「あっつい……」
彼は、そう呟いた。
太陽が強く照り映える。グラードンほどではないにしろ、このままでは溶けてしまいそうなほどの暑さであった。砂浜はプレートと化し、熱気だけでも凄まじかった。
「あはは、シガナってば、そんなんじゃまだまだ先が思いやられるね?」
太陽光が反射して眩しいほど輝く海を背景に、ヒガナは笑う。
「思ったけど、そんなマントしてて通気性悪くならないの? 熱気とか篭らない?」
「んー? 服自体がスケスケだから大丈夫だよ? ほら、背中とかほとんど……」
「………あんまり、人に見せるような服じゃないと思うけどね、それは」
ヒガナの着る服の背面はほとんど布面積が少なく、というより紐で縛られているだけなので、正面の見た目以上に防御力が低くなっている。
背中を見せつけるようにマントを避けるヒガナの背中を見て、思わず目を逸らす彼だったが、揶揄いの対象となる場面をヒガナが逃すはずもなかった。
「ふふふ……どうしたのかな? 顔が赤くなってるよ? もしかしてのぼせちゃった? 暑いもんね、この地方は?」
「あーはいはい………昔はもっと純粋だったのになあ」
「それはお互い様じゃない? シガナだって私以外にはもっとアキハらしくしてるじゃん」
「いや……人前で築き上げたキャラってのはそう簡単には変えられなくてね……」
彼がシガナとして振る舞う相手は限られている。二重人格というわけではないが、ヒガナ以外だとアキハとしての姿にフォルムチェンジして会話することが多い。変わるといっても、目立つ要素は一人称と使う言葉の強さ程度なので、思考自体はほぼ同じだ。
隕石騒ぎからそこそこ時間が経った現在、二人が訪れていたのはアローラ地方だった。
「それにしても……まさか無罪放免だとはね。あんなことをしたのってのに」
「ま、今のチャンピオンはハルカだからか、温情も込めてってことなんだろうね。レックウザも、ついでにデオキシスまで今やハルカの手持ちになって、色々と未知の生態研究が進んだおかげ、ってのもあるんじゃない?」
「それ……私たちの手柄みたいにしていいの?」
ヒガナは正直、実刑はある程度免れないかと思っていたが、事情を聞いたハルカやダイゴのお情けで、キーストンの持ち主への返却と謝罪、それからデボンコーポレーションへの協力という名目でなんとかなった。
元の持ち主たちも心の大きい人が多かったので、謝罪を素直に受け入れて許してくれた。しかし、唯一マグマ団のカガリだけは不満そうな顔をしていたものの、彼女自身文句を言える立場でもなく、マツブサに宥められてなんとかなった。
「ま、そのおかげで今こうしてられるんだから、ありがたいよね」
彼らがどうしてホウエン地方を離れて、アローラ地方へと来ているのか。それは、各方面への謝罪が済んだ後、唐突にヒガナが旅をしたいと切り出したことから始まる。人生の大半を里、または団などでの暗躍に費やしてきたヒガナは、普通の人がするような娯楽をしたことがなく、その始まりとして旅を選んだのだ。
旅のついで、このアローラ地方に眠る不思議な石だかなんだかを調査するようにダイゴさんから依頼されており、ある程度調べ物はしなければいけなく、完全に自由というわけにはいかない。
彼はヒガナが旅をしたいと言い出したことについて、ただの口実じゃないのか……とも疑ったりはしたが、彼と旅ができることに胸を躍らせるヒガナを前にして、そんなことは言い出せなかった。
「確かに……でも、本当に里に帰らなくてよかったのか?」
「いいんだよ、長老だってあと何十年かは生きてそうだし。ひとまずはこのアローラ地方を旅してからでも帰ればいいの」
彼としては故郷に帰りたい気持ちもあるが、ヒガナがはこう言う限り逆らえなどはしない。
そんな調子で砂浜を歩いてはいたが、終わりの見えない目的地と、うんざりするほどの暑さのせいで、彼は体力が尽きそうになってしまう。ヒガナに少し先を歩かせると、彼は手持ちのモンスターボールに向かってこっそりと話しかける。
「なあミュウツー……ちょっとでいいからテレポート使ってさ……は? 『外は暑いし寝てる』、だと………? おい歩かされるこっちの身にもなってくれよ。このままだとほんとに干からびるって……」
「………シ〜ガ〜ナ〜?」
「えあっ」
なぜかヒガナにズルしようとしていたことがバレる。ここで彼はハッとして、再びモンスターボールへと目を向ける。
(この野郎ヒガナにテレパシー送りやがった!!!)
彼が真意に気づく中、我関せずといった様子のミュウツーは、彼の背後にヒガナが近づいてるとも知らず、モンスターボールの中で退屈そうに欠伸をする。
「ひ、ヒガナ……? これは……その……」
「はい言い訳無用! 罰としてこっから走っていくよ! ほら、ちゃんと掴まってて!」
そう言って、ヒガナは彼の手を逃がさないように掴む。
「え、ちょまっ――――」
「それじゃあ……いくよー!?」
「いやだああああああああああああああ!?!?」
絶叫がこだまする中、二人、砂浜を駆ける。
そして、モンスターボールの中のポケモンは、密かに微笑むのだった。