旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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11話

 

「なんだ…‥これは……」

 

 地上に出た瞬間、マツブサが発した一言目だった。

 

 これをいい天気……と言うにはあまりに能天気すぎる程の緊急事態であった。空は紅く染まり、視界はぼやけ始め、海は湯気でも立ちそうな程度の熱を浴びていた。

 

 ここまでの状況はマツブサも想定していなかったのだろう、辺りの惨状に思わず項垂れている。

 

「これじゃ、まるで世界の終わりじゃねえか…………」

「…………リ、リーダー……」

 

 このままだと、この星に生きる生物は皆死んでしまう。そう確信させるくらい、復活したグラードンの力は強大であった。

 

 アオギリはそんな光景を見て歯軋りをする。

 

「……クソ。おい、ガキンチョ」

「ガキンチョって……もうツッコむのも面倒くさいな。で、なんか解決策でも思いついたか?」

「解決策か、んなもんグラードンを倒す以外にねえんだがよ……そのために、テメエにもついて来てもらうぞ。テメエのポケモンの力が必要だ」

 

 いつもであれば、何で俺が、などと言って一蹴でもしていたのだろうが、今回ばかりはそうはいかない。成り行きとはいえ、ここまで深く関わってしまったのだ。世界がこうなったのにも、俺に責任の一端はある。

 

「というと、グラードンが向かってるというルネってところか?」

「そうだ、間違いなくグラードンが目指しているのはそこだからな。正確に言えば、ルネの『めざめのほこら』って場所だ。おそらくグラードンはそこでゲンシカイキのエネルギーを貯めるはずだ……そいつを食い止めるなきゃ、話にならねえ」

「……ああ、わかった。そういうことなら俺も行かせてもらうよ」

 

 ルネ、そこへ行って俺に何が出来るのかもわからないが、とにかく行ってみなければ始まらない。それほど、急を要する事態なのだ。

 

「それじゃ、さっさと――――」

 

 アオギリがすぐさま向かおうとすると、空から何かが羽ばたいてくる音が聞こえてくる。

 

 こんな時に一体なんなんだ、と思い上を見上げると、こちらへ向かってくるエアームドと、それに……

 

「……ダイゴさん?」

「あ? チャンピオンが急にどうした……って、ありゃまさか……」

 

 アオギリもその存在に気づくと、エアームドは地上に向けて上空から降下を始める。

それにしても、どうしてダイゴさんがこんなところに……

 

「――やあ、アキハくん。それに、マグマ団と……あなたはアクア団の方ですね」

「…………そうだけどよ、なんでまたチャンピオンがここに? まさか、今になって俺たちを捕まえに来たってわけじゃねえよな?」

 

 さすがアオギリ、俺の思っていたことを全部聞いてくれる。確かに、今マツブサやアオギリに何かしに来た、と言うほど時間が残されているわけではない。となると、ここに来たのは別の用だろう。

 

「それも必要なんだろうけど……今はそんなことをしてるほど余裕はないね。アキハくん、あれが見えるかい?」

「あれって……太陽か?」

 

 ダイゴさんが指を指した方向には、いつもよりも燦々と輝く太陽の姿があった。これもグラードンの影響なのか、と思っている俺だったが、ダイゴから返ってきた答えは意外なものだった。

 

「いや……あれはグラードンの生み出した熱球だ。それも、だんだん巨大化していってる」

「…………は? あれを、ポケモンが?」

 

 驚愕の事実、太陽だと思っていたものは太陽じゃなかったどころか、さらに酷いものだった。

 

「あれはルネを中心に広がっていってる。このままだと、あれはいずれ世界を焼き尽くしてしまうだろう」

「そうなると人類、いや星は滅亡……と」

「ああ……おっと、もしかして彼らからも話は聞いていたかな。じゃあ、この先やることも聞いているはずだね」

「ルネに向かうんだろ? 俺に出来ることでもあれば、最低限頑張らせてもらうよ」

「……はは、まさか引き受けてくれるとはね…………ありがとう、感謝するよ」

 

 チャンピオンにまで言われるともう断れないな。このまま熱で溶けて死ぬのも嫌だし、グラードンをさっさと止めなきゃな。俺も、とうとう頑張る時が来たってことか。

 

 そう決意を固めてると、ダイゴさんは誰かを探すようにあたりを見回す。

 

「さて、それはいいんだが……アキハくん。ハルカちゃんはどうしたんだい? ここにはいないみたいだけど……」

「………………やべ。忘れてた」

「え」

 

 うっかり忘却の彼方になっていた。

 

 ハルカには連絡も伝えずに勝手に話を進めてしまっている。つまり、ハルカはまだ海底洞窟に取り残されてる…‥ってことか、ふむ……まずいな、主に俺の命が。

 

 このままでは沈められる……それだけは回避せねば、ならここはもうダメだ。ハルカに見つかってしまってはまずい。

 

「…………あー、ダイゴさん。俺は先にルネに向かうよ。ダイゴさんはここでハルカを待っててくれ、説明は任せたぞ」

「……え? あ、あの……それ僕が詰められるやつじゃ……」

「よっしゃミュウツー! テレポートだ! とにかくここから離れるぞ!」

 

 じゃあなダイゴさん! すまんが当分のハルカの怒りの矛先は頼んだぞ!

 

 

「アキハくん!? ちょ待っ――――」

 

 

テレポートをする中、ダイゴさんの悲痛な声が耳に残るのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 グラードンの復活による異常気象が起こり始めた頃、マグマ団のフードを付けた彼女は一人、ただ空を眺めていた。

 

 周りの住民はすでに避難を始めているというのに、彼女は逃げる気配もせずそこに立っていた。まるで、運命を受け入れた罪人のように、悲痛な表情を伴いながら。

 

 

「…………うん。シガナ、こっからだよね。大丈夫、私、ちゃんとできるよ」

 

 

 そう言って、彼女は深呼吸をする。熱せられた空気を吸ったことで思わず、むせ返りそうになるのを抑えると、彼女はどこかへと歩み始め――――

 

 

「――ッ痛え!!」

 

 

 そう、一歩目を踏み出そうとした瞬間、背後で何かがドスンと落ちる音が聞こえる。

 

 こんな時に一体誰が、と思って振り返ろうとした時、彼女は今さっき聞こえた声に聞き覚えがあることを思い出した。

 

 それは、まさかこんなところにいるわけがない、そのはずだった。

 

 

「ッ……おいミュウツー……お前さっき一回成功したからって座標指定適当にしただろ……って、もうボールに戻ってやがるし……」

 

 

 彼女がその姿を見た瞬間、突然、頭の中に“何か”が一瞬フラッシュバックする。

 

 それは、大切だったあの人のこと。

 

 それは、あの時救えなかった人のこと。

 

 それは、もう帰ってこない人のこと。

 

 そんな過去(トラウマ)を、今目の前にいる彼に重ねてしまう。

 

 

「……ん? あれ、ヒガナ……だよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒガナ……で合ってるよな? なんでそんな服装してんだ……?」

 

 ハルカやダイゴさんから逃げるようにテレポートで跳んだ先には、何故かマグマ団の服を着たヒガナがいた。ヒガナは俺を見ると、被っていたフードを外して、信じられないといった目で見つめてくる。

 

「…………はっ、えっ!? アキハ!? どうして……というか今どうやって……!?」

「そりゃ、ミュウツーのテレポートでルネシティまで跳ぶ予定だったからな。だけど……なぜかトクサネシティに来てしまった」

「???」

 

 ヒガナは何を言ってるんだコイツ、と言いたげな顔をする。説明が圧倒的に足りなかったか。

 

「えーと……要するに、この異常気象ヤバいからルネに行って止めてこよう、って話だ」

「…………理解が全く追いつかないけど、とにかく急いでるんだね」

「そのとーり」

 

 ここでヒガナと会ったのは想定外だ……いや、トクサネシティにテレポートすること自体が想定外だったのだが。

 

 それより、今はとにかくルネへと向かわなければ、ハルカが俺に追いつく前にことを片付けなければならないのだ。

 

「……事情はわからないけどさ、アキハはルネに行って具体的に何をするつもりなの? どうしたらこれが止まるのか、知っているのかい?」

「俺もよくわかってないんだけど、これを生み出しているグラードンを倒せば解決なんじゃないのか?」

 

 脳筋すぎる考えだとは思うが、現状それぐらいしか思いつかない。

 

「…………本気で言ってるの?」

 

 それを聞くと、ヒガナは呆れたような声を出す。

 

「仕方ないだろ……そのくらいしか出来そうにないんだから……」

「いや、出来そうも何も……今何言ってるかわかってる? これを生み出してるグラードンを倒すってことだよ?」

「……………………………………あれ、もしかしてかなり無謀だったりする?」

 

 身体自体は熱に当てられているのに、一瞬体の芯が冷えるような感覚が襲う。

 

 思えば、俺は一体何を相手にする気でいたのだろう。ホウエン地方の伝説のポケモン、世界を終わらせる原始の力、肩書きなどいくらでも挙げられるが、そのどれもが驚異的なほど恐怖を煽る。

 

「そ、キミが誰に頼まれて、そんなことしようとしてるのかは知らないけど、無駄死にになるかもしれないの」

「……いやでもなあ、行かなきゃ世界が……」

「アキハのその責任感はどっから来るのさ……」

 

 うーん、そう言われるとその通りなのだが、どうも頭の中で謎の義務感が働いてるようだ。

 

 俺がやらなければいけない、世界を救わないといけない、なんて英雄みたいなことをこの俺が口にするはずはない。だけども、何もしてはいられない気持ちもあるのだ。

 

「ね? 別にアキハが行く必要なんてないんだよ。あんなポケモン、誰にも倒せっこないんだから」

 

 確かに、あんなグラードンを誰が倒せると言うのだろう。俺の思いつく限り、それこそ……ダンデくらいか。

 

「そう、アキハはさっさと逃げなよ。後は神様にでも任せてさ……大丈夫、きっと助かるから」

「むう…………」

 

 避難を推奨するヒガナだったが、そんな彼女と話していると、なんだかある違和感を覚える。

 

 何故だか、世界の終わりだと言うのに、焦りが他の人ほど見られない。希望的観測ではなく、まるで、何かがグラードンを止めてくれるのを知っているような。

 

「…………アキハ、キミには生きて欲しいんだ」

 

 どうして、ヒガナはそんな視点から現状を見ていられるのか。

 

 どうして、ヒガナがそうやって少し悲しそうな顔をするんだ。

 

 そう思うと、どうも落ち着かなかった。このままだと、ヒガナがどこか遠くへ行ってしまいそうな儚さを感じた。だから、俺は――――

 

 

「……でもヒガナ、俺は行くよ」

 

「………………なんで?」

 

 

 声のトーンが数段落ちる。本当に心の底から出たような疑問だったのだろう。

 

「これに不用意に手を出してしまった自分への戒めだよ。こんな状況になったのにも、俺にも少しは責任があるんだ」

「…………なにそれ」

「俺がマツブサをあそこで止めれてたら、こんなことにはならなかった。ちょっと傲慢かもしれないけどさ、もっと正しい選択ができたんじゃないかなって、思うんだよ」

 

 そう言うと、ヒガナは顔を地面へ向けて口をつぐむ。

 

 それから数秒の空白があった後、ヒガナは顔を俯かせたまま、こう呟く。

 

「……仮にアキハに責任があったとして、さっきも聞いたけど、行ってどうするの? 自殺でもするつもり?」

「ミュウツーには悪いけど、少し付き合ってもらって、危なくなったらまたテレポートで逃げるとするよ」

「……ッ! アキハは色々とわかってない! ゲンシカイキしたグラードンはそんな甘い相手じゃないってことも、自分の命の重みも、残された人の気持ちも――!」

 

 そう続けてると、ヒガナは途中で言葉を言いかけて少し止まる。

 それから、その言葉を発するか少し考えたような時間を置いて、ゆっくりと口を開く。

 

「……………想像力が足りないよ」

 

 妙に説得力のある言葉だった。

 

 俺はそんな言葉にどう返事をすれば良いか、少し困る。 

 言わなければいけないことはわかっているのに、それを伝えるまでに言葉は喉を通らない。

 

 

「――――ああ、彼女の言う通りだ」

 

 

 そんな時に、どこかから渋みのある声がどこかから響く。

 

「伝説のポケモン、それもあのグラードンに対して、たった一匹のポケモンで立ち向かうなど、無謀もいいところだ」

 

 声の出どころを探す。

 

 それは、俺の背後から聞こえてきていた。

 

「だが……こちらの使うポケモンもまた伝説のポケモンだと言うのなら、勝負にはなるかもしれない」

 

 聞いたことのある声だった。だが、その記憶というのは、決して良いものと言えるものではなかった。

 

 その、黒いスーツに身を包んだ男は、前回と同じようにこうも不気味に現れた。

 

 

「それも、ミュウツーというポケモンであればな」

 

 

 

 

 

「お前は……」

「…………ッ! なんで……コイツがここに……!?」

 

 目の前に立つ男、それを見てヒガナは思わずそう言葉を漏らす。

 

 その人物は、以前俺がメガストーンを一人で見ている際に話しかけてきた男のはずだ。そして、この男は何故かミュウツーのことを知っており、俺に謎を多く残していった人物でもある。

 

 そんな人物を見て、ヒガナは一瞬戦慄したような表情になる。

 

「おや、キミは私のことを知っているようだな」

「…………知らない人の方が珍しいでしょ。ちょっと前まではアンタのことで話題は持ちきりだったんだから」

「…………え? ヒガナ、この人知ってんのか?」

 

 どうやら、この場で取り残されているのは俺らしい。

 それにヒガナの言う限りだと、この男は何やら有名人のようだ。

 

「逆になんでアキハは知らないのさ……カントーを裏で牛耳ってたこんな極悪犯のことを……」

「――そこから先は、私自身が話そう」

 

 そう言って、男は俺の前へと近づく。

 

「まずは自己紹介をさせてもらおうか。私はサカキ、元トキワシティジムリーダーにして、悪の組織ロケット団の総帥。そして――」

 

 

 

「――――キミの持つミュウツーの生みの親だ」

 

「ッ!?」

 

 体が固まる。前述した肩書きもそうだが、最後の言葉のインパクトが強すぎる。

 

「ッ……ハァ!? ミュウツーの生みの親……って、そりゃ一体どういう……」

「まあ生みの親、と言っても間接的なものだがな。私は科学者にミュウツーを作り出すように指示をしただけだ」

 

 何を言っているんだコイツは。

 

 ポケモンを作り出すだと? ……それってつまり、ミュウツーは……

 

「ああ、キミの想像している通りで間違いない。ミュウツーというポケモンは、人工的に生み出されたポケモンだ」

 

 考えたくもない想像は現実となる。この男は、科学者にミュウツーというポケモンを人工的に作り出した、と言うのだ。ポケモンを作り出す、その行為が認められているのは現時点では、数少ない企業だけだ。

 

 しかし、この男は、ロケット団という組織は、違法にミュウツーというポケモンを生み出している。それだけで、彼らがいかに危険であるかは察せられる。

 

「……ロケット団は、かつて世界を支配しようとカントー圏に勢力を集めていたところを、あるポケモントレーナーによって壊滅させられたはず。そんな組織の親玉が、どうしてホウエンに?」

 

 突然、ヒガナはそうサカキに問いかける。

 

「それはもちろん、ミュウツーに会いに来たのだよ」

「…………アキハ、キミが以前言っていた男ってのが、まさかサカキだったなんてね」

「以前……ああ、確かにコイツだ」

 

 初めてサカキと接触した時のことと、その後ヒガナと会話したことを思い出す。

 

 ……いや待て、そういえば、俺はコイツに聞かなければならないことが一つあったはずだ。

 

「……サカキ、だったか。一つ、訊いてもいいか?」

「キミの方に時間があるのなら構わんよ。ミュウツーについて詳しく聞きたいのかね?」

「いや、違う。俺が聞きたいのは…………俺のことだ」

「……………………」

 

 ヒガナとの会話でこのサカキという男は、記憶を失う前の俺に関する何かを知っているはずだという結論に至った。

 

 記憶を失う前に、俺とミュウツーは出会った。しかし、それより以前……ミュウツーが生まれた時のことを知っているサカキは、俺に関しても何か知っているのではないか。

 

 それこそ、俺が記憶を失った原因など………

 

「アキハ、書類上はガラル地方出身のポケモントレーナー」

「…………は? それがどうし………」

「幼少期に引き取られた後、ターフタウンで育つ。その際、現ガラルチャンピオンであるダンデ、ポケモン博士の孫であるソニアといった人物と関わるが、彼自身は特出した何かを残したわけではなかった」

 

 サカキが話し始めたと思えば、その口から語られるのは何故か俺の経歴。サカキの言う通り、別に実績を残したことはないが、こう口に出されるとなんか腹が立つな。

 

 ……って、そうじゃない。サカキはいきなり何を言ってるんだ。俺が聞きたいのはそういうことではないのだが……

 

「身長は152cm、体重は42kg。好物は飴。ジムチャレンジの経験はないが、チャンピオンダンデと度々バトルをしており、バトルの腕も悪くない。時々、身長が大きくなっていくダンデを羨ましそうな目で見ていたという……」

「ちょ待て待て! 確かにそりゃ俺のこと……いや別に身長なんて羨ましくないけどな!? もっと……こう、記憶を失う前のことをだよ!」

「……彼は記憶喪失を患っており、十年ほど以前の記憶がない」

 

 そうそう、記憶喪失の話を……………

 

「………………え? 終わり?」

「ああ、終わりだ」

 

 前半の情報に対して薄すぎるだろ……まあ、語るべきところのない経歴をしている俺が悪いのかもしれんが。

 

「私がキミを調べた上で手に入った情報はこれくらいだ。周囲の人間以外に特に語ることのない普通の人間、それがアキハという人物だ」

「……………マジ?」

 

 一番俺と何らかの関わりがあると思っていたサカキですら何も知らないとなると、もはや手がかりなど見つからない。このまま、俺の記憶は一生迷宮入りだというのか……

 

 

「……だというのに、何故お前はミュウツーを手にすることができたのだ?」

 

 

 疑問。それも、どうやら少し苛立ちを込めたようだった。それは、急に俺への二人称が変わったところからも現れているだろう。

 

 しかし、その言葉の意味はよくわからなかった。

 

「ただのトレーナーにミュウツーが懐くか? いや、あれだけ人間を憎んでいた奴がそう易々と心を開くはずがない。つまり、”何か“があったんだ。記憶を失う前にな」

「……何かって?」

「それは私が一番知りたい。だが、私はその”何か“が、キミが記憶を失った原因に関係していると睨んでいる」

 

 ……俺がミュウツーと繋がることになった何か、それが記憶喪失に関連している、か。

 

 そう言われてみれば、何故かしっくりくる。この話を今ミュウツーが聞いているのか、そうでないかはどっちだっていいが、どうやらミュウツーが記憶の鍵を握っている、というのは確かなようだ。

 

「なるほど……なあ、一応聞くが、お前がそうまでしてミュウツーを求めようとするのはどうしてだ?」

「どうして? フハハ、私の過去の話を聞いて、何も思わなかったのか?」

「……どうせ碌なことじゃないんだろうな。ミュウツーも嫌な親を持ったもんだ」

 

 ロケット団という組織が、ミュウツーという力を手に入れてやることなんざ決まっている。おおかた、ミュウツーもそいつらが嫌になって逃走でもしたのだろう。

 

「……まあいいさ。今日はそのために来たのではないからな。では、私からも一つ聞かせてもらおう……そこの彼女にね」

「…………私? 急だね……別にいいけど」

 

 唐突に指名が入ったヒガナは、一瞬ポカンとする。ここまでミュウツーの話をしておいて、突然ヒガナに話を向けられたらそうなるのも当然のことだが。

 

「このグラードンによる異常気象、キミは、この先何が起こるか知っているんだろう?」

「…………この先、か。そうだな……私に言わせれば、まず人類は当分はまともに暮らせないだろうね、大地は乾燥してダメになっていくし、それに………」

「私が聞きたいのは、()()()()()()()()()()()()()

 

 サカキはヒガナに話しかけると、何かを確認し始める。

 

 俺には会話の内容は全くわからなかったが、サカキが放った言葉に対して、ヒガナは少々眉を歪める。

 

「…………悪の組織ってのはどこまで知ってんだか。あいにく、それを知っててなお私の邪魔でもするなら、あのサカキだろうと容赦はしないよ」

「いや失敬……これは当たりだったかな? いや、別件で調べるうちについ気になってな。まさか、本当にそうだとは」

「………?」

 

 そうほくそ笑むサカキに、急にヒガナは敵意をむき出しにする。様子を見る限り、サカキは俺やミュウツーのこと以外にも何かを知っているようだった。

 

「世界はこうも残酷だ、危機など止みはしない。だからこそ手に入れたくなるのだがな」

「あっそう、話し終わったんならさっさと消えて欲しいんだけど。それとも、このままグラードンに焼かれてみた方が世のためになるんじゃない?」

「それは御免だな。では、私はそろそろ離れるとしよう……と、一つ忘れていたな」

 

 そう言ってこの場を去ろうとするサカキは、足を止めて少し振り返る。

 

 すると突然、その手から小さな球がこちらに向かって放り投げてくる、それも二つ。

 

「ッ!? なんだ……? これ?」

 

 ギリギリのところでどちらも手に収まる。俺は手に掴んだものの正体を見ようと、手を開く。その手の平に乗っかっていたのは、模様が入った輝く石……メガストーンだった。

 

「――――メガストーンッ……!?」

「アキハ、おそらくキミは、未だミュウツーの力を全て引き出せていない。グラードン相手に戦うのを躊躇っていたのも、そうなんだろう」

 

 驚く俺に、サカキはそう語り始める。

 

 ミュウツーの全力、だと? 今まで見てきたミュウツーの力はどれも強大なもののはずだが、まだ上があるのか?

 

「ミュウツーの力を全て引き出せれば、どんな相手だろうと負けるはずはない。何故なら、そうなるよう私が作らせたからな」

「……とりあえず、その発言はひとまず置いといて、このメガストーンって……」

「そう、ミュウツーのメガストーンだ」

 

 やはりそうか。ミュウツーの開発元であるロケット団、それもボスであるサカキなら持っていても不思議ではない。では何故、それを俺に渡したのか?

 

 その俺の頭の中の問いに答えるように、サカキは口を開く。

 

「このサカキとて世界の終わりは迎えたくない。グラードンに立ち向かうために、キミたちに少しはパワーアップでもして欲しいのだよ」

「絶対、そんな目的だけじゃないでしょ……」

「どうとでも捉えるがいいさ。どちらにせよ、グラードンを倒さなければ世界は終わりなのだからな」

 

 ……そう、もしサカキの言うことを鵜呑みにするなら、ミュウツーは最強のポケモンというわけだ。それこそ、グラードンにも負けることのない。

 

「さて、それでは今度こそさらばだ。次回こそはミュウツーと面を向かって会いたいものだな。ハハハ………!」

 

 そう言い残して、とうとうサカキは去っていった。

 

 そして、ヒガナと再び二人きり。突然の乱入者によって、先ほどまでの会話が途切れてしまった。この空気感どうしてくれるんだよサカキィ……

 

 何を話せばいいのかわからず膠着している俺に対し、ヒガナは一回ため息をつくと、口を開き始める。

 

「……アキハは、アイツの言うこと信じるかい? ミュウツーってポケモンがグラードンを倒せるようになるって……」

「正直わからない。だけど、それしか情報がないんだ。信じるしかない」

「…………そっか」

 

 ヒガナは、優しくそう頷く。

 

「ヒガナ……確かに俺は想像力とか足りてないけどさ、このまま、何もしなかった後の世界くらいは分かるんだ。だから――」

「…………アキハ、多分キミは何を言ったところで行くんだろうから、一つ約束して」

 

 俺が理由を述べようとしたところを、ヒガナはそう言い止める。ここまでくると、ヒガナも俺の言いたいことは想像できているようで、半ば諦めたような状態だった。

 

「約束……?」

「絶対に、死なないで」

 

 約束。その内容は、死なないでほしい、というもの。

 

 不安な表情を浮かべるヒガナに、俺はこう応える。

 

「ああ。元からそのつもりだよ」

「……うん、ならいいんだ。なら、私はもう止めない」

 

 この答えで、少しは不安が晴れただろうか。

 

 そう考えた俺は、ゆっくりモンスターボールへと手をかける。そして、中にいるミュウツーを呼び起こす。

 

「へえ……その子がミュウツーなんだ。ミュウツー、アキハを頼んだよ」

『…………………』

 

 ミュウツーは沈黙をもって答える。けれどもヒガナは、その様子に少し満足したような感じだった。

 

「それじゃ、行ってくる。ミュウツー、今度こそルネまで頼むぞ」

「……アキハ」

「ん? まだ何か?」

 

 テレポートでルネまで跳ぼうとミュウツーに触れた時、ヒガナが呼び止める。

 

 

「…………また星空でも見に行こうか」

 

「ハッ……何じゃそりゃ。でもまあ……そうだな、今度、見に行くか」

 

 

 

 そう言い残すと、視界からヒガナの姿はいなくなった。

 

 

 

 

 

 

「ゴニョ……」

 

 ゴニョニョは、意識がプツンと切れたようにただ立っているだけの主人を心配する。

 

 しかし彼女は、この照らされる世界の中、ただ後悔を残していた。

 

「……何で、()()行かせちゃったんだろ」

 

 目の前で去っていた彼が戻ってくる保証などない。また、あの夜を共にする保証などない。そうだというのに、どうして約束なんてしてしまったのだろう。

 

 けれど、ヒガナの心の内ではどこかでまた会える、なんて思いが募っていた。

 

「ふふ……あーあ、グラードンを使って竜神様を復活させようとするルートは失敗かー。なんせ竜神様が現れる前にグラードンが倒されちゃうんだから」

 

 ヒガナの想定していたプラン、それはグラードンを使って竜神様と呼ばれる存在を復活させる、というものだった。

 

 ヒガナはこれまでグラードンの復活、そのためにマグマ団で色々と活動をしてきた。時にはマツブサにべにいろのたまの詳細を流したり……下っ端として行動したり……グラードンによる犠牲もある程度致し方ないと考えていた。

 

 その全てが、ある一つの目的のためであった……というのに、今日それを無駄にするような行為をしてしまった。

 

「ごめんシガナ……もうちょっとだけ待っててもらっていいかな? うん、ギリギリにはなっちゃうけど……きっといけるから」

 

 ヒガナは、シガナという誰かに言葉を投げかける。

 

 それが本人に届いているのかはわからない。だけど、きっと届いていると信じて、ヒガナは次なる行動に移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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