日光に当てられて、目を覚ます。眠気がイマイチ覚めないまま体を起こした瞬間、電流が走ったような衝撃に襲われる。
「んぐっ!?」
気づけば、全身に痛みが走っていた。筋肉を動かすごとに痛みが増していくようで、起き上がったはいいものの、一歩も動けないような状態になっている。
そして、こんな痛みに今もなお襲われている理由だが、間違いなくこの睡眠環境にあるだろう。
昨日の後、宿も取ることができずに屋外に置いてあるベンチで一睡する羽目になってしまった。公園に設置されている明らかに固そうな木製のベンチ、そんな場所で寝てしまっては疲れなんて取れるわけもないし、逆に痛みが増すばかりだった。
現在俺はほとんど一文無し、宿に泊まるだけの金なんて持ち合わせていないので、こうしてほぼ野宿みたいなことをするしかないのだ。しかし、こんな生活をいつまでも続けていれば俺が病院送りになる方が先になってしまう、それでは旅をしている意味がないというものだ。
では、どうするか。とうとう、俺はこの重い腰を上げることになる。
「仕事探すかあ………」
正直労働なんて性に合わないと思っていたのだが、生きるためには仕方ない。どんな仕事でもいいから、とりあえず見つけなくては。
とりあえず、あらゆる手段を用いて仕事を探す。職歴不定の俺みたいな者でも受けれる仕事があるのかは、些か不明だが。
「なんか楽な仕事ねーかな……」
スマホロトムの画面に映る求人サイトとにらめっこしながら、何とか楽な仕事を見つけようとするも、なかなかいいものが見つからない。
いい加減諦めて妥協できる仕事を見つける時か……と、思ったその瞬間、一つの仕事が目に止まる。
『村に害を及ぼすポケモン退治! 報酬金に加えて寝食付き!!』
何だこれ……報酬金が他の仕事の二倍はあるし、しかも寝食付きだと? ポケモンを追っ払うだけでこんなの高待遇にも程がある。報酬設定を間違えているのでは、と思うほどの破格のものだ。
ここら辺で村に害を及ぼすポケモンと言ったら……スピアーや、この辺りだとドクケイルとかか? そんな虫ポケモンが相手なら、こっちにはミュウツーがいる。ミュウツーであればそんなポケモン程度であれば余裕でワンパンだろう。
ミュウツーさん、もちろんいけますよね?
『……………』
何も返事はないみたいだけどオッケーですね!
ていうか、やってくれなきゃ俺もミュウツーも一緒に共倒れだ。まあ、ミュウツーなら一人で勝手に生きていくかもしれないが……だが、ミュウツーに戦ってもらう以外の選択肢は俺には取り残されていない。
さーて、害虫駆除のお時間だ、明日のベッドとご飯のために。
◇
「よ、ようやく着いた……誰か、いないのか?」
移動を移動を重ねてようやく目的地である村に辿り着く。長い距離を移動してきたため、この時点で相当疲れたが仕事はこれからだ。
とりあえず、村の人に話を聞かないことには始まらない。そこら辺にいる人にでも話しかけるか。
「……ああ、あなたがアキハさんですか。ポケモン退治の依頼を受けて下さったということなら、村長のところまで案内します」
俺が話しかけると、その男性は無愛想にそう答える。
依頼を受けてせっかくこんなところまで来てやったというのに、そんなぞんざいな態度で扱われると若干不満を抱く。まあ、俺は報酬さえ貰えればどうだっていいんだが。
そして、彼に案内されて村長の家まで連れてかれる。中に入ると、荘厳な様子の老人が怪訝そうな顔をして座っていた。
「アキハさん、よく来て下さった。そしてすまないな、あの男が嫌な顔をしていただろう。だが、まずは話から聞いてほしい」
「ポケモン退治するってだけじゃないんすか?」
「もちろんそれが我々の依頼だ。……しかしだな、これには一つ問題があるんだ」
……おっと、面倒ごとの予感。
「実は、これまでにも数人この依頼を受けたトレーナーがいたんだが、そのどれもがこの依頼を達成できずに終わってしまったのだ」
「そりゃ何で……」
俺は疑問を抱く。見る限り普通のポケモン退治のはずだが、それのどこに達成出来ない要素があるんだ?
「村の近くにある洞穴。そこに、ヤツはいる」
「ヤツ?」
「過去に封印されていたのだろうか、それが時が経ち、現代になって解放されたことで蘇った氷の巨人、『レジアイス』。それがこの依頼の討伐目標だ」
氷の巨人。それを聞いた瞬間、ミュウツーで適当に無双して報酬を貰ってウハウハするという俺の脳内イメージは瓦解していく。
「…………え、ス、スピアーやドクケイルは? ポケモン退治って害虫駆除とかじゃあ……?」
「はは、そんな羽虫程度であれば良かったのかもしれんな。だがレジアイスは大陸が生まれた頃に生み出された、いわゆる伝説のポケモンの区分にあると伝わっている」
な……何じゃそりゃ……伝説のポケモンだと? 軽い気持ちで来たというのに、相手のスケールが壮大すぎんだろ……
「そんなポケモンが相手なのでトレーナーの方もお手上げでな。討伐の依頼を出してはいるんだが、村の者たちの方ももはや期待しとらんみたいだ」
「それであんな……」
これまでに挑んだトレーナーはいたが、その全てが失敗に終われば村人たちがそう思うのも当然だろう。今更新しいトレーナーを呼んだところで結果は見えている、ってことか。
村長は困ったようなため息を吐く。
「……とまあ、ここまで話したがどうだ? その様子じゃあやる気は削がれてるみたいだが」
「そりゃそうですよ……何だって伝説のポケモンを倒さなきゃ……」
「すまんなあ、だがレジアイスがいることで村近くの野生のポケモンが凶暴化して儂らもたまったもんじゃないんだ」
そのレジアイスというポケモンの強大な力は周りの生態系にすら影響を及ぼすらしい。そんなポケモン相手では、これまでに依頼を受けたトレーナーが匙を投げるのも理解できる。
「戦うかどうか決断するのはアンタだ、今の儂の話を聞いて引き返すもアンタの自由だ。ただまあ……」
「どうか、ヤツをレジアイスを倒してくれんか。儂たちにはどうすることも出来ない、アンタのようなトレーナーだけが頼りなんだ」
村長は頭を下げて、そう懇願する。
うーむ、どうしたものか。
正直言って、伝説のポケモンといっても未知数な部分が多すぎる。伝説のポケモンは神話に残るほどのものもいれば、地域の伝承で伝わる程度のものまでいるのだが、レジアイスはおそらく後者だろう。
しかし伝説のポケモンは伝説のポケモンだ。普通のトレーナーが手も足も出ないのだ、それは相当強いのだろう。
…………あれ、これ受ける必要あるか?
確かに報酬は魅力的だが相手は伝説のポケモン、それなら断って他の仕事を見つけた方がまだ楽なのでは?
よし、断ろう。それが正しい答えなんだ。
「すいません、お断りさせていただきま─────」
言葉を言い切る瞬間、喉が詰まったように声が出なくなる。これは……
『……………………』
ミュ、ミュウツー……!? 何を……………え? レジアイスに興味が湧いた? 伝説のポケモンと戦わせろ?
え、普通に嫌ですけど。
何で俺がわざわざ危険な目に遭いに行かなくちゃならないんだよ。それにお前が伝説のポケモンとやらとただ戦いだけだろ。もうちょっとトレーナーの気持ちをだな……って、ちょ、あの、サイコキネシスだけはやめてください。あれ相当痛いんだって、いや、だからやめ──────
「いだだだだだだだだだだだだだ!!!!」
「!?」
分かりました分かりました! やります、やらせていただきます! だからそのサイコキネシス止めてください!
「だ、大丈夫か……?」
「ぐふっ……だ、大丈夫ですよ。それより、レジアイス討伐の依頼、受けさせていただきます」
「ほ、本当か!? 感謝するぞ!!」
「はは、困ってる人を助けるなんて当たり前ですよ。安心して任せてください」
「お、おお………!」
やめてくれ、そんな尊敬の眼差しを向けないでくれ。残り少ない俺の良心が痛む。
くそ……ミュウツーめ。厄介ごとを引き受けやがって、どうなっても知らんぞ……と言っても、トレーナーである俺がそう言うわけにもいかんからな……
はあ……どうしたもんか……