さんの立場で考えても「何だコイツ」としか思わないだろう。

 

そして放課後に彼女の兄である司波達也に因縁をつけて、CADを出して二科生に魔法を撃とうとしたのは尚よくなかっただろう。

普通に犯罪だし、自分の家族を馬鹿にされれば腹が立つのは当然だ。

 

 

「思えば、あの日から司波さんの自分に対する扱いが雑になっていた感じがする・・・」

 

 

クラスで挨拶すると、まるで自分がそこにいないのではないかと錯覚する程に華麗に脇を通り抜けていくのだ。

女子のクラスカーストナンバーワンたる深雪がそうする以上、他の女子も彼女に習うのは自然な事で、あれから森崎はクラスの女子と会話した事は無い。

 

風紀委員になったその日に、司波達也に突っかかったのもまず過ぎたかもしれない。

あの日から明らかに当時の委員長だった渡辺先輩の自分に対する扱いは悪くなっていったし、元会長の七草先輩も笑顔で自分を無視して達也くん達也くん煩かった。

 

九校戦だってエンジニアで入った司波達也を他の男子と共謀して拒否したら、いつの間にか他のクラスの女子にも無視されるようになったし、スピードシューティングでは三校の吉祥寺に完全敗北してしまい、汚名返上で臨んだモノリス・コードは運営側の不祥事でベッドの住人にされてしまった。

代わりに出場した二科生どもは信じられない戦闘力で他校を圧倒し、遂にはあの一条の御曹司と自分が完敗した吉祥寺を降して優勝してしまった。

 

そう・・・僕は、あの試合を見て負けを認めてしまった。

 

今迄、取るに足らないと思っていた二科生達に・・・

 

実際に戦闘になったら、僕は高確率で西城に負けると思っている。

並の魔法ならば生身で耐えてしまうだろうし、奴にはあの堅牢な硬化魔法がある。

こと収束系にかけてなら、一科生にも劣らない筈だ。

 

吉田の場合は、もっとたちが悪い。

おそらく戦闘にもならず、僕は一方的に魔法を喰らって殺されるだろう・・・

奴の魔法の隠密性と奇襲性、なによりあの射程ならば僕など相手にならない。

 

魔法がいくら速く発動出来ても、当たらなければ意味がないし、当たってもダメージが無ければもっと意味がない。

 

 

「は、ハハ・・・何なんだ、これは」

 

 

折角、魔法大学進学率ナンバーワンの第一高校の一科生として入学したのに、成績だってけっして悪くないのに、この現実は何の冗談だ?

 

総合成績で学年トップテンに入っている以上、自分は相当な優等生の筈だ。

実技に至っては学年三位だし、男子の中では一番の成績だったのだ。

 

普通に考えて、同じ学年に自分より強い男はいない筈なのだ。

 

 

いない、筈、なのだ・・・

 

 

空を見上げていた森崎の目から、うっすらと涙が流れてきていた。

少しは余裕のあった筈だったのに、改めて自身を正確に評価すればなんと滑稽な事か・・・

現在の己の惨めさと、見通しのつかない近い未来への軽い絶望が、森崎の心に重くのしかかっていた。

 

 

 

 

 

沈む夕陽を暫く見つめていた森崎だったが、ふと自身の背後に人の気配を感じた事で、全身に少しばかりの緊張が走った。

例え腑抜けていようが、幼き頃よりボディガードの修練を積んだ森崎ならばこのくらいの事は朝飯前だ。

 

 

(ふっ、もう騙されないぞ。何時もここで僕は失敗してきたんだ・・・)

 

 

過去の経験から、これが罠だと考える森崎。

まぁ、何時も勝手に自滅しているだけの気がするが、それでも彼は己に待ったを掛けた。

 

 

(最初はメガネ、次は司波兄妹と光井に嵌められ?て、千葉相手にとんでもない失態を犯してしまった・・・そういえば、千葉の奴、よくあの地獄の決勝戦を生き残ったな。流石は司波達也の近くに侍る事を認められただけはある・・・っと、思考がずれたな。兎に角、パターンから言って、今度はB組の明智辺りが怪しい。あんな騒がしい奴にばれた日には、僕はボディガードからマイハウスガードに鞍替えするしかなくなる・・・!)

 

 

そう考えながら、森崎は恐る恐るバレないように後ろに目線を向け、そして驚愕する。

そこにいたのは、もう日本にいない筈の女性ーー孫美鈴の姿があった。

 

 

(ちょ、ちょっと待ってちょっと待ってお姉さん!!? アンタ、クルーザーで日本出て行ったじゃん!! ていうか、内情とか訳分からん黒服に命狙われてたよね!? 百歩譲って日本にいたとして、どうしてここいんの!!)

 

 

憂いを帯びた表情で夕陽を見つめる美鈴は一種の絵画のように美しかったが、今の森崎はそれに気が付く程の余裕はない。

明らかにヤバい奴らに命を狙われていた筈の女性が現れた事で混乱状態に陥っていたが、彼女の腕のトートバッグを見て彼の頭に電流が走った。

 

 

(そうか、謎は全て解けた。形からして、あのバッグに入っているのはそこそこ大きな箱だ! つまり、あの中にはお菓子なり何かのプレゼントがあると見た。そうか、僕にあの時のお礼をしにわざわざ日本まで・・・自分の身の危険を犯してまで僕の事を・・・)

 

 

最近、全くいいことのない森崎は根拠もないその推測に感動していた。

 

 

(まぁ、いちボディガードしては感心しないが、それでもお礼をするのはとてもいい事だ。くれると言うなら、有り難く受け取ろうじゃないか!)

 

 

美鈴は周囲をキョロキョロとしながら森崎に近付いていき、ちょうど森崎の真後ろで足を止めた。

そして声を掛けようと手を伸ばした瞬間、トートバッグの中から大量の紙が舞い上がった。

 

 

「あぁぁぁーーーっ!!?」

 

(何してんのぉおーーーっ!!!)

 

 

美鈴は舞い上がる大量の紙に手を伸ばしながら走り出し、そしてすぐに転んでしまう。

目尻に涙を浮かべながら起き上がろうとするが、転んだ拍子に擦りむいたのか美鈴の手にはうっすらと血が滲んでいた。

 

 

(むっ、いかん! 血が・・・)

 

 

立ち上がり、携帯していた医療キットを懐から取り出そうとした森崎だったが、それよりも早く美鈴は立ち上がっており、ポケットから絆創膏が入っているであろう新品の箱を取り出した。

しかしテープが中々剥がれないのか、爪で何度も箱を引っ掻いては唸り続ける。

 

 

(早く開けてくれないか! 見てるこっちが辛くなってくる!!)

 

 

暫く引っ掻き続けていた美鈴だったが、そのうち引っ掻くのをやめてそっと絆創膏の箱をポケットにしまう。

 

 

(諦めんのかよ・・・)

 

 

森崎が何とも言えない気持ちになっていると、何やら美鈴はペットボトルを取り出した。

おそらく少し落ち着こうと思ったのだろう。

 

 

(よしよし、取り敢えずそれを飲んで落ち着いてくれ)

 

 

その行動は森崎としても歓迎すべき事であり、兎に角今は仕切り直して場を落ち着かせたい。

過去の思い出が美しいからこそ、今が映えるのだ。

こんな下らない事で、自分の中の彼女が穢されてしまうなどあってはならない。

 

美鈴はペットボトルを傾けて中の水を飲み始めるが、やはり何処か焦りがあったのだろう・・・

飲んだ水が気管に入ったのか、むせて飲んだ水を吐き出してしまった。

咳き込む美鈴を見ていられなかったのか、森崎は少し青筋を浮かべながら右手で顔を押さえていた。

 

暫く咳き込でいた美鈴は漸く落ち着いてきたのか、口元を押さえていた手をどけようとする。

しかし油断があったのだろう・・・

最後に盛大にくしゃみをして、結構な量の鼻水が噴き出してきた。

 

 

(いい加減にしろぉーーっ!!)

 

 

まるで一昔前のコントのような状況に、森崎は口元を押さえて必死に笑いを堪える。

 

美鈴は噴き出た鼻水を拭こうと、必死にポケットティッシュを取り出そうとする。

が、勢い余って中身全てが飛び出してしまい、更に風に煽られてティッシュが全部飛んで行ってしまった。

 

 

(天才か、お前は! その才能を狙われて内情に追われてたのかい!!!)

 

 

飛んで行ったティッシュを追おうと足を踏み出した美鈴だったが、余りに勢いがあり過ぎたのか、草で足を滑らせて盛大に転んでしまう。

かなりの勢いがあり、そのまま美鈴の身体は宙に浮かび、森崎の背中に激突した。

 

暫し、その場を沈黙が支配する。

余りにあんまりな状況に、森崎もどうしたらいいのか分からない。

 

美鈴は呆然としていたが、少しして自分の状況を理解したのだろう。

彼女は、両手で顔を押さえて大きな声で泣き出した。

 

自分のすぐ背後で盛大に泣いている美鈴を、森崎は今迄とは逆に穏やかな気持ちで佇んでいた。

 

そうだ、間違ったっていいんだ。

だって人間だもの・・・

失敗だって立派な自分の人生の一部なのだ。

なんかの本で読んだヒキタニさんだって「変わらない自分だって立派な個性だ」って言っていた。

 

そりゃ、偶には格好付けたい時だってあるよ、男の子だもん。

球磨川先輩だって「男の子は括弧付けずにはいられない」って言っていたじゃないか。

そうだ、悩む必要なんてないだろう。

あるがままの自分で、あるがままに前を向いて歩いて行けばいいのだ。

 

まるで慈愛の聖母のような優しい表情をしながら立ち上がり、森崎は美鈴に向き直った。

森崎は優しくその手を取って立ち上がらせ、服についていた草を払っていく。

 

 

「大丈夫ですよリン、何も心配いりません」

 

 

そう言って安心させようと笑顔を向けた森崎に、美鈴は感極まったような笑顔を向けて森崎の胸に飛び込んだ。

普段なら絶対にしないだろうが、余りの失態の連続に心が不安定になっていたのだろう。

 

 

「貴女にどんな事があろうとも、僕が必ず守・・・」

 

 

そこまで言い掛けて、森崎は少し離れた場所に視線を向けた。

そこには、口を押さえて笑いを堪える同級生ーー明智英美の姿があった。

普段は滑稽なお笑い要員の森崎が、こうやってラブロマンスをやっている事が可笑しくて仕方が無いのだろう。

もしかしたら、さっきまでの彼女の失態も見ていたのかもしれない。

 

一頻り笑いを堪えた後、明智英美はかなりの速さでその場を走り去った。

おそらく誰かに伝えに行ったのだろう・・・

明日には、今の自分の状況は学年中に響き渡っている事だろう・・・

 

自分の胸には、今だ泣き続ける美鈴がいる。

普通ならかなりドキマギするシチュエーションだというのに、森崎の心にはそれを感じる余裕がなかった。

 

 

(明日から、タイムマシンの研究を始めよう・・・)

 

 




エリカ「最近調子いいじゃないの、ミキ」

幹比古「僕は幹比古だ」

美月「でもミキ君、凄く魔法の発動が綺麗ですよね?」

幹比古「そうかい? いやぁ〜参ったなぁ、ハハハ!」

エリカ「・・・」
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