旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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19話

 

 

 

 …………知らない天井だ。

 ベッドもある……ってことは、ここは病院か?

 

 えーと……そうだな……どうしてこんな場所にいるのかすら分からんから、まずは記憶でも確認するか。最後に覚えてる記憶は確か……

 

 なんだっけな……ダイゴさんとハルカに連絡取ろうと思ったら、カガリたちが襲ってきて、そんで次にヒガナが出てきたけど、場を荒らすだけ荒らして逃げようとして……

 

 ……ああ。そうだ、ヒガナを追いかけようとして……そっからが思い出せないな。

 何が起こったのかは覚えてないけど、そこで気でも失ったのか。なるほどなるほど。

 

 

 …………………ちょっと待て、俺、()()()()()

 

 

 それに気づいた瞬間、ベッドから飛び降り部屋の窓から外を見る。

 外には、多くの人が往来しており、なんらいつもと変わりない日常の風景が広がっていた。

 

 

 

「安心しろ。まだ隕石は落ちてないさ」

 

 

 

 窓の景色にしがみついていると、部屋の入り口から声がする。ナースコールなんてした覚えはない、なのに誰がこの部屋に訪れるというのだろうか。

 しかし、聞き覚えのあるこの声に、俺は起きて早々気分が悪くなりそうになってきた。

 

 

「…………悪の組織のボスが見舞いなんて似合わないな」

「ふむ、きのみでも持ってきた方が良かったかな?」

 

 サカキ、ロケット団の頭領であるこの男が、何故ここにいる? ……いやまあ、俺に会う目的なんて一つしかないのは分かってるが。

 

「んなもんいらねえよ。それより、今世界はどうなってる? 隕石はどうなった? お前なら知ってるんだろ?」

「性急だな。少しくらいは世間話でも楽しもうと思っていたのだが……そんな目で見られては、話すしかないな」

 

 そんな気もさらさら無いだろうに、いちいちわざとらしい言動が鼻につく。色々と聞きたいことはあるが、それにしたってまずは状況確認だ。こんなヤツとは話すことも癪だが、現状を把握するためにはコイツに頼るしかない。

 

 そして少し睨みつけるような視線を送ると、観念したようにサカキは口を開く。

 

「まず、隕石の落下だが……今日、まもなくこの星に衝突する計算になっている」

「ッ……! マジかよ……!?」

 

 間に合った、と言えるだろうか。今から何かをしようと思っても、これではあまりに時間は残されていない。

 

 今すぐにでもこの場から飛び出さなければ……そう思って、立ち尽くすサカキを放って横を通り抜けようとする。もはやこの男に用はないのだ、さっさと無視するのが一番である。

 

「待て、どこへ行く?」

 

 そう呼びかけられると同時に、肩に感触がする。それを鬱陶しく感じながらも、質問には答えてやることにする。

 

「………どこって、外にだよ。今からでも走れば間に合うだろ」

「何の目的で?」

「……………………あ?」

 

 一瞬、足が止まる。

 

「今更君が行って何になる? 何の役に立つ? 相手は隕石だ。それに、既に解決策はあるのだろう? であれば、行く必要などどこにもないじゃないか」

「そりゃあ……そうだけど…………」

「今回はグラードンの時とは違う。誰も君に頼りなどしない、君を必要としない。チャンピオンたちが勝手に解決してくれる」

 

 それは紛れもなく正論だ。現に、俺は何も言い返せない。

 確かに、俺にできることは何一つないかもしれない。今まで寝てた奴が、この期に及んで何をしようというんだ。仮に行ったところで、ただ邪魔になるだけではないのか?

 

「しかし、一つ懸念点があるとすれば、ヒガナ……と言ったかな? 彼女は何やら面白いことを企ているみたいだな」

「…………ヒガナが?」

 

 どうしてその名前が今ここで……いや待て、ヒガナは確かにキーストーンや隕石転移装置を狙ったりと、明確な目的を持って行動していたはずだ。ならば、最後まで関わってきていようと不思議ではない。

 

 ……? 何だ、もっと何か俺は……ヒガナに関して、忘れているような………

 

 そうして何かを思い出しかけているところに、サカキは続けてこう言う。

 

「それで、ここまで話を聞いた上で、君はまだ向かうと?」

「…………………………………………」

 

 この男は、お前が行ったところで無意味だと、俺に突きつけているのだろう。全く、その通りだ。現実というのは、無情な事実だけを教えるものだということを思い知る。

 

 ああ、理解は出来るさ。だけど、心では納得なんてしていないんだ。

 

「…………役に立てるなんて思い上がっちゃいない。俺はただ……ヒガナに会いに行きたい」

「……ほう?」

 

 訝しげに、されど興味を持った様子で、サカキはそう反応する。

 

 言っていることが合理的なものとはかけ離れているということは、嫌ってほど分かる。だけど、もう時間はない。行いの正しさなんて気にしている余裕はないとなれば、悔いは残しておきたくない。

 

「彼女と会ったところで、何をしようと?」

「会って話がしたい。まだ俺の中で何か……引っかかるものがあるんだ。それを知るまで、どこまでも話すんだ」

 

 俺に残された最後の記憶、覚えてないのには必ず理由があるはずだ。そして、それはおそらくヒガナが何らかの形で結びついてる。それに、ヒガナにはまだ聞きたいことだっていっぱいある。最初は他愛のない話でもいいから、今はとにかく言葉を交わしていたい。

 

「…………ククク、ハハハ!! そうか、若さというのはこうも素晴らしいものなのだな。その純粋な衝動を、眩しく思うよ」

「うっせ。分かったらさっさと行かせろ」

 

 そうするとサカキは観念したように手を離す。

 ……思えば、この男こそ何の目的でここに来たのだろうか。まさか本当に見舞いに来たわけでもあるまいし、行動原理が全くの不明だ。

 

 ただ、それを聞いている暇はない。今はそれよりも早く外に出なければならない。

 

「ああ、そうそう。最後にもう一つ」

 

 ドアに手をかけたタイミングで、サカキはそう告げてくる。しつこいと思いつつも、その言葉に耳を傾けてしまう。

 

「何だよ?」

「いや、実は君の過去が気になっていてね、記憶喪失などについて色々と調べていたのだよ。そこから何か分かるかもしれんからな」

 

 何か分かるって……こいつ本格的なストーカーかよ……

 だが、記憶というワードに惹かれてしまうのはどうしてだろうか。時間の無駄とも言い切ってやりたいところだったが、そうするほどの決断の早さは持ち合わせていなかった。

 

 ほんの少しだけ、そう思ってサカキに顔を向ける。

 

「アキハ、幼少期に記憶を失った状態でミュウツーと共に森に放置されていたところを保護される。これは君の過去だが……今、この話を聞いて何か違和感は覚えなかったか?」

「……違和感?」

 

 違和感、とは何のことだ?

 確かにそれは俺の覚えてる限り最も古い記憶だが、それはそういうものとして感じているだけだった。

 

「ああ……()()()()()()。今ので確信したよ。……さて、もう一つ問おう。君はどうしてこの病院にいる?」

「? どうしてって……確か、俺が気を失って……」

「そこだ。何故気を失った?」

 

 言いたいことが分からない。サカキはどうやら何かを掴んでいるようだが、それがさっぱりと伝わってこない。こんな質問に何の意味があるというんだろうか。

 

「……知らねえ。気を失った原因とか覚えてない」

 

 そう言うと、サカキは呆れたようなため息をつく。

 

「……………………まだ、気づかんのか?」

「は?」

 

 何だこの野郎……一人だけ分かったつもりになりやがって……これでは俺の理解力の無さが露呈するだけではないか。

 

 若干イラッとするも、俺は一連の話を見つめ直す。

 

 一、過去に俺は記憶喪失で森にいた。

 

 二、ヒガナを追いかけようと思って、ミュウツーにテレポートを頼む。

 

 三、そしたら気を失って病院で数日寝てた。ついでに気を失った当時の記憶は無くなった。

 

 この話における共通点と言えば、俺が記憶を失ったことか。確かに何か潜んでいそうな状況だが、それは一体何だ?

 

 他に記憶に関する話っていうと……フウラン姉弟に一回記憶を覗いてもらったことくらいか。

 そういえば……あの時、何て言ってたか。『記憶にロックがかかってる』みたいなことを言ってたような気が……

 

 …………記憶にロック、か。何か引っ掛かる表現だ。単に記憶喪失、という言葉ではないことに、何か意味でもあるというのか?

 

「どうやら……分かってきたようだな。それでは、最後のヒントを与えよう」

 

 そんな考えが顔に浮かんでいたようで、それを見透かしたサカキがヒントを与えてくる。

 

 だんだん、頭は追いついてきている。頭の霧が晴れるまで後少しだというのに、いまいち最後の答えが掴みきれていない。ここまでサカキの発言を聞いても、想像は想像のままだ。

 

 そうして、答えを待ち侘びている俺に向けて、サカキは語り出す。

 

「人の記憶への介入、それも何年も記憶喪失の状態を保てる強力なものが出来る存在はなかなかいない。それを行うとなれば、専用の機械などを作るしかない」

 

 

 

「思えば……我がロケット団も洗脳実験といったことを行なっていたな。大抵はエネルギー不足で没になった計画だが、ある時それが現実になりかけた」

 

 

 

「その理由はな、そのエネルギーを供給出来るほど強大な力を持ったポケモンが生まれた……いや、機械など経由せずとも、そのポケモンは記憶を操作できる力があった。まさに、最高傑作だよ」

 

 

 息を呑む。

 

「それって……つまり……」

 

 言葉が喉まで伝う。あと一瞬でもあれば、音として発していただろう。

 

 だが、その言葉が出ることはなかった。

 

 

『……………………………………………』

 

 

 ボールが勝手に開く音と同時に、目の前は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、一つ解せんな」

 

 

 一人、病室に取り残されたサカキは呟く。

 先ほどまでは話し相手がいたものだが、彼は今どこにいるのか分からなくなってしまった。

 

「彼にそうまでするほどの価値があるか? あの男ほどのバトルの才があるわけでもあるまいに」

 

 愚痴、といえばそうかもしれなかった。

 あの日取り逃した最高傑作がどうしているのかと思えば、ちょっとバトルができるだけのトレーナーに付いている。

 

 もっと付き従うには良い人間がいるはずだと、サカキは利己主義的に物事を考える。

 

「結果は分かった。だが原因は、理由は何だ? その過去に一体何が隠されている?」

 

 そこから先は未知の領域であった。当の本人でさえ思い出せない、隠された“何か”。

 

 

「ミュウツー、お前は……何を知っている……………?」

 

 

 それを知っているのは、たった一匹のポケモンだ。

 

 

 

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