病棟
第一高校は、全国にある国立魔法大学付属高校の中でもトップクラスの魔法大学進学率を誇る。
それ故に、全国から腕に覚えのある魔法師の卵達が大勢集まり、第一高校の門を叩く。
しかし、沢山集まるという事は、それだけ色々な人間がやってくるという事で、中にはおかしい奴がいるのも致したがない事なのかもしれない・・・
「それでね、達也くん? お願いというのは、これから行く部活の人達に九校戦への出場を打診するから、もしもの時の為について来て欲しいのよ」
「はぁ」
第一高校の文化系の部活が集中する部室棟への通路を歩くのは、一校の支配者・七草真由美とその腹心・市原鈴音に真由美の忠実なる部下・服部刑部少丞範蔵・・・
そしてその三人に連れられるのは、この交渉の一週間後にエンジニアになれと真由美に命令される二科生の星・司波達也であり、四人は目的地に向けて歩き続ける。
「しかし、生徒会が直々に行くというのなら、風紀委員の自分は必要ないのでは?」
「いえ、あの部を相手にするならば、いざという時は実力行使も視野にいれなければなりません」
「・・・服部副会長がいるのならば、大抵の事には対処できると思いますが?」
「自分で言うのも業腹ものだが、僕一人ではいざという時、あいつらを抑えるのは難しい・・・。いいか、司波! 今から行くところは、あのマジック・レスリング部に殴り込みに行くのと同じくらいの危険度を持つ、第一高校の無法地帯の一つだ!」
服部の弱気な発言に、達也は少しばかり目を見張った。
自分が風紀委員に抜擢された時の発言から自分にかなりの自信を持っていて、その自信に裏打ちされた才能を持ち、その上で努力を積み重ねた人だと思っていたからだ。
そして、そんな服部がマジック・レスリング部への殴り込みと同等の危険度と言った事に、達也は少しばかり己の中の警戒度を跳ね上げた。
「・・・文化系の部活に、マジック・レスリング部に匹敵するような実力者がいるとは思えません。もしや、エンジニアとして出場してもらうのですか?」
「いえ、選手としてよ。今から行くところはね・・・」
真由美の話を纏めると、何でも七人からなる文化系の部活で全員が相当の実力者ではあるのだが、如何せん実力のある者にありがちな変わり者の集団であり、先日出した今回の九校戦への出場依頼を断ったらしい。
しかし、今年の一校は九校戦初の三連覇の偉業がかかった勝負年であるからか、有能な戦力を遊ばせておく余裕などない為、わざわざこうして生徒会直々に彼等を出場させる為に足を運んでいるのだ。
「実力は確かなのよ? 実際、去年の新人戦で、一人はクラウド・ボールで完封して優勝したし、他の人達もバトル・ボードとかミラージ・バットでも入賞してたし・・・」
「女の子はみんな可愛いので、男子達には人気がありますね?」
「見た目だけですよ、あいつらは・・・。やはり会長、奴等を九校戦へ出場させるのは辞めるべきでは? むやみに一校の恥を晒す事もないかと・・・」
「でも実力者よ、彼女達は! 九校戦は学校単位の総力戦・・・ましてや、今年は我が校の三連覇がかかった大事な年なのよ? 絶対に、彼女達には出場してもらいます❗️」
並々ならぬ真由美の決意に、さしもの服部も押し黙る。
そして今迄の会話から聞き取れる三人のそれぞれの評価の曖昧さに、達也はしきりに首を傾げるのだった。
「ようやく着いたわね」
真由美が足を止めたのは、視界に入る他の部室と変わらない、何の変哲もない扉の前であった。
上手く聞き取れないが、何やら中からは賑やかな話し声が聞こえてくるも、四月末に目の当たりにしたあの将軍率いる強者が集うマジック・レスリング部に匹敵する猛者が本当にいるのか、達也は少しばかり疑念を抱く。
「さぁ、いくわよ?」
そんな達也を尻目に、若干、緊張を孕んだ声を出しながら、真由美は目の前の扉を開け放つ。
開け放たれた中の光景は異様の一言だった・・・
もうすぐ夏なのに何故か中央にはコタツが置かれており、コタツの上には、目の下に星型のペイントをした少女が何が面白いのかずっと高笑いをし続けており、その周りを虹彩異色症なのか片目が金色の少女と、長いツインテールを両手に持って振り回している少女がぐるぐると追いかけ合っている。
その近くには黒づくめと坊主頭の二人の男がおり、黒づくめは鏡の前で少年マンガにありそうなポーズを決めて悦に浸り、坊主頭は太極拳もどきに熱中している。
更に部屋の隅には、白レースのベールを被り占い師の扮装をした少女がおり、目の前の水晶玉に手を当てて何やらブツブツと言葉を発しているが、達也には何を言っているのかさっぱり解らない・・・
そして今気がついたが、この混沌とした空間の中、コタツから少しだけ顔を出して只管眠り続けている少女の姿を確認した瞬間、達也は全てを理解して頷く。
(成る程、これは強敵だ・・・)
達也が何かに納得するのと同時に占い師の少女が水晶玉から目線を上げ、部室に入ってきた真由美達を確認した。
「フフフ、これは七草会長に市原先輩・・それに服部君も・・・」
「お久しぶりね、丹生谷森夏さん。勿論、私達が来た用件は分かっているわね?」
「・・・精霊は、今回の儀式への参加を取り止めるように私に囁きました。精霊の御告げは絶対です」
丹生谷と呼ばれた少女は、よく分からない理由で拒否の答えを口にする。
呆気にとられる達也に、服部は達也の耳に口を近付けて内緒話をするように囁いた。
(司波・・・彼女は二年の丹生谷森夏という。陰陽道の流れも汲む古式魔法の名門・丹生谷家の娘で、魔法に対する感受性が強いからか、ああやって精霊という名の何かと交信して的中率九割を超える占いを得意としている。他にも水や風の古式魔法の腕も一流だが、その性格には少々問題がある)
(いや、かなり問題があります・・・)
真由美と丹生谷の押し問答は平行線を辿り、着地点を全く見出せないでいた。
すると二人の会話に興味を持ったのか、コタツの上の少女とぐるぐる回っていた二人の少女が何やらポーズを決めながら近寄ってくる。
「むっ、また来たのか冥王・セブンリーフめ! 我が邪王真眼で追い払ってくれる」
「マスターのサーヴァントとして、このミョルニルハンマー・凸守も参戦するDEATH」
「ニィィーーハッハッ❗️ 懲りずにまた現れたか、セブンリーフ! 何度やっても、この魔法魔王少女に勝てる訳がなかろう❗️❗️」
発言がイタ過ぎて絶句する達也に、服部は更に説明を続ける。
(虹彩異色の少女の名は丹生谷と同じ二年の小鳥遊六花で、光波振動系の魔法を得意として、光子を収束してレーザーを放ったり、光情報を介して他人の脳に侵入して操ったりする。星のペイントを着けた女子も同じく二年の七宮智音で、自分を「ソフィアリング・SP・サターン7世」とか言ってるイタい奴だが、殆どの魔法を高レベルで使用でき戦闘能力も一流の天才魔法師で、おそらく二年ではアークデーモンに魔法で対抗できる唯一の存在だ。そしてあのツインテールは司波と同じ一年の凸守早苗といって、通信関連の最大手である凸守グループの御令嬢だ。電撃魔法の使い手で、馬鹿でかいハンマー型の武装一体型CADを毎日学校に持ってくる危険人物だ)
(・・・すみません、服部副会長。もう腹一杯です)
話を聞く限り、予想以上に優秀ではあるが、予想以上に変人の集まりであった事実に、達也は情報の消化不良に陥り始めた。
(まだまだ続くぞ? あの黒づくめの男は二年の冨樫勇太といって、七宮と同じく自分を「ダークフレイム・マスター」とか言っていて、いつも訳分からん事ばかり言っている奴だが振動加速系の炎熱魔法の天才で、炎の魔法にかけて奴の右に出る奴はいない。後、何故か冨樫は炎の色をわざわざ黒くしている。で、あの変な動きをしている奴は一色誠といって、馬鹿そうでいて実際馬鹿だが、あれでも師補十八家・一色家の子息だ。最も、馬鹿過ぎて次期当主の座は妹に取られたらしいが、それでも魔法の腕は一流だ。馬鹿だがな・・・)
(彼に何か恨みでもあるのですか?)
一色誠を紹介する時だけ何故か彼を睨み付けていた服部に、達也は過去に何かあったのだろうと直感する。
まぁ、ここにいる奴等然り、今年の二年生はアークデーモンを筆頭におかしい連中ばかりだから気苦労が絶えないのだろう・・・
もう一人の二年生の生徒会役員は役立たずだから、その分の負担も服部にはあるのかもしれない。
睨み付けていた服部だったが、少し疲れたのか達也の耳から顔を離して眉間を指で解きほぐす。
そして漸く辿り着いた最後の人物へと視線を向ける。
「それで、最後はあのさっきからずっと寝ている人だが、あの人は三年の五月七日くみん先輩で、この『極東魔術昼寝結社の夏』の部長を務めている。精神干渉魔法の使い手で、特に他人を眠りに誘う魔法は秀逸だという」
「他人の前に自分が寝てます。いや、それよりも・・❗️」
歯切れの悪い達也を怪訝に思う服部だが、達也はそれどころではなかった。
(言動はどうであれ、これだけ優秀な魔法師達がこんな日陰の部活動をしているのには必ず何かあるはずだ。結社という事は、裏の組織か何かと戦っているのか? もしや、もう黒羽と交戦していたりするのか!? いかん、これを放置していたら、深雪の身に危険が降りかかるかもしれん。この結社の調査を四葉家に・・・いや、今は風間少佐に頼むのが・・・)
結社という言葉に過剰反応したのか、達也の頭にはぐるぐると無駄にめまぐるしく働き出す。
実際は何の危険もない厨二病軍団であるが、全員が卓越した魔法師である事とその実力を表に出さずに日陰の部活を作っている事が、達也にとってのミスリードとなった。
普段から深雪を護る為に、そういったものに敏感であるが故の悲劇なのであろう・・・
その後、達也は悩みに悩んだ末、一校に巣食う謎の組織「極東魔術昼寝結社の夏」の調査を四葉家に依頼・・・
結局、何も出てこなかった為、達也はただ身内に赤っ恥をかいただけで今回の事件は終わった。
ちなみに九校戦については、七草真由美の三時間に及ぶハードネゴシエーションや誉め殺しの甲斐もあり、冨樫勇太の本戦アイス・ピラーズ・ブレイクと七宮智音の本戦クラウド・ボールに小鳥遊六花の本戦ミラージ・バット、そして五月七日くみんをエンジニアとしての九校戦の出場を確約させた。
〜去年の第一高校入学式の次の日の放課後〜
その男は、異様だった・・・
第一高校の制服の上に黒いコートを羽織り、両手には同じく黒いグローブを着用していたのだ。
そしてその額には何やら悍ましい程の書体の文字列が書かれた包帯が巻かれ、時折それを苦しそうに右手で抑えながら「クッ、今これを暴れさせる訳には・・・」とよく解らない事を呟いている。
そして、その左右を歩く少女二人も異様だ・・・
片方は右目に魔法陣が刻まれた眼帯を着用していて、もう一人は身の丈以上の巨大さを誇る黄金のハンマーを担いでいたのだ。
周りの新入生も在校生も、そんな風貌の三人を遠巻きにしながら歩いていると、三人の道を遮るように一人の女生徒が立ちはだかった。
その女生徒もまた、異様であった・・・
かなりの美少女で、普通にしていれば学年のアイドルも夢ではない容姿をしているのに、頭には純白のレースであしらったベールを被り、その両手はまるで神に祈るが如く胸の位置で握り締められていた。
その風貌はまさに敬虔なる神の信徒といったものだが、次に放たれた言葉が全てをぶち壊した。
「私は魔術師・モリサマー。転生を重ねた六百年の永き因果を巡り、漸く会えましたね? 黒炎龍に魅入られし邪悪なる炎王『ダークフレイム・マスター』❗️❗️」
「ほぅ、お前がかの伝説の精霊魔術師・モリサマーか? しかし、噂というのは当てにならぬものだな! 永きを生きた貴様が、のこのことこの魔王たる我の前に現れるとは・・・」
「・・・我が使命は、邪悪なる黒炎龍をその使役者ごと葬り去る事。世界の安寧の為、ここで果ててもらいますよ? ダークフレイム・マスター❗️❗️」
モリサマーの髪が金色に輝き出すと同時に、辺りの精霊が活発に活動を始める。
その光景にニヤリと笑ったダークフレイム・マスターは、その右手を突き出して黒い炎の球体を作り出す。
しかしそれは、ダークフレイム・マスターの左右にいた少女達が前に出た事で中断される。
「ダークフレイム・マスターは我が契約相手! お前如き、この邪王真眼が屠り去ってくれる❗️❗️」
「マスターが出るまでもないDEATH❗️ このミョルニルハンマーの凸守が、あんなちゃちな魔術師風情、押し潰してやるDEATH❗️❗️❗️」
眼帯の少女はその眼帯と外し、封印されていた妖しく輝く金色の瞳・邪王真眼を解放する。
そしてもう一人の少女も、その巨大なハンマーを振り回してモリサマーに向けた。
「・・・いいでしょう。ならばまずは貴女方二人を浄化した後、黒炎龍の封印を行うとしましょう」
モリサマーもまた、戦闘の為に両手を離す。
その両手には、輝く蒼穹の青と翡翠の緑の球体が出来上がっていた。
邪悪なる者達と精霊の使徒の戦いが、始まろうとしていた・・・
そしてその光景を、当時の生徒会・副会長である七草真由美が遠くから眺めていた。
(生徒会として止めた方がいいんだろうけど、あれに混ざりたくないわ・・・)
来年は例え騒動があったとしても、もう少しまともな人達に起こして欲しいと願う真由美であった。