旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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13話

 

 筋骨隆々なその姿は、いつものスリムな体型のミュウツーには似つかわしいものだった。

 

 しかし、そこから溢れ出る気というか……力?は、普段の何倍にも増して力強く感じられる。メガシンカというのはこうも色々と変化するものなのか。

 

『……………』

 

 ミュウツーは確かめるように自身の身体を眺める。その変化を身に受け、ミュウツーは何を思っているのだろう。

 

 

ガアアアアアアアアアア!!!

 

「ッ!?」

 

 俺が一瞬ミュウツーに目を取られ呆然としていると、そんなのはお構いなしにグラードンは攻撃を始める。虚をつかれた俺は、この攻撃に対して反応が一歩遅れる。

 

 迫ってくる岩の槍を眼前に、まずい――と思ったその時だった。

 

『…………………』

 

 岩の槍が突き刺さる、その直前、ミュウツーはその拳をただ目の前に向かって振るう。

 

 その拳は勢いよく岩に当たると、岩はこちらに向かってくる運動を相殺される。そして、ミシミシという音が聞こえ始めた時には、岩にヒビが入り始めて、だんだんと小石程度の大きさになって空中分解していく。

 

「……………ッ、はあ!?」

 

 思わず声に出る。今目の前で起こった現象は何だ? ミュウツーは今何をした?

 

 第一に、なぜミュウツーは拳を直に使った?

 

 ミュウツーは本来、サイコキネシスやシャドーボールなどの特殊技をメインで使うのが戦闘スタイルだ。それがどうして、こんなゴリゴリの物理タイプみたいな技を繰り出しているというんだ。

 

 だが、その答えだけなら、俺にもある程度推測できる。

 

「メガシンカ……の影響なのか」

 

 一体どういう原理で物理タイプになったのかは知らないが、とにかく強化されたのだろうとだけ考えておこう。

 

『………………………』

 

 ……え? 何? 使う技も変わった……? って、おまっ……! まじかこの技……!?

 

 ミュウツーの変化に耳を疑いたくなる。これでは戦闘スタイルが真逆だ。トレーナーである俺の方がついていくのが難しいまである。

 

「……仕方ねえか。あーもう! じゃあ、行ってこいミュウツー! ()()()()()()()!!」

 

 俺がそう指示をすると、ミュウツーは一瞬で姿を消す。どうやらテレポートは健在らしい。

 

 そうしてミュウツーが跳んだ先は――――

 

ッ!?!?

 

 もちろん、グラードンの真上だ。

 

 しかし、この形の攻撃はすでにグラードンも一度味わっている。すぐさまサイコブレイクを警戒して、落下してくるミュウツーにタイミングを合わせて岩雪崩を起こす。

 

 さっきまでのミュウツーであれば、サイコブレイクを溜めたままでこのカウンターを喰らっていたかもしれない。

 

「ミュウツー、右後ろに回し蹴り!」

 

 だが、今のミュウツーは降ってくる岩石をその足で砕きながら、そのまま攻撃に移ることができる。

 

 そして、ミュウツーとグラードンの間がゼロ距離まで近づくと、ミュウツーは思いっきり頭をグラードンへと打ち付ける。

 

 

ガッ………!?

 

 

 サイコパワーを加えたずつきの衝撃は全身まで行き届く。ここに来てようやくサイコブレイク以上の効果が見られるとは……と、思ったがまだか。もう少し追撃を与えなくては。

 

「そこだ。けたぐり」

 

 間髪入れずにミュウツーはグラードンの足元を蹴り上げる。相手の重量を利用してダメージを与えるけたぐりであれば、グラードンの重量からして、今のは相当効くはずだ。

 

 

………ッグガアアアアアアアアアア!!!

 

 

 怒号のような叫びが洞窟中に響き渡る。一瞬、その迫力に気押されそうになるが、これはグラードンが焦り始めている証拠だ。あとわずか……ほんの少しでいいから隙を生み出せば――

 

 すると、突然グラードンが地面に向かって腕を振り上げる。その両腕はそのまま地面へと叩きつけられると、いくらか揺れが起こる。

 

「ッ!? 地震……ってほどの威力でもねーな……ただの八つ当たりか……?」

 

『……………!』

 

 今のが怒りに身を任せた行動……であればよかったのだが、そう現実はうまくいかないらしい。

 

 

「……って、何じゃこりゃ〜…………」

 

 

 今の揺れで、溜まっていた溶岩が刺激されたのか、急に轟音を上げながらマグマが噴火し始める。それに伴って、無数の岩の槍があたりに不規則に生えては、すぐに崩れ始める。

 

 まるでこの世の終わりのような光景に加えて、絶望的なことがもう一つ。洞窟自体が崩れようとしているのだ。

 

 天井の岩はパラパラと小石が落ちてきて、今にも瓦解していきそうな雰囲気すらある。

 

「さっさと勝負を決めなきゃ終わり、ってわけか………」

 

 俺は洞窟が崩れ落ちれば生き埋めになってしまう。一方、グラードンは崩壊程度なら生き残ってしまうまである。つまり、今すぐここで倒すしかないのだ。

 

 しかし、あのグラードンを一撃で倒せる技なんて――――

 

 

「そんなの一つしかないよなあ……!? ミュウツー! 一か八かだ! ()()使うぞ!」

 

『………………………』

 

 そう、あるのだ。

 

 ミュウツーの技変更を聞いた時から、これを使おうと決めていた。ミュウツーも俺がそう思うのを分かって、これを俺に伝えたのだろう。

 

 現在、グラードンは激昂しており、一発くらいは攻撃を叩き込める隙がある。

 

 だが、もし失敗すればあの溶岩にダイブか、それとも岩に押し潰されて圧死か。どちらにせよ、やらなきゃ負けだというのは確かだ。

 

 

 ――――ならば、この一撃に全てがかかっている。

 

 チャンスは一回、外せば終わり。そんな思いが身体を駆け巡る。

 

 ああ、心臓がうるさい。別に俺自身がやるわけじゃないのに、なぜだか今だけはミュウツーの気持ちとシンクロしてるようだ。

 

 さあ、叫べ。その技の名を――――

 

 

 

 

ミュウツー!!! ばくれつパンチ!!!

 

 

 

 

 

 ミュウツーが腕を大きく振るうと、まるで爆発のような、フラッシュのような光が発生する。そんな光景を目にしたが最後、俺はその光に飲み込まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドドドド!!と、地面から何かが崩れていくような音が轟く。地上に残っていた者たちは、その音を聞くと、嫌な予感に襲われる。

 

「今のは……まさか、洞窟が……」

 

 ダイゴはこの音が洞窟の崩れる音だと気づくと、そこにいるはずのグラードン、そしてアキハのことを思う。未だ、天候は変わらない。であれば、アキハは無事なのだろうか。この崩落に巻き込まれてしまったのではないか、そんな考えが頭によぎる。

 

「おい……アイツはどうなってんだ? こっから海から出てくんのがグラードンだったら、相当まずいぞ……」

「……その時は、僕が責任を持ってグラードンを止めよう。アキハくんが頑張ってくれたんだ、僕がやらないわけにはいかないからね」

「…………チッ、テメエがそう言うんなら、俺も行くに決まってんだろ。マツブサを止めれなかった俺にも非はあるってんだ」

 

 考えられる最悪の結末は、グラードンがこのまま世界を照り尽くすことだった。それを防ぐためなら、何だってしよう、というチャンピオンとしての責任を果たそうというダイゴの気持ちがあった。

 

 

 

「――――あのー……なんかもう負けたみたいな流れにしないでもらえません?」

 

 

 

 背後から声がする。

 

 誰もいなかったはずの場所には、一人と一匹のポケモンが立っていた。

 

「あ、アキハくん!?」

 

 いつの間にか現れたアキハを見て、ダイゴは驚いて声を出す。それもそのはず、あんな崩落の音を聞いては、到底無事でいられるとは思っていなかったからだ。

 

 しかし、無事……とは言っても、特にミュウツーの方はかなり傷を負っているようだった。だとしても、彼らが生きてこの場にいるとなれば、言えることはひとつだろう。

 

「アキハくん……君たちは、グラードンを止めてくれたというのか……!?」

「はい、相当苦戦しましたけどね……っと、ようやく空も元通りになってきたっぽいな……」

 

 アキハがそう言うと、空に浮かび上がっていた熱球は霧散していく。それと同時に、パラパラとその光の結晶が降り注いでくる。その光景は、ようやく世界が平穏を取り戻した証のようにも見えた。

 

「最後、危ないところだったな……なんとかギリギリでテレポートが間に合ったからよかった……」

 

 グラードンとの戦いがあった後のはずなのに、あまりにも平然とミュウツーと会話をするアキハに対して、ダイゴは一瞬息を呑んでから、こう告げる。

 

「……ありがとう。アキハくん、キミのおかげで、世界は救われたよ」

「世界って……いや、そこまで大袈裟とも思えないほど恐ろしい相手ではあったけど……頑張ったのは、ミュウツーの方ですよ」

「そんなことはない。アキハくん、キミとミュウツーだからこそ、グラードンを倒すことができたんだ」

 

 褒められ慣れていないアキハは、そう言われるとむず痒いような気分になるも、とりあえずその褒め言葉を受け入れることにする。

 

 一方、世界滅亡の原因となったマグマ団のボス、マツブサとその部下、ホムラも同じく空を見上げる。彼らは、青に戻っていく空を見て、何を思うのだろうか。

 

「…………目覚めのほこらに溜まっていたエネルギーが、世界中へと降り注いでいるのか……」

「さっきまでの不安や恐怖がまるで嘘のように……心がやわらかく、ほぐされていくような……」

 

 先ほどまでは世界の危機にあった恐怖で、ホウエン地方の誰もが怯えていたはずが、今やこの景色を眺めることで安心感さえ覚えている。

 

 アオギリもまた、この光景を見て何かが分かったような顔つきをする。

 

「海か大地……ポケモンか人間……俺たちはどっちかを潰して、幸せを追い求めてたけどよ……世界のバランスが戻りつつある今、真っ正面からそいつを考え直さなきゃならねえんじゃねえのか……? なあ、マツブサ……」

 

 偏りすぎた思考は、偏りすぎた結果を生む。今回は、ただ立場が違っただけで、自分もマツブサのようになっていたかもしれないと気づいたアオギリは、考えを改める意思を見せる。

 

 マツブサは、それを聞いて数刻沈黙すると、ゆっくりと口を開く。

 

「……そう……だな。けれど……私に、もしかしたら世界を破滅させていたかもしれない私に、やり直す資格など………」

 

 自らの犯した罪を理解したマツブサは、再び口を塞ごうとする。

 

 だが、それを許さない者もいた。

 

「……リーダーよ。たしかに、あなたは決して許されぬ過ちを犯しました。この星に生きる者全てに対して」

 

 ホムラは別に糾弾するわけでもなく、かといって盲目的に肯定するわけでもなく、ただ続ける。

 

「しかし、だからこそやり直してください。自らの罪を、自らの人生をかけて償い続ける、逃げずにやり直すこと……それが、大人として責任を取ることでしょう」

 

 大人としてのあり方、それは誰しもができることではない。だけど、これほどのことをしたマツブサだからこそ、それに向き合うべきなのだ。それが、責任というものだから。

 

「もしあなたにその覚悟がおありでしたら……このマグマ団サブリーダーのホムラ、そんなあなたの側近としてどこまでもお仕えしますよ」

「ホム…………ラ…………」

 

 そして、それを果たすというのなら付いていくと言うホムラは、今のマツブサにどれだけの救いとなっただろうか。

 

 ただ、誰かがいてくれるというだけで、マツブサにどれだけ安心を与えただろうか。

 

「……………………ありがとう」

 

 それは、たった一言に全てが表れていた。

 

 

 

 

 

 

 ……………イイハナシダナー

 

 ホムラの言葉に思わず聞き入ってしまっていた。かっこよすぎだろ、この糸目。

 

 そうして俺が瞼を濡らしそうになっていると、アオギリがこちらに近づいてくる。

 

「おいガキンチョ……「ガキンチョじゃねえって」……………おい、たしか……アキハだったか」

「なんだ?」

「ホムラを……グラードンを止めてくれてありがとよ。チャンピオンも言ってたが、お前がいてくれたおかげで、今世界はこうして無事なんだ。そこは素直に誇っていいんだぜ?」

「ふーん……じゃあこれから自己紹介の時には救世主です、とでも名乗っていいのか?」

「……それはやめとけ」

 

 そりゃ残念。旅するポケモントレーナーだけじゃ、味気ないと思っていたんだが。

 

 そんなこんなで、世界の危機は去ったし、マグマ団の方も大丈夫そうで、アオギリの方とも協力してこれから良くなってくれるんじゃないだろうか。

 

「ま、なんやかんやあったけど世界も守れたしハッピーエンドだな!」

 

「ええ、そうですね!」

 

 俺がそう言うと、賛同するような声が一つ。

 

 ……ん? 今の声は……女の子の声だったけど……この場に女の子なんていなかったよな?

 

 そう思って、声のする方を振り返る。

 

「…………あっ」

 

 しかし、それを見た瞬間、俺の顔からは冷や汗が止まらなくなった。

 

 そう。俺は完全に忘れていたのだ、ラスボスのことを。

 

「ア キ ハ さ 〜 ん ? どうして何も言わずに先に行ったんですか〜? 私、すっっっっっっごく大変だったんですけど????」

「…‥いや待てハルカ、大変だったのは俺もだ。ってことでここは許し――――」

 

 ……そこから俺が覚えているのは、俺が海に沈む寸前までのことだった。

 

 

 

 

 

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