全国魔法科高校親善魔法競技大会ーー通称・九校戦。
全国に存在する魔法師育成機関である九校の魔法科高校が、己の学校の意地と誇りを賭けて戦いに身を投じる、学生達の熱き青春の1ページなのである。
しかし、その伝統ある大会の威信を穢すような異常事態が、起ころうとしていた・・・
「その情報は、確かなの?」
「はい、残念ながら確かな情報です・・・」
まるで、信じたくないと言わんばかりの表情で、栄えある第一高校生徒会長・七草真由美は自身が全幅の信頼を置く生徒会会計・市原鈴音に聞き直す。
しかし帰ってきた言葉は無常にも、肯定・・・
鈴音自身も、信じたくないのかしきりに両目を閉じて顔を横に振った。
それを見た七草真由美は溜息を吐き、一度室内の様子を見渡した。
書記を務める生徒会の小動物は、まるで巨大地震が起こるのを察知した齧歯類のように体を縮こませて隅っこで震えていた。
副会長を務める生徒会の玩・・・忍者は、顔を青くしているものの、プライドがあるのか表面上は平静を装っていた。
そして、この春から我ら第一高校生徒会のメンバーに加入した美しき書記ーー司波深雪はしきりに首をかしげていた。
実力者ばかりが揃う、この第一高校生徒会のメンバーが何をそんなに恐れているのか・・・
「とにかく、じっとしていても仕方がありません」
七草真由美は、場の空気を変えるかのように声を上げて立ち上がった。
「今すぐ、九校戦代表メンバーを全員集めてちょうだい」
会議室に集められた九校戦代表選手とエンジニア達の雰囲気は、お世辞にも良いとは言えない。
何せつい先日にも、二科生である司波達也のエンジニア入りを渋々認めたばかりなのだ。
実力があるのは解るが、やはり長年積み重なった意識を拭うことが出来ないのが人間というもので、今回もまた生徒会長が二科生のだれかを代表にしようとしているのではないかと、思わず身構えてしまうのも致し方ないのかもしれない。
「皆さん、今回集まって頂いたのは他でもありません。昨日、日本魔法協会より、九校戦に関する通達がありました・・・」
七草真由美の言葉には厳かな雰囲気が感じられ、自然と選手達の姿勢が改まっていく。
一体どんな通達があったのか、皆が皆、七草真由美の次の言葉を待ち続けた。
「今年の本戦ミラージ・バットとモノリス・コードの競技規定を変更し、男女共に行うとの事です」
一瞬、彼女が何を言っているのか誰もが理解出来なかった。
静寂が漂う会議室で、七草真由美の声だけがなおも響き渡る。
「女性魔法師人権団体の『モノリス・コードが男性だけの競技とするのは女性差別ではないのか?』という声が大きくなり、すると今度は男性魔法師人権団体が『だったらミラージ・バットを女性だけの競技としているのも差別に当たるのではないか?』」という意見も浮上し『ならばどっちも男女でやればいいじゃん』という九島老師の鶴の一声で、今年の九校戦で試験運用ということで本戦のみ採用される事になりました」
いつの時代も、人権団体というのはロクな事をしないものである。
人権人権叫んでいる割には、やっている事は完全に人権侵害そのものであり、それを指摘しても『人権侵害だ!』と叫んでその事実を握り潰すのである。
あまりにくだらない理由に、会議室はしばし白けた雰囲気で支配されたが、それは真由美の言葉を引き継ぐように口を開いた市原鈴音によって阿鼻叫喚の地獄に変わった。
「そして緊急の措置として、男子ミラージ・バット及び女子モノリス・コードの選手をそれぞれ一名ずつ追加で選出出来るとの事です。」
一度言葉を区切り、そして鈴音は本日最大の爆弾を投下した。
「これは確かな筋からの情報ですが、女子モノリス・コードに、三校はあの『シルバーデビル』を選出したという事です・・・」
その声は、震えていた。
まるで、名前を口にするのも恐ろしいとばかりに市原鈴音は誰に憚ることもなく震えていたのだ。
その恐怖は段々と会議室に伝搬し、誰かが思わず立てたであろう椅子がズレる音を皮切りに、室内はその雰囲気を地獄に変えた。
「イヤァァァァーーーッ!!! まだ死にたくないようーーーッッッ!!!」
「お母さん、助けてぇぇぇーーーッッ!!!」
「女に生まれなかった事を、これほど感謝したことはない・・・」
「おぉぉ、神よ・・・」
もはや秩序もへったくれもない。
シルバーデビルが一体何なのか知らない一年生達はオロオロするばかりで、一年代表とも言える司波深雪も訳がわからず凍り付いている。
こんな時でも冷静を保てる事が売りの司波達也は、こういった事態をいち早く止めなければならないだろう頼れる先輩達に視線を向けるが、風紀委員長・渡辺摩利は頭を両手で抑えながら震えていた。
部活連会頭・十文字克人は両目を閉じて腕を組んで落ち着いている態度を装っていたが、僅かに顔が引きつっているのを達也は見逃さなかった。
生徒会の小動物に期待を寄せるのは無駄な労力なので、達也はこういった事態に最も信頼出来る先輩に、期待を込めた眼差しを向けた。
期待の先輩ーー服部は、その眼差しに嫌そうな表情をしながらも、生来の生真面目さにより事態の収集に掛かる。
忍びとは、耐え忍ぶものなのである。
例えどんな状況に置かれようと、どんな理不尽な扱いを受けようとも、忍びには『御意』以外の言葉を持ち合わせてはいけないのである。
服部は手を叩いて注目を集め、とりあえず会議室の秩序を取り戻した。
そして、選手全員がこちらに向いて聞く態勢が整ったのを確認すると、本日最後の爆撃を敢行すべく七草真由美に続きを促した。
真由美は珍しく若干の緊張した面持ちをしていたが、次の瞬間には何かを決意したように表情を引き締めて、立ち上がって選手全員を見渡した。
「第三高校が恥も外聞もなく、誇りを捨て去って勝利を目指すというのであれば、我々も覚悟を決めなければならないということです。従って、第一高校女子モノリス・コードに追加で投入する選手は、2-Cの羽原さん・・・いえ、『アークデーモン』に決定したことを皆さんに通達します」
会議室は、更なる地獄に包まれた。
三校にて・・・
三校生徒会長「・・・と、言う訳で女子モノリス・コードに、シルバーデビルこと佐久間翔子さんを内定しました」
三校代表A「正気ですか、会長⁉︎ 国防軍が黙ってませんよ‼︎‼︎」
三校生徒会長「既に、第一高校に二連覇を許しています。十師族が二人もいるあの高校に勝つためには、手段を選んでいる余裕はうちにはないわ・・・」
三校代表B「会長・・・。でも、そうしたら一校の奴ら、アークデーモンを選出するかも・・・」
三校生徒会長「なら、尚更シルバーデビルを外す事は出来ないわ! とにかく、これは決定です。残りのメンバーには、とりあえず一色さんを加えるとして後は適当にくじでも・・・」
一色愛梨(何故でしょう? 先程から、背筋の震えが止まりませんわ・・・)
一条将輝(シルバーデビル・・・国防軍上層部と師族会議で存在を秘匿された魔法師の片割れか。そんな人のチームメイトなんて、愛梨も可哀想に・・・)
吉祥寺真紅郎(ヤバい匂いがプンプンする・・・)