旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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10話

 

 

「あっつ……なんだこの洞窟……」

 

 サウナのように熱気に蒸されながら、洞窟を進む。ミュウツーのテレポートにより突然ここに来たわけだが、正直自分が今どこを歩いているのかすらわからない。

 

 だが、進んでいくごとに熱気が徐々に強くなっているということは、目的地には近づいているのだろう。

 

 ――と思っていた矢先、あからさまにどこかに繋がっていそうな大穴を見つける。

おそらく、この先に件の超古代ポケモンとやらが封印されているのだろう。実際に見なくても、溢れ出るオーラからそこにいるのだと伝わってくる。

 

 そうして穴を少し進んでみると、進んでいる方向から何やら話し声が聞こえ始めた。

 

「クハッ! 無様なものだなッ! アオギリよ!!」

「…………グッ……ぬう………マツブサァァァ!!」

 

 洞窟の最奥と思われる場所に辿り着いた先には、二人の男がいた。何やらお取り混み中のようなので、気づかれないように、コソコソと二人のやりとりを聞くことにする。

 

「もはや誰にも私を、マグマ団を止めることなどできないのだよ!! アオギリ、キサマはそこでグラードン復活を目に焼き付けるがいい!!」

 

 …………どうやらここは踏み込んではいけないところだったらしい。こんな二人の思いをぶつけ合う尊い空間を邪魔しちゃ悪いのでさっさと引き返そう、そうしよう。

 

 後はもうハルカに全部任せて俺は帰ろう、そう思って引き返そうとする。

 

「………ヌッ? そこにいるのは誰だ! 隠れてないで出てくるがよい!!」

 

 って思ったらバレた。

 

 なぜ俺はこうも見つかってしまうのだろうか……うーむ、逃げようもないし、こうなったら正面から向き合うしかないか。

 

「……ククク……やはりキサマは来ると思っていたぞ……散々私の邪魔を――――」

 

 誰かを待ち望んでいたかのように、そう告げるメガネの男。こっちがマグマ団のボスって、ところだろうか。その男は、俺を目に映すなり、突然言い掛けてた言葉を止めた。

 

「…………お、おいマツブサ……? こんな状況で何だが、こいつ、あのガキでもねえし、誰なんだ……?」

 

 マツブサ、そう呼ばれるメガネをかけた赤服の男は、まるで海賊のような服装をした、アオギリというらしい男に呼び止められると、俺の姿を二度見する。そして、その言いかけてきた言葉を止める。

 

「……誰だキサマは」

「急に萎えてるじゃん」

 

 さっきまでの高笑いが嘘のように、マツブサは急に冷静になる。この様子を見る限り、マツブサは誰かを待ち望んでいたのだろうが、すまんな、お目当ての人じゃなくて。

 

「って、そうじゃない。アンタ、マグマ団のボスだろ? 急で悪いんだけどさ、グラードン? だっけか、復活しようとしてんのやめてくんない?」

「……この際キサマが何者なのかはどうでもいい。しかし、その要求は飲めんな」

「一応聞くけど、それはどうしてだ?」

 

 ここで改めてマグマ団という組織について確認する。ヒガナやダイゴからある程度聞かされていてはいたが、そのボス自ら話をしてもらうことにしよう。

 

「我々には悲願がある。今の人類の更なる進化、その能力全ての標準を引き上げる。その土台として、まずは新たなる大地を生まなくてはならない」

「……ッチ! よく言うぜ! その進化も自分たちだけのものにしようとしてるくせによ!」

「フン、賢い者が選ばれるのは当然の結果だ……さて、悲願達成の手始めとして、私はこれからグラードンを復活させなくてはならない。そして、それを阻む者は誰であろうと排除する」

「…………んで、つまり?」

 

 ある程度説明したあたりで、マツブサはメガネをカチャリと上げる。そうして、服の内側からモンスターボールを取り出して見せた。

 

 ここまで来たら、俺でも何が起こるか分かる。さあ、ミュウツー、出番だぞ。

 

「キサマにはここで消えてもらおう!! ゆけ、バクーダ!」

 

 

 

 

 

 

「ミュウツー、サイコキネシス」

 

 ミュウツーのサイコキネシスは、メガシンカしたバクーダ……もといメガバクーダを捉えると、洞窟の壁へと投げつける。そのままメガバクーダは放物線を描きながら、壁へと激突する。

 これで、トドメだ。

 

「バ、バクーダ!!」

 

 バクーダは壁に激突すると、辺りに砂埃を巻き上げながら気絶する。そんなバクーダの姿を見届けたマツブサは、一瞬俺の方を見ると、忌々しそうに顔を歪める。

 

「ミュウツーと呼ばれるそのポケモン……キサマが例のポケモントレーナーだったというのか……!?」

「……? なんのことだ?」

 

 突然、例のポケモントレーナー、そう呼ばれたが、そんなことを言われる覚えはない。

 もしかしてコイツとどこかで会ったことあるのか……? ……いや、そんなわけないか。

 

「それより、俺が勝ったんだからグラードンの復活やめてくれよ。なんか色んな人の迷惑になるらしいからさ」

「…………迷惑? 迷惑だと?…………フ、クフフ、クハハハハ!!」

 

 な、なんだこいつ……負けたのに笑ってやがる……どっかイカれたか……?

 

 だが、そんな若干引いてる俺に対して、マツブサは続ける。

 

「その程度のことで我が理想が曲げられるとでも思っているのか!? 世界を次のステージに進めるこの理想をな!!」

「いや、だから何を……」

「今から、この『べにいろのたま』の力でグラードンを『ゲンシカイキ』させるッ!!!」

 

 そう高らかに宣言するマツブサの手には、紅色の輝く宝石のような球が備わっていた。

べにいろのたまとか、ゲンシカイキとかよく分からない単語が出揃っているが、マツブサは一体何をするつもりなのか?

 

「ッ! まずい! おいガキ! 今すぐマツブサを止めろッ!」

「は、はあ? だからさっきからなんなんだ――――」

 

 急にアオギリは俺にそう指示してくる。状況がわからず、困惑している俺だったが、そんな俺の声はある人物の声で阻まれることとなる。

 

「待たれよ! リーダーマツブサ!!」

 

 そう大きな足音と共に現れたのは、マツブサと同じ格好をした糸目のふくよかな男だった。

 

「ぬう!? ホムラ!?」

 

 更なるホムラという追加人物の登場に混乱は加速していく。俺が言えたことではないが、この場に急に乱入してきて一体何者だコイツは……?

 

「おやめください! マツブサよッ! あなたは解っていないんだ! 目覚めしグラードンの恐ろしさを!!」

「恐ろしさだと……?」

「シミュレーションが示していました! グラードンがもたらすのは進化でも始まりでもない、世界の終局なのですッ!」

 

 ホムラは汗を滲ませながらそう力強く告げる。グラードンの復活によって現れる変化、それはマツブサが想定しているようなものではないということ。

 

 ホムラの言うことを鵜呑みにするなら、グラードンは世界を終わらせる力を持っているということだ。迷惑、というレベルでは済まされないほどに。

 

 しかし、そんな報告を聞いてもなお、マツブサの表情が変わる気配はない。

 

「……フン。何を言うかと思えば、ホムラ、残念だ。まさかナンバー2に裏切られることになろうとは」

「ッ!! リーダー……! 話を……!」

「やはり最後に頼れるのは……グラードン、お前だけというわけだ!」

 

 それどころか、マツブサはグラードンを復活させるという意志をさらに固めてしまったようだ。

部下であるはずのホムラの話もろくに聞かないあたり、完全にスイッチが入ってしまっている。もはや、言葉ではマツブサのことを止めることはできないのだろう。

 

「さあ、グラードンよ! 今こそべにいろのたまの力を取り込み、ゲンシの姿へカイキせよッ!! 失われた進化の可能性を、現世に甦らせるのだッ!!」

 

 マツブサはそう言い放ち、手に持つべにいろのたまと呼ばれる石を掲げる。すると、べにいろのたまは紅い輝きを一層際立たせて放ち始めた。

 

 その輝きは、溶岩に沈む『何か』に吸い込まれていく。

 

「あ、ああ…………」

「チッ……始まっちまったか……」

 

 謎の振動が始まる。心臓の鼓動のように揺れ動くそれは、まさしく復活の印であった。

洞窟の岩石は崩れ始め、それが溶岩溜まりに落ちると、噴火のように溶岩が一部噴き出す。

 

 そして、溶岩の中から、鋭い爪を持った腕が表出する。

 

 腕が一回空気中に出ると、そこから次々と体全体が生えてくるように現れていく。

 

 

「………クフッ、クフハハハッ!!! これが……グラードン!!!」

 

 

 黒い紋章のような線が刻まれた体に、全てを切り裂く鋭い牙や爪、それになにより、圧倒的な熱量。命の危機を感じるには十分すぎる要素であった。

 

 グラードン、ホウエン地方に伝わる伝説のポケモンが、その全貌を明かす。

 

 

グオオオオオオオオオ!!!

 

 

 咆哮。自分は生きているのだと、世界に訴えてくるような叫び。

 

 グラードンが叫ぶと同時に、グラードンの真下から凄まじい勢いで溶岩が突き上げる。その溶岩は、グラードンを洞窟を突き抜けるほどの威力で押し上げていく。

 

「なっ……グラードンはどこに……」

 

 先ほどの言葉通り、グラードンが洞窟の天井を打ち破っていくと、ホムラがそう呟く。

その問いに答えたのは、誰でもないこの状況を生み出したマツブサであった。

 

「どこかって? それは、ルネだ。ゲンシカイキに必要なエネルギーを得るために、グラードンはルネへと進撃を始めたのだよ。フフッ、ハハハッッ!!」

「な……なんてことを……ああ、リーダー、あなたは……」

 

 歓喜するマツブサとは対照的に、絶望に覆われるホムラ。グラードンが復活した今、これから一体何が起こるというのだ――

 

 と思ったその時、マツブサの持つ連絡機から音が鳴る。

 

「ム? ……外にいる団員からか。何……『太陽が激しく輝いている』? そうだろう、それこそが私の……マグマ団の理想――」

 

 マグマ団との連絡を取り始めたマツブサは、団員からの報告を受ける。その途中、何を聞いたのか、マツブサは突然顔色を変える。

 

「……は? 『予想以上の暑さで、このままでは我々もまずい』だと……?」

 

 不穏なワードがマツブサの口を通して聞こえてくる。

 

「目覚めたばかりでそれほどの力…… !? ゲンシカイキした暁にはどれほどの――――」

「リーダーマツブサよ! 地上で一体何が起こっているのだ!?」

 

 …………これ本格的にまずいやつか?

 

 正直ホウエンの伝説ポケモンのことを、レジアイスを見て舐めていた。まさか本当に世界規模で被害をもたらす存在がいるなんて。

 

「どういう……ことだ……グラードンが復活して……我々人類は更なる発展を…………」

「……なあ、マツブサよぉ。俺たちは超古代ポケモンってやらの力を甘く見すぎてたんじゃねえのか。そいつらは人間程度の手に収まるヤツじゃなかった、ってことだよ」

 

 マツブサの瞳から光が失われ始める。自分たちの理想が崩れるどころか、まさか根本から全てを壊されようとしているのだから。やってきたことの意味、そしてこれから起こる事象へ意識が追いつく。

 

「……こっからどうするんだ? もうグラードンは動き始めているんだ、このままってわけにもいかないだろ」

「ああ、そうだな。おいマツブサ、と、そこのデブ。お前らもさっさとと地上に向かうぞ」

「デッ……!?…………ま、今は見逃してあげますよ。それより、ここでこうしていても埒があきません、リーダー! 我々も早く外へ!」

「…………………」

 

 ホムラにそう説得されるも、マツブサは沈黙を保ったままだった。

 

「……ッ! おいマツブサ! いつまでそうしてるつもりだ!! テメェのやったことが取り返しのつかないことだろうが、それを引き起こした俺たちには責任があるんだよ! とにかくついてきやがれ!!」

 

 そんなマツブサの姿を見て苛立ちを募らせたのか、アオギリが声を荒げる。

こんな状況となっては、もはや一秒が惜しい。マツブサには早々に立ち直ってもらわなくては困る。

 

「…………ああ。分かった」

「それでいいんだよ! おいガキ! テメェも来い!!」

「俺はガキじゃねえって……それに、言われなくとも」

 

 半分意識が失われかけているマツブサを引き連れて、一行は地上へと目指す。

現在、地上では何が起こっているのか。そして、グラードンがこのまま進行を続けた場合、世界はどうなってしまうのか。

 

 未だ全てがわからずとも、全てが世界の終焉は刻一刻と近づいている、そんな気配が漂っているのだった。

 

 そんな空気の中――――

 

 

「…………あれ、何か忘れているような……」

 

 

 何かもう一つ忘れている気がする。はて……なんだったか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……下っ端は全員倒したし、この先にグラードンが……!」

 

 

 海底洞窟の最奥にたどり着いたハルカは、その道中で起こった爆発音に違和感を覚えることはなく、既に誰もいない空間を目の当たりにするのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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