「超古代ポケモン、その復活の兆しだろうね」
突如として、謎のイケメンがそう言って現れる。その男に会ったことはなかったが、その顔はどこかで見たことがないような気がしなくもない。
俺は知らない男に話しかけられたことで、若干の困惑を感じていたが、隣のハルカはその男を見て安心したような顔になる。ということは、ハルカの知り合いなのだろうか。
「ダイゴさん! 来ていたんですね!」
ダイゴ……ダイゴ……?…………ああ、そうだ、思い出した。
このダイゴさんと呼ばれる爽やか系イケメンは、ホウエン地方のチャンピオンだ。いつだったか、ダンデが話していたのを耳にしたのが記憶にほんの少し残っている。
で、なぜそのチャンピオンがこんなところに……? そう訊きたくなったが、俺が口にするより先にダイゴが答えるように口を開く。
「フウくんとランちゃんから君がジムに来ているって聞いてね。せっかくだから会いに行こうとした矢先にこんな――」
途中まで言いかけて、ダイゴさんは口を閉じる。そして、少し考えた後、こう続けた。
「いや、まずは事態の説明からだね。とりあえず、僕の家まで来てくれるかい?」
「……はい。私も聞きたいことが色々あるので」
「ああ、それについても答えよう…………ええと、それで気になっていたんだけど、キミはどちら様だい?」
あ、バレた。流れに乗じてこっそりと逃げようとしていたのに。
とはいえ、見つかってしまったからには仕方ない。こうなったら、正面切って逃げることにしよう。
「俺はアキハ、ただの旅するトレーナーだ。ハルカとさっきジムで会っただけの仲だから、特に関係はない。というわけで、俺はここで…………」
「アキハさんも私たちに協力してくれる方なんです!」
「………………………え?」
は、ハルカサン? 何言ってくれちゃってんの?
「ですよね? アキハさん? あんな強そうなポケモン連れているんだから、アキハさんもお役に立てると思うんですよ。それに、さっきマグマ団について知りたがってましたよね?」
「い、いや……俺……」
「で す よ ね ?」
怖ッ! このハルカの目からは、絶対に道連れにするという意思を感じるぞ……
だが待て……まだ焦るな……ダイゴさんがこんな身元不明の男をそうやすやすと受け入れるはずがない。俺は逃げるぞ……!
「そうだったのか! ならよかった! こんな状況だ、人手は多い方がいいからね!」
「なんでだよッ!?」
チャンピオンがチョロすぎるだろ! そう簡単に人を信じるな!
「そうですよアキハさん! 旅は道連れ、世は情けって言うじゃないですか!」
「ぐっ……そんなこと言われたって、俺は……俺はッ……!!!」
◇
「――つまり、マグマ団に超古代ポケモンの力が渡ってしまえば、世界は未曾有の危機なんだ。分かったかい? アキハくん」
「………………ああ、めっちゃ聞いてた」
圧には勝てなかったよ……
渋々ながらも聞いてたダイゴさんから聞いた話を要約すると、マグマ団がヤバいポケモン復活させようとしててマジヤベー、ってことらしい。しかし、それを俺に話されてもなあ……
「……それで? 世界の危機、って言われても具体的に何をするんだ?」
「おや、意外とすぐに受け入れてくれて助かるよ。それで、アキハくんとハルカちゃんには、これからマグマ団の潜む海底洞窟に向かってもらいたい」
海底洞窟、どこにあるかも分からないが、今までの話を聞く限りかなり危険な場所のようだ。なんせ、その超古代ポケモンとやらが封印されてるのだから。
だが、そこまでたどり着くには一体どうすればよいのだ? 海底という名の通りならば、そこに行く手段を俺は持ち合わせてはいないぞ。
「でも……そこは潜水艇がないと行けない場所じゃ……私たちはどうやって行けばいいんですか?」
その時、同じ疑問を抱いていたのか、ハルカはこうダイゴに訊く。
「大丈夫、そうなるだろうと思って、これを持ってきたんだ」
そう言ってダイゴさんが渡してきたのは、一つの技マシンと、まるで宇宙飛行士が着けるようなボンベだった。ボンベはまだ分かるが……なぜに技マシンを?
「それは『ダイビング』の技マシンだ。ボンベを装着して、それをポケモンに覚えさせれば海底まで潜れるはずさ」
「なるほど……これをポケモンに覚えさせればいいのか」
「それじゃあ私はルンパッパに覚えさせますね! アキハさんはどんなポケモンに覚えさせるんですか?」
「それは………」
その聞かれた瞬間、俺はあることを思い出す。
…………俺、手持ちミュウツーしかいないんだった。
おいおい、どうすんだこれ……ミュウツーにはダイビングなんて出来そうもないし、これじゃあ海底洞窟に行くことなんて――――いや待てよ……ハッ!!! 閃いた!!!
「……あー、実は俺手持ちにダイビングを覚えるポケモンがいないんだったー。困ったなー、これじゃ海底洞窟行けないやー、ミュウツーがダイビング出来たらなー、アッハッハー」
完璧な言い訳だ。
手持ちに使えるポケモンがいないのでは行くことも出来ない。つまり、行かなくてもいいというわけだ。これではハルカも無理強いも出来まい。
「ふむ……アキハくんは水タイプのポケモンを持っていないのか……それは困ったな……」
「えっ……そ、そんなあ……」
「ぶははははは! ハルカよ、ミュウツーがダイビングを覚えないのが運の尽きだったなあ! というわけで、俺はここで……」
勝利を確信した俺がこの場を離れようとする。
すると、ボールの中から何かを訴えようとするポケモンの声が脳に響く。
『………………』
「ははは………あ? おい、ミュウツー、今なんて……何? 『そんな技余裕で覚えるわボケ』だと……?」
思考停止。
そして考える、なぜミュウツーというポケモンは、こうも無駄に優秀なのだろうか。あのミュウツーがダイビングなんて技をする姿を想像すると、少し吹き出しそうになる。
しかし、そんなことを考えてる場合ではない。先ほど、思わず声に出してしまったからには、今すぐにここから――
平然と立ち去ろうとした、その瞬間。俺の歩みを止める手が肩に置かれる。
「アキハさん? 今、なんて言いました?」
「………………いや、その……ちょっとガラルに帰らせていただきます」
◇
ああ、海は綺麗だ。こんな美しい景色が脅かされているなんて、世界は何と残酷なのだろうか。
一生これだけ眺めていたい……だが、その想いは届かない。
「アキハさん? 海底洞窟の位置は大丈夫ですよね?」
「モチロンデス」
「…………私もう行きますけど、技覚えさせたらちゃんと来てくださいね? 来なかったら……沈めますから」
「…………モチノロンデス」
さっきから怖えよ! 沈めるってどこに!? くそう……なぜ俺がこんなことを……
ダイビングを覚えたルンパッパと共に、ボンベを身につけたハルカは俺より一足先に海底へと潜って行く。その前に、俺に釘を刺していって。
そうまで言われてバックれるほど、俺はメンタルは強くない。仕方なく、海底へと向かうためにミュウツーにダイビングを覚えさせることにする。
「はあ……出てこい、ミュウツー」
ミュウツーは相変わらず、何事にも動じない態度だ。
「それじゃダイビングを教えさせるからな。えーと、最初に……」
技マシンなんて使うのが初めてなので、戸惑いながらも手順を一つずつ踏もうとする。そうしている間、何故かミュウツーがこちらをじっと睨んできた。何を考えているんだろう、と思っていると、耳を疑うような言葉が脳に届く。
『………………』
「ん? 『ダイビングなんて覚える必要ない』?………何言ってんだ。やらなきゃ沈められるのは俺だぞ?」
突然何を言い出すんだ、このポケモンは。と一瞬思ったが、ミュウツーは続ける。
『………………』
「『海底洞窟の座標を教えろ』って…………確か、あの地点から数十メートル潜ったところにあるらしいけど、それが何か……」
ミュウツーの放つ言葉の意味も分からないまま、俺がそう海底洞窟の向きに指を指して位置を伝えると、ミュウツーは急に俺に向けて手を当ててくる。
「……? ミュウツー、さっきから何がしたいんだ――――」
『…………!』
ミュウツーがキッと目力を強める。
「ッ……!?」
――その瞬間、ぐにゃり、と視点が揺れ動く。
まるで船酔いをした時のような気持ち悪さを感じて、脳が混乱する。そして、次に目を開いたとき、その目に入ってきた景色に思わず息を止める。
「…………は?」
突如として、ゴツゴツとした岩が眼前に現れる。
俺は先ほどまで、トクサネシティの海沿いにいたはずだ。それがどうして、こんな硬そうな岩が広がっている洞窟にいるのだ? 先ほどの混乱の影響で幻覚でも見ているのか?
そう思ったが、サラサラの砂とは違うこの地面のゴツゴツとした感触を感じて現実だと確信する。
「ッ……ミュウツー!? お前何した!?」
おそらくこの現象を引き起こした張本人、ミュウツーにそう問いかける。
それでもミュウツーは変わらぬ平然とした態度で、こう答える。
『…………………』
「テレポート……? あそこから一瞬で移動した……?」
テレポート、それは、一部のエスパータイプのポケモンを使うことの出来る技だ。それを同じくエスパータイプのポケモンであるミュウツーが使用可能なところで、何の疑問も抱かない。
そのテレポートによって、ミュウツーはここまで跳んできたという。
…………色々とツッコミたいところはあるが――
「そんなの使えるんだったら先に言えよ!?」
怒号は、洞窟に響くのだった。
◆
――そして、時はグラードンの復活の予兆として、海から光が現れた直後に遡る。
「……そうか。そのマグマ団という組織がグラードンを復活させようとしている。それで間違いないな?」
黒色の服に包まれた男は、確認するようにそう言う。
「ふむ……ホウエンに伝わる伝説のポケモンか。興味はあるが、今は他にやるべきことが多すぎる。例のポケモンは現在解析中となると……」
その男、ロケット団の統領であるサカキは、手に握っていた
「そうだな……また少し、彼にちょっかいでも出してみるかな」
かくして、巨悪は再び動き出す。