旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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17話

 

 

「………………ヒガナ?」

 

「うん、そうだよ。アキハ」

 

 困惑する俺に対して、彼女は、ヒガナは余裕を持って答える。

 

 どうしてここに、と喉から声が出そうになる直前、それよりも先にハルカが声を上げる。

 

「あーっ!! ユウキくんからキーストーン奪ったお姉さん!!」

「…………え?」

 

 ヒガナの顔を見た途端何を言うのかと思えば、出てきたのは突然の盗難行為の申告。急に現れたにも関わらず、いきなりそんな呼び方で呼ばれるとは思わなくて、思わず困惑する。本当にその盗人呼ばわりはヒガナに向けられたものなのか疑問にさえ思った。

 

「あはは、そりゃ手厳しい。けど今はそんなことを追求してる場合じゃないんじゃないかな?」

「…………アキハくん、ハルカちゃん。彼女は?」

 

 おそらくこの場で唯一、ヒガナと面識がなかったダイゴさんは説明を求める。

 

「おっと、自己紹介くらい自分でできるよ。私はヒガナ、今はただの観光客だよ。宇宙に思いを馳せる……ね」

「「「………………………………」」」

 

 …………以前ふざけた自己紹介をした俺が言えたもんじゃないが、自己紹介、という前提でなら何を言ってもいいわけじゃないぞ。

 

 ダイゴさんは困惑するようにも、ますます警戒を高めるようにも目つきを強張らせる。

 

 誰もが沈黙してしまい、この凍てついた状況をどうにかしなければ、という思いで俺はとにかく口を開く。

 

「………えーと、ヒ、ヒガナ? 聞きたいことは山ほどあるんだが、まずは……何でここに? まさか、本当に観光目当て?」

「いや? こんな機械ばっかのところなんて私が見ても何一つ理解なんてできないよ? 冗談なんだから、真に受けないでくれたまえ」

 

 じゃあ目的は何なんだよ……

 ふざけた態度を一貫するヒガナに、一同はますます混乱が募る。

 

「……君も、彼らと同じくマグマ団の一員で、装置を狙いにきたのかい?」

 

 ダイゴさんは警戒を解くことなく、そう問いかける。

 

 いやいや、ヒガナがマグマ団と関係なんて――――と、思ったが、ここであることを思い出す。

 

 以前、ミュウツーのテレポートミスでトクサネシティに跳んだ時、ヒガナはマグマ団の服装をしていたはずだ。それを見て、何の関係もない。と断言することなんてできないだろう。

 

 それに、今はタイミングがいくら何でも悪すぎる。カガリたちがやられてから現れるなんて狙ったとしか考えられない。仮に、ヒガナがマグマ団ならば、その目的はカガリの援護、ひいては隕石転移装置の破壊とも考えられる。

 

 しかし……ヒガナが、まさか本当にマグマ団の一員だなんて正直思いたくはない。ホウエンで知り合った数少ない友人なんだ。頼むからそうではないと――――

 

 

「んー。ま、ほぼ正解かな」

 

 

 ――無常にも、そんな俺の思いはたった一言に打ち砕かれる。

 

「……そうか。なら、止めさせてもらうよ。メタグロス」

 

 ダイゴさんは冷静に、メタグロスを繰り出す。それに対して、ヒガナは抵抗してポケモンを繰り出すことはせず、ただそこに立っているだけだった。

 

「あはは、そう血気盛んにならないでよ。私ってば、今はマグマ団はやめたんだ。なーんかあの服ジメジメするし、急な任務とか入れてくるから面倒くさかったしね」

「じゃあ、今はどうしてここに? カガリの指示で来たんじゃないのか?」

「ここには私の意思……いや、使命があって来た。ちなみに言うと、そこのマグマ団たちに情報を流したのは私だよ」

「ッ!?」

 

 さらっと重要事項を言い放つヒガナ。俺の知っているヒガナとは、似ているようで似つかない彼女の姿に思わず立ちすくんでしまう。

 

「その声……確かに、アイツと同じ……ボク達に隕石の情報を教えた奴で間違いない……」

 

 そこにいたカガリも、確かにそうだと肯定する。

 

「ヒガナ……だったね。君にはいろいろと聞くことがありそうだ。大人しくしてくれると、助かるんだけど、どうかな?」

「うーん、そっちが素直に装置を引き渡してくれたらいいよ?」

「…………なら、交渉は決裂だ。ハルカちゃん、もう一仕事頼むよ。アキハくんも」

「あいあいさー! ついでに、ユウキくんのキーストーン返してもらいますよ!」

「ッ……………ヒガナ………」

 

 ……本当に、戦わなきゃいけないのか? そんな俺のためらいを置いて、三人は臨戦体制へと突入する。

 

「ありゃ、結局ポケモンバトルか。まー仕方ないか。ボーマンダ、いくよ」

「バシャーモ、もう一回お願い」

「敵なら容赦はしないよ。メタグロス」

 

 俺を除く三者は既に戦う覚悟を決めており、それぞれが自身の持つ()()()()()()へと手をかける。

 

 

 

ボーマンダ、メガシンカ

 

バシャーモ、メガシンカ

 

メタグロス、メガシンカ

 

 

 極彩色の輝きが溢れ出し、そうして各々の相棒は最強の姿へと進化を遂げる。

 

「メタグロス、バレットパンチ」

「バシャーモ! つるぎのまい!!」

 

 動き出したのは、二人が先だった。メガシンカを経たメタグロスは、先ほどグラエナを捉えた攻撃よりもさらに速く攻撃を打ち出す。その動きに合わせて、バシャーモは一度攻撃力を高める動きを見せる。

 

「ボーマンダ、ハイパーボイスで打ち返せ!」

 

 メタグロスの攻撃が届くよりも一歩先に、ボーマンダは反撃のハイパーボイスを放つ。すると、メタグロスはその攻撃に圧されて、一旦引き返して距離を取る。

 

『……………………』

 

 そうして戦いを見ているだけの俺に、モンスターボールの中のミュウツーが、戦わないのかと尋ねてくる。

 

 ………戦いたくなんてないさ。

 

 ヒガナにはいろいろとよくしてもらった恩もあるし、借りだってある。それに何より、今ここでヒガナと戦う……というか、ヒガナのことを傷つけたくない、っていう気持ちがある。

 

 傷つけたくないなんて、傲慢で、どっちつかずだってってのは分かってる。だけど、ここでヒガナと戦えば取り返しのつかないことになりそうな――――

 

 

「バシャーモ、フレアドライブ!!」

「打ち勝つよボーマンダ、げきりん!!」

 

 

 しかし、そうしている間にもポケモンバトルは進んでいく。とうとう技の撃ち合いになる……そう思った瞬間だった。

 

「…………今だシガナ! 装置をパクっちゃえ!」

「ッ!?」

 

 ヒガナの指示が響くと、ハルカはすかさず後ろを振り向く。ハルカはおそらく装置を盗られると警戒したのか、一瞬動きが止まる。

 

「なーんちゃって、不意打ちってのはこうやるんだよ」

 

 そうして、ハルカが振り向いた先にはなんと何もいなかった。何かが来ると思っていたハルカはさらに動揺する。そこで生まれた一瞬の隙を、ヒガナは見逃さなかった。

 

 ヒガナは軽やかな動きでハルカまで瞬く間に近づくと、その腕を伸ばす。流石のハルカも生身の肉弾戦には慣れていなかったのか、伸びてくる手を見て思わず目を閉じてしまう。

 

 だが、ヒガナの手はハルカの持つあるものへと向かっていた。

 

「回収、完了っと」

「…………あっ! そ、装置が………!!」

 

 ハルカが持っていたはずの装置は、ヒガナによって奪い取られてしまった。

 

 装置を奪い取ったヒガナは、手に持つそれをまじまじと見つめる。その顔は少し眉を顰めて、嫌なものでもみるように。

 

「………へえ、これがねえ。そんな大層な代物には見えないけどね」

「メタグロス、しねんのずつき」

 

 その瞬間、一切の躊躇なくダイゴさんはそう言い放つ。

 

 メタグロスもまた今度はヒガナに向けて、本気で攻撃を行う。それもそのはず、装置が奪われた今、世界を守るためには躊躇っている場合ではないからだ。

 

「うわっ、本当に容赦ないね? ボーマンダ、ハイパーボイス!!」

 

 だがこの攻撃にもヒガナは反応してみせる。それによって再びメタグロスの攻撃は止められる。

 

「すいません……ダイゴさん、装置が……」

「ああ……大丈夫だよ。ハルカちゃんのせいじゃない。…………一つ聞きたいんだが、君はその装置が無くなればどうなるのか、分かっているのかい?」

 

 装置は既に奪われ、ヒガナの手中にある今、こちらが後手に回っている状態だ。ヒガナがその手に少し力を加えれば、装置は使い物にならなくなってしまう。

 

 メタグロスの攻撃が外れた今、ダイゴさんは迂闊に攻撃の指示を出せないでいる。ヒガナを刺激して何が起きるかなんて分かったものじゃないからだ。

 

「隕石はワープできなくなり、この世界は終わり……って感じかな?」

「それが分かっているなら……どうして装置を破壊しようとする? この際、君が何者なのかはどうだっていい。だが、それだけは渡すわけにはいかないんだ。それは、世界を救うための唯一の希望だから」

「…………キミたちにとっては、そうなのかもね。この歪な科学の結晶が」

 

 歪……?

 そう言うヒガナはその装置についても、俺の知らない何かを知っているような言い方だった。

 

「この装置、隕石をワープするなんてすごい機械だけど、そのエネルギーがどこから来てるか知ってるかい?」

「……………………………………」

「正解は、ポケモンの生体エネルギー。言い換えれば、生命力ってやつだね。そいつをちょちょいって吸い上げてね……この装置に注ぎ込んだってわけ」

 

 生体エネルギー、すなわち生命力とも言えるそれをポケモンから吸い上げている。

ということは、吸い上げられたポケモンがいるってことで……そのポケモンはどうなるんだ?

 

 嫌な情景が浮かんでくる。ダイゴさんの沈黙もまた、それを肯定しているようで何とも言えないようだった。

 

「大多数の生き残りのためには少数の犠牲が必要ってのは分かるよ。そうやって人類ってのは発展してきたしね。……でも、このやり方だけはいただけないなあ」

 

 ヒガナは手に持つ装置をクルクルと投げ上げながら告げる。

 

 それを聞いていたダイゴさんの額からは汗が流れ、同時に若干呼吸を荒くする音が聞こえる。

 

「……ッ、キミはっ! 本当にどこまで……知って……!!」

「私が知っているのは歴史だけだよ。何千年も前から人類は同じようなことをしては、碌な目に遭ってない。その技術だって、『最終兵器』と全く同じものだからね」

 

 珍しく、ダイゴさんは落ち着かない様子を見せる。逆に、ヒガナの方は淡々と事実を述べているだけだった。その事実が何を意味しているのかは分からなかったが、隕石転移装置に使われているのは危険なものだということは推定できた。

 

「もう説明はいいかな? これが禁忌の力だってのは分かってるでしょ?」

「……それがたとえ許されざるものだとしても、僕たちはそれに縋るしかない。それを失って、どうやって世界を守るっていうんだ!!」

「…………ああ、安心しなよ。その使命なら、()が受け継いでいるから」

 

 ……私が、受け継いでいる? 

 それは……どういう…………

 

 それを考えた時、目の前でヒガナが手で装置を掴み、俺は次に起こるであろうことに気づく。

 

 

「それじゃあね。仮初の希望」

 

 

 

 ぐちゃり、と何かが潰れる音が響く――――――

 

 

 

 

 

「……………………………………………………は?」

 

 

 

 

 ――――はずだった。

 

 

 

 ヒガナは力を込めた拳を見る。そこには壊れた装置があるはずだったが、現実はその手には何も残されていなかった。

 

 何が起こった―――それを理解するするのに、あまり時間は要らなかった。

 

 

 

『………………………………』

 

 

 いつの間にか、そいつはそこに揺蕩っていた。

 

 ………サイコキネシスでヒガナから取り上げた装置を浮かせながら。

 

 

「ッ……やってくれたね。アキハ」

 

 

 …………いや、俺じゃないんだが。

 

 

 

 

 

 

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