白壁微瑕の先生、今一度方舟にて───   作:おこげの

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久しぶりに自給自足します。


銃弾飛び交うミスティックな世界

 

 どこか遠くでパンッ──と軽い音が響き渡った。その音は次第に増えていき、爆発音まで響き渡るまでに発展していく。私はその音に気にも留めずにコーヒーメーカーからポットを取り出し、マグカップへ丁寧に注ぐ。注いだカップからフワッと漂う何とも言えない良い香りが鼻孔をくすぐる。

 

「ドリップコーヒーの注文のお客様、お待たせしました」

 

ソーサーと共にカウンターに出し、お客様へと提供する。

 

現在、私はD.U郊外にあるカフェで働いている。銃声が飛び交う世界に目覚めて早2ヶ月、こうして過去に得たであろう知識と経験を活かして”バリスタ”としてカフェを運営している。

 

「ふぅ……いやぁ、白副さんの淹れたコーヒーは美味いねえ。コレがないと朝が始まらないよ~」

 

カウンターに座るスーツを着たお客様が溜息気味にそう零した。サラリーマンは日々多忙だろう、カフェインの摂取は必須の日課になるのも窺える。憂鬱さが見える表情だが尻尾は大きく揺らしているの見るに、味に満足していると見た。少しでも朝の憂鬱さを和らいでほしいと願いながら、常連さんに感謝の言葉を返す。

 

「喜んでいただけて何よりです」

 

少し寂れたカフェだが、客もそこそこと入ってきてる。ここの店長であるマスターの評判が良く、新規さんや常連さんにも多く通っていただいている、知る人が知る店だ。

 

私はキヴォトスで生きる為、そして私を助け、雇ってくれたマスターの恩返しの為にこのカフェで働いている。

 

「うん、浅煎りのいい香りだね。あっ白副君。そろそろ豆が切らしそうだから、後で補充できるかい?」

 

「もちろん把握しています。午後に取り置きした豆を取引先から仕入れてきます」

 

「そうかい?適確で助かるよ。頼むね白副君、ありがとう」

 

マスターは嬉しそうな表情をしながら作業を進める。マスターはご年配で、仕入先に足を運ぶことや、重い荷物を持つ事も難しくなってきている。背丈が高く、まだ若いであろう自分が率先して代わりに行うのが必然だ。と言っても仕入れや少しの重労働も大して苦ではないので問題はない。負担にならない範囲だ。

 


 

 ピーク時間が過ぎ、後の作業はマスターとその奥さんが引き継ぎ、私はコーヒー豆等の営業に必要な材料を仕入れる為に取引先へと出向いていた。

 

「………山海経は落ち着いていていいですね」

 

そんな独り言を呟き、車から降りて、取引先である玄武商会へと足を進めた。

朱色と金色の枠で彩られた豪華な扉を開けて中に入ると、活発な挨拶が一斉に私に浴びせられる。厨房からはカチャカチャと鍋を振る音が聞こえ、独特の美味しい香りが漂ってくる。その厨房からある人物と目が合い、こちらの方へ出てきたの見て、私は挨拶をする。

 

「こんにちは。朱城さん」

 

「白副さん!いらっしゃい!"いつもの"やつね?」

 

「はい、"いつもの"を仕入れに来ました」

 

「ふふっ、バックに置いてあるから私に付いてきて!」

 

彼女──朱城ルミさんはくるりと背を向け、私も後を追う形でバックルームへと入った。

 

 コーヒー豆やミルク、その他の材料はここ──山海経の玄武商会で調達している。

高地栽培で栽培された豆は、糖度や酸、香りが凝縮され、複雑な風味を持つ高品質な代物だ。お客様からの人気が高く、他の豆より消費が早い。こうして定期的に玄武商会へと出向き、取引をしている。以前からマスターと懇意にしていた関係性のお陰で、玄武商会とは良好的な関係で取引を行うことが出来ている。マスターや朱城さんの人柄の良さがあっての関係性だろう。

 

「収穫量は前より減っちゃったみたいけど……足りるかな?」

 

「ええ。これだけあれば十分です。ありがとうございます」

 

麻袋から豊潤な良い香りがほんのりと感じる。素晴らしい一杯を作る為に、山海経産の豆は必須だ。今後もお世話になることは間違いない。何より品揃えがいいので贔屓になるのは避けられい程に魅力的だ。

 

 支払いを済まし、麻袋を台車に乗せて、車へと詰め込む作業へと入る。

朱城さんが手伝って頂けたお陰で早めに作業を終えることができた。彼女の気遣いと溌剌さにはとても助かるし、私も元気が貰える。いつも頑張っていていい子だ。

 

「申し訳ないです。手伝って頂けて感謝します」

 

「なに、これぐらいお安い御用だよ。贔屓にしてもらってるし、これぐらいはさせて」

 

「ありがとうございます。今後も引き続きよろしくお願いします」

 

「もー……お固いな~白副さんは」

 

少し困った表情で呆れた様な反応を示す朱城さん。これは性分だから許してほしい。

 

「お時間が空いてましたら、是非私のカフェにいらしてください。丁寧におもてなし致しますよ」

 

「そうだねぇ…。暇が出来ればそうしたいところだけど、ここ最近は忙しいから随分と先になりそうかも」

 

朱城さんは腕を組み、頭を悩ませる。玄武商会の会長というトップの立場は多忙だと窺えるが、休日を作れない程に多忙を極めるのだろうか?まだ若い学生だというのに……何だかやるせない気持ちになる。

 

「それを言うなら、白副さんも私の店に来てよ。こっちも丁寧におもてなしするよ?」

 

「……魅力的ですが、何分私も忙しいので当分は伺うことは難しくなりそうです」

 

「ふふっ、あはは!お互いに忙しいね?」

 

「ですね。……朱城さんの料理は是非とも味わってみたいので、必ず行きますよ」

 

玄武商会を訪れる度に、いい香りが漂い、食欲がみなぎってお腹が鳴る。私は余り多くは食べないが、ここの料理はどれも美味しそうで、幾らでも食べれる気がしてくる。暇を見つけたら必ず来ると心に誓おう。

 

「ふふっ……じゃあ私も必ず白副さんのお店に行くから、忘れないでね?」

 

「ええ、約束しましょう」

 

業種は違うが、同じ飲食店を営んでいる者同士、気が合うことが多い。彼女との付き合いは長くなるだろうと私は確信している。

 


 

 日は沈み、時間帯は夜のはじめ頃になった。

店内はローファイミュージックが心地よく流れていて、疎らにお客様が寛いでいてる。

 

材料の補充や日付のチェック、機械の掃除等を終えて、今はマグカップ等の食器を磨いている。そんなゆったりとしていたところ、チリン──とドアに付いている鈴が小さく鳴る。

来店されたお客様は疲れた様子でカウンターに座り、上着を椅子にかける。

 

「こんばんは。尾刃さん」

 

「こんばんは。白副さん。今回はエスプレッソラテでお願いします」

 

「かしこまりました」

 

自動グラインダーにホルダーを置いて、粉を盛り付け、秤で基準の目盛りに整え、タンパーで押して、マシンに付ける。

 

「この後は残業ですか?」

 

「………はい、まだ書類仕事が残ってまして…」

 

この時間帯に濃いカフェインを摂取するということは、そういうことなのだろう。深入りするのは失礼だが、彼女も苦労人の1人だと分かる。

 

「それは、辛いですね」

 

「慣れてますから、眠気覚ましに今日は濃い目を頂こうかなと思って」

 

学生らしからぬ、くたびれた大人の雰囲気を醸し出してはにかむ尾刃さん。

ヴァルキューレ警察学校の公安局、局長の立場はさぞ多忙だろう。ここD.Uを含め、キヴォトス全域で治安を守る組織の1人、日々銃弾飛び交い、様々な犯罪が横行する無法者が多い現状、最近のニュースでは犯罪率が上がっていると報道されている。仕事は山積みだと推察する。

 

銃器や兵器が簡単に横行するこの世界では仕方ないとも言えるが、良識でモラルを持った善良な人達が割を食う目に遇うのは見るに堪えない。この子もその1人だ。だが私は力と権力を持たないただの人だ。せめて、私にできる事と言えば───

 

「あ、エスプレッソありがとうございます。……?あの、こちらは?」

 

「サービスのドーナツです。差し支えなければ、どうぞお召し上がりください」

 

油で揚げてない、ベイクドドーナツ。重くなくヘルシーな仕上がりにとなっている。些細なサービスだが、少しでも彼女の労わる時間にしたいと思った。口に合えばいいのだが。

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

尾刃さんはキョトンとした顔つきで受け取り、一口齧り、エスプレッソを飲んで一息を付いた。

 

「ふぅ……ありがとうございます。実は夕食は少ししか食べてなくて、助かりました」

 

「私のお節介ですが、役に立てたのであれば良かったです。ですが……ご飯はしっかりと食べるのですよ?」

 

「…………ええ、その通りですね」

 

照れくさそうに顔を背け、また一口エスプレッソを飲む。

 

「………あなたはまるで、母親の様なことを仰るんですね」

 

「…………?私は男ですが……」

 

「そういう意味ではっ……!……はぁ……フフっ、意外と天然なんですね?」

 

噂通りだな──と呟く尾刃さんに、私は首を傾げる。一応大人として子供を気遣ったつもりだが、どこかズレた発言だったのだろう。だが尾刃さんの笑った顔が見れたのでこの事は特に考えないことにする。

 

「生活は順調ですか?見たところ怪我もなく健康そう……ですが」

 

「最初はこの環境に戸惑うことが多かったですが、次第に慣れていきました。人に備わるの適応能力のお陰ですよ」

 

「そうですか?その、失礼ながら目のクマが濃いので寝不足かと思うのですが?」

 

「尾刃さん。それはあなたでしょう。私のこのクマは元々のモノです」

 

「え、あっ………失礼しました」

 

「気にしませんよ」

 

自分の心配をしてほしいが、他人である私の心配をしてくれる情に熱い子だ。内心その気遣いに嬉しさを覚えつつ、私がこの世界────キヴォトスで目覚めたあの時の出来事を想起した。

 


 

 最初に感じたことは、寝苦しい──と体が違和感を訴えてきたことから始まった。

目を開けると、微量に明かりを放つ天井の光が目に入った。起き上がって周りを見渡すと全体的に機械や鉄等で構成された部屋だと認識した。

 

「………ここは、どこだ」

 

部屋の内装は何となく理解したが、何故自分がこの部屋に居るのか、何が目的なのか、思い起こしても何も分からず不明、漠然とした不安が胸の内に広がるだけだった。取り敢えず行動をしようと、不安を紛らわす様に部屋の中を探ることした。

 

「……………!………白い……」

 

壁に設置された鏡に反射する自分を見て、思わずそんな言葉が零れた。

髪や肌、そして服までもが全て白で統一されている外見。唯一ワイシャツと瞳だけが黒かったがそれは些細なことだった。よく目を凝らして見つめると、頬に罅の様な、亀裂と見られる線が走っていた。自分の見た目を不気味に思いながら鏡から離れ、部屋の探索に戻る。

 

**********

 

 部屋を探索して分かったことは、ここは何処かの地下室だということ。そして1つのタブレット端末が置かれていたことだけだった。タブレットを起動しても、黄色の"E”というロゴだけが表示されるだけで何も変化が起きない。取り敢えずタブレットを懐に入れ、この地下室から出ることに決め、薄暗い廊下を歩いている。

 

「……寒い……足が痛い…」

 

弱音を吐きながら足を進めるしかなかった。よく分からない地下に居るのは嫌だし、ひたすら明かりと壁の矢印が指す方向に足を進める。そんな不安との戦いの末に、明るい地上へと出ることができた。この時は安堵でいっぱいになったが、すぐさまその安堵は無くなることになる。

 

バンッ──!と大きい音が鳴った後に、足の横の地面が抉れた。

 

「っ!?」

 

危機察知能力を最大限に発揮して、脱兎の如くその場から離れてひたすら走った。今思うと見た目も白いから本当に脱兎そのものだった。滑稽とはこのことだろう。

 

後ろを振り返ると、球体状の何かが触手の様な物をこちらへ向けながら追ってきている。銃声が鳴り、瓦礫や壁に当たる音が聞こえてくる。

必死に走り回る中、どこに逃げるべきか考えた末、空の天井まで一直線に走る大きな建造物まで向かうことに決めた。

 

*********

 

 無事に廃墟から抜け出し、ベンチで私は項垂れていた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…ぅ…」

 

無我夢中で走り続けた影響で息を切らしていた。致命傷を負う事なく、無事出られたことはいいが、その後の反動が来てそれはそれで辛かった。

 

街中を行き交う人々が、ベンチではぁはぁと息切れている私を変な目で見ていたが、私は気にせず息を整える事に集中し、数分後に落ち着きを取り戻した私は改めて周りを見渡した。

 

「………動物?………子供…?」

 

行き交う人々を眺め、違和感を強く覚えた。

犬が、猫が、歩いている──と。そして天使の輪を浮かべた子供達が、銃器を抱えながら歩いている──と。

 

理解が追い付かない。

 

……深く考えるのは後にしよう。

 

少し楽観的な方が不安を和らいでくれる。そう思いながら、大きくそびえ立つ建物へと足を進めた。

その途中、エンジェル24と呼ばれる建物の中へ入り、情報収集を試みた。雑誌や本をめくり、店員に質問等をし、そして大まかにこの世界を理解した。

 

ここは学園都市キヴォトス。数千の学園が連なって構成し、そして学園都市全体を担う連邦生徒会が管理するD.U、私が今いる地域の名であり、サンクトゥムタワーと呼ばれる塔が中心に位置する場所であると。

 

「なるほど、それで皆さんが銃を携えていると」

 

「は、はい……そうですが……」

 

困惑した店員さんをにお礼を言い、店から出て空を見上げた。

 

私はとんでもない世界に居るらしい──と改めた理解した。だが同時にどこか懐かしい様な、見たことがあるような、そんな既視感も覚えていた。

 

「どうしましょうか」

 

今、何をすべきか歩きながら考えて、当面はどこかで雨風を凌げる場所の確保と、何かしら働いて、金銭を貰うことを目標して、私はハローワークへと向かうのであった。が───

 

──立て続けに爆発が発生、瓦礫が降り、黒い煙が立ち昇り、街が悲鳴と混乱で広がった。

 


 

 キーンと、耳の中から高い音が聞こえてくる。

何とかよろめきながら立ち上がり、爆発が発生した方向に目を凝らすと、大型兵器の様なモノが走行していた。赤い光が点滅し、危険性が高い兵器だと目に見えて理解した。

 

「フフフッ……さぁ、もっと泣き叫びなさい!!」

 

「…………」

 

轟々と街が燃えている。市民は逃げ惑い、警察や消防がせわしなく救助活動を行っている。見る限り致命傷を負った人は居ないみたいだが、あの爆発を受けたら普通は即死の筈だ。

 

「大丈夫ですか!?」

 

銃を携え、装備した子供が私を覗き込んだ。

 

「申し訳ないです、体が痛むみたいで…」

 

「大丈夫です。救護班まで支えますので、私に掴まっていてください!」

 

桃色の髪で、狐の耳を生やした彼女が私の体を支えながら、赤く点滅している救急車らしき場所へと向かっていく。空に複数の小型飛行物が大型兵器に向かって飛行しているのが目に入る。後方からまた爆発が起き、地面を揺らし、耳をつんざく轟音が響き渡る。

 

「はぁ…はぁ……ッ」

 

「もう少しです!!気をしっかり…………え」

 

 先程から腹部の辺りに激痛が走るし、何故か暖かい感覚がある。

何だろうかと視線を落とすと、白い服は赤く染まり、自身が血にまみれていることに気が付いた。

 

「こ、これ程の出血はっ……」

 

「だ、大丈夫です。あの救急車に向かえばいいのですね?」

 

「……っ、はい。そうですが、あなたの負傷は………ヘイローが…」

 

彼女は深刻そうな表情で私を見ている。だが、この子はなすべきことがある。

 

「あの子を捕らえる事が、君たちの目的ですね?ならば、迅速に仲間と共に連携して被害を最小にしなさい」

 

「あ、ですがっ!あなたはっ!」

 

「私の事は構いません。先程から君の友達が君を呼んでいますよ。早く合流して、あの面の子を止めてきてください。あの様子では止まりそうではありませんし…」

 

彼女の腕に装着されてある無線機から、この子を呼びかける声が聞こえてくる。大型兵器の方向には同じ格好をした狐の子供達があの面の子と応戦しているのを見るに、この子は兵士の様な役割があるのだと理解した。

 

私は壁に手を添えながらゆっくりと歩き出す。彼女は心配そうに私を見つめ右往左往するが、私は首を振る。

優しい子だ。こんな時に……なら、今の私にできる事は───

 

「すみませーん!!怪我したので助けて下さーい!」

 

この世界で目覚めて、初めて大きな声を出して救急隊へと呼びかけた。

彼女は目を丸くして私を見ていた。少し滑稽さがある呼びかけだったな。

 

「気にせず行ってください。私は、大丈夫ですから」

 

以前にもこの様な言葉を吐いてた気がする。血まみれで激痛が走る時にそんなことを思いながら、走る彼女の後ろ姿を見つめた。

 

**********

 

 致命傷は奇跡的に避けていたらしい。この世界で目覚めてから、何かと幸運続きだと振り返る。

銃声や爆発はまだ鳴り止まず、応戦状態が続いていると救急隊の人がそう言った。私は様子を見る為、ゆっくりと救急車から降り、遠目で彼女達の奮闘を眺めていた。

 

「まだ若い子供達が…」

 

ヘイローと呼ばれる光輪があるから銃弾は平気だと聞いていたが、本当に被弾しても大丈夫なのか?あの面の子は一体何が目的でこの様な凶行に走ったのか?疑問が絶えない。

そんな心中のところ、私はあることに気が付いた。

 

「……人が取り残されている」

 

十字路を面する角地ビルの1階に、犬の夫婦と見られる2人が肩を寄せ合って震えていたのだ。

その気付きと同時に多くの小さな塊が空から投擲されるの光景が目に入った。

 

「っ!!」

 

気が付いたら走っていた。後ろから私を呼びかける声が聞こえてくるが、無視して私はあの角地ビルへと滑り込んだ。

 

「っ!!キミは!?」

 

「私に掴まってください!」

 

怪我の事など考えてなかった。小さな2人を私の血まみれの体で包み、抱えて走り出した。その同時に近くに小さな塊がコロン──と音を鳴らして落ち、そして爆発した。

この一瞬、時間がゆっくりと流れる様な感覚になった。背丈が高くて良かった──と、謎の安心をしながら2人を庇う様に包み込んで、地面へと激突して意識を落とした。

 


 

 そこからは色々とあった。語ると長くなるので少し端折ることにする。

病院で目覚め、医者からは一命を取り留めたのこと、あの面の子──狐坂ワカモの捕縛に成功したこと。FOX小隊のニコと呼ばれる隊員からお見舞いの品のおいなりさんを頂いたり……そして、あの犬の夫婦から深く感謝され、そこからの縁で夫婦が営むカフェで雇われることになった。

 

そして現在に至る。

 

この世界の洗礼はとても苛烈を極める体験だったが、同時に私に出会いの縁を齎してくれた奇跡でもあった。

 

私はあの爆発の際に、時間がゆっくりと流れた刹那を時を思い返す。

 

円形状の都市、老師(先生)と呼ぶ誰か、誰かと共に時間を過ごした記憶、そして──

 

「このタブレットに憑依する。私の生徒」

 

私はどこかで教鞭を振るっていたらしい。そんな気がしてならない。

 

───チリン

 

ふとドアの鈴が鳴る。もう深夜に近い時間で営業終了も近い。対応する為に振り返ると、そこには真っ黒に染まった人物が私を見据えていた。

 

「クックック、夜分遅くに失礼します。一杯だけ…………頂けても?」

 

「…………ラストオーダーは過ぎてますが、そうですね……私と1杯ご一緒頂けるのであれば───淹れますよ」

 

「ククッ、あの巷で有名なバリスタと1杯付き合えるとは……なんと光栄なことか。是非ともお付き合いしますとも………ククッ、では深煎りのコーヒーを一杯…」

 

この人物が何者かは知らない。だが、何か私自身に関わる秘密を握っていると確信している。根拠はない。そして私の体全体が呼応するかのように奇妙な反応を示した。白い煙が私から放たれている。この黒い人物が放つ黒い煙を打ち消すかの様に────────────────

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────℞起動。おはよう。先生。

その端末に、光が灯された。

 

 

 

 





設定やキャラクター、文章についておかしい所が有ればご指摘くださると幸いです。

修正は度々します。

お久しぶりです。自給自足を再開しました。

今後はこのSSと正実モブくんSSの2つを頑張って書いていきます。戯れにお付き合いください………

ゲマトリアってキヴォトスをメタ視点で見てる描写があるので、やはり先生とは違う領域の立場で物事を見ているんだなと分かりますね。

先生「生徒の成長を見守り、支える」
ゲマトリア「神秘(生徒)の探求、そして崇高へ」

白副はどの立場に立つのでしょうか
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