旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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5話

 

 

「………それで? レジアイスは捕まえることが出来ず、帰ってきたわけか」

「はっ……はい……」

 

 眼鏡をかけた知的な印象の赤髪の男を前に、男たちは顔を伏せてそう報告する。

 

「いや、いい。もとより捕まえることが目的とは思っていなかったさ、お前たちに課したのはレジアイスの調査でしかないのだからな」

「はっ……リーダー、マツブサ」

 

 叱られるかと思っていた男たちであったが、特にお咎めもなく済んだことに胸を下ろす。

しかし、マツブサと呼ばれるその男は、男たちの報告を受けて引っ掛かる点をいくつか持っていた。

 

(レジアイスの捕獲が一筋縄ではいかないことは分かった。だが……そのレジアイスと戦闘をしたというトレーナーは何者だ?)

 

 部下から受けた報告を真に受けるのなら、レジアイスに対峙したトレーナーがいるという。

その情報に半信半疑になりつつも、マツブサは思慮を巡らす。

 

(………まあいい。今はそんなことより計画を進める方が先だ)

 

 そう思ったマツブサは広間にいた部下たちの前に立ち上がって見せる。そして、その重々しい口を開く。

 

「さて、諸君。これを皮切りに、我々もようやく表立って行動する時が来たようだ」

 

 それを聞いて、マツブサの横に立つマグマ団のNo2であるホムラは歓喜した表情になる。

 

「……! ということはリーダー、とうとう始めるのですね!」

 

「ああ。我々の悲願を叶えるべく、計画の実行を始める」

 

 そう一言、告げた途端にマグマ団の中で電撃が走ったような衝撃を受ける。

全員が待ち侘びた、というような思いを秘める中、続けてマツブサはこう言う。

 

「そのために、まずは『べにいろのたま』を手に入れる必要がある。レジアイスも戦力増強のために欲しかったが、今は『べにいろのたま』の方が優先だ。それに向けて、各自行動を開始せよ」

 

 マツブサがそう言い終わると、広間は威勢に満ちた歓声で包まれる。ようやく始まった計画に、それぞれが同じ志を持つ者として胸を躍らせているようだった。

 

 そんな光景を横目に玉座に座り込むマツブサに、幹部であるカガリとホムラは目を向ける。

 

「リーダー、それでは私も任務に戻らせてもらいますよ、ウヒョヒョ!」

「ん……ボクも……ミッション……コンプリートしなきゃ……」

 

 そう言って持ち場へと戻ろうとする二人だったが、まるで聞いている様子のないマツブサを見て違和感を覚える。

 

「…‥リーダー? どうかしました? 何か気掛かりなことでも?」

「いや……少し、な」

 

 マツブサは考えていることがどうやら頭に引っかかって離れないようだった。この段階まで来て、もはや自分たちを止めれる者など限られている。それを知って尚、マツブサには懸念点があるというのだ。

 

「あっ……まさかリーダー、さっきの下っ端の話でも気にしてるんですか?」

「……よく分かったな」

「フヒヒ! 何を心配する必要があるんですか? いくらレジアイスを倒したトレーナーがいるからと言って、そいつはチャンピオンでもなんでもないただのトレーナーなんですよ?」

 

 それは、先ほど下っ端から聞いたトレーナーのことだった。それについて、ホムラは何の心配も無さそうにそう言う。

 

 しかし、それはチャンピオンでもなんでもないただのトレーナーが伝説のポケモンを倒した、ということなのだぞ、と言いたい気持ちを堪えてマツブサは落ち着きを取り戻そうとする。

 

「確かに、マグマ団のリーダーともあろう者が少々臆病になりすぎていたな」

「そうですよ! いくらそのトレーナーが見たこともないポケモンを使っているからって言って、我々の障害になるとは限らないのですから!」

「そうだな…………いや待て。見知らぬポケモン、だと?」

 

 聞き逃せない不穏な単語が飛び出る。マツブサは再び不安に陥りそうになりながらも、

 

「そいつは一体どんな……」

「ええと、確か、トレーナーはそのポケモンをこう呼んでいたらしいですよ――」

 

 

 

 

 

 

 

 同日、カントー地方。

 

 

「――やはり、どこかで生きていたか」

 

 

 黒服に包まれた荘厳な男は画面に映し出されたものを見つめて、そう呟いた。

 

「サカキ様……この反応は……」

 

「ふっ……まさかホウエンとはな。しかし、この様子じゃ誰かの手持ちになっているのか? あのポケモンがな……」

 

 サカキ、そう呼ばれる男は指を顔に当てて考え始める。その横で、彼の部下と思わしき人物のそのような反応をもって、今の現状に少なからず動揺があることを示す。

 

 彼らのいるこの場所は、ロケット団という悪の組織のアジトであった。そして、そのロケット団のボスであるサカキはある程度まとまった考えを側に控える部下の1人に告げる。

 

「………まずは、事実の確認だ。ホウエン地方にて調査を開始する。あの地方にはそれ以外にも目的があるからな」

「――了解しました。では、ホウエン地方に潜んでいる団員に報告を……」

「いや、その必要はない」

「………はっ、はぁ……? それは一体………」

 

 サカキの発言に困惑する部下。そんな部下に言い渡すように、サカキはこう言う。

 

「なぜなら、この私自身が赴くからだ」

「ッ!? ほ、本気ですか……?」

 

 本来、このような場面では、というより大抵の場合、ボスであるサカキが行動する機会は少ない。

 

 それなのに、今回に限っては自ら進んで行動しようとする。通常と違うサカキの態度に、ますます混乱する部下だったが、ボスに忠誠を捧げた身ではそれを止めることはできない。

 

「………りょ、了解しました。すぐに手配をします」

 

 ならば、後はそう宣言するボスのことを信じるだけだった。その部下は、様々な準備のため即座に行動を始める。

 

 そして、一人画面を見つめたままのサカキは顔に笑みを浮かべる。

 

「ふふ……待っていろ。今度こそ、必ず捕まえてロケット団のものになってもらうぞ――」

 

 

 

 

 

 

 

「――――なあ、ミュウツー」

 

 

 モンスターボールで眠るそのポケモンに、呼びかけるようにそう語り始める。寝ていた所申し訳ないが、この話をしないわけにもいかないため、俺は続ける。

 

「実は、もう金がない」

 

『…………………………!?』

 

 そう言った瞬間、ミュウツーの動揺が微弱ながらも伝わってくる。

 

「報酬の金も全部使った。ここの宿代ももうない。食糧もそこのおやつで最後だ」

 

 依頼を完了した後、村長から感謝とその謝礼として貰った報酬だったが、そのほとんどがこのおやつに費やされた。なんとか今日までやりくりはしていたが、とうとうそれも終わりの時が来たのだ。

 

 これからまた放浪の旅に逆戻り、このベッドとも今日でお別れだ。

 

 

「はあ……またベンチ生活か……」

 

 

………しかし、この時はこんな苦労で済んでいたことに感謝すべきだったのかもしれない。

 

今後さらなる厄介事に巻き込まれるのを、まだ知らなかったのだから――――

 

 

 






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