遊戯王ARC-V~砕けた世壊の姫達~ 作:新作アニメ待ってます
ザー……
とある島、とある静かな入江の波打ち際。
太陽に照らされキラキラと光る海を眺める、1人の少女がいた。
波は穏やかで天気もよく、座り込んでいた少女はそっと水面に手を這わせた。
ちゃぷ、と水面が僅かに跳ねた。
「……良い天気……今日は良いことがありそう……」
鈴の鳴るような声を響かせ、少女は小さく微笑みを浮かべた。
それに呼応するように、何もないはずの水面が突然いくつもの波紋を刻んだ。
左右に白と黒で別れた特徴的な髪を揺らし、少女は左腕につけた機械に……機械にセットされた紙の束に手を添えた。
同時に周囲の水面の波紋が増える。
四つの波紋が互いにぶつかりあい、僅かな水飛沫が飛び散った。
「みんなもそう――」
誰もいないのに、同意を求めるように水面へと少女が視線を向けた。
そんな時だった。
「見つけたぞ!」
物静かな雰囲気に見合わない、騒がしい声がしたのは。
同時に少女の目の前の波紋が変化した。
まるでそこに誰かが浮かんで身を揺らしていたような波紋から、そのまま沈んでしまったような波紋へと。
ちゃぽんっ
そんな音がしたような波紋が4つ、水面に残されていた。
「…………」
少女はその朗らかな笑みを引っ込め、その表情を無へと変えた。
そうして声がした方を振り返ってみれば、そこには特徴的な仮面をした、まったく同じ服装の3人組が少女を見据えている。
体つきとしては少年から青年くらいに見えるが、露出しているのは口元のみで、髪すら覆われている彼らは個体の判別すら難しいだろう。
「こんなところに逃げ込んでいたか!」
「こそこそと隠れ潜むとはな! その名は飾りのようだな!」
「いい加減についてきて貰うぞ!」
代わる代わる話す3人は少女へと向き直り、その手を向けた。
その態度には傲慢さが滲んでいて、断るという選択肢は許さない、そんな意思を感じた。
しかし少女は毛程も気にした様子はなく、ゆったりとした動作で立ち上がり、無表情のまま3人組を見返す。
「……また来た……貴方達もアカデミア?」
辟易した、という態度を隠しもせず、少女は細めた瞳で3人組を見つめていた。
「そう! 我らこそアカデミア、精鋭中の精鋭!」
「オベリスク・フォース! 今までの雑兵とは訳が違うぞ!」
「観念しろ!」
「…………」
少女は無言で首元に手をあてた。
そこには金色のチョーカーが光っている。
暫し沈黙した少女は小さく息を吐き出すと、ゆっくりと首を横に振った。
「アカデミアは嫌い。私の自由を阻害するから……。私にはやることが、見つけなきゃいけないものがある。貴方達についていく事は、決してない」
少女のその言葉に、オベリスク・フォースと名乗った3人組の雰囲気が変わる。
機械のついた左腕を構え……その機械から剣のようなものが展開された。
シャキンッ
「ならば!」
「力ずくで!」
「連れて行く!」
オベリスク・フォースは戦意を漲らせ、少女を睨み付ける。
「「「覚悟するが良い! 『人魚姫』!」」」
いつの間にか、誰が呼んだか、勝手につけられた名前に少女の表情が不満そうに歪む。
呼応するように左腕を構えつつ、少女は口を尖らせてじとりした目でオベリスク・フォースを見ていた。
「……その名前、嫌い。まるで私が、泡みたいに弾けて消えちゃうみたいで。……まぁ、いいや。私の邪魔をするなら……容赦はしない」
そしてその構えた腕の機械から、同じように剣のようなものが展開された。
シャキンッ
「どうせバトルロイヤルモードで、私が1番最後……2人目から攻撃可能、なんて滅茶苦茶なルールなんでしょ?」
オベリスク・フォースは『人魚姫』の言葉を否定することなく、唯一露出している口元をニヤニヤと歪ませた。
今から彼らが行うのは、カードゲームだ。
デュエル・モンスターズによる4000のライフの削りあい。
本来なら1対1で行う決闘を、彼らは実質3対1で同時に行うという。
明らかに少女、『人魚姫』にとって圧倒的に不利な条件だ。
「いかに噂にきく『人魚姫』とあれど、我らオベリスク・フォースにかかればひとたまりもあるまい!」
「アカデミアに逆らったことを後悔するがいい!」
「我らアカデミアこそ絶対なのだ!」
自信満々に力説する彼らは自分達の勝利を疑っていない。
実際それは当然といえた。
本来なら1対1のゲーム、それを3対1で、しかもライフポイントを減らせる行為であるバトルが2人目から出来る。
これはつまり、自分のターンがくるまでに3人の――攻撃してくるのは2人だが――の猛攻を耐えきる必要があるということだ。
そんなこと、出来る訳がないとオベリスク・フォースはほくそ笑む。
アカデミアの優れた戦術は、どんな相手だろうと容易く打ち破ることが出来るのだ、と。
「……能書きはいいよ。それじゃあ、始めよう」
そんな自分の不利などどうでも良いと言いたげに、『人魚姫』は自身のデッキから5枚のカードを引く。
これが最初の手札……そして最後の手札になるのだと、オベリスク・フォースは嘲笑う。
「……行くよ、みんな」
そう『人魚姫』が呟いた瞬間、彼女の背後の水面が突然水飛沫をあげた。
何もないのに、まるで何かが水中から飛び出したかのような、そんな水飛沫に、オベリスク・フォースは一瞬呆気にとられた。
「……
降り注ぐ水飛沫のなか、少女は微動だにせず、小さく呟く。
日に照らされた水飛沫がキラキラと輝き、ヒラヒラとした少女の服を彩っていた。
そして不思議な事に、少女はそれだけの水飛沫を浴びているにも関わらず、ほんの僅かにも濡れる様子はなかった。
「「「っ……!
オベリスク・フォースはその神秘的とも言える光景に見とれるも、すぐにその気を引き締め、強く宣言した。
我らアカデミアは絶対、オベリスク・フォースに敗北はない。
そう強く自分に言い聞かせ……そして決闘が始まった。
その時、彼らは気付いていなかった。
水中から飛び散った水飛沫は不思議な軌道を描き、彼らの四方を囲うように散らばって行ったことを。
そして……『人魚姫』が水飛沫が舞い上がった一瞬、ひどく冷たい嘲笑を浮かべていたことを……。
「俺のターン!」
オベリスク・フォースA 手札5
先程の醜態を誤魔化すように声を張り上げ、オベリスク・フォースは、5枚の手札に視線を落とす。
バトルロイヤルをうたってはいるが、その実タッグデュエルのようなもの。
それ故にオベリスク・フォースはそれぞれ3人で役割が決まっている。
1人目である自分は攻撃をすることが出来ない。
ライフをバトルで削り切るのは、他の2人の役目だ。
そんな自分の役目は、万が一相手が生き残った場合に攻撃を塞き止めること……その為のパーツは既に揃っている。
オベリスク・フォースは、意気揚々と手札の1枚を左腕の機械……デュエルディスクに叩きつけた。
「俺は手札から、
オベリスク・フォースA 手札5→4
出現するのは機械仕掛けの猟犬。
猟犬は主人の命に従い、口に炎を溜めた、その時。
「じゃあ、それにチェーンして……手札の」
猟犬に相対するように水の幕が突然現れた。
なんだと思う間も無く、そこから一つの人影が映し出されていく。
「ティアラメンツ・ハゥフニスの効果を発動」
「なにっ!?」
水の幕が晴れれば『人魚姫』と着ている服とどこか意匠の似ているヒラヒラとした服を着た、銀髪の少女がそこに立っていた。
両手には逆手に双剣を構え、気だるげな表情で猟犬と相対していた。
「相手がフィールドのモンスターの効果を発動した時、このカードを手札から特殊召喚出来る」
ティアラメンツ・ハゥフニス ATK1600
『人魚姫』 手札5→4
「此方のターンに手札から特殊召喚だと!?」
「そして私のデッキから3枚……墓地に送る」
驚くオベリスク・フォースと炎を口に溜めたままの猟犬を尻目に、ハゥフニスは宙でふわりと身を翻すと、ぶかぶかの袖で『人魚姫』のデッキを撫でた。
まるでそれに引き寄せられるように、デッキから捲られた3枚のカードが『人魚姫』の墓地へと送られていく。
「……ふん、なんだ。それだけか」
「驚いて損をしたな。ステータスも低い、効果ダメージを軽減するようなモンスターでもない……。ならば……やってしまえ!」
「ああ!
オベリスク・フォース達は特に何も起こることなく、ただ自分のデッキを墓地に送り処理を終えたのを見て、鼻で笑う。
そしてその声に応え、機械仕掛けの猟犬は口内に溜めていた炎を放った。
迫る火球に『人魚姫』の前に浮いているハゥフニスは一瞬身構え主を背に庇おうとするものの、むしろ主である『人魚姫』は一歩前に出るという暴挙に出る。
ハゥフニスは呆れたように、肩をすくめ首を傾げた。
「んっ……」
ボウッ!
『人魚姫』LP4000→3400
火球は『人魚姫』のデュエルディスク部分に当たり、実害はないものの確かな熱さを『人魚姫』にもたらした。
しかし『人魚姫』は僅かに眉をしかめ、声を漏らしただけだった。
その姿にオベリスク・フォースはせせら笑う。
「ふん、何も出来ないようだな」
「所詮はアカデミアからの脱走兵!」
「我らには敵わん!」
傲慢に、見下し、バカにして、嘲笑う。
それが彼らアカデミアだ。
そんなニヤニヤと歪んだ笑みを見せる彼等を、『人魚姫』はじっと見つめる。
そして……墓地に送られた3枚のカード、それを手に持ち、オベリスク・フォース達へと見せつけた。
「墓地に落ちたカードは……この3枚。……貴方達、相当運が悪いね……」
『人魚姫』の手にある3枚のカードは、効果モンスター2枚に、罠カードが1枚……。
そのカード達には、こう刻まれていた。
『古衛兵アギド』
『古尖兵ケルベク』
『現世と冥界の逆転』
と。
それを見せられ、怪訝な表情になったオベリスク・フォースを見て……突如『人魚姫』の頬が吊り上がった。
頬が裂けたかと錯覚してしまうような笑み……。
一般的に可愛らしいと言えた整った顔はひどく歪み、嘲りの笑みを浮かべていた。
「「「……!」」」
「あは……アハハハハッ……!アーッハッハッハハハハハハッ!御愁傷様ッ!」
堪えきれない様子で、『人魚姫』は嘲笑う。
オベリスク・フォースは声も出ず、思わず後退りした時、『人魚姫』のデッキ、更にはオベリスク・フォースのデッキからカードがぶわりと舞い上がった。
「「「なっ!?」」」
「アハハッ……アギドとケルベクはそれぞれ、墓地に送られた場合に、お互いのデッキから5枚、カードを墓地に送ることが出来る……。そして更に! 墓地に現世と冥界の逆転があれば、追加効果をそれぞれ発揮する! 既に私の墓地には現世と冥界の逆転がある! さあ! 真の力を発揮し、奴等に地獄を見せて! アギド! ケルベク! チェーンは、ケルベク効果をチェーン1! アギド効果をチェーン2! さぁ、チェーンがないなら効果処理だ!」
オベリスク・フォースに出来る事はない。
ただただ困惑しながら、自らの墓地にカードを送っていく。
「アギドの追加効果は、自分か相手のデッキから更に5枚墓地に送ることが出来る! 私自身を選択!」
オベリスク・フォースは5枚、『人魚姫』は10枚ものカードが墓地へと送り込まれていく。
そして、処理は進む。
「ケルベクの追加効果は、5枚落とした後に私の墓地から罠カードを1枚セットする効果! これにより罠カード、メタバースを私のフィールドにセット!」
『人魚姫』のフィールドにはターンが来ていないにも関わらず、モンスターが一体、更に伏せカードまで用意される。
その異常事態にオベリスク・フォースは狼狽を隠せなかった。
「なっ……こちらのターンに墓地から罠カードをセットだと!?」
「あ、慌てるな! 罠ならこのターンは使えん!」
「くっ……まさかこのような方法で妨害作を用意してくるとは……。だが、こちらも墓地効果のある
「――――墓地に送られたカード達の効果を、発動」
それでも、と気を取り直しターンを続けようとするオベリスク・フォースに……『人魚姫』は無情にも言葉を続ける。
「チェーン1……ティアラメンツ・メイルゥの効果」
これまたハゥフニスと似た意匠の衣服を着込んだ、幼げな表情を浮かべた少女が、半透明な姿でふわりと『人魚姫』の周りに浮かぶ。
「チェーン2……ティアラメンツ・シェイレーンの効果」
またもや似たような意匠の衣服の、勝ち気な表情の少女が現れる。
その姿はやはり半透明で、メイルゥと共に『人魚姫』の側で宙を泳ぐ。
「チェーン3……ティアラメンツ・ハゥフニスの効果」
更には二人目のハゥフニスが半透明となり、メイルゥ、シェイレーンと並んで浮かぶ。
優雅に宙を、まるで水中のように泳いで、ふわりふわりと駆け巡る。
この時点でオベリスク・フォースは仮面の内側で目を白黒させていたが、まだ止まらない。
「チェーン4、
7枚ものカードが、墓地から力を解き放ち光をもたらす。
そんな様子を、何が起きているのか理解出来ずオベリスク・フォースはただ呆然と眺めていた。
チェーン7という初期手札の枚数すら超えた、1人では本来到底発生させることも出来ないであろう数の怒涛のチェーンは、彼等の理解を超えるものだった。
そんな彼等に嘲りの笑みを浮かべて見下し、『人魚姫』は肩を揺らす。
「永続魔法
『人魚姫』 手札4→5→6→7
「な……な……!?」
「て、手札が……!?」
「何が起きている……!?」
『人魚姫』のデッキからカードが次々と飛び出し、手札を潤わせ、更に墓地にカードが積み重なっていく。
此方のターンにも関わらずアドバンテージの差が開いていく状況に、オベリスク・フォースは揃って狼狽えていた。
――――しかし、本番は、ここからだった。
「アハ、アハハハハッ! この子達ティアラメンツモンスターには共通効果がある! 効果で墓地に送られた場合の効果が!」
周囲を泳ぐティアラメンツモンスター達は、一度『人魚姫』の方を見た後、水面に潜り込むように地面に消えていく。
「この子達自身と、墓地、手札、フィールドのモンスターをデッキの下に戻すことで、融合召喚を行う!」
「「「バカな! 墓地からデッキに戻して、しかも此方のターンに融合召喚だと!?」」」
そのあまりの効果に、同時に放たれた言葉は驚愕に満ちていた。
『人魚姫』はそれにただ、笑みを深めるだけだった。
「ハゥフニスと、墓地の悲劇のデスピアンを! シェイレーンと、墓地のデスピアの導化アルベルを! メイルゥと墓地の喜劇のデスピアンを! それぞれデッキに戻して……融合! さぁ!麗しき人魚達よ! 劇場を彩る道化師達よ! 交わりて一つとなり、呪いを振り撒く悪魔とならん! 忌まわしき仮面の竜よ! 愚か者達に呪いの唄を!」
そして周囲に立ち込め始めるのは赤黒い霧、空気が淀み始めたと錯覚するようなプレッシャーにオベリスク・フォースは思わず喉を鳴らした。
やがて地面から這いずるように表れる、悪意。
まるで悪意を押し固めたような存在が3体……その長い首をもたげた。
「融合召喚! レベル8! 赫灼竜マスカレイド!」
赫灼竜マスカレイド ATK2500
赫灼竜マスカレイド ATK2500
赫灼竜マスカレイド ATK2500
道化のような印象を受ける赤と黒で彩られた、不気味な仮面をつけているようにも見える3体の竜。
何処か道化染みた姿のそれらの口から漏れ出す瘴気が、空気を重くしているように感じる。
3体の竜は『人魚姫』を守るように身を寄せ、その首をうねらせていた。
「ふふふ……これで、効果処理は終了……どうぞ? ターンを続けて?」
顔を寄せてきたマスカレイドの顎部分を撫でながら、『人魚姫』はオベリスク・フォースへと手のひらを向けた。
一方でオベリスク・フォース達は咄嗟に声も出なかった。
今は1人目の1ターン目だった筈だ。
にも関わらず『人魚姫』のフィールドにはモンスターが4体、そのうち3体は融合モンスターときている。
更には罠まで伏せられている……。
少なくとも、今の自分で対処出来るような盤面ではない。
「……ちっ! だが、やることは変わらん!」
オベリスク・フォースは舌打ちを鳴らし、気を取り直すように声を荒げた。
その身に感じる感情を振り払うように、フィールドに存在する唯一の自身のカード、
「
そう宣言した瞬間、マスカレイド達から噴出した瘴気が、オベリスク・フォースを包み込み、苛んだ。
力が抜けるような感覚と共に、脚をふらつかせたオベリスク・フォースから力が吸いとられていくような……。
オベリスク・フォースA LP4000→2200
「おい! どうした!?」
「大丈夫か!?」
「融合召喚した赫灼竜マスカレイドがフィールドに存在する限り……貴方達はカードの発動に600ポイントのライフを払わなければいけない呪いにかかっている……カースドレクイエム。3体だから1度の効果発動に1800のライフを払ってね……アハハハハハ! 」
「「なんだと!? 」」
「ぐっ……つまり、融合召喚の後、俺が効果を発動出来るのは1回だけ、だと……!?」
神秘の渦を作り出す
残り4枚の手札には、攻撃を全て吸い寄せる磁力の指輪と戦闘破壊耐性を与えるミストボディ、2枚の装備魔法がある。
本来ならばこの2枚の装備魔法のコンボで相手の攻撃を塞き止めるつもりだったが、この時点でもうそれは叶わなくなってしまっていた。
「ならば、せめて少しでも貴様のライフを、削る! フィールドと手札の
オベリスク・フォースA 手札4→3
そうして出現したのは無数の砲身を携えた機械仕掛けの悪魔。
身を固めつつも、その砲身だけは主人の敵である『人魚姫』へと向けられている。
「そして! ライフを1800払いっ……ぐぅううううう!
オベリスク・フォースA LP2200→400
ドオンッ!
「くっ……アハハハハハ……!」
『人魚姫』 LP3400→2400
砲身から放たれた砲弾が、マスカレイド達をすり抜け『人魚姫』に直撃した。
顔をしかめつつも『人魚姫』は笑みを消すことなく、ひたすらに嘲笑い続けていた。
困惑するのは周囲を固めるマスカレイド達と、ダメージを与えたオベリスク・フォースの方だった。
心配するように身を寄せるマスカレイド達の首を、『人魚姫』はなんでもないとでも言いたげに笑みを浮かべて撫でていた。
「なんだこいつ……気持ち悪い……。ちっ、これ以上は何も出来ない! カードを1枚伏せて、ターンエンドだ! 後は頼むぞ!」
オベリスク・フォースA 手札3→2
現状伏せてもカードを使うことは出来ないが、他の2人がマスカレイドを倒すことが出来れば、可能性はある。
「(伏せたのは聖なるバリア ミラーフォース……。マスカレイドさえいなくなれば磐石だ……頼むぞみんな!)」
惜しむようにマスカレイドを睨み付けてエンド宣言をし、仲間に後を託した。
「ああ、任せろ! 頼むぞ俺のデッキ……ドロー! よし!」
オベリスク・フォースB 手札5→6
ターンが切り替わり、デッキからカードを引いたオベリスク・フォースはそのカードを見てニヤリと笑った。
「ぐぅっ……ライフを1800ポイント支払い……更に手札を1枚捨てて、ライトニング・ボルテックスを発動! 相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!」
オベリスク・フォースB LP4000→2200 手札6→4
「良いぞ!」
「これで奴のモンスターは全滅だ!」
「食らえ! 裁きの雷を!」
オベリスク・フォースが発動した魔法により、『人魚姫』のフィールドに雷が降り注ぐ。
マスカレイド達は『人魚姫』を守るようにその身を雷に晒し、ハゥフニスは諦めたように目を閉じて受け入れていた。
バリバリバリバリ!
凄まじい稲光が走り、舞い上がった砂煙で『人魚姫』のフィールドは一時的に見えなくなった。
伏せカードの存在が気になったが、どうやら防げるようなカードではなかったようだと自分を納得させ、オベリスク・フォースはターンを続けようと手札に手を伸ばした。
その時、砂煙の中に人影が浮かび上がってきた。
『人魚姫』とはいえ明らかに異なるシルエットに疑問符を浮かべていると、すぐにその人影の姿は露になる。
そこにはマスカレイドと何処か似たような仮面をした赤髪の少年が此方を見据えていた。
笑っているようにも見える仮面の少年は恭しく一礼し……。
『ハハハッ!』
笑い声を残して溶けるように消えていった。
「なん……」
なんだ、と声を出すよりも早く晴れた砂煙の先には、無事な姿のマスカレイド達の姿があった。
よくもやったなとばかりにその6つの眼光がオベリスク・フォースを貫く。
「バカな!」
「何故破壊されていない!」
「ライトニング・ボルテックスは発動したはずだ!」
「墓地の、烙印開幕の効果……私の場の融合モンスターが効果で破壊されそうになった時……身代わりとなって墓地から除外することが出来る! アハハハハハッ惜しかったね!」
「あの時墓地に送られていたカードか! くっ……!」
喜悦からまた苦悶へと表情を歪ませる。
そこに更に……追い打ちが放たれた。
「それと……効果処理は終わってない。破壊され、効果で墓地に送られたティアラメンツ・ハゥフニスの効果発動!」
「なっ……! 此方からの破壊にも対応しているのか!」
「このカードと墓地のもう1枚のティアラメンツ・メイルゥをデッキに戻して……融合!」
ふわりと浮かび上がるのは先程破壊されたハゥフニスと、再び姿を現すメイルゥ。
気だるげな顔を更に歪ませるハゥフニスを引っ張りあげ、メイルゥは朗らかな笑みを浮かべて並び立つ。
そして半透明の2体は顔を見合せて手を繋ぎ、くるくると回転しながら水面へと身を投げた。
とぷん
「さぁ! 私の可愛い麗しき人魚達よ! 交じりて一つとなり、新たな力を産み出さん! 私の世
ザバァッ!
水面から勢いよく飛びだしたのは今までのティアラメンツ達よりも一回り大きく、着ている衣装も華美な女性。
勇ましい表情で剣を構え、『人魚姫』の前に躍り出た。
ティアラメンツ・キトカロス ATK2300
「キトカロスが融合召喚に成功した場合……デッキからティアラメンツカードを手札に加えるか墓地に送る……。私はデッキからティアラメンツ・シェイレーンを……墓地に! よってシェイレーンの効果を発動!」
再び現れる半透明な勝ち気な少女。
不満げに頬を膨らませて『人魚姫』に何かを訴えてから、勇ましく構えたままのキトカロスへと組み付いた。
「墓地のシェイレーンと、フィールドのキトカロスをデッキに戻して……更に融合!」
『!?』
狼狽し暴れるキトカロスを引き摺るように宙を泳ぎ、やがてたどり着いた水面へとキトカロスを放り投げる。
そして、水面に残る波紋に、自らも身を投げた。
……放り投げられたキトカロスの瞳からは光るものが見えた気がした。
「さぁ! 私の麗しき人魚よ! 美しき管理者よ! 今こそ真の姿となりて、私の世
そんな状況を知ってか知らずか、『人魚姫』は口上を続ける。
そうして水面から飛び出したのは、先程のキトカロスと同じ女性だった。
先程より豪華な衣装に鎧を身に付けたキトカロス……改めルルカロスは、勇ましい表情で再度気を取り直すように、立派になった剣を構えた。
目元が光っているように見えるのは、気のせいだろう。
ティアラメンツ・ルルカロス ATK3000
「今度は連鎖するように融合……もう5回も融合を……」
1人目のオベリスク・フォースは開いた口が塞がらない様子だった。
「攻撃力3000……くっ……マスカレイドも残ったまま……。俺に出来るのはあと1回の効果発動……どうすればいい……!」
手札とフィールドを何度も見比べ、最適解を探すも見つからない。
どう足掻いても相手のフィールドを突破することは出来ず、精々が
「(それならば、いっそ……俺自身は、捨てる!)」
チラ、と3人目に視線を向ければ力強く頷いていた。
ならば、後は託すだけだ。
「ライフを1800ポイント支払いっ……! 手札から魔法カード闇の指命者を発動! このカードはカード名を宣言し、相手はそのカードがデッキに存在していれば手札に加える! 俺が宣言するのは、
オベリスク・フォースB LP2200→400 手札4→3
指し示したのは3人目のオベリスク・フォース。
そのデッキからカードが1枚、いや引っ張られるようにもう1枚飛び出してくる。
「当然俺のデッキには入ってる……そして、ドロー以外で手札に加わった
オベリスク・フォースC LP4000→2200 手札5→6→7
「……俺はカードを2枚、モンスターを1体セットし、ターンエンドだ」
オベリスク・フォースB 手札0
そしてこれ以上行動が出来なくなったオベリスク・フォースは、静かにターンエンド宣言をした。
後の事は全て託した、と熱い視線を向ければ、再度力強く頷きを返されたことに安堵の思いでターンを渡す。
3人の思いは1つ、この盤面、1回の効果発動でひっくり返すことが出来るカードは……1つだけ。
アカデミアの象徴を極限にまで高めた、最強の融合モンスター。
「俺のターン! ドロー!」
オベリスク・フォースC 手札7→8
勢いよくドローし、即座に手札から1枚を引き出し、見せつけるようにしてからデュエルディスクに叩き付けた。
「俺は! 1800ポイントのライフを支払い! 手札から融合を発動! 融合するのは手札の2体の
オベリスク・フォースC LP2200→400 手札8→7
意気揚々と素材を見せつけ、出現した神秘の渦が輝きを増す。
否応なしに周囲の表情も明るくなっていった。
「その融合素材は! アカデミア最強の融合モンスター!」
「そうだ! こいつは魔法・罠の効果を受けず、バトルフェイズの相手モンスターの効果も封じる! 更には相手モンスター全てに攻撃が出来、貫通効果もあり、全て発動する効果じゃない! こいつならば、貴様の場を一掃……いや、貴様のライフを消し飛ばすことが出来る」
「いいぞ! これで貴様も終わりだ、『人魚姫』!」
渦の回転が早まり、その渦へと半透明の2匹の猟犬、機械の箱、機械の砲台が吸い込まれ始める。
グニィ~と歪み始めるその光景に、オベリスク・フォースは歓喜の声をあげる。
「さぁ! 現れろ!
キィイインッ
――その名を高らかに呼んだ瞬間、甲高い音が響いた。
いつの間にそこにいたのか、オベリスク・フォース達の拠り所、神秘の渦の前にルルカロスがいた。
キリリとした顔で、剣を振り切った格好で佇んでいるルルカロスの前で……神秘の渦に亀裂が走った。
「「「なっ…………!」」」
「アハハ……アハハハハハ! アーッハハハハハハハハッ! 残念! ティアラメンツ・ルルカロスの効果! 特殊召喚をする効果を含むカードの発動を無効にして……破壊する! コーリング・スラッシュ!」
バリンッ!
最後の希望である神秘の渦は切り裂かれ、粉々に砕け散っていった。
「そ、そんな……」
どさっ
「その後、私の手札のティアラメンツカード、ティアラメンツレイノハートを墓地に送る……処理を続けていい? 良さそうね? アハハハハハ!」
『人魚姫』 手札7→6
既にカード効果の発動すら出来ないオベリスク・フォース達は、力無く膝を折った。
彼らに出来ることはもう、何もない。
最後の希望を打ち砕かれた3人目の手札が、手の中からこぼれ落ちる。
精神操作や、リミッター解除……自分よりも先の出番の2人が行動出来ていれば……自分がもっと別の形で展開出来ていれば活きたであろうカード達が、悲しげに地面に放り出された。
「効果で墓地に送られたレイノハートは特殊召喚出来る! そうしたらその後手札のティアラメンツカードを墓地に送る……
『人魚姫』手札6→5
ティアラメンツ・レイノハート ATK1500
フィールドに現れたのは嘲笑を浮かべた、女とも見間違ってしまうような妖艶な優男、レイノハート。
レイノハートはその手の鞭をピシャリと鳴らす。
途端に現れるのは半透明のメイルゥとハゥフニス。
ふわりと浮かんだ2人は嫌そうな顔をしつつも、レイノハートの前でくるりと回る。
2人の軌跡が黒く淀み渦となり、宙に浮かび上がる。
その漆黒の渦にレイノハートは、嘲笑を浮かべたまま飛び込んでいった。
「さあ、私の世
『フハハハハハハ!』
ティアラメンツ・カレイドハート ATK3000
高笑いを響かせて顕現したのは、レイノハートの下半身が変化した姿。
まるでイカのようになった下半身から伸びた触手を振り回し、既に戦意を喪失しているオベリスク・フォース達を見下ろした。
「カレイドハートの特殊召喚に成功した場合、相手のフィールドのカードを1枚デッキに戻す……2番目の貴方のセットモンスターで良いかな。深淵の誘い」
ついでのように、どうでも良さげに2人目の身を辛うじて守っていたモンスターが、突如現れたカレイドハートの触手に捕らえられ、地面の中に引き込まれていった。
既に自分の運命を悟ったのだろう、無防備になったというのに反応もなく、ただ頭を垂れた。
もう彼らに、抗う術も気力も、残っていなかった。
「アハハハハハ…………ハァ」
一頻り嘲笑した『人魚姫』は、突然肩を落とした。
目の前でもう何も出来なくなった彼らに呆れ、何もないと諦める彼らに興味を失ってしまったからだ。
『人魚姫』の周りを固めていたマスカレイド達も、キョロキョロと辺りを眺めていて目の前の者達を脅威だとは思っていないようだった。
『人魚姫』と共にあるのは、レイノハートが現れた瞬間からずっと、身を隠すようにその背中に張り付いていたルルカロスだけ。
自分よりも背丈のあるルルカロスに背中に張り付かれていても、『人魚姫』は気にした様子はなくその頭を優しく撫でていた。
「……もう、何もない? 何も出来ないとは思うけど、一応、エンド宣言くらいはしてくれるかな? 」
その言葉が聞こえたのか、3人目のオベリスク・フォースは震える手でモンスターを1体伏せ、3枚カードを伏せた。
サレンダーしなかったのは、最後に残った僅かな矜持か……。
「ターン……エンド……」
オベリスク・フォースC 手札7→3
やっと自分のターンが来たと、『人魚姫』は先程までの狂態は何処へやら、冷めた表情でデッキに手をかけた。
「私のターン、ドロー」
『人魚姫』 LP2400 手札5→6
周りを見渡してみれば、酷い光景だ。
オベリスク・フォースA LP400 手札2
オベリスク・フォースB LP400 手札0
モンスターなし 伏せ2枚
オベリスク・フォースC LP400 手札3
セットモンスター 伏せ3枚
伏せカードは7枚もあるが、マスカレイドがいる限り彼らは一切のカード効果の発動が出来ない。
モンスターも効果を受けない
赫灼竜マスカレイド ATK2500
赫灼竜マスカレイド ATK2500
赫灼竜マスカレイド ATK2500
ティアラメンツ・ルルカロス ATK3000
ティアラメンツ・カレイドハート ATK3000
伏せ罠カードメタバース
一方で『人魚姫』のフィールドには5体の融合モンスター。
伏せカードすらある。
勝ちの目は、ない。
「……はぁ、期待はしてなかったけど、やっぱり違ったね。じゃあ……もう良いよみんな。終わらせて」
引いたカードも、手札も見ることなく、『人魚姫』は即座にバトルフェイズに入る。
その言葉に従い、『人魚姫』の僕のモンスター達は動き出した。
ルルカロスが喜々としてその刃で
あっという間に無防備になったオベリスク・フォース達の前にそれぞれ、赫灼竜マスカレイドが向かい合った。
「ひっ……」
それに気付いたオベリスク・フォース達の顔が青く染まる。
『人魚姫』はそれに視線すら向けることなく、小さく呟いた。
「マスカレイド達で、ダイレクトアタック」
マスカレイド達から放たれる、呪いの焔。
それに包まれる直前、オベリスク・フォース達は確かに見た。
それぞれの融合素材となった、ティアラメンツの少女達の姿を。
マスカレイドの首に巻き付くようにして此方を見る姿を。
ひどく歪んだ、此方を見下しきった、嘲笑を浮かべた姿を……。
「「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」」
そして、激痛に苛まれながら、その意識は闇に呑まれていった。
「……罠カード。メタバースを発動。デッキから、フィールド魔法を手札に加えるか発動出来る。壱世壊ペルレイノを、発動……発動時の効果処理で、ティアラメンツ・レイノハートを手札に加える」
決闘が終わったにも関わらず、『人魚姫』はカードを発動する。
デッキから飛び出したカードが光り、水面を照らした。
水面が不自然に輝きを放ち始め、ゆらゆらと歪み始める。
「レイノハート。シェイレーン、ハゥフニス、メイルゥ」
身体中に黒ずみ焼け焦げた跡のあるオベリスク・フォース達が倒れたまま、不自然な体勢で光る水面へと向かっていく。
まるで何かに引き摺られるように、ずりずり、ずりずりと。
「や……め……」
辛うじて意識を取り戻したのか、1人が小さく呻く。
けれどそれは、もう手遅れだった。
「それ、好きに使っていいよ」
「た……すけ―――」
ボチャンッ
水飛沫をたて、その姿が水中に消えていく。
ボチャッ
ドボンッ
続いて残りの2人も、そのまま水面へと飛び込んでいった。
「……もっと? まだまだ足りない? 私にわざわざ出向いて狩りにいけって? 嫌だよ。私には、やることがあるんだから」
残るのは不自然に光り、歪んだ水面と波紋だけ。
無数の泡が浮かんできていたが、それもいつしかなくなっていった。
上から水面を覗いて見れば、そこには水の層。
いくつもの水の層が折り重なる、幻想的な光景がそこにあった。
その奥深くに、人影のようなものが見えた気がしたが、『人魚姫』はふい、と視線を元に戻した。
遠く、水面の向こう海原の水平線を眺めて目を細める。
その胸に去来するのは、欠落感。
足りない、欲しい、という渇望。
他者を見下し、蹂躙することに快感はあれど、満たされることは決してない。
先刻の蹂躙劇も、今の彼女にとっては既にどうでもいい。
彼女は、自分を満たしてくれる誰かを、ずっと、ずっと探している。
「ああ……何処にいるのかな……私の……ボクの……」
『人魚姫』は求め続ける、探し続ける。
「運命の、人……♡」
少女は、いずれくる未来を思い描いて、笑みを浮かべる。
歪んだ笑みを浮かべた少女は、決して止まらない。
誰にも、止めることは出来ない。
「早く、会いたいな……♡」
夢見る少女は願い続ける。
いつか、自分に愛を与えてくれる人に出会えますように、と。
頬のつり上がった笑みを浮かべた少女の影が、光り続ける水面が、不気味に脈動していた。
『人魚姫』と呼ばれる少女は、誰も
それに寄り添うは、姿の見えない複数のナニか。
彼女の世
それはまだわからない。
「ふふんふん~♪ふーんふん~♪」
『アハハ……』
『ウフフフ……』
『キャハハハ……』
『フフフ……』
『人魚姫』の入江に近付くべからず。
鼻唄と不気味な笑い声が響くと言われる、美しい少女の佇むとある島のとある入江。
見つけて帰って来た者は、今はもう、誰もいない。
今回の脱獄カード
古衛兵アギド
古尖兵ケルベク
通称イシズギミックの存在してはいけないカード達。
それぞれ墓地に送られた場合に互いのデッキから5枚墓地に送り、墓地に現世と冥界の逆転があれば追加効果が発動する。
なんとこの効果効果処理時に判断するので、5枚落としの中に現世と冥界の逆転が落ちると大変な事になる。
マスターデュエルでも許されなかったぶっ壊れカード。
何故か手札誘発効果も持ってるし、手札から適当にコストにしても墓地肥やし効果が発動し、何故か天使族なのでデクレアラー達のコストにも使うことが出来る。
現在マスターデュエルのイベントでこいつらが3枚積まれているデッキが使えるので、是非体験してみて欲しい。
ティアラメンツ・キトカロス
何故かマスターデュエルでは生きてるティアラメンツの中核。
サーチorピンポイント墓地送りに、手札または墓地のティアラメンツを対象に自身も含めた場から1枚選んで墓地に送って特殊召喚、効果で墓地送りにされたらデッキから5枚落とす3つの効果を持つ。
簡易融合で飛んでこれるカードがやっていい効果ではない。
ティアラメンツ・クシャトリラと組み合わせると簡易融合から出してデッキを10枚墓地送りにし、レベル7モンスターを残す事が出来る。
意味がわからない。