遊戯王ARC-V~砕けた世壊の姫達~   作:新作アニメ待ってます

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喜悦の気狂姫

 シンクロ次元。

 そこはトップスとコモンズ、富裕層と貧困層で二分され、富む者はより富み、貧する者はより貧する世界。

 そんなシンクロ次元において、治安維持は必要不可欠。

 シティの治安を守る治安維持局、セキュリティは、日々トップスの人々の為に駆け回っていた。

 Dホイールと呼ばれる、デュエルディスクと一体になったバイクに跨がり、今日も彼等は無法者達を捕らえ、独自の采配によって収容所へと送り込むのだった。

 

 だが、そんな彼等が行方不明になるという事件が最近多発していた。

 通信が突然途切れて再び繋がることはなく、あらゆる反応がロスト。

 そのまま行方不明となってしまっていた。

 その時コモンズの一部に大きな動きが見受けられていたタイミングという事で、コモンズに疑いの目が向けられた。

 

 しかし。

 

「知らねえよ! むしろお前達が俺達の仲間を捕まえたんじゃねえのか!? 昨日Dホイールでドライブに出掛けた仲間が一人も帰ってきてねえんだよ!」

 

 当のコモンズにも行方不明者が続出していたようだった。

 セキュリティに涙ながらに掴みかかる男は嘘をついている様子もなく、ただただ困惑するだけだった。

 

 なお、その証言の後男も行方不明となってしまっていた。

 トップス、コモンズ、セキュリティ、分け隔てなく行方不明者は増えていく。

 セキュリティの必死の捜査も空しく、行方不明者が戻る事もなく、原因すらわからなかった。

 

 そして……事態が動いたのはとあるセキュリティの個人的な記録媒体が発見された後だった。

 そのセキュリティはデュエルに特に力を入れており、検挙率は十割、デュエルの度に内容を記録し、後に見返して一人で反省をする等至極真面目な隊員であった。

 そんな彼が行方不明となり、そのパトロールルートに残されていたのが、その記録媒体であった。

 彼がどうなったのか、今まで行方不明になった彼等がどうなったのか……その顛末が推察出来る映像が残されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その映像は、停止したDホイールから撮られているようだった。

 セキュリティの制服に身を包んだ彼の背中と、対峙する決闘者(デュエリスト)の姿。

 互いにデュエルディスクを構え、既に決闘(デュエル)は始まっているようであった。

 

 対峙する決闘者(デュエリスト)は体に密着するライダースーツを着込み、フルフェイスのヘルメットを被っていて容姿は確認出来ない。

 しかし体つきは成熟していない女性、少女を思わせるものだった。

 そして……その背後には停止しているクリーム色のDホイール、そして見事な満開の桜の木が生えていた。

 

 その時点で映像を見ている者達は首を捻っていた。

 現在は季節としては秋、桜の咲く季節では決してない。

 更にはその桜の木が生えている場所にも彼等は覚えがなかった。

 周囲に霧が立ち込めてよく見えないことを加味しても、あのような場所はシティ内部には勿論郊外にもない。

 念の為に映像を解析し調査するも、該当する場所は発見出来なかった。

 

 セキュリティの隊員、そして治安維持局長官のジャン・ミシェル・ロジェが固唾を飲んで見守るなか、決闘(デュエル)は続いていく。

 ……どうやら、決闘(デュエル)は始まったばかりで、相手の少女がフィールド魔法を発動しただけのようだった。

 

『伍世壊=カラリウムの発動時の効果処理で、マナドゥムモンスターを手札に加える。マナドゥム・リウムハートを手札に加える』

 

少女 手札4→5

 

 声質はやはり少女、鈴のような声を響かせ淀みなく決闘(デュエル)を続けていく。

 

『そして、マナドゥム・トリッドを召喚』

 

 満開の桜から不自然に一つの雫が垂れ、泡のように大きくなる。

 そこに映し出されたのは、赤い屋根が重なったような建物と、その傍らに立つ等身の低い赤い小人。

 赤い和服を着ていて、顔は妙にイカつく、角が生えていた。

 何処か機嫌良さそうにスキップしていた小人は、此方に気付いてその動きを止めた。

 

少女 手札5→4

マナドゥム・トリッド ATK0

 

『攻撃力0か……』

 

 セキュリティは現れたのが異質なモンスターであること以上に、攻撃力の低さに眉をひそめた。

 こういう場合は大抵、厄介な効果を備えているものだと、今までの経験が告げていた。

 

『そして、手札のマナドゥム・リウムハートの効果を、マナドゥム・トリッドを対象にして発動する。マナドゥム・トリッドを破壊し、マナドゥム・リウムハートを特殊召喚する』

 

 手札のカードを見せつけながらそう宣言した少女は、じっと此方を見つめている。

 何か反応を待っている様子だった。

 

『……好き勝手されるのは嫌だが、俺の手札に何かアクションを起こせるカードはない。確認はしなくて良い、続けてくれ』

 

 セキュリティの手札はチラリと映ったが、弱い訳ではないが先行の相手ターンに出来ることは無さそうであった。

 いや、それが出来るデュエリスト自体が多くないのだが。

 

 少女は納得したように頷くと見せていたカードをデュエルディスクに置き、効果処理を始めた。

 

『じゃあ、遠慮なく続ける。マナドゥム・トリッドを破壊し、マナドゥム・リウムハートを特殊召喚』

 

 赤い小人を映し出す水泡が割れ、それと同時にいつの間にか一人の男が少女の前に立っていた。

 鎧を身に纏う、端正な顔立ちの長髪の男。

 上半身と下半身で意匠の違う鎧を身につけている男は、淡く金色に光輝いていた。

 

少女 手札4→3

マナドゥム・リウムハート ATK1500

 

「続けて、破壊されたマナドゥム・トリッドの効果と、特殊召喚したマナドゥム・リウムハートの効果を発動。逆順処理により、まず、マナドゥム・リウムハートの効果でマナドゥムカードをデッキから手札に加える。伍世壊摘心(マナドゥム・アブシジョン)を手札に加える。続けてマナドゥム・トリッドの効果でデッキからマナドゥムチューナー、マナドゥム・ミークを特殊召喚する」

 

少女 手札3→4

マナドゥム・ミーク ATK0

 

 リウムハートの翳した手から溢れる金色の光が少女の手札にカードをもたらす。

 更に弾けたトリッドの水泡が、新たな水泡を作り出していく。

 同じように桜の木から滴る雫が姿を変え、一つの水泡となる。

 映し出されるのは宙に浮かぶ水の層とそれを貫く木の根という不可思議な光景。

 そこにいる小人は耳にあたる部分にヒレがついた、半魚人のような小人で、泡を抱えて黄色い瞳で此方を見つめていた。

 

『早速シンクロの素材を揃えたか』

 

 セキュリティは警戒を高める。

 1ターン目から早々とシンクロ召喚の準備が整った相手に、ぐっと身構える。

 だが、少女はシンクロ召喚をすることなく、続けて手札のカードを発動させた。

 

伍世壊摘心(マナドゥム・アブシジョン)をマナドゥム・ミークを対象に発動。対象になったモンスターを破壊し、伍世壊=カラリウムを手札に加える……けれど伍世壊=カラリウムが場に既にある場合は代わりにマナドゥム魔法・罠カードを手札に加える事が出来る。マナドゥム・ミークを破壊し、伍世壊心像(マナドゥム・イマジン)を手札に加える』

 

『何……?』

 

 少女の行動に眉をひそめる。

 手札の総数は変わっていないのに、場のチューナーを破壊してまで行う事だろうか、と。

 デッキの質を高める必要性はわかるが、折角シンクロ出来たのに、と考えるセキュリティの脳裏に過るのは、先程の赤い小人の水泡の効果……。

 

『破壊されたマナドゥム・ミークの効果と、伍世壊=カラリウムの効果を墓地のマナドゥム・ミークを対象に発動する』

 

『やはり……! そういうデッキか……!』

 

 カードをコストにメリットを得て、コストにしたカードで更にアドバンテージを稼ぐ。

 セキュリティの脳裏にいくつかのカードの組み合わせが過り、コストを踏み倒してるとも言える優秀なコンボを行うデッキテーマに、戦慄を覚えた。

 

『伍世壊=カラリウムの効果で、戦闘・効果で破壊されたチューナーを墓地から特殊召喚する。舞い戻れ、マナドゥム・ミーク。更にマナドゥム・ミークが破壊された場合、デッキからマナドゥム・ミークを特殊召喚出来る。並び立て、マナドゥム・ミーク』

 

 弾けた水泡が、二つの同じ水泡となって再生する。

 二体の青い小人は互いに見つめあっていた。

 

マナドゥム・ミーク ATK0

マナドゥム・ミーク ATK0

 

『マナドゥム・ミークをこの効果で特殊召喚した場合、そのレベルを2上げる事が出来る……レベルを4に上昇させる』

 

マナドゥム・ミーク レベル2→4

 

 その片方の小人が水色のオーラに包まれ、両腕を空高く掲げた。

 力が漲る!といったジェスチャーをするその小人を眺めるオーラのない小人は、少し羨ましそうだった。

 

『魔法カード伍世壊心像(マナドゥム・イマジン)を手札のマナドゥム・ヒアレスを見せて発動。2枚ドローして、手札を1枚デッキの一番下に送る……このカードをデッキの下に送る』

 

少女 手札4

 

 少女の手札の総数は変わっていない。

 だが、デュエルに精通している者は既に、少女の動きに恐ろしさを感じていた。

 手札を減らさずデッキを減らす、それはつまり使いたいカード、切り札等のようなカードを引いている可能性が高まっていることを示している。

 質の高まった手札をジッと見つめた後、少女はゆるゆると動きだす。

 

『手札から装備魔法、ストーンヘンジを墓地のマナドゥム・トリッドを対象にして発動。墓地の攻撃力0のモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。舞い戻れ、マナドゥム・トリッド』

 

少女 手札4→3

マナドゥム・トリッド ATK0

 

 弾けた水泡が逆再生するように元に戻っていき、再び現れる水泡に映し出される赤い小人。

 青い小人達と並び立ち、それぞれ視線を交わしている。

 

『そして、マナドゥム・ヒアレスを特殊召喚する。私の場に攻撃1500で守備力2100のモンスターが存在する時、マナドゥム・ヒアレスは手札から特殊召喚出来る。ただし、この効果での特殊召喚は1ターンに1度しか行えない』

 

 そこに更に新たな雫が落ちる。

 ぷくりと膨らんだ水泡に映し出されたのは、切り立った崖と荒野と木々、そこを歩く狼のような頭の緑の小人だった。

 

少女 手札3→2

マナドゥム・ヒアレス ATK0

 

『モンスターゾーンが埋まった……しかもまた攻撃力0……だがその装備魔法の存在を考えればむしろメリットか……』

 

 リウムハートを囲む4つの水泡、それぞれに映し出される小人達はじっと此方を見つめている。

 そして、モンスターゾーンが埋まり、チューナーとチューナー以外が揃ったのならば……いよいよ本番が始まる。

 誰かの喉が鳴る。

 フィールドには5体のモンスターにフィールド魔法、これをたった3枚の手札で揃えた少女の卓越したデュエルタクティクスに、緊張が高まっていく。

 ここから何が起きるのか……少女の一挙手一投足に、その場の視線が釘付けとなった。

 

『レベル4マナドゥム・リウムハートに、レベル4となった、マナドゥム・ミークをチューニング』

 

 リウムハートがフワリと浮かび上がり、そのリウムハート目掛けて黄色いオーラを纏ったマナドゥム・ミークが飛翔する。

 その水泡が弾けて4つの星となり、周りをグルリと回った。

 星の軌跡が円を描き、その星はリウムハートに力を与えていく。

 そして、光が爆発した。

 

『くっ……!』

 

『カオスの力を宿した魔龍よ、その力を今こそ示せ。私の領域に現れろ。未来を見通し、全てを操れ。シンクロ召喚。レベル8、混沌魔龍カオス・ルーラー』

 

 光が止んだ時、そこには黒い龍が翼を広げて降り立っていた。

 

混沌魔龍カオス・ルーラー ATK3000

 

『攻撃力……3000』

 

 対峙しているセキュリティは無意識に一歩後退りしていた。

 1ターン目に出てくるようなモンスターではない……そんな声が聞こえてくるようであった。

 

 小人達は興奮しているようで、声は聞こえないが歓声をあげているような手振りを見せていた。

 その声援に応えてか、龍の合わせた手から真紅の光が溢れ、少女のデッキを照らした。

 

『シンクロ召喚に成功した場合、私のデッキから5枚捲り、その中から光属性か闇属性のモンスターを1枚選び手札に加える事ができ、残りは墓地に送る……暗黒竜コラプサーペントを手札に加える』

 

少女 手札2→3

 

 少女はちらりと墓地に送られたカードを確認した様子を見せて……肩を揺らした。

 

『くく……墓地に送られたエクリプス・ワイバーンの効果を発動する。墓地に送られた場合、デッキからレベル7以上のドラゴン族モンスターを除外する。……私は深淵の獣ルベリオンを除外。そして、エクリプス・ワイバーンを除外し、暗黒竜コラプサーペントを特殊召喚する。このカードは墓地から光属性モンスターを除外する事で特殊召喚出来る』

 

『……』

 

 奇妙な動きを始めた様子に、セキュリティは警戒を更に高めたようだ。

 口を引き結び、相手の動きに更に注視していく。

 

少女 手札3→2

 

暗黒竜コラプサーペント ATK1800

 

 そして、小型の黒い蛇のような竜が体をうねらせながら現れた。

 

『くくく……そして、除外されたエクリプス・ワイバーンの効果を発動。墓地に送られた時に除外したモンスターを手札に加える。深淵の獣ルベリオンを手札に加える。更に深淵の獣ルベリオンを手札から捨てることで、デッキから深淵の獣モンスターを手札に加える。深淵の獣マグナムートを手札に』

 

少女 手札2→3

 

 そこで突然、カオス・ルーラーの姿がかき消えた。

 

『な、何!?』

 

『くふっ……深淵の獣ルベリオンは1ターンに1度、場のレベル6以上の闇属性ドラゴン族をリリースすることで、手札または墓地から特殊召喚出来る。ついでにルベリオンの効果を発動し、私のデッキから烙印永続魔法または永続罠を表側で私のフィールドに置く。復烙印を置かせて貰う』

 

深淵の獣ルベリオン ATK2500

 

 黒龍と入れ替わるように現れたのは白い龍。

 炎と稲妻を滾らせ、少女のフィールドに新たにカードをもたらした。

 

『永続魔法をデッキから直接置く、だと……?』

 

 折角の高レベル高攻撃力のシンクロモンスターを捨てる行為に、セキュリティは驚愕するが、直後に行われた行為はその驚愕を塗り潰して余りあるものだった。

 発動を介さず永続魔法が現れた衝撃は、計り知れない。

 映像を視聴している薄暗い部屋にも衝撃は伝播し、にわかに騒がしくなる。

 そしてその騒がしさを。

 

『レベル8の深淵の獣ルベリオンに、レベル2のマナドゥム・トリッドをチューニング』

 

『合計レベルは……10!?』

 

 セキュリティの悲鳴のような言葉が切り裂いた。

 

 石に囲まれたパワースポットを砕き、赤い小人の水泡が弾け、2つの星が白い龍の周りに浮かぶ。

 白い龍は翼を広げ飛び立ち、星の軌跡が輪となり白い龍に力を新たに与える。

 

『くふふ……深淵に潜むおぞましき獣よ、その力を今こそ示せ。私の領域に現れろ。呪われた翼広げ、災いを振り撒け。シンクロ召喚、レベル10、深淵の神獣ディス・パテル』

 

深淵の神獣ディス・パテル ATK3500

 

『3500……』

 

 攻撃力の高さに思わずといった様子の声が漏れた。

 だが何よりも場を支配したのは、現れたモンスターの異様さだった。

 白い龍ということは同じなものの、所々赤黒く染まり、()()を無理矢理龍の形に留めた、または無理矢理複数の龍をくっつけたような……そんなおぞましい姿だった。

 4本もある腕をくねらせ、ディス・パテルは声なき咆哮を上げる。

 

『くふふっ……深淵の神獣ディス・パテルの効果、除外されている光、闇属性モンスター1体……エクリプス・ワイバーンを対象に発動。そのモンスターを特殊召喚する』

 

エクリプス・ワイバーン ATK1600

 

 小型の白い翼竜が次元の彼方より帰還する。

 翼を広げ威嚇するもそれは一瞬、同程度の大きさのコラプサーペントと共にその身を捧げるべく飛翔する。

 

『レベル4暗黒竜コラプサーペントと同じくレベル4エクリプス・ワイバーンに、レベル2マナドゥム・ヒアレスをチューニング』

 

 そこへ緑の小人の水泡が弾け、2つの星が2匹の周りに輪を描く。

 やがて2匹の姿は重なりあい、そこに飛び込んだ2つの星が新たな姿をもたらす。

 

『またレベル10……!』

 

『くはっ……雄々しき剛剣の使い手よ、今こそその力を示せ。我が領域に顕現せよ。その剣、存分に奮うが良い。シンクロ召喚、レベル10、相剣大公-承影』

 

相剣大公-承影 ATK3000

 

 身の丈程の巨大な剣を突き立てながら現れたのは、青き鎧に身を包んだ剣士。

 髭を撫で付けながら、此方を静かに見下ろしている。

 

『墓地に送られたエクリプス・ワイバーンとコラプサーペントの効果を発動。コラプサーペントの効果でデッキから輝白竜ワイバースターを手札に加える。エクリプス・ワイバーンの効果にターン1はない。再びレベル7以上の光か闇のドラゴン族を除外する……冥王竜ヴァンダルギオンを除外する』

 

少女 手札3→4

 

『そして……墓地の混沌魔龍カオス・ルーラーの効果を、墓地の光属性エクリプス・ワイバーンと闇属性暗黒竜コラプサーペントを除外して発動、墓地から特殊召喚する。舞い戻れ、カオス・ルーラー』

 

混沌魔龍カオス・ルーラー ATK3000

 

『なっ……! そんな容易く復活するのか……!? シンクロ召喚時の墓地落としで蘇生コストを自前で用意出来て、手札も増やせるという事か……なんて強力なシンクロモンスターなんだ……!』

 

 セキュリティは思わず興奮気味に声をあげた。

 ここまで効果が単体で完結し、更に強力だと不満すら沸き上がってこない。

 ただただ強力だと、強過ぎると思うしか出来なかった。

 

『安心して、この効果で特殊召喚したカオス・ルーラーは場から離れたら除外される……次のシンクロをする前に除外されたエクリプス・ワイバーンの効果。ついでに復烙印の効果も発動。光か闇属性のモンスターが除外された場合、1枚を持ち主のデッキの一番下に戻して1枚ドローする。暗黒竜コラプサーペントをデッキの一番下に戻して、1ドロー。更にエクリプス・ワイバーンの効果。自身の効果で除外していたカード、冥王竜ヴァンダルギオンを手札に加える』

 

少女 手札4→5→6

 

 少女の手札はいつの間にか初期手札枚数すら越えた枚数となっていた。

 その驚異のアドバンテージ回収能力に、セキュリティは目を剥く。

 うち3枚はサーチしたカードなので内容はわかっているが……最早そういう問題ではなかった。

 

『さぁ……くひひひっ……レベル8混沌魔龍カオス・ルーラーに、レベル2マナドゥム・ミークをチューニング。氷水の地を受け継ぎし継承者よ、今こそその力を示せ。我が領域に顕現せよ。怒りのままに、全てを凍てつかせよ。シンクロ召喚。レベル10、氷水啼エジル・ギュミル』

 

 最後に残った青の小人が、水泡の中で大きく手を振る。

 そのまま弾けた水泡から飛び出した2つの星が、飛翔するカオス・ルーラーの周りに円を描く。

 瞬間爆発したように光が溢れ……カオス・ルーラーの巨体の影が突然縮小していく。

 やがてそれは少女より一回り大きい程度の人形を形取り、承影の隣に舞い降りる。

 氷で出来たような透き通った体を持つ、ドレスを身に纏った少女が、その瞳に拭いきれない負の感情を乗せて此方を見据えていた。

 

氷水啼エジル・ギュミル ATK3000

 

 だが、隣に立つ承影が乱暴に、だが優しく頭に手を乗せるとその表情を突然綻ばせ、幼い少女のように無邪気な笑みを浮かべていた。

 

『……レベル10のシンクロモンスターが……3体、だと……?』

 

 とはいえセキュリティにそんな様子を見る余裕はない。

 目の前には攻撃力3000オーバーの、滅多に見ることのないレベル10シンクロモンスターが3体も並び、手札も潤沢。

 セキュリティの手札は悪くないものの、一体打倒出来れば御の字、という程度の手札。

 それも相手の妨害が無ければ、という但し書きがつく。

 そんな状態で勝てるとは思えない……部屋に諦めの空気が満ちていく。

 

『くふっ……くひひひひっ……ヒャハハハハハ! …………ふぅ……それでも諦めてはいないみたいね。何故膝を折らない? 今までの奴等ならとうに諦めてるような場を作り出したのに』

 

 先程から不気味な笑いを漏らしていた少女は、一度大きく笑った後小さく息を吐き出しその笑いを止め、ゆらりと首をもたげてセキュリティへと問い掛けた。

 ここで少女が最近の失踪事件の犯人、もしくはそれと関係しているとも捉えられる言葉が出たが、盤面の凶悪さに気圧され、言及する者はいなかった。

 

『そんなの当然だろう。確かに今の手札じゃあその盤面を抉じ開けるのも難しい。だが、決闘(デュエル)ってのは最後までわからないもんだ。次のドローもしないで諦めるなんて、決闘者(デュエリスト)失格さ』

 

 だがセキュリティは毅然とした態度で真っ直ぐ少女を見据えて言葉を紡ぐ。

 

『もしかしたら次のドローでこの盤面を解決出来るカードを引けるかもしれないだろ? ならここで諦めるなんて勿体無い。勝てる可能性を自らむざむざと捨てるなんて、バカのすることだ』

 

 その言葉に何を思ったのか、突然少女はその動きを止めてじっとセキュリティを見つめ続けた。

 

『……それでターンは終わりか? ならエンド宣言をしてくれ。今からその場に挑ませて貰うからさ! 君の作り上げたその場を打ち崩して、勝たせて貰――――』

 

フヒッ!

 

 笑みすら浮かべて啖呵を切るセキュリティを、少女の笑い声が遮った。

 

ヒヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 突然笑い出した少女に、セキュリティの笑みも流石に凍り付く。

 二の句も繋げないでいると、少女は徐にそのフルフェイスのヘルメットを脱ぎ去った。

 

ゴッ

 

コロコロコロ……

 

 適当に放り投げられたヘルメットは地面に転がり、少女の顔が露になる。

 青みがかった銀髪を揺らし、整っていたであろう顔を歪め、少女は笑う。

 

『そっか、そっか! 貴方はちゃんと決闘者(デュエリスト)なんだね! ヒャハハッ! そこらに転がっていた有象無象なんかとは比べ物にならない程に、決闘者(デュエリスト)だ! くふふふっ』

 

 くふくふと笑い声を漏らし、少女は言葉を続ける。

 

『……私の場のディス・パテルは相手モンスターの効果に反応し除外されているカードをデッキに戻せば、破壊するか無効に出来る。私のカードなら破壊、相手のカードなら無効に出来る。承影はカードが除外されると相手の場と墓地を1枚ずつ対象に取らず除外出来る。エジル・ギュミルは相手のターンにも自分の場に破壊と除外の耐性を与える事が出来、カード効果にチェーンして発動すればそれと同名カードを全て除外出来る。手札のマグナムートは墓地の光か闇属性のモンスターを除外すれば特殊召喚出来て、相手の場にモンスターがいれば相手ターンでも発動出来る。つまり、ほとんどいつでも承影の効果は誘発出来るということ……更に、手札のヴァンダルギオンは私のカウンター罠が発動したら特殊召喚が出来て、無効にしたカードの種類によって追加効果を発揮する。わざわざ手札に加えた事からわかると思うけど、当然私の手札にカウンター罠はある……』

 

 羅列するは今の状況、セキュリティがどれだけ追い詰められた状態なのかの説明。

 二重、三重の妨害策……見ているセキュリティ達はその状況の凄まじさに言葉を失うが、対峙してる本人はどこ吹く風、冷や汗は流れているが笑みすら浮かべている。

 そこで少女は一度言葉を切り、その表情を無に戻す。

 整った顔立ちの少女は首を傾げ、静かに問い掛けた。

 

『それでも諦めない?』

 

『ああ、勿論だ。俺は最後まで諦めない。確かに更に分は悪くなったな。だけど諦めるのはドローしてからでも良い。もしかしたら、大逆転出来るカードが引けるかもしれないだろ? まずは引いてから考えるさ』

 

 間を置かずの断言に、少女の表情は、喜悦に歪んだ。

 

『きひひっ! 凄い、凄いなぁ! ヒャハハッ! ああその信念! 矜持! 勇気! そして希望! 眩しいなぁ! ヒヒッ! ヒヒャハハハハハハハ!』

 

 両手を広げて天を仰ぎ、少女は笑う。

 笑う、笑う、笑う。

 

その僅かな希望、粉々に粉砕してあげる

 

 目を見開き、頬が裂けたような笑みを浮かべ、対峙しているセキュリティへと、デュエルチェイサーのエースへと、告げた。

 

『くひひひっ! 墓地のグローアップ・バルブの効果を発動! デュエル中に1度のみ、デッキトップを墓地に送り、このモンスターを特殊召喚出来る! 来い、グローアップ・バルブ!』

 

『そんなカードいつの間に……ハッ……カオス・ルーラーの時か……!』

 

グローアップ・バルブ ATK100

 

『更に、墓地のマナドゥム・リウムハートを対象に、深淵の獣マグナムートの効果を発動! 互いの墓地の光か闇属性のモンスターを除外し、自身を特殊召喚する! 来い、深淵の獣マグナムート!』

 

少女 手札6→5

深淵の獣マグナムート ATK2500

 

 地面からボコリと顔を出すのは花の生えた球根。

 球根には目があって、すぐそばの桜の木を見上げている。

 そこに並び立つのは拘束具のつけられた赤い龍。

 拘束具につけられた鎖がガチャリと音をたてた。

 

『深淵の獣マグナムートが召喚、特殊召喚に成功した場合、ターン終了時にドラゴン族モンスターをデッキか墓地から手札に加える……この効果を発動しておく。そして、レベル6深淵の獣マグナムートに、レベル1グローアップ・バルブをチューニング……!』

 

 スポン、と音をたててグローアップ・バルブが宙を飛び、描いた円にマグナムートが飛び込んだ。

 

『暗黒無情の爆撃機よ、今こそその力を示せ。我が領域に顕現せよ! 黒き暴風となりて、全てを焼き払え! シンクロ召喚! レベル7! ダーク・ダイブ・ボンバー!』

 

ブォオオオオン!

 

 エンジン音を響かせて飛来するのは、爆撃機が変形したロボットのような姿。

 セキュリティにはそのカードに見覚えがあった。

 そして、それがこの決闘に終止符をうつカードとなる。

 

『そいつは……リリースしたモンスターのレベル×200ポイントのダメージを与えるカード……かつての禁止カードだが、その効果にはターンに1度の制約がついて解放された筈……そいつじゃ、俺のライフはまだ残る!』

 

 場にいるレベルは最大10、最大ダメージは2000という事になる。

 それでは、まだ倒せない。

 

『ヒヒヒッ! ヒャハハハハハッ! 甘いんだよ! 手札を2枚捨て、墓地の罠カードギブ&テイクを対象に、魔法カードブーギートラップを発動! 墓地の罠カードを自分の場にセットする! なお、この効果でセットしたカードはこのターン、伏せたターンでも発動出来る! よって罠カードギブ&テイク発動! お前の場に私の墓地からモンスターを守備表示で特殊召喚し……その特殊召喚したモンスターのレベル分だけ、私の場のモンスター1体のレベルを上昇させる! 深淵の獣ディス・パテルのレベルを10上昇させる!』

 

少女 手札5→2

 

深淵の獣ディス・パテル レベル10→20

 

『しまっ……! そんな手が……!?』

 

 少女の墓地から10の星が飛び出し、おぞましい龍に飛び込んでいく。

 ぼぅ、と淡く光り出したディス・パテルは声なき咆哮をあげた。

 

 そして同時に、セキュリティの背後、映像には見えない場所に……何かが地面からせりあがってきているようだった。

 セキュリティは半ば呆然と、それを見上げている。

 地鳴りと共に映像も揺れ、音声すらも雑音が入り、良く聞こえなかった。

 

『私の墓地から、レベル10! 地【ザザ……】【ザザザザ!】をお前の場に特殊召喚だ! 【ザザザー】贄に、現れろ!』

 

『なん、だ……こいつは……!?』

 

 その何かを見上げるセキュリティの表情は……未知のものへの恐怖に歪んでいた。

 セキュリティの背後の何かは、巨大であることだけは辛うじてわかるものの、その全貌が映像に映ることはなかった。

 

??? DEF2500

 

『ふぅ……さぁ……これで終わりな訳だけど……どう? サレンダーすると言うなら、ターンエンドしてあげても良い。今、貴方が感じている嫌な予感……あってるよ。今貴方のライフが0になった時……貴方の無事は保証出来ない……』

 

 暗黒の爆撃機は、既にその手をおぞましき獣へと伸ばしている。

 今すぐにでも、その力を発揮したいとばかりに地鳴りに負けない程のエンジン音を響かせていた。

 

『……それでも、続ける?』

 

 その問いに、セキュリティは呆然と見上げていた顔を戻し、恐怖に歪み、冷や汗を垂らし……それでも無理矢理笑みを作った。

 既に敗北は決まっているというのに、内心恐ろしくて仕方ない筈なのに。

 

『……ああ、続けるとも。生憎、不器用なもんでね……』

 

 男はそう言って気丈に笑った。

 

『そう……』

 

 少女はその答えに顔を俯かせた。

 暫しの間を空け、少女はゆらりとセキュリティへと手を伸ばし、人差し指を向けた。

 

『……ダーク・ダイブ・ボンバーの効果を、深淵の神獣ディス・パテルをリリースして発動。そのレベル×200ポイントのダメージを与える……』

 

 ディス・パテルが姿を消し、ダーク・ダイブ・ボンバーが黒い光に包まれていく。

 地響きと共に映像の揺れが激しくなり、黒い不気味な光が溢れていった。

 

『……………………クヒッ! リリースしたディス・パテルのレベルは20! よって、4000ポイントのダメージを与える! さぁ、終わりだ! ケヒャハハハハハハハハハハ!』

 

 少女の不気味な笑い声が響き、ガタン、という音と共に映像が途切れた。

 映像を録画していたDホイールが倒れたかどうかしてしまったようだ。

 その場には音だけが流れ、少女の笑い声が響き渡っていた。

 

ズドォオオオオオオオオオオオン!

 

『ぐぁああああああああああ!』

 

バキバキバキッ!

 

ドォンッ!

 

 巨大な爆撃音、そして……男の断末魔。

 何かが砕け散り、壊れていく音。

 耳を塞ぎたくなるような轟音が鳴り続ける。

 そして、その間ずっと。

 

クヒヒヒッ……! ヒハハハハハハハ! ヒャーハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 少女の笑い声が響き渡っていた。

 

『その命! 私の世()の為に、命の一滴まで使い潰してあげるよぉ! ヒャハハハハ!

 

 男はきっと無事ではないだろう。

 映像には映らないものの、悲鳴をあげた後その声は一切しないことから、そう察せてしまう。

 その末路を想像した隊員達は、誰もが顔を青くしていた。

 

アヒャハハハ! ハーッハハハハハハハハ! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

プツンッ

 

 少女の笑い声を最後に、映像は途切れた。

 

 凄まじい先行でのおぞましい程の展開、先行ワンターンキルという劇的な決闘(デュエル)の決着、デュエルチェイサーエースの敗北……様々な衝撃をもたらした映像だったが……。

 

「………………狂ってる

 

 誰かが漏らした震えた声で呟かれた言葉が全てだった。

 

「あの少女は……いや、()()は……まともじゃない……人の終わりをあんな、笑って。………………アレは、恐ろしい……化け物だ」

 

 他者を見下し嘲笑う、このシンクロ次元において、トップスにとってはそう珍しい行動ではない。

 だが、あれ程まで徹底的に人を潰し、その末路を笑うなんて、と。

 

 映像の終わった部屋では、誰も立ち上がる事もなく暫くの沈黙が流れた。

 やがて、難しい顔をしたロジェ長官が、口を開く。

 

「……あの少女の顔を解析し、指名手配しなさい。彼女の物らしきDホイールの映像解析もよろしくお願いします。出所を探りなさい」

 

 隊員達はぼう、とした態度で、けれどそれぞれ頷きを返す。

 

「ただし、もし見付けても此方から手を出すことを禁じます。Dホイールと遭遇してしまった場合も、全力で逃走する事を許可します。()()は……私達の手に負えないでしょう。対策が出来るまでは、一般隊員に対処をさせないよう、徹底させてください。以上です」

 

 その指示への返答はまばらだったが、誰も否定の言葉を返すことはなかった。

 その場の誰一人として、彼女に勝てるビジョンが持てなかったからだ。

 もしかすると彼女はこれからもあのように人を襲い、犠牲者を増やしていくのかもしれない。

 それでも、立ち向かう気力は、あの映像をみただけで根刮ぎ奪われてしまっていた。

 誰もが魂の抜けたような顔で立ち上がると、体をふらつかせながら1人ずつ、部屋を後にしていった。

 

 ロジェ長官は部屋に1人残り、苦虫を噛み潰したような顔で奥歯を噛み締めていた。

 

「あんな……あんな化け物に、勝てる存在がいるのか……?」

 

 呆然と呟かれた言葉は、誰もいない部屋に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それ以降もシンクロ次元からは人が消えていった。

 やがては人通りすらも減っていき、かつてに比べて格段に活気を失っていった。

 セキュリティの走る数も減っていたが、治安の悪化もないのはある意味皮肉でもあった。

 

 ある時、人が消える時に少女の狂ったような笑い声が聞こえる、との噂が立ち、やがてこの失踪事件は一つの名前をつけられることとなる。

 

 気狂姫の神隠し、と。

 

ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 ほら今も、聞こえてくる。

 そしてまた一人、人が、消える。




今回の脱獄カード

混沌魔龍カオス・ルーラー

実に雑にアドバンテージを取る圧倒的なパワーカード。
縛りのないシンクロモンスターがやって良い事ではない。
何故か自己蘇生までするので、リンク素材、シンクロ素材、エクシーズ素材と活用方法は無限大。
蘇生してエクシーズすると除外もされないので次のターンまた出せたりもする。
ジ・アンデットなんかを出せば更なる展開も出来る。
こういうインフラカードはカードプールが増える程強力になっていくので、永久禁止もやむ無しな化け物カード。

エクリプス・ワイバーン

こういう墓地肥やしと除外を多用するデッキに入ってると、ついでで手札が増えていくので、良くない。
古のカードなせいでターン1もないので本当に良くない。
光と闇の征竜が出ないのはこいつのせいだとも言われていた。
光と闇の征竜がいてもいなくてもダメですけど。
サーチの一種だけど経路が独特なせいでサーチメタが効かない。
ターン1エラッタがあっても多分ダメ。
これもまた、インフラでもあるので帰ってきてはダメカードに分類されると思う。
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