旅して世界は救わない   作:堕賀史菓子

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6話

 

 

 昼下がり、放浪者は一人ぶらぶらと街を練り歩く。せっかく手に入れた所持金も底をつき、やることもなくのんびりと辺りを漂うだけだ。

 

「まあ、せっかく旅に来てるんだしな。そろそろ他の街でも回ってみるか」

 

 ここに来てようやく思い出したが、俺は今旅に来ているのだ。

その旅の目的も、特に決まっていないふわふわしたものではあるのだが……とにかく、このままこの地に滞在していても始まらない。

 

 次なる街を目指そう、路銀はその道中になんとかするさ。ミュウツーが。

 

……思えば、ホウエンに来てから行ってみたいところとか決めてなかったな。

これまでに訪れたところと言えば……レジアイス討伐の為に村と洞窟に行ったのと……ああ、ヒガナに草原まで連れられたこともあったな。

 

 あの景色はなかなかに壮大だった。星空が綺麗なうちは定期的に訪れてみるか。

 

「そういや……ヒガナに案内されてここまで来たからこの先の道が分かんねえや。あー……適当に道なりに沿ってみるか……?」

 

 ホウエンの地理は未だ頭に染み込んでない。行き先も決まってないのなら、どう進むかなんてのも分かるはずがないのだ。

 

 あー、こんな時、ヒガナがいてくれたらなあ………

 

 

「呼んだかい?」

 

 

 どうしたもんかと悩んでいた矢先、顔を上げてみるとそこには今一番求めていた人物が立っていた。

 

 

「……………………エスパータイプかな?」

 

 

 

 

 

 

 思いがけない再会に、俺の頭は混乱し始める。

 

「え、えーと? ヒガナ……だよな?」

「そうですそうです。あなたのヒガナお姉さんですよっと」

 

 相変わらずの態度だ。こっちが会いたいと思った瞬間にはいるんだから、流石はヒガナお姉様といったところだろうか。

 

 いやいや、そんなことより、だ。

 

「色々と聞きたいことはあるけど……そうだな……何から聞けばいいやら」

「なんでも聞いてくれたまえ。せっかくの再会なんだ、今日はキミだけのヒガナさんになってやろうじゃないか」

「そんならちょうどよかった。頼みたいこともあったんだ」

「ほほう、言ってごらん?」

「――道を教えてくれ」

 

 そう言った瞬間、ヒガナは露骨に嫌そうな顔をする。

 

「………また?」

「なんでもって言ったじゃん」

「いやそうだけどさあ……はあ、まーいいか。で? どこに行きたいんだい?」

 

 そう訊かれて返事に困る。確かに道を聞きたいとは言ったものの、具体的に行きたいところなど決めていなかった。しかし、そんなことを直接伝えてしまってはボーマンダの餌にされる未来が見えている。となると……

 

「………おすすめの場所で頼む」

「ふーん、つまり考えてなかったんだね。ボーマンダ、げきりん――」

「ちょっ! 待って! 分かった! 悪かったですごめんなさい! もう道聞きませんから!」

 

 その後本気の謝罪を続けたおかげでボーマンダの口に喰われる寸前、いや、顔の半分ほどイカれたところでなんとかヒガナお姉様の許しを得る。

 

 顔の半分の感覚を若干失ってはいる状態の俺に、呆れた様子のヒガナは尋ねてくる。

 

「それで、結局キミは何をしているんだい? 暇なの?」

「金もなく、行きたいところもなく、ただただ彷徨ってたところでございます」

「本格的にただの浮浪者だね……」

 

 言うな、その言葉は俺に効く。

 

 この旅を始める前はこんな予定じゃなかったのに、一体どこが悪かったのだろうか。

……金か。金が足りないから、ソニアに借金するし、ミュウツーのおやつ代に吸われ続けるのか。

 

「ねえ、そんなに時間が有り余ってるんだったら、少し私に付き合ってくれない?」

「ふん、話くらいは聞いてやるよ……」

「なんで上からなのさ……?」

 

 付き合ってほしいと言ってくるヒガナに対して、一瞬悩むも、悩み必要なんてないことに気づく。

こちらとしてもやることが無かったわけだし、丁度いいと思ってその話を受け入れるか。

 

「んで、付き合うって何すりゃいいの? あ、デートでもすればいいんですか?」

「んー。ま、そんなところかな」

「そりゃまあ違いますよね知ってましたとも……………………え? マジ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺のお店は結構いいの揃ってんだよね。ほら、この石とか………」

 

 デートだ…………

 

「……聞いてる?」

「めちゃくちゃ」

「そう? ならいいんだけど」

 

 はっ……やばい、デートという言葉に浮かれて何も考えてなかった。

 

 意識を取り戻した俺は、目の前に広がる数々の石を見つめる。色々な種類の石が置かれている中、その中に一つだけ、どことなく異質さを放つ石を見つける。

 

「なあ、この石ってなんだ? なんか普通の宝石とかとも違うような……」

「おや、こんなところで『メガストーン』を売っているなんて珍しいね。これは……ヤミラミナイトかな?」

「メガストーン?」

「そういえば、キミは別の地方から来たんだっけね。じゃ、メガストーンを知らなくても仕方ないか」

 

 不思議な名前だった。だが、妙に惹かれる何かがあった。そして、ヒガナは続けて説明をする。

 

「簡単に言うと、ポケモンに特別な進化をさせることのできるアイテムだよ。それを『メガシンカ』って言うんだけど……それをするにはもう一つ、『キーストーン』っていう石が必要なんだよね」

「ああ、これのこと?」

「あーうんうん。それそれ――――え?」

 

 俺がキーストーンと呼ばれる石をポケットから取り出す。すると、直後にヒガナは動きを止める。

 

「な……なんでキミがそれを……?」

「この前、どっかのポケモン倒した時に拾ったんだ。そん時は存在自体全く知らなかったけどな」

 

 レジアイスを倒した際、誰かが落としていったのだろうか、洞窟に転がっていたのを見つけて拾ったのだ。なんの価値もなさそうだと思っていたが、そんなに貴重なら売れば相当金になるか?

 

「なあ、これってどんくらいするんだ? やっぱ結構お値段します?」

「…………キーストーンもメガストーン同様、持っている人は限られる。マニアには高く売れるんじゃないかな」

「へえ、じゃあ今度売りつけに行ってみるかな――」

「ダメ。それはキミが持ってなさい」

 

 どのくらいで売れるかと考えていたところ、ここでヒガナの制止が入る。なぜヒガナが止めようとするのかはよく分からないが、こっちにもこっちの事情があるのだ、と口を尖らせて愚痴を溢す。

 

「えぇ……こっちは今日の生活費で苦しんでるってのに……」

「それは持ってたらいつか役立つ時が来るから。うん、だからそれまで大切に持ってなさい」

「…………はーい」

 

 そこまで言うんならしょうがない、渋々持っているとするか。

 

 はあ、次にまともな飯が食えるのはいつなんだろうか………

 

「キミ……そんなにお金ないの?」

 

 そんな俺を見かねたヒガナが声をかけてくる。

 

「自慢じゃないがモンスターボール一個買えるか怪しいくらいだぜ」

「それは確かに自慢じゃないね……」

 

 なけなしの硬貨がポケットの中でチャリンと鳴る。これを失えば本当の一文なしだと思うと絶望が止まらない。

 

「……仕方ない。ねえ、せっかくのデート(仮)なんだし、ご飯でも食べに行かない?」

「いや、俺金ないよ……?」

「そんくらい私が出すって。多分今日何も食べてないんでしょ?」

「………………はい」

 

 その通り、俺の胃の中はとっくに空っぽになっている。

 

 こんな簡単に施しを受けてもらって情けなくも感じるが、生きるためだ。そんなことを言ってられるほど余裕はない。ヒガナに誠心誠意感謝していただくことにしよう。

 

「それじゃ、どこがいいかな……あ、あの店なんて――」

 

 その瞬間、道の反対側で炎が巻き上る。

 

 

 

「バシャーモ! フレアドライブ!!!」

 

「うぎゃあああああああああ!! お、覚えてやがれえええ!!」

 

 

……………ええ?

 

 ヒガナが指を指した先にあったのは、よくある飲食店が並んでいる通り……もそうだが、何より目を向けたくなる光景だった。それは、バシャーモ使いの少女が赤いフードの男を一方的に蹂躙していくものであった。

 

 少女とその男になんの因縁があったのかは知らないが、そこまでやらなくても……なんて思っていると、少女に負けた男は俺たちの横を愚痴を叩きながら敗走していく。

 

「クソッ! 何なんだあのガキ!? それに、あの新人も一緒の命令受けたはずなのにサボりやがって!! どこ行きやがったんだ!?」

 

 そう言いながら通過していく男を見て、あることを思い出す。

 

………ん? あの服……確かマグマ団、とかいうやつだったよな……?

 

 俺が以前会ったのとは別人のようだが……なぜ、同じ格好をした人物がこんなところでポケモンバトルをしているのだろうか。しかも、三下のような捨て台詞まで吐いていって。

 

「今のは一体……?」

「…………あはは〜、なんなんだろうね〜」

 

 同じく、それを見ていたヒガナの表情が固まる。その顔はまるで、何かやることでも忘れていたかのような冷や汗を垂らしたものだった。

 

「……………ごめんアキハ、私ちょ〜っとだけ用事あるんだ。すぐ終わるからさ、ここで待っといてよ」

「えっ、いきなりすぎ――」

 

 俺が言い切る前に、急いでヒガナもこの場から抜け出していく。ポツンと残された俺だったが、一瞬の出来事すぎて脳が追いついていなかった。

 

「置いてかれちゃった…………」

 

 こんな状況の中一人でどうしろと言うんだ。ヒガナは用事って言ってたけど……すぐ戻ってくるんだよな?

 

 混乱が回復してきて数分経った後、ようやく我に帰った俺はヒガナが戻ってくるまでの間暇なので、そこらを回ることにした。

 

「…………あ、そういえば。さっきのメガストーンだったか……よく見れてなかったし、戻ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 さっきまで気になっていたメガストーンを思い出して、俺は色々な石を売っていた露店の場所へと向かう。すると先ほどと変わらぬ姿で、メガストーンは置いてあった。俺は持っているキーストーンを取り出して比べてみると、その模様などがほとんど共通していることが分かった。

 

………思ったが、やはりこのキーストーンは売った方がいいんじゃないか……?

 

 ヒガナはああ言っていたけれど、別に俺が持っていても使う機会なんて訪れない。それこそ、存在するかもわからないミュウツーのメガストーンでも手に入らない限りはだが。

 

 せっかくだし、ここの店主にこのキーストーンを扱ってもらえるか聞いてみよう。そう思って、口を開こうとした瞬間――――

 

 

「やめておけ」

 

 

「……………へ?」

 

 

 誰だコイツ……?

 

 その男はいきなり俺の横に現れたかと思いきや、俺はまたも制止を受ける。そんな突然話しかけてくる謎の男の姿を見て、まず俺が抱いた感想は――

 

 

(コイツ……ヤ◯ザか……!?)

 

 

 黒のスーツに、明らかに裏の世界の人間の顔つき。この顔は絶対何人かは殺っているだろう顔だ。

 

「こんなところで出しても大した価値はつかん。それに、それはお前が持っていた方が役に立つだろう」

 

 なんかアドバイスのようなものをしてくるが……こんな相手に普段の調子で『あぁん? オッサン誰だァ?』とでも返答したら確実にシメられる……墓場がホウエンの海は嫌だぞ。

どうにか考えてから、言葉を捻り出した結果――――

 

「アッ、ッスゥーーー、ハイ。ソッスネー………」

 

 『そっすね』、肯定も否定にも十分に傾くことのない。これはなんて素晴らしい言葉だろうか。

この発言では問い詰められることもないはずだ……!

 

「…………ふむ」

 

………え、何!? 何の『……ふむ』!?

当たり障りのない発言をしただけだと言うのに、こっちの精神はすり減っていく。

 

 値ぶみをするような視線を受ける俺は、今すぐにでもこの場から抜け出したかった。しかし、抜け出せるタイミングというものが見当たらなかった。

 

「………すいません、それで俺になんか用でしょうか?」

「いいや? ただ勿体ないことをしようとしているものだから止めさせてもらったまでだよ」

「そ、そうですか……」

 

 恐る恐る俺はそう聞いたが、そんな返事しか返ってこない。本当にそれだけなら良いんだが、こっから闇金の取り立てでも始まるのだろうか?

 

「いやすまない。余計なお世話だったな」

「そんな、それ言われるの二度目なんで大丈夫っすけど……」

「ああ、さっきのもう一人の彼女か。なら良かった」

 

 なんだ……? 案外いい人だったりするのか? 人は見かけによらない、とも言うし、これからは認識を改める必要がありそうだ。

 

「もしかしてキミはホウエン地方に来るのは初めてか?」

「はい……そんなわけで、このキーストンって物の価値も正直分かってなくて……」

「なら繰り返しになるが、それは大切にするべきだな」

 

 うーむ、こんな見知らぬ人にもここまで言われるとは。やはりこのキーストンは売らないべきか。俺は大して価値も分かっていないのだから、大人しく忠告には従っておくのが吉だろう。

 

……しかし、この男からは何か拭いきれない違和感を感じる。

 

 その違和感を払拭するために、俺は勇気を出して口を開く。

 

「………あの、貴方は一体――」

「さて、私も一人の男だ。うら若い男女の逢瀬を邪魔するわけにはいかないからな。ここで去ることにしよう」

 

 俺が勇気を出した瞬間、男はそう言った。

 

「えっ……ちょ」

「では、また会えたら会おう」

 

 俺が呆気に取られるほどあまりにもあっさりと、その男は去っていく。訊きたいことがあったのだが、なんだか逃げられたような気分だ。

 

 まあ仕方ない、また今度会うことがあったら名前でも聞きたいものだ。………と、そろそろヒガナが戻ってくる頃か。そうして背を向けて去っていく男を見て、時間もそこそこ経っていることに気づく。

 

 ヒガナを逆に待たせては申し訳ないし、俺もさっさと戻ることに――

 

 

「…………………………………あ?」

 

 

 

 元の場所へと戻るべく振り返った瞬間、ここでようやく抱いていた違和感に気づく。

――――()()()()()()()()()()

 

 何もなく離れていった時は、ただの強面の男が忠告しに来ただけとも思った。

 

 だが、今の発言から察するに、俺がヒガナといたところから話を聞かれ、そして一人になったタイミングを狙って話しかけてきたのだと捉えられる。では何の為に?

 

 そんな考えが頭によぎった瞬間、あの男が去っていた方向から声が届く。

 

 

「ああ、そうそう。手持ちのポケモンは元気かね? そのポケモンとも今度は会ってみたいものだな」

 

 

 

「――ッ!! アンタ一体…………!」

 

 声が聞こえて振り返ってみたが、そこにはもう男の姿はなかった。

 

「なん……だったんだ?」

 

 手持ちのポケモン、だと? それはミュウツーのこと以外にありえない。だとするなら、アイツが今回話しかけてきた理由は俺じゃなく、ミュウツーにあるというのか?

 

 分からない。あの男は一体何者で、ミュウツーとどういう関係にある? それに、ミュウツーに何の目的が……?

 

『………………』

 

 この状況で、ミュウツーは沈黙を貫いている。いや、ただ寝ているだけなら幸いなんだが。まだ俺の知らないことがミュウツーには隠されているということなのか?

 

 

………それとも、俺が覚えてない、のか?

 

 

「ミュウツー……お前は………」

 

()()()()()??」

 

 そう小さく呟いた瞬間、背後からそれを聞き返したような声が届く。意識が思考に向いていたせいかびっくりして、思わず反射で後ろを振り向く。

 

「ッ!? ……ああ、びっくりした。ヒガナか」

「もー、さっきの場所にいないから探したんだよ? 他にそんな珍しいものでもあった?」

「そりゃあ申し訳ない。ちょっとメガストーンが気になってつい見入ってたもんで……」

 

 別に嘘はついていない。ただ、今の出来事をヒガナにそのまま話すのは流石に………

 

「ふーん。それで、顔色も悪いけど本当にそれだけ?」

「えっ!? あ、あー………まあ、そうだなあ……」

 

 顔に出ていた……だと……クソッ……どうにか言い訳を探したいが、空腹と緊張のせいで頭が働かない。

 

「ほら〜なんでも話してごらんよ〜。そうだ、それ話してくれたらご飯も食べさせてあげるよ?」

「なっ……そんな……卑怯な……!」

「なんとでも言うがいい。このヒガナ、目的のためなら手段は選ばない女なのさ!」

 

 駄目だ……食欲には抗えない……しかし……本当にこんなことを言ってもいいのだろうか。そう一人で葛藤していると、ヒガナは耳元まで近づいてきてこう囁く。

 

「……今ならフエンせんべいもつけるよ?」

 

 その瞬間、理性と食欲の天秤は一方に傾いた。どちらかなど言うまでもないだろう。

 

 グッ……だがしかし………いいや! 限界だ、言うねッ!!

 

 

「――――俺、記憶喪失なんだよね」

 

 

「………ん? そういう設定?」

 

 

ちげーよ!!

 

 

 

 

 

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