旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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16話

 

 

 

「…………それで? つまり何が言いたいのだ?」

「だからあ、アンタのところの部下が暴走してんですけどお? 責任とかそこらへんどうなってんですかねえ?」

 

 レッツ、ダル絡み。

 

 カガリへの嫌がらせを目的として、第一にその上司のマツブサからちょっかいを出すことを決めた俺は、マグマ団のアジトに訪れていた。しかし、部下があんなんになっているというのに、マツブサはいたって冷静だった。

 

 以前のマツブサとは違って、何か憑き物でも落ちたような、どこか余裕のある姿だ。

 

「ふむ、カガリがそのような真似をしているというのは分かった。そうなってしまった責任の一端も私にあるのだろう」

「いやいや、リーダー! そんなの勝手にカガリが暴走してるだけじゃないですか! リーダーに非はありませんぞ!!」

 

 責任を受け入れようとするマツブサに対し、ホムラはそう反論する。

 

「おいキサマ! どういう訳でここに来たかは知らないが、こちらだって今忙しいんだ! カガリが今どこで何をしていようが知ったものか! さっさと右回れして引き返すんだな!」

「はあー!? こっちは既に被害受けてんですけどー!? あーイタタター、急に椅子にされた時の腰の痛みがー、全治六十年だわー。これやべーわー」

「ぬぐっ……!? キサマ……グラードンを止めただかなんだが知らんがな……キサマのようなオコチャマを相手にしてる時間はないのだ! こっちはまだ事後処理がたくさんあるのだぞ!!」

「はい地雷踏んだー!! 誰がオコチャマだあ!? 見た目で判断するなって言われなかったか? この、いかにも裏切りしそうな目したデブが!!」

「きっ、キサマァ……! 一秒で矛盾するセリフを使いおって……!!」

 

 カガリの責任追及をしていたはずが、もはや本筋から外れてただの言い争いになっていた。

そうして、俺とホムラがますます騒々しくなってくると、さらに収拾がつかなくなってきてしまっていると……

 

「……一旦落ち着け。ホムラ、少しくらいは彼の話を聞いてやろうではないか」

「くっ、しかし…………」

「悪いのは我々だ。部下の責任を受け止めるのも、リーダーの役目だ」

「まあ……リーダーがそうおっしゃるなら」

 

 マツブサは一言でホムラを宥めると、ようやく口論は止まる。……マツブサって……こんな大人だったか? なんかもっと……子供みたいな考えしてたはずだが、色々あったのだろう。

 

ホムラが落ち着くのに伴って、俺も少し頭を冷やす。そして、何のためにここに来たのかを再確認する。

 

「我々は、カガリを止めなければならない立場にある。しかし、今は少し都合が悪いのだ。表立って動くわけにもいかないしな」

「……そんなことくらい分かってるよ。正直、ここに来たのも、ちょっとした鬱憤ばらしだし」

 

 マグマ団は、特にマツブサやホムラなどの幹部は、グラードン絡みの件で忙しいというのは百も承知だった。しかし、俺がここに来たのはある確認をしたいからだった。

 

「それで……隕石が衝突するってのはマジなのか?」

 

 そう言うと、二人は眉を顰める。この話題は二人としても気になっていたはずだ。

 

「……結論から言おう。今から三日……いや、もしくは明日明後日には衝突すると、シミュレーションは示した」

「やっぱ本当なんだな……」

 

 隕石の衝突、カガリが言っていたことだが、これで確定したと言ってもいいだろう。信じがたい内容ではあるが……もはや数日まで迫っているとは……

 

「ああ……全く、我々がグラードンを復活させたことと同じくらいの危機が、こうも連続して起こるとはな……」

「ほんとだよ。せっかくグラードンを倒しても次は隕石って……どうなってんだよこの世界は……」

 

 こんな数ヶ月ペースで世界の危機が訪れなくても……少しくらいは休みがあってもいいと思うんだ。こんなんじゃ、心が十分に回復する暇がない。

 

 そんな現状を嘆いていると、マツブサは一度メガネをカチャリと上げる。

 

「……さて、そこで一つ気がかりな点が一つある」

「……?」

「どうやってカガリはこの情報を手に入れたのか? この情報は限られた人間しか伝えられていないはず。しかも、隕石転移装置の詳細なども知っているとは……」

 

 どうやら、マツブサはどこでカガリが情報を仕入れたのか気がかりなようだった。言われてみれば……データ専門のホムラならともかく、ただの一幹部であるカガリがどうしてここまで知っていたのかは謎である。

 

「カガリのことですから、どうせ研究施設にでも忍び込んだのではないですか? まだカガリに従っている部下も数人いるようですし」

「……私が言うのもなんだが、カガリについて行った部下も、なんならカガリ自身も少し残念なところがある者たちだった。彼らが研究所に侵入して、ここまでの計画を立てた、と言うのは考えにくいのだ……」

「それ、上司の言うセリフか……?」

 

 ただ、言っている内容は否定できないのも事実だ。カガリとは一度会っただけだが、どこかネジが外れているというか……目的のためなら手段を選ばなさすぎるところとか……色々と手のかかりそうなやつだってのは分かった。マツブサも苦労してたのかな……

 

 

「……まあ、この話はこの辺りにしておこう。それより、問題はカガリがその装置を破壊しようとしていることだ」

「そうだ、その計画の全てがうまくいくとは思えんが、一応どうにかしておかないとだろ?」

 

 ここでようやく、問題に突入する。カガリが行おうとしているのは、まさしく世界の破壊だ。対策しておくことに越したことはない。

 

「それならば……もっと相談するべき相手がいるはずじゃないのか。ワタシたちは現在動けない、頼りになるのは彼らだろう」

 

 彼ら、という言葉に反応して少しギョッとする。マツブサの言いたいことは分かっているが、それを踏まえてわざわざ避けようとしていたが、結局避けられぬ道なのか。

 

「うっ……いやあ、それはそうなんだが、実はあれ以来アイツに会うのが怖くて……」

「…………そ、そうか」

 

 はあ……どうなるか分からんが、行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。マグマ団の残党がそんなことを……うん。情報提供感謝するよ。アキハくん」

「ああ、それじゃ……俺はこれで……」

「……また何ですぐにいなくなろうとするんですか。私、もう怒ってませんよ?」

「……ほんと?」

 

 ハルカはそうは言うものの、こうしてチャンピオンを二人前にすると、思わず逃げようと思ってしまう。情報は伝えるだけ伝えたから、もうこの場所に長居する必要はないんだが……

 

「それにしたって心配入りませんよ。私がいればマグマ団なんて返り討ちにしてやりますから」

 

 シャドーイングをしながらそう言う姿勢からは、はっきりと自信を感じられた。……そりゃそうか、チャンピオンだもんな。もうまともに戦える相手を見つける方が難しいほどなんだろう。

 

「はは、それは頼もしい。こんなことで計画を邪魔されちゃたまったものじゃないからね」

 

 そんなハルカを見て思わず苦笑いをするダイゴさん。返り討ちに遭うであろうマグマ団に同情でもしているのだろうか。まあ、俺もまともに戦えるとは思ってないが。

 

 ……と、ここでダイゴさんに聞きたかったことがあるのを思い出す。

 

「そういえば……ダイゴさんとかはいつからこのことを知ってたんだ? 少なくとも……マグマ団騒ぎのあった数ヶ月前だとは思うんだが……」

 

 マツブサから話を聞いて、少し疑問に思っていたのだ。仮に数ヶ月前だったとしても、隕石に対する準備期間としては十分には思えないのだが……

 

「……まあ、アキハくんになら詳細を話しても構わないか。僕たちが巨大隕石のことを知ったのは……つい数週間前のことだよ」

 

 数週間前ねえ……………え、数週間前!?

 

「え、えぇと……つまり、そこで隕石の存在を知ってから、転移装置を作り出したんです?」

「うん。親父……いや、デボンコーポレーションに協力してもらってね。多少急ピッチではあったけど、無事完成できたよ」

 

 それだけの期間で、よく隕石転移装置なるものまで開発できたものだ。これもダイゴさんのマネーパワーのおかげなんだろう。そこまでくると、羨ましいとかいうレベルの話ではなくなってくる。

 

「ちょっと説明させてもらうと、巨大隕石が衝突することを知った僕たちはすぐに対策に掛かった。どうにか軌道を逸らせないか、隕石自体を破壊することはできないか……大体は、隕石の規模的に無理だったんだけどね」

「それで……隕石をワープすると?」

「ああ、ポケモン交換の技術に目をつけた僕たちは、隕石をこの宇宙からどこか遠く離れた次元までワープさせることにしたんだ」

「それにしたって、規模がデカすぎて想像ができないな……」

 

 どこか遠く離れた場所っていったって、無限に続くこの宇宙のどこかなのだろう。ただ位置をずらすだけで、世界から危機が去るというのだから楽な話ではあるのだが。

 

「しかし……解せないところがあるんだよ」

「ん? 何がです?」

「カガリのことだ。彼女がこの情報を手に入れたというのが今でも信じがたいんだよ。外部に漏らすようなセキュリティーはしていなかったはずだが……」

 

 やはりダイゴさんもそこは気になるらしい。正直、情報を手に入れられるとしたら、どっかの研究員が言いふらした、もしくは研究員の中にカガリの部下などが潜んでいた……くらいしか、思いつかない。

 

 しかし、情報の出所がわからない以上、この話を続けたところで無意味かもしれない。それこそ、あの時本人から聞き出しておけばよかったかもしれない。

 

「それについてはマツブサたちも気にしていたな。ま、結局あいつらも知らなかったから、答えは分からずじまいなんだけど……」

「ふむ……やはり本人を捕らえて話を聞き出すしかないか……そうなると、彼女がいつ襲撃してくるかが知りたいね……」

「……そういえば、そのカガリの目的の隕石転移装置とやらはどこに? もしかして、既にロケットに搭載してたりして?」

 

 つい気になった俺は、それについて訊いてみる。隕石転移装置とは一体どういうものなのだろうか、隕石すらワープさせるのだから、もしやとてつもなく巨大なものなのか? 

 

 カガリが破壊する、と言っていたのを考えるに、明確に形があるものなのだろうが、いまいち想像がつかなかった。

 

「ああ……それなら……」

「私が持ってますよ!」

 

 ダイゴさんのセリフに被せるように、ハルカははっきりとそう告げた。そして、そう言う彼女の手にはポケモン図鑑ほどの大きさの機械がポンと置かれていた。

 

 って……思ったより小さいな。本当にこんなんが隕石をワープさせるほどのエネルギーを持っているのか? と、感じてしまうくらいの大きさだったが、これに世界がかかっているとなると恐ろしいものだ。

 

「へえ…‥これが……。思ってたより小さいな。それとも、本体は別にあるのか?」

「いや、これが正真正銘転移装置さ。このくらいの大きさだから、普通に保管してるよりハルカちゃんに持っててもらった方が安全だと思ってね」

「ふふん。マグマ団なんかには指一本も触れさせませんよ」

 

 それもそうか。ハルカが直々に持っているとなれば、盗まれる可能性もない。それはホウエンで最も厳重なセキュリティというわけだ。

 

「たしかに。ハルカが持ってたら、マグマ団の奴らもそう簡単には――――――」

 

 

「グラエナ、かみくだく」

 

 

 ―――と、言いかけた瞬間、どこかからともなく、そう声が聞こえていた。

 

 思わず声の出どころへ振り向く。

 

「カガリッ……!?」

 

 そこにいたのは、先ほどまで話題の中心にいた問題児、カガリ。いつの間にかそこに立っていた彼女は、顔全体から生気が失われつつも、何故か口角を歪めて笑みを作っていた。

 

 そんなカガリの目的は言うまでもなく――――――

 

「アハッ……!! これで、オワリッ、だよッ!!!」

 

 グラエナが素早く向かっていく先にあるのは、ハルカ……が手に握る、隕石転移装置だった。

 

 俺は反応が一歩出遅れる。既にグラエナには攻撃の指示が下されている。それに対応するには、俺はもう間に合わない。まずい―――

 

 

「……話に集中してた今なら、不意打ちが決まると思ったかい?」

 

 

 しかし、何の焦りもなく、ダイゴという男は言葉を言い放った。

 

 

「メタグロス、バレットパンチ」

 

 

 すると、ガシャリ、という音がすると同時に何かが高速で動いたのが目に入った。それはまるで弾丸のように一直線に、ハルカへと飛び掛かるグラエナに、向かっていく。

 

 スロー再生であれば、今何が起きてるのか理解できたのだろうか。だが、俺の肉眼で捉えられたのは、次の瞬間には壁に激突してるグラエナの姿だけだった。

 

 

「……………………は?」

 

 

 意気揚々と不意打ちを仕掛けたカガリの顔は、一瞬で困惑へと変わる。

 

「やっぱり不意打ちをするなら今だろうとは思ったよ。おおかた、アキハくんのことをつけていたんだろう?」

「ぐッ……チャンピオン……ダイゴ……!!!」

「もう“元”、チャンピオンだよ。それで、隠れてる君たちもさっさと出てきたらどうだい? 不意打ち作戦は既に失敗したんだ。ここからは真っ向勝負といこうじゃないか」

 

 そうダイゴが言うと、カガリの背後からは数人程度のマグマ団員がぞろぞろと現れる。

 

「……アハ、アハハハハ!! いいよ。ボクもそいつにリベンジしたかったところだし……この手で、デリート……してあげる……!!!」

 

 狂気的な笑みを続けるカガリは、もう一つのモンスターボールを手に取る。それに応じて、団員たちもまた、ポケモンを次々と繰り出していく。

 

 まあまあ人数多いな……でも、さっきは出遅れたし、ここで挽回しなくては……

 

「アキハくん、大丈夫だ」

 

 しかし、俺がモンスターボールを取り出そうとすると、ダイゴさんは手を出してきてそれを防ごうとする。

 

「…‥大丈夫って、この人数相手は流石に……」

「いいや、僕じゃない。ここは、彼女に任せよう」

 

 彼女、そう言うダイゴさんの後ろには、既に準備万端といった様子のある人物が立っていた。

 

 ああ、確かにそうだった。彼女であれば、こんな雑兵など大したことはないのだろう。そう思って、俺は一歩後ろに引く。

 

 彼女は、相棒であるバシャーモを繰り出すと、身につけていたバングルにはめ込まれていた輝く石に手をかざす。

 

 

……バシャーモ、メガシンカ

 

 

 ハルカ。現ホウエン地方チャンピオンにして、以前のマグマ団を壊滅させたほどの実力の持ち主である彼女なら、もう俺の出る幕など無いにも等しいのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「バクーダッ!?」

 

 メガバシャーモの格闘技を喰らったバクーダは、グラエナたちと同じように壁へと飛ばされていく。……あれ、何故だろう。この光景、若干の既視感を感じる……

 

 ……と、ここでカガリ側は全滅か。いやー、さすがチャンピオン。

 

「これで全員片付けましたね。さて、どうしますか? 大人しく捕まってくれたらこっちも楽なんですけど」

「クソ……どうっ……して!! ボクはまだこんなところで……!!」

 

 敗れて膝をつくカガリにジリジリと詰め寄るハルカ。圧が、圧がすごいんだ。そして年頃の女の子がしていいようなプレッシャーじゃないんだ。 

 

 そして、そこいらのマグマ団員の拘束を終えたダイゴさんもまた、カガリへと近づいていく。

 

「カガリ、君にはいろいろと聞きたいこともある……が、まず第一に、どうやって隕石の情報を手に入れた? あのセキュリティーの突破は容易では無い。だとするなら……考えられるのは、協力者がいた……あたりかな」

「……フン。そんなの、言うと思う?」

 

 生意気そうな感じで答えるカガリ。協力者をまもるためか、はたまた単に嫌っている相手に、協力なんてする気はさらさらないのか。どちらにせよ、そんなカガリの態度にハルカは青筋を立てる。

 

「………バシャーモ、フレアドライ…………」

「ちょっ!? ハルカ、生身に対してやるのはまずい!! か、カガリ!? 協力者がいるかいないかだけでいいからさ、教えてくれないか!?」

 

 やばい、ハルカさんキレてる。そう思った俺は、ハルカを制止して、俺はカガリにそう頼む。

 

「………………………はあ、もう、いっか。その……協力者? だっけ、そいつは――――」

 

 諦めたようにそう呟くカガリ。

 

 しかし、ようやく折れてくれたかと安心したのも束の間、突然、どこかからゆっくりと足音が聞こえてくる。

 

 こんなところに現れるなんて、マグマ団の次は一体誰だ? と、若干警戒しながらその人物の姿を目に入れようとすると、そこにいたのは思いしなかった人物だった。

 

 

「おーっと、もう終わっちゃってたか。それに、この様子を見る限り、そこのマグマ団たちは失敗したっぽいね。そりゃチャンピオンには勝てないか」

 

 

 飄々とした言動、黒髪でボロボロのマントに、側には一匹のゴニョニョまでいる。そんな人物の存在を、俺は既に知っていた。

 

 

「……………ヒガナ?」

 

「やあ、アキハ。元気?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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