この国立魔法大学付属第一高校には、多種多様な部活動が存在する。
魔法使用を前提とした魔法系クラブに魔法と科学を研究する文科系クラブ、更にた普通の高校にも存在する魔法を前提としない非魔法系クラブと、その充実ぶりは目を見張るものがある。
しかし、多種多様に部活が存在するならば、その中にイロモノが混じるのは、仕方がないのかもしれない・・・
「マジック・レスリング部・・・ですか?」
「あぁ、そうだ」
放課後の第一高校の敷地内には、この度『風紀委員』の役職を襲名した司波達也と、部活動の全てを取り仕切る一校・放課後の支配者たる部活連・会頭の地位を預かる男、十文字克人という珍しい組み合わせで歩いていた。
「マジック・レスリング部の部長とは古くからの友人でな? 我が十文字家と同じ “十” の名を冠する『十山家』の次期当主でもあることから、幼い頃はよく互いの技を磨き合ったものだ・・・」
「十山・・・師補十八家の、ですか」
まさかの二十八家の登場に、達也は気を引き締める。
「これは新入生から選ばれた風紀委員への恒例行事みたいなものでな? マジック・レスリング部は、三ヶ月に一度の二十五日に『興業』と評して魔法を用いたイベントを校門近くの広場でとり行う。勿論、学校側の許可はちゃんと取っている。だが、かなり派手な魔法パフォーマンスを行うからか、二年前、勘違いした当時一年の風紀委員・・・まぁ、ぶっちゃけ渡辺のことなんだが、渡辺がマジック・レスリング部を取り締まろうとして派手な乱闘騒ぎを起こしてしまったのだ。その為、不幸な行き違いを起こさないよう、こうして毎年、部活連の会頭が興業の日に一年風紀委員を案内することに決まったのだ。ブランシュの一件で疲れているところに悪いが、今日を逃すと三ヶ月後になってしまうから、風紀委員の義務として付き合って貰うぞ」
「成程、理解し・・・ん?」
克人の説明に納得したような表情を浮かべた達也だったが、ここで何かに気が付いたのか、しきりに周囲を見渡し始めた。
その行動を怪訝に思った克人は、達也に向き直る。
「どうした、司波?」
「いえ・・・一年の風紀委員なら、森崎も参加しなければならないのでは?」
「あぁ、奴ならペナルティも兼ねて先に行ってもらった」
十文字の意味深な発言に、達也は首を傾げた。
辿り着いた広場では、興業が始まっているのかかなりの人だかりができていた。
中心部にはリングがあり、既に二人の男がリング上で組み合っていた。
克人と達也は特別に用意されたのであろう席に座り、試合が行われているリング上を見つめた。
「リング・・・プロレスですか?」
「少し違うな、司波。これは・・・」
瞬間、克人の目がきらりと光った。
「魔法超人レスリングだ!!」
「は?」
克人の言葉に疑問符を浮かべると、リング上では試合の流れに変化が起こったようだ。
黒いヘルメットをかぶった男がベアークローを両手につけて、リングの上空へと飛び上がったのだ。
「確かに、俺のパワーではお前に勝つことは難しいだろう・・・。だが、両手のベアークローで100万パワー+100万パワーで200万パワー!! いつもの2倍のジャンプが加わり、200万×2の400万パワー!! そして、いつもの3倍の回転を加えれば、お前の1000万パワーを上回る1200万パワーだぁぁーーーっ!!」
「いや、その理論はおかしい!」
黒ヘルメット男のトンデモ理論に、魔法工学界のトップをひた走っているトーラス・シルバーの片割れたるプライドが働いたのか、思わず立ち上がって達也が突っ込む。
しかし、立ち上がった達也を窘めるかのように、克人は達也の肩に手を置いて首を振った。
「司波・・・魔法超人レスリングは、突っ込んだら駄目なのだ。例え、どう考えてもおかしい事が起こっても、全てを受け入れて楽しむ心を持たなければならない。見ろ、観客たちを!」
そう言われて達也が観客たちを見渡す。
そこには ‟平等” があった・・・
学年も、一科生・二科生という括りにも囚われずに、皆が目の前のエンターテイメントを楽しもうと一生懸命になる美しき光景が広がっていたのだ。
それを見た達也は暫し圧倒されたが、やがて微笑みを浮かべながら目をつぶり、静かに席に座った。
「会頭・・・どうやら自分は、自分でも気づかぬうちに焦っていたようです」
「そうか」
何に焦っていたのかよく分からないが、納得したのならいいのだろう・・・
「司波、とりあえず今後の為に名前だけは教えておこう。あの黒ヘルメットの男は3-Aの戦辺争太・・・リングネーム・戦争男というロシア系クォーターだ。対戦相手は3-Bの野牛丑信・・・リングネーム・水牛男と呼ばれる巨漢でスペイン系ハーフの男だ。覚えておくといいだろう」
説明を続ける克人を尻目に、試合は遂に佳境を迎えた。
二本の角を生やした大男・水牛男が、戦争男に向かって全速力で突っ込み、自慢の角で攻撃を仕掛けたのだ。
「○ねぇぇーーい! ハ○ケーン・ミキサー!!!」
角を突き上げられた戦争男は、身体を激しく回転させながら宙を舞い、そのままリングに向けて落下する。
しかし落下地点には、既に水牛男が右足を蹴りながら今か今かと待ち構えていた。
落下する戦争男に、水牛男はハリケーン・ミ○サーを掛けて再びその身体を先程よりも回転させながら突き飛ばした。
そうした攻撃を何度も何度も繰り返すと、戦争男の身体は竜巻でも起こったかのように激しく回転し、それに合わせて観客のボルテージもピークに達していく。
そして止めとばかりに今迄よりも力を入れた攻撃を加えると、戦争男の身体は一層回転を増していき、そのまま頭からキャンパスに突き刺さった。
上半身が完全にリングに埋まり、下半身だけが見えるその姿は、敗者の末路というものを物語る。
勝鬨を上げる水牛男の咆哮に、観客は激しい声援を上げながら水牛男の名を連呼する。
「迫力があるだろう?」
「いや、あの戦争男とかいう人は大丈夫なのですか・・・というか、生きてるんですか?」
「安心しろ、司波。マジック・レスリング部には、部内秘伝の硬化魔法がある。最小の力の消費で物凄い効果があるそうだ。まぁ、あのリングの中のみの限定的なものらしいがな」
それを聞き、達也は成る程と納得する。
おそらくあのリングには、かなり精密な刻印魔法が施されているのだろう。
達也が精霊の眼を介してよく見ると、リングの四つの角に人が配置されており、それぞれがリングに想子を流している。
それぞれが魔法を掛ける箇所を限定する事で一人一人の負担を減らし、それでいてリングに仕掛けられた刻印が綿密に絡み合って相乗効果を生み出し、リング上の選手の硬化魔法を補助しているのだろう。
(見た目の豪快さに反し、なんと無駄のない緻密かつ計算された魔法を使うとは・・・マジック・レスリング部、侮れないな)
達也がしきりに感心している間に、リング上では次の試合が始まっていた。
中々にデザインがよいマスクを被った鎧の男と、両手に棘付きの板を装着した男が戦っていたのだ。
棘付きの板で相手をプレスするだけの単純な攻撃を、馬鹿の一つ覚えのように繰り返すだけだが、達也の目には周りとは違う光景を映していた。
(攻撃の際に加速系魔法で速度を上げる事で技に迫力を付けて、尚且つ板の攻撃が当たる瞬間に移動系魔法で相手を吹き飛ばし威力を演出している。単純な攻撃の中にここまでの工夫を・・・)
次の試合ではUSNA系の白人 (克人曰くUSNAのハーフで、名前は鈴木テリー) と、腕が六本ある大仏みたいな男が試合を始めた。
(あの腕・・一本一本を加速・加重・移動系の魔法を使って動かしている。それぞれがまるで意思を持っているかのような複雑な動きだ・・・素晴らしい)
そして試合は遂にセミファイナルとなり、原始人みたいな格好の男がリングに上がる。
次の対戦相手は誰だと達也が視線を向けると、リングの外にはこのイベントにはあまり相応しくない、ひょろっとしたグルグル眼鏡の男がいた。
しかし男がCADを操作すると、リング上には大量の砂が集まり出して一人の巨人が出現した。
(なっ!? これは、加速・加重・移動・収束系の魔法を並列して運用しているのか! なんて凄まじいパラレル・キャストなんだ)
巨人は、その巨体と砂の身体を活かした攻撃で原始人を追い詰めていくが、原始人も声を媒介にした音振動魔法で砂を震わせて崩壊させるなど、相手の魔法も負けていない。
その試合演出に、達也はいつの間にか柄にもなく興奮していた。
「司波、そろそろファイナルだ。俺の友人が出てくるぞ」
「友人・・・確か、十山の次期当主の方でしたか?」
「あぁ。あの、マジック・レスリング部を統べるに相応しい偉丈夫だ、お前も驚くだろう」
克人がそう言った瞬間、会場に重く、威厳に満ちた旋律が流れ出しす。
観客が辺りを見渡すと、天から一人の男が降ってきてリングの上に着地した。
その男は、おそらく身長二メートル前後といったところだろうか?
高い身長を誇るその肢体は、金剛石と錯覚させるほどの力強さを感じさせる筋肉に覆われていて、それでいてその筋肉には全くの無駄がなかった。
銀色のボディスーツの上に、同じく銀色の鎧を着込み、顔には見る者に恐怖を感じさせる銀色のデスマスクを被った、迫力と威厳を持った巨人・・・
今迄、四葉のあらゆるミッションをこなしてきた達也にすら畏怖と男として尊敬を感じてしまう程に、その銀色の巨人は『漢』であった。
「会頭、彼が・・・」
「そうだ。我が友にして、十山家次期当主でもある第一高校・3-Aの生徒、名を・・・」
銀色の巨人は、歓声を上げる観客に向けて返礼するかのように右腕を上げた。
歓声はより一層、強くなる。
『将軍、将軍、将軍❗️❗️❗️』
「彼奴の名は十山将軍《とおやままさむら》。皆からは親しみと畏怖を込めて、その名の通り将軍《しょうぐん》と呼ばれている」
「将軍・・・確かに、そう言われても納得してしまう迫力がありますね」
「リングネームはデーモン将軍だ。奴は毎回、ヒールとしてリングに上がる」
将軍の出現に盛り上がる会場に、再び別の音楽が流れた事で観客の意識が切り替わる。
このヒールの癖に、観客に物凄い人気がある将軍の対戦相手が入場する合図なのだろう。
達也ですらも期待するその対戦相手は、ゆっくりとその姿を現した。
その身体は、何と言うか、細い・・・
将軍とは比べるまでもなく、今迄出てきたどんな選手よりも小さく細かった。
身長もお世辞にも大きいとは言えず、その時代遅れのヒーローのようなマスクとコスチュームの胸に描かれている『SPECIAL 99』という文字が、酷く滑稽に見える。
「会頭、あれはまさか・・・」
「そうだ、司波。あれは森崎だ」
そう、あのス○シャルマンと紹介された選手が、何を隠そう先に来ていた筈の森崎駿だったのだ。
「入学式の時もそうだったのだが、森崎は風紀委員になった後も二科生に対する差別意識が抜け切らないと渡辺が苦悩しててな? 手っ取り早く意識改革をする為に、俺から将軍に奴の性根を叩き直してほしいと頼んだのだ」
「頼んだ結果が、あれですか・・・」
リングの上では、森崎が将軍に捕まってリング上をグルグルと回転していた。
そして回転したまま森崎の身体を宙に放り、将軍は森崎の後を追うように飛び上がる。
「出るぞ、将軍の必殺技が!」
少し興奮したように、克人の身体が少し前のめりになる。
達也も、自然と目の前の光景に意識を集中する。
将軍は空中で森崎の身体を捕らえて、そのまま身体を固定する。
そして、自らの左膝を森崎の首に押し付けて、そのままリングに向けて急降下する。
「喰らえぃ❗️❗️ 地○の断頭台❗️❗️❗️」
リングに突き刺さる一筋の閃光は、辺りに物凄い衝撃波を生み出した。
この衝撃波こそ、この技の威力を物語る何よりの証であろう・・・
(空中に投げた後は跳躍魔法で跳び上がり、慣性制御魔法で空中での姿勢を整え、森崎を捕らえた後は硬化魔法を応用してお互いの身体を固定して加速系魔法で急速落下。更に着弾の瞬間に振動系の魔法で、辺りに衝撃波を発生させて威力を演出している。そして何より、あんなの喰らえば間違いなく死ぬ筈なのに、お互いに掛けた硬化魔法で見た目ほど森崎にダメージがないという事実・・・十山将軍、凄まじい魔法の腕だ)
リングに倒れ伏す森崎を踏み付けながら、将軍が右腕を天に突き上げて勝鬨を上げる。
観客の歓声は最高潮となり、将軍コールは一向に鳴り止まない。
そんな光景を、達也はじっと見つめ続けていた。
その視線の先には、ボロボロの姿で将軍に踏み付けられている森崎がいた・・・
十文字「では頼んだぞ、将軍」
将軍「まかせておけぇい❗️」
渡辺「将軍、死ななければ何をしてもいい。取り敢えず、九校戦の準備が本格化する六月の末までよろしく頼む」
将軍「承知したぁーっ❗️❗️」
十文字「もし何も変わってないようだったら、九月からもお願いしたいのだが・・・」
将軍「むぁかせぇておけぇぇーーい❗️❗️❗️」
森崎(俺は、ここで死ぬのか・・・?)