旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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18話

 

 

『………………………』

 

 ヒガナが隕石転移装置を握りつぶす、その瞬間、装置は一人でにヒガナの手を離れて、引き寄せられるように空へと浮かんでいく。

 

 装置が向かった先にいたのは、ドヤ顔で宙に浮かぶ我が相棒(ミュウツー)だった。

 

「……アキハ、どういうつもり?」

 

 装置を壊すことに失敗したヒガナは一瞬困惑するも、すぐさま何が起こったのか理解する。

そうして目元が暗くなるような影を作り、こちらを睨みつけてくるヒガナを横目に、俺はミュウツーと脳内テレパシー交信を行う。

 

 

 

 

 よくやったあああああああああああ!!!

 

 危ない! ほんとにギリギリだった!! けどよく出てきてくれた!!

 

『……………………』

 

 俺が褒めちぎると、ミュウツーは当然だ、と言わんばかりの更なるドヤ顔を見せつけてくる。今回ばかりはそのドヤ顔もカッコよく見えてしまうほどだった。それもそのはず、あと少しでも遅ければ装置は破壊されていたろう。よくもまあ、このタイミングでやってくれたものだ。

 

 さて、ミュウツー、で、次どうするんだ!? ヒガナのあの目は間違いなく、完全にこっちを殺る気だけど!! 

 

『……………………』

 

 …………あ? 知るか? だって? あとはお前らの問題、話し合いでもしろ?

 

 い、いやいや……ここまでしといて後は丸投げって……あのちょっと少しくらいは助けてくれてもいいと思うんだけど……ねえ!? ほんとにこのままじゃヒガナにやられるんだけどミュウツーさん!? ちょっ……あ、そうだ。あとでいくらでも高級ポケモンフード提供するから! 今だけ、ほんのちょっとでいいから、後はもう逃げるだけでいいから! すぐそこまでテレポートするくらいいいでしょ別に!? いやマジで何でこういうとこは気まぐれなんだよやる気の出しどころが分からないんだよそれとも何ですか理由でもあるんですか? それなら納得できるだけの理由が欲しいんだけど………って、もうボーマンダ攻撃モーション入ってるって! あれ痛いじゃ済まないってミュウツーさん!?

 

 

「ボーマンダ、げきりん」

 

 

 あ、これまず――――――

 

 

「バシャーモ、まもる」

 

 

 走馬灯が見えかけた瞬間、眼前まで迫ってきていたボーマンダの攻撃は、突如として割り込んできた赤い光によって防がれる。

 

 間一髪、その攻撃を防いだのはハルカのバシャーモだった。

 

「……ありがとうございますアキハさん、私もここからはもう油断しません。何が何でも絶対に守って見せます」

「くっ……邪魔しないでよ、ハルカ…………!!」

 

 邪魔が入って、ヒガナは歯軋りをする。ハルカも不意打ちも二度は食らうまい、これでもう、再び装置を破壊するチャンスは限りなく小さくなっただろう。

 

「ああ。その通りだハルカちゃん」

 

 ボーマンダの攻撃が防がれた瞬間、真横からメタグロスの拳が襲い来る。そうして今度こそその攻撃はクリーンヒットすると、ボーマンダは強い衝撃を食らいよろけていく。

 

「ダイゴ…………!!」

「これで形成逆転だ。ボーマンダも今の一撃でだいぶ削れただろう、投降をお勧めするよ」

 

 今度はこっちの番、と言わんばかりの不意打ちを決めると、さっきまで若干狼狽えていたのが嘘みたいにダイゴさんはそう言い放つ。

 

 状況は一転した。今やヒガナが取り押さえられる流れになってきている中、ヒガナはどう動くというのだろうか。

 

 

「…………………何で」

 

 

 それは、最初は聞き取れるか分からないくらいの声量で発された言葉だった。

 

 しかし、次に発せられた言葉はそれよりもはるかに強い怒気を籠っていた。

 

「何で……こう上手くいかない!? どうして!? 私じゃ……ダメだっての!?」

「………………………ヒガナ?」

「…………ああ、そうだ……私はいつも上手くいかないんだ……あの時も……私のせいで……」

 

 ヒガナの焦燥が、目に見えて現れてくる。

 

 そんな俺もまた、どうしてかは分からないが、ヒガナの言ってることが心に刺さってくる。

 ヒガナの目的なんて知らないのに、彼女の思いが、痛みが、伝わってくるようだった。

 

 そこまで言ったところで、ヒガナは一度深呼吸する。

 そうやって、吐いた息には、一体どれほどの思いが込められていたのだろうか。

 

 

「…………はっ、なんてね」

 

 

 次は何を言うのかと思ったが、嘲るようにヒガナは笑ったのだった。

 

「……ヒガナ、俺は………」

「あはは、冗談だよアキハ。そんなに深刻な顔しないでってば。また、やり直せばいいだけの話だから」

 

 噛み合わない。きっとヒガナは俺たちよりも、もっと色んなことを知っているのだろう。ヒガナがその考えに基づいて行動しているのは間違いない。

 

 だからこそ、何も知らない俺とは噛み合わない。

 

 俺は何も言えなかった。そんな俺を置いて、ヒガナは続ける。

 

「その準備のためにも……今はとりあえず引かせてもらうよ」

「ッ……逃すと、思うかい?」

 

 ダイゴさんはメタグロスをもって、その拳を突きつける。ヒガナが一歩でも動けば、その拳が叩き込まれるだろう。それだけの覚悟が、今のダイゴさんにはあると思えるほどだった。

 

 そんなメタグロスを前にしても、ヒガナは怖気つくことなどなかった。

 

「………ああ、今のところは尻尾巻いて逃げてみせるよ。()()()()()()()()()()()

 

 ヒガナの手から、溢れるようにモンスターボールが落下する。

 

 そのボールは床に落下すると、カチリと音を立てて中にいたポケモンを呼び出す。

 

「!? まだポケモンを……!」

 

 中から飛び出してきたのは、ヌメルゴンというポケモン。

 

 かなり大きなポケモンが急な登場をしてきたことに一瞬気を取られる。しかし、もうすでにヒガナからヌメルゴンへの指示は終わっていたのだった。

 

 ヌメルゴンは出てきた途端、泥水のような勢いのある流体を放つ。かなりの勢いで放たれたそれは、受け身を取るには少し間に合わなくて、体を飲み込んでいく。

 

「これは……足が……!」

 

 泥が膝ほどの高さまで浸かると、身動きが取れなくなっているのに気づく。どうやらヒガナの狙いは、こちらの動きを一瞬でも止めることだったのだ。

 

「皆さんそれじゃあね……………っと、忘れるところだった。装置も破壊したいところだけど、時間もないしアレだけは回収しなきゃ」

 

 別れを告げて、建物から出ようとしたヒガナだったが、何かを思い出したようにこちらを振り返る。

 そう言ってヒガナが悠々と歩いた先にいたのは………

 

 

「うーん……別に誰でもいいけど、キミでいっか。これ以上チャンピオンの恨みは買いたくないしね」

 

「…………え?」

 

 

 そんな呆けた声を上げたのは、拘束されて身動きの取れないカガリだった。

 

「ほいっと……ちょっと失礼…………」

「なっ……何して………」

 

 ヒガナは突然カガリの体を弄り始める。這い寄る手に対して、抵抗の出来ないカガリはそれを受け入れるしかなかった。

 

「お、あったあった。回収もしたし、そんじゃ、さっさと退散しますよっと」

「……ッ!? ボクの……キーストーン……!?」

 

 ヒガナが取り上げた物とは、カガリのキーストーンだった。それをポケットに仕舞い込むと、ヒガナはすぐさまこの場から去ろうとする。

 

「待て……! キミは……何者なんだ……!? 使命とは何だ……!?」

「……それは、キミたち自身が知ることだよ。別に知っても構わないけど、邪魔はしないで欲しいかな」

 

 呼び止めようとするダイゴさんの言葉は、ヒガナには届いてるのかも分からなかった。その答えが知りたくばこちらが勝手にやれ、ということなのだろう。

 

 もはやヒガナを止められる者など、この場にはいない。何も聞けぬまま、ヒガナは行ってしまう。

 

 最後に、その姿が消える一瞬、ヒガナはこちらをチラリと振り返った。

 

 

「…………本当に、じゃあね。アキハ」

 

「ヒガナッ………待っ――――」

 

 

 そうやって伸ばした手が、届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…‥………装置は破壊できなかった。けど、あのゴタゴタのおかげで多少故障しててもおかしくはないかな? それなら修理が間に合うよりも早く、儀式を始めればいいだけだしね」

 

 ハルカやダイゴたちとの抗争があった場所から、かなり離れたヒガナはそう呟く。

 ヒガナとしては最善は尽くせなかったものの、最低限の目標であるキーストーンが回収できたためギリギリ予定通りといったところだろう。

 

「後は……ああ、マツブサのキーストーンで最後か。追いつかれるかもしれないし、ちょっと急がないとね」

 

 マツブサのキーストーンに狙いをつけていたヒガナは、いつ追手がやってくるかも分からないので、疲労を感じながらもすぐさま行動に移ろうとする。

 

 移動を開始しようとしたヒガナは、再びボーマンダをボールから呼び出す。

 

「って……まあそりゃそうだよね。メガシンカまでしたんだし、疲れてても仕方ないか。……少し、休憩でもしようか」

 

 疲弊していたボーマンダを見て、これ以上無理をさせるわけにはいかないと思ったヒガナは休憩を提案する。肉体的な疲労だけではなく、精神的にも負担のあったヒガナ自身も多少なりとも落ち着く時間は必要であっただろう。

 

 その場に座り込んだヒガナは、思わず目を閉じる。

 

 

「……………はー、何やってんだろ。ほんと」

 

 

 座り込むと、もう立てないような感覚だった。

 

 目を閉じると、もう開かないような感覚だった。

 

 ヒガナは冷静になって自分の行動を振り返ってみる。もっと良いやり方だってあったはずだと、何回も考える。だけど、やってしまったものはやり直すことなんてできなかった。

 

(…………あーあ、アキハには嫌われちゃったかな。攻撃しようとしたんだし、あんな別れ方もしちゃったし。バカだなあ、私)

 

 色々あったが、最終的にヒガナが考えていたのは、アキハのことだった。

 ひどいことをしてしまったと感じているヒガナだったが、傷つける手前までいった以上、もうアキハに合わす顔などないとさえ思っていた。

 

 それでも、ヒガナは止まることなどできない。それが、彼女の使命だから――――

 

 

「……………ガナ

 

 

 ……どこかから、声がした。

 

「…………おーい、ヒガナ

 

 それは、名前を呼ぶ声だった。

 

 ヒガナはようやくして、その名前が自分を指していると気づいた。

 

(………呼んでる? 誰が………?)

 

 ゆっくりと、顔を上げる。太陽光で陰が生まれていて、一瞬誰かはよく分からなかった。

 

 目が段々慣れてくると、ようやくその顔の持ち主が分かってきた。

 

 

「あ…………」

 

「………逃げるなら、もっと遠く離れた場所にした方がいいぞ? 例えば……テレポートで届かないくらい」

 

 

 背後にミュウツーを携えながら、アキハはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ………いや、そうか……ミュウツーはテレポートできるんだった……」

「そういうこと。ま、テレポートできるのはミュウツーともう一人だから、来たのは俺だけなんだけどな」

 

 ヒガナのヌメルゴンに妨害を食らってヒガナが逃走した後、ミュウツーのテレポートの存在を思い出した。それならば、足場が固定されていようと空間を移動できたのだ。

 

 幸い、ヒガナもそう遠くまでは行ってなかったのですぐに見つけることができた。

 

「…………で? 何の用? 私を捕まえに来たの?」

「んまあ、それもないことはないけど……まずは、何やってんだよ……?」

 

 ヒガナには聞きたいことが多すぎる。隕石転移装置の破壊未遂然り、キーストーン強奪然り、後は……マグマ団の件もだな。とにかく、謎が多すぎる。

 

 ヒガナは抵抗するかと思ったが、彼女も先ほどのバトルで疲れていたのか、逃げるのを諦めたように落ち着いていた。

 

「全部見てたでしょ。あれが全部、もう言うことはありませーん」

「……事情があるのは分かるけどさあ、ちょっとくらい話してくれてもいいんじゃないのか?」

「……………………」

 

 そうすると、降参したようにヒガナは空を指さして、口を開く。

 

 

「はあ……まあ、いいよ。アキハ、しょうがないから、キミには少しだけ話そうか。あの隕石と、私の里の”伝承“について」

 

 

 ヒガナはゆっくりと立ち上がり、そう語り始めた。

 

 ようやく、聞くことができる――――そう思った瞬間、心臓がドクリと音を立てる。

 

 これから聞けると思うと緊張でもしていたのだろうか。自分でも理由の分からない違和感を覚えながらも、そのことに気づくはずのないヒガナは続けた。

 

「そもそもの話、隕石がこの世界に落ちるのは歴史上これが三度目なんだ。一回目の隕石は二千年前、二回目は千年前、それからまた千年周期で降ってきたのが今回の隕石だって伝えられてる」

「……あ、ああ」

「それで……千年前、次の隕石に備えようと色々準備してたのが私の里ってわけ」

 

 話を聞いている間も、鼓動は早くなり続けていた。

 しかし、今はそんなことよりもヒガナの話の方が重要だ、そう思いこもうとするが、無視することもできない違和感に気持ち悪さを覚える。

 

「それで……実際には何を?」

「里は、ある一匹のポケモンに世界を託すことにした。竜神様……じゃなくて、()()()()()ってポケモンにね」

 

 竜神……そんな仰々しい名前で呼ばれるレックウザというポケモン……

 その名を聞いて感じていた違和感もまた、さらに強まっていく。

 

「レックウザの力は凄まじくてね、あの隕石も軽々粉砕できるほどなんだ。だから、里はレックウザと絆を結んで、隕石を破壊するために共に天翔るトレーナー……伝承者の存在の準備をしていたんだ」

 

 伝……承者……?

 

「そして、その伝承者に選ばれたのが、この私、ヒガナってわけ」

「…………………」

「私もレックウザを呼び出すために色々頑張ってたんだよ? マグマ団の潜入もその一環でね、グラードンを使ってレックウザを呼び出そうとしてたからさ。マグマ団を利用してグラードンを復活させようと思ってたんだ」

 

 思わず爆弾発言が飛び出る。あの騒ぎは下手すれば死人すら出かねないものだったというのに、ヒガナは顔色一つ変える様子すらない。そんな態度を見れば、普通は怒りに染まるものだが、今はなぜだか怒りは湧いてこない。それよりも、何かが引っ掛かる方が気になっている。

 

 淡々と語り続けるヒガナに対して、さっきから感じている何かは衰えることなく、絶えず頭の中を彷徨い続けている。

 

「ま、でもそっちのプランは誰かさんがぶっ潰してくれたもんだから、こうして苦労して別プランに移行してるってわけ。そのやり方でレックウザを召喚するためにはキーストーンが必要だから、こうして奪って回ってるんだよね」

「それで、さっきカガリのキーストーンを……」

「うん、必要なのは後一個……っていったところかな。目当てはついてるし、ちょっと休憩したら行かせてもらうよ。だから邪魔しないでもらうと嬉しいな?」

 

 冷静になれ。ごちゃごちゃした情報をまずはまとめろ。この違和感はそれからでいい。

 

「話すのは以上だね。質問があれば聞いてあげるよ?」

「………じゃあ、言わせてもらうぞ。まず、プランを変更した、って言ってたが、最初からこうするわけにはいかなかったのか? グラードンを復活させるなんてリスクが高すぎる、別の道があるならそっちでいいじゃないか」

「まあ、ごもっともな意見だね。正当な理由、とは心から言えないけど、これは確実性の問題なんだ」

 

 確実性……?

 

 ひらりと辺りを歩きながら、ヒガナは説明を始める。

 

「そもそも、伝承にはレックウザが降り立つに至ったのは、グラードンが暴れていたのを抑えるためだったんだ。別に隕石を破壊するために現れたんじゃない。なんなら、過去二回の隕石はちゃんと衝突してるわけだしね」

「……つまり、伝承に沿ったやり方だとグラードンの復活から召喚する方が正しい、ってわけか」

「うん。正直、グラードンが倒されるなんて考えてもなかったからさ、このやり方は急ピッチで考えついたんだ。もちろん、グラードンが暴れることで発生する犠牲を良しとしたわけじゃない……なんて、私が言っても信じられないと思うけど、この星を救うにはレックウザがどうしても必要だったんだ」

 

 レックウザの力がそれほど信頼に足る力なのかは、ヒガナの口調から信じるしかなかった。ヒガナだって、そうでもしなきゃ世界を救えないと思ったんだろう。ある程度の犠牲さえ容認するほどだからだ。

 

 だが、それを受けてもう一つの疑問が浮かぶ。

 

「なら、確実性を取ると言うのなら、科学の力じゃダメだったのか……?」

 

 隕石自体をワープさせるという、最も合理的な考えに思えたそれだったが、一体何がダメだったのだろうか? それに、たとえ信頼に足らなかったとして、隕石転移装置自体を壊そうとするなんてよっぽどの理由がないとおかしい。

 

「………………アキハも、そう思うよね」

 

 瞬間、ヒガナの目元が黒で染まる。

 

「分かってる……分かってるんだよ、私が間違ってるなんて。でも、抑えられない。あの機械だけは……! あの力だけは、許しちゃいけないんだッ!!!」

 

 段々と、口調まで強まっていく。間違いなく、この疑問はヒガナの逆鱗に触れていた。

 

「……これだけは、私のエゴだ。いくらでも批判していい、逮捕でもなんでもするがいい、これが終わったら私を虐げたって構わない。それだけのことをしてるんだって自覚はある。でも、私は曲げない、この意思を」

 

 ……ヒガナは、間違っている。それだけは確かで、声に出すのは簡単だ。だけど、その姿勢を、あり方を変えるだけの言葉が存在するのだろうか?

 

「はっ……こんなところだよ。これが私、ヒガナ。最低で、卑劣で、無情。だけど、私はこのやり方で世界を救う。それだけは誰にも邪魔させない」

 

 この決意は揺らぐことがないとしか思えない。俺が何を言ったところでもう止まらないのかもしれない。だって、来るところまで来てしまったのだから。

 

 鋭い目だった。硬い表情だった。それを見て、突然、稲妻のように思考が駆け巡った。

 

 ようやくここで違和感が、その正体が分かった。ここまで話を聴いて、たどり着いたのだ。この違和感がなんだと言われれば、なんでもないかもしれない。それでも、投げかけずにはいられなかった。

 

「そうか……いや、俺はその感情を否定しない。理論だ計算だとか言ったって、結局人間なんて、最後は感情次第だからな」

「……そう」

 

 今度は、訝しむような目だった。所詮は言葉だ、俺がヒガナを理解したつもりなんだと受け止められても仕方ない。だが、これだけは言わなくては。

 

「なあ、ここを行く前に……最後に、一つ訊いていいか?」

「……いいよ。でも、本当に最後だからね」

 

 

「―――今までに誰もいなかったのか? ヒガナという人間を理解してくれた人は」

 

「……………………………ぇ?」

 

 強かだった姿から一転、掠れた声を上げる。

 

「なっ………あ、え? 何、言って……」

「何でもいい。考えついたことを、理解じゃなくても、共感したり、伝えることのできる人はいなかったのか?」

 

 ヒガナの考えを聞いてて思った。その考えは、どこか独りよがりだと。

 それは、周りにそれを話せる人がいなかった。あるいは、話したけれど否定されたかのどちらかだと思ったが、おそらく前者だと直感的に悟った。

 

 しかし、この疑問は言うべきではなかったかもしれない。なぜなら―――

 

「…………あ」

 

 何かが、砕け散る音がした。

 

「いや、ちが、違うの……見捨てたんじゃない。そうするしかなかったの。そうすれば助かるはずだった、はずだったの……あ、あああ。でも……そうだ、わた、私のせいだ。ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい。代わりは……私が、私がやるから。やらなきゃいけないから。あなたがいなくてもできるから。……できる? 本当に? 才能なんてないのに? は、はは……ちがうよね。最初から、私がいなくなれば良かったんだよね。あははははははっ…はは………ひぐっ、ぅああ。ぐすっ、いやだよ、いかないでよぉ……」

 

「ヒガ――――――」

 

 声をかけようとした、だが、その瞬間意識は遠のいていく。

 

 必死で自分を保って、最後にヒガナが吐く言葉を聞いた。

 

 

「シガナぁ……………」

 




ここら辺のヒガナ関連の話はややこしいですね。
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