遊戯王ARC-V~砕けた世壊の姫達~   作:新作アニメ待ってます

4 / 6
恐れ知らずの道化姫

 背の高いビルがいくつも並び立つとあるビルの屋上で、1人の人影が立ち尽くしていた。

 ビルの下では幾人もの人々が行き交い、賑わいを見せている。

 それを人影……白いフードつきマントを身に纏った人物はじっと静かに見下ろしていた。

 

 ここは4つに分かれた次元のうち、スタンダード次元と呼ばれる次元、その都市の1つである舞網市である。

 いくつもの決闘塾が立ち並ぶ街は賑やかであり穏やかで、呆れ返る程に平和な街だ。

 他次元の融合次元、シンクロ次元、エクシーズ次元と比べて、エクストラデッキを使う召喚法がほとんど周知されておらず、使える決闘者(デュエリスト)となれば更に一握り。

 他次元から見れば一昔前の決闘……ハッキリ言ってしまえば低レベルであるのがスタンダード次元の平均値と言えるだろう。

 

 そんなスタンダード次元では現在、LDS狩り、という行いが横行していた。

 LDSとはレオ・デュエル・スクールの略称であり、他の決闘塾とは一線を画した教育内容と充実した教師陣により、幾人もの優秀な決闘者(デュエリスト)を輩出した決闘塾だ。

 エクストラデッキを使う召喚法もカリュキュラムに織り込まれていて、業界NO1の名を欲しいままにしている。

 ただ、昨今は金に物を言わせ他の塾に対して強引な合併を強いる等、悪い噂が広がっていた。

 

 そんな最中発生したのが、LDS狩りだ。

 LDSの生徒、教師関係なく、関わっている人物が何者かに襲撃されるという事件が起きていた。

 一部ではLDSによる買収等の強行な態度への報復ではないか、と言われているが……真偽は――――。

 

「……平和な街だね」

 

 高い、少女のような声がビルの屋上に響いた。

 白いマントが風に煽られ、隠された身体を露にする。

 シャツにショートパンツというラフな服装で、その声通りの少女らしい体つき。

 華奢な左腕に装着された機械が、小さく駆動音を鳴らしていた。

 

 そして、もう1つ。

 昨今の舞網市にて、LDS狩りに紛れるように、もう1つ噂が流れていた。

 それは、『道化』の噂だ。

 闇夜を駆ける道化、宙を駆ける道化の姿が幾人もの人々に目撃されていた。

 LDS狩りとは違い人的被害はないものの、かつて舞網市を熱狂の渦に巻き込んだとある決闘者(デュエリスト)を連想される要素に、その噂は広がりを見せていた。

 ……ビルの屋上で風に煽られている少女の顔には、白塗りで目元が赤く塗られている、絵に描いたような道化師の仮面がつけられていた。

 

「よし、それじゃ今夜も行こっか」

 

 少女はそう呟いて、徐に屋上の縁へと歩き出した。

 まるで日常のような気軽さで歩を進め……そのままビルから身を投げた。

 

 落ちていく少女は慌てることなく、いつの間にか右手に持っていたカードを、左腕の機械へと叩き付けていた。

 左腕の機械が唸りをあげ、そこに質量のある像を作り出していく……。

 

「――――を召喚」

 

 合わせて静かに声が響き、突然少女の落下が止まる。

 その背中からはいつの間にかコウモリのような羽が広がっていて、道化の仮面をつけた少女は一度その羽で羽ばたいた。

 

ふわり、ふわり

 

 数瞬滞空した少女は、きょろきょろと辺りを見回していた。

 そして何かを見つけたのか、少女は羽を羽ばたかせる。

 ビルの合間を縫って滑空していく少女は、眼下を静かに眺めていた。

 人々の往来する、平和な光景……。

 

「……」

 

 少女はそれを見下ろしながら何も言うことはなく、闇夜に紛れて消えていく。

 運が良いのか悪いのか、宙に浮かぶ道化師の姿は何人かの人々に目撃され、噂はより広がりを見せていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってとある倉庫街。

 そこではLDSの生徒である少年達がたむろしていた。

 その中で一際存在感を放っていたのは、沢渡シンゴと呼ばれる少年だった。

 彼は最近とある決闘者(デュエリスト)に敗北したことで、デッキを見つめ直し、新たなデッキを手にリベンジに燃えていた。

 

「いやー、新しいデッキ調子良さそうっすね沢渡さん!」

 

「流石っす沢渡さん!」

 

「これであいつもイチコロっすよ!」

 

 沢渡は取り巻きのその言葉に機嫌良さげに鼻を鳴らした。

 

「フン、当然だ。カードに愛された天才決闘者(デュエリスト)沢渡シンゴがマジになったんだからな、あいつには存分に吠え面かかせてやるぜ!」

 

「「「沢渡さんマジ最高っすよ!」」」

 

 芝居がかったようなやり取りだが、本人達は至って真面目にやっているらしい。

 歓声をあげる取り巻きに手を上げて応え、沢渡は得意げな表情で笑みを浮かべている。

 そうして沢渡はなんとも言えないポーズを取りながら、虚空を見上げた。

 

「待ってろよ、榊遊矢! 次はお前を叩きのめしてやる!」

 

 沢渡は自分の目の前で無様に倒れる、敗北を喫した榊遊矢の姿を想像し、ニヤリと顔を歪めた。

 その時だった。

 

バリンッ

 

ドオンッ!

 

 何かが破れたような音の後、沢渡の目前に何かが落下してきた。

 

「な、なんっゲホッ、ゲホッ!」

 

「「「さ、沢渡さーん!」」」

 

 もうもうと立ち込める砂埃に、沢渡が涙目で咳き込む。

 取り巻き達は心配そうに右往左往していた。

 

 なんだなんだ、と目を白黒させる沢渡と取り巻き達の目前、砂埃がおさまった時にそこに佇んでいたのは、白いマントで体を覆った、道化のような仮面をした存在だった。

 

「なんだ……?」

 

「ピエロ……?」

 

「不審者……」

 

「……怪しい奴だな。なんだてめぇ、俺に何か用かよ?」

 

「……今、『榊遊矢』って言いました?」

 

 怪訝な表情の沢渡の問いに答えず、逆に問い返してくるそれに、沢渡の眉間に皺が寄った。

 高めの声で少女のような印象を受けるが、見た目が明らかな不審者な為に沢渡達の警戒心は揺らぐことはない。

 

「なんだぁ? 榊遊矢の関係者かファンか……まぁ仕方ねえか、あいつは新たな召喚法を編み出し、この天・才決闘者(デュエリスト)沢渡シンゴすら撃ち破った舞網市の時の人! 今は目立つのも仕方ねえ……けどな! 次に決闘(デュエル)すれば勝つのはこの俺様、沢渡シンゴよ! 榊遊矢のファンなんざやめて、今のうちに俺様に鞍替えしておくのをオススメするぜレディ?」

 

「「「沢渡さんマジ謙虚でクールっすよ!」」」

 

 揺らいでいるかもしれない。

 指を指しながらウインクをかまし、キメ顔を披露する沢渡と、それを囃し立てる取り巻き達に、道化の仮面は何処か呆れた様子を滲ませながら、言葉を続けた。

 

「えっと……ちょっと今は遠慮します。それより、し……じゃなかった、榊遊矢は何処にいますか?」

 

 沢渡はそんな言葉に目を覆いながら天を仰ぎ、大袈裟に息を吐いた。

 

「はぁ~やれやれ、見る目がねえなぁ……後で精々後悔するといいさ。あー、そんで、榊遊矢の居場所かぁ? そうだな……まぁただで教えるのも芸がねえ、ここはひとつ、決闘(デュエル)といこうじゃねえか!」

 

 ジャキ、と沢渡は左腕のデュエルディスクを構えた。

 起動したデュエルディスクが駆動音を響かせる。

 

「俺にもしも勝ったら素直に教えてやるよ、だがもし負けたら、教えてやらねえし、この俺様のファンになって貰うぜ!」

 

「女の子っぽいからってナンパかな」

 

「パネェ」

 

「頑張れ沢渡さーん!」

 

 自信満々の笑みを浮かべた沢渡は自分の発言を撤回する気はまったくないようで、対峙している道化の仮面は半ば諦めたように肩を竦めた。

 

「そっくりだなぁ……まぁ、そういう事なら仕方ないか! 受けて立ちますよ!」

 

 バサリ、白いマントが舞い上がり、その肢体が露になる。

 ラフなシャツにショートパンツ、動きやすそうな代わりに白い肌が惜し気もなく露出している服装。

 それに見合わない左腕につけられた無骨なデュエルディスクが静かに起動した。

 

 その少女らしい膨らみのある胸と白磁の肌に、取り巻き達の顔が思わず赤く染まっていた。

 

「……ん? 君は使えないよ。……そう言われても、君達移動に便利だし……機会があったら使うから! 大人しくしてて!」

 

「ボソボソとどうした? まぁいいさ、胸を借りるつもりで挑んできな! 可憐なレディ?」

 

 キラン、とを歯を見せてキメ顔をする沢渡。

 本来ならそこで取り巻き達のヨイショが入るのだが、取り巻き達は少女の肌色の多さの衝撃が抜けきれておらず、まごまごしていた。

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 そうこうしているうちに2人の決闘(デュエル)は始まってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれは……沢渡と……誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先行はそっちみたいだな。さぁ、精々足掻いて見せな!」

 

「私のターン」

 

少女LP4000 手札5

 

「まずはこのカード……速攻魔法、竜呼相打つを発動します! デッキから竜剣士P(ペンデュラム)モンスターと竜魔王P(ペンデュラム)モンスターを1枚ずつ選んで見せて、そのうちの1枚をランダムに選ばせます! 選ばれたほうを特殊召喚するか手札に加え、選ばれなかったほうはエクストラデッキに表側で加えます!」

 

少女 手札5→4

 

「なあにぃ!? ペンデュラムだとぉ!?」

 

 余裕綽々と言った沢渡の態度は、少女が最初に発動したカードで脆くも崩れ落ちた。

 というのも、ペンデュラムとは最近発見された新たな召喚法であり、使い手は未だ1人しかいない。

 そしてその1人が、先日沢渡に屈辱を与えた少年、榊遊矢なのである。

 

 顔をグニャリと歪める沢渡を尻目に、少女のデッキからは2枚のカードが飛び出す。

 上半分がオレンジ色……効果モンスターを示す色で、下半分が緑色……魔法カードを示す色に染まり、その境目には左に青、右に赤の宝石のような物と共に記された数字……紛れもないペンデュラムカードだった。

 奪ったとはいえ、一度はペンデュラムカードを手にした事のある沢渡はそれが良くわかった。

 

「私が選ぶのは竜剣士ラスターPと竜魔王レクターPです。さあ、選んでください!」

 

 2枚のペンデュラムカードはクルリと裏側になりシャッフルされ、沢渡へと差し向けられた。

 周りの動揺を置いてけぼりにし進められる処理に、沢渡の顔が更に歪んだ。

 

「ちっ! 条件追加だ! この決闘(デュエル)が終わったら、そのペンデュラムカードの出所、教えて貰うぞ! こっちから見て右を選ぶ!」

 

「うーん……それはちょっと困るような……。えっと、こっちですね。では選ばれたカードは手札に加えます。更に、選ばれなかった……竜魔王レクターPはエクストラデッキに表側で置かれますね」

 

 困ったように首を傾げる少女は、気まずそうに仮面の頬をポリポリとかいた。

 だが沢渡にそんな発言を受け入れた様子はなく、器用に腕を組んでフン、と鼻を鳴らしていた。

 

少女 手札4→5

 

「……コホン、気を取り直しまして、それじゃあ先ずは下準備! スケール5の竜剣士ラスターPをライトP(ペンデュラム)ゾーンに、スケール3の解放のアリアドネをレフトP(ペンデュラム)ゾーンにセッティング!」

 

少女 手札5→3

 

 少女の左右に光の柱出現する。

 現れるのは剣と盾を携えた白い鎧の竜騎士と、ひどく歪な白い機械天使。

 浮かび上がるのは『5』と『3』の数字。

 

「いきなりペンデュラム召喚かあ!?」

 

 ペンデュラム召喚とは、1ターンに1度手札及びエクストラデッキに表側で置かれているペンデュラムモンスターを一斉に特殊召喚出来る新たな召喚法である。

 P(ペンデュラム)ゾーンに永続魔法のように置くという下準備の後、置かれたペンデュラムカードに記された数字、スケールを参照し左右のスケールの差の数字、そのレベルを持つモンスターを特殊召喚出来る。

 手札からと、エクストラデッキに表側で置かれたペンデュラムモンスターを。

 

 スケールは3と5、エクストラデッキにはレベル4のモンスター、これは来るかと身構える沢渡だったが、先に動いたのは光の柱となった竜の剣士だった。

 

「いえいえ、今はまだ下準備……本番はまだまだ先ですよ。竜剣士ラスターPのペンデュラム効果を発動します! 1ターンに1度、もう片方のP(ペンデュラム)ゾーンにカードがあればそのカードを破壊し、同名カードを手札に加えます! 解放のアリアドネを破壊し、2枚目の解放のアリアドネを手札に加えます!」

 

少女 手札3→4

 

 竜の剣士が振るった剣に合わせるように、機械の天使が封じられた光の柱が砕け散る。

 

「更に、破壊された解放のアリアドネのモンスター効果を発動します! デッキからカウンター罠を3枚選んで相手に見せて選ばせ、選ばれたカードを手札に加えます。私が選ぶのは……この3枚です! 選んでください!」

 

 そう言って差し出された3枚のカードは、全て、左右に女性が描かれた髭の長い老人が手を伸ばしているイラストだった。

 

「って、全部神の宣告じゃねぇか! 選ぶもクソもあったもんじゃねえ!」

 

「そういう効果なので……すみません」

 

「ちっ、右の神の宣告を加えやがれ!」

 

「はい、じゃあ此方を手札に加えますね、と……」

 

少女 手札4→5

 

 悪態をつきつつも、沢渡は現状を冷静に分析していた。

 カウンター罠、神の宣告。

 古くから存在するカードで発動にはLPを半分払う必要があるという、大きなデメリットを抱えたカードであるが、その効果は絶大。

 モンスター効果の発動以外、あらゆるカードの発動を無効に出来るというカウンター罠……。

 先行でそれが伏せられるという事は、最低でも沢渡は手札を1枚失ったのと同義であり、使われるタイミングによってはそれ以上の被害を受ける事になるだろう。

 それを理解してしまった沢渡の額には既に冷や汗が浮かんでいた。

 

 一方で今の現象、P(ペンデュラム)ゾーンで破壊されたペンデュラムモンスターが、エクストラデッキでモンスター効果を発動した事に沢渡はそうなるのか、と純粋に感心していた。

 ペンデュラムカード自体が少ない現状、破壊された場合の効果を持ったペンデュラムカードなど見たこともなく、どういう挙動をするのかわかる筈もない。

 それが今、分かりやすい形で実演されたことで、もしもあれを自分が使うならと自然と考えを巡らせていた。

 

「それでは続きまして……空いたレフトP(ペンデュラム)ゾーンに、スケール2、竜剣士マジェスティPをセッティングし、効果発動! もう片方のP(ペンデュラム)ゾーンに竜剣士モンスターかマジェスペクターモンスターが存在していれば、そのカードとは別の名前の竜剣士ペンデュラムモンスターを手札に加えられます! 竜剣士イグニスPを手札に加え、その後P(ペンデュラム)ゾーンのカードを破壊出来るので……竜剣士ラスターPを破壊します!」

 

 消えた光の柱に浮かび上がったのは、白い鎧の下半身が馬になった女騎士。

 その剣先が光を灯し、少女に更なるカードをもたらす。

 そして今度は白い竜の剣士が封じられた光の柱が砕け、そのカードは少女のエクストラデッキへと送られた。

 

「手札がまるで減ってねぇ……にも関わらず、エクストラデッキにゃもう3体も……」

 

「まだまだですよ! 空いたライトP(ペンデュラム)ゾーンにスケール7の竜剣士イグニスPをセッティング! そして効果発動! 私のエクストラデッキの表側のペンデュラムモンスターをデッキに戻す事で、ペンデュラム以外の竜剣士またはイグナイトモンスターを手札に加えます! 竜剣士ラスターPをデッキに戻して……真竜剣士マスターPを手札に加えます!」

 

 次に現れたのは赤い鎧の竜騎士。

 光の柱の中で長い首をうねらせ、灯す光がまたもや少女の手札へと降り注ぐ。

 

「更に速攻魔法揺れる眼差しを発動! P(ペンデュラム)ゾーンのカードを全て破壊し、破壊した数に応じて追加効果を得ます! 1枚破壊したことで500ポイントのダメージ、そして、2枚破壊したことでデッキからペンデュラムモンスターを手札に加えます! 」

 

「うおわっ!」

 

沢渡 LP4000→3500

 

 砕け散った光の柱が、沢渡に軽い衝撃を、少女にはまた新たな手札を与える。

 

「手札に加えるのは、先程デッキに戻した竜剣士ラスターP! 更に、破壊された竜剣士イグニスPの効果を発動します! デッキからイグニスP以外の竜剣士またはイグナイトモンスターをチューナー扱いで特殊召喚します! 竜剣士ダイナマイトPを特殊召喚です!」

 

竜剣士ダイナマイトP DEF1800

 

 現れたのは緑の装甲の機械の恐竜。

 その身を固め、沢渡をじっと見つめている。

 

「これで再び、解放のアリアドネと竜剣士ラスターPが手札に揃いました。そして、この2枚の先程の効果に名称でのターンに1度の制限はありません!」

 

「……ちっ、てことは」

 

「はい! 空いたライトP(ペンデュラム)ゾーンにスケール5の竜剣士ラスターPを、レフトP(ペンデュラム)ゾーンにスケール3の解放のアリアドネを再びセッティング! 再び竜剣士ラスターPの効果で解放のアリアドネを破壊し、3枚目の解放のアリアドネを手札に加えます! そして、解放のアリアドネの効果を発動! 私が今回選ぶのは……この3枚です!」

 

「神の宣告2枚に……召喚無効に特化した神の警告か……ちっ、流石にこれ以上宣告は選べねえな……。警告を選ぶぜ」

 

「はい! それでは、空いたレフトP(ペンデュラム)ゾーンに三度スケール3の解放のアリアドネをセッティングします! それで……えっと……」

 

少女 手札5→4

 

 淀みなく動いていた少女が、手札とフィールド、エクストラデッキを見て少しだけ考える様子を見せた。

 それに合わせて多少思考に余裕の出来た沢渡は、現状に思いを巡らす。

 まだ少女のターンは続くものの、既に見えているだけで神の宣告と神の警告が伏せられ、ターンが回ってくる。

 そうされた場合、非常に苦しい展開を強いられる事だろう。

 特に、今回のデッキは召喚に成功しなければ強みを生かしきれない。

 榊遊矢のペンデュラムに対抗する為に組み上げたデッキだったが、まだ認識が甘かったかと歯噛みしたが……。

 

(いや、待てよ……榊遊矢にこんな動きが出来るか……?)

 

 ペンデュラムは目新しく、派手で、例え破壊されてもスケールが無事なら毎ターン同じモンスターを並べる事が出来る、強力な召喚法だ。

 だが、それだけでもある。

 

 沢渡が気になったのは、これまでの流れだ。

 ペンデュラムモンスターが代わる代わる現れては消え、エクストラデッキにモンスターを貯めつつ手札も研ぎ澄まされていく。

 それは、単純な違和感だった。

 

(あまりにも動きが洗練され、最適化され過ぎてる……まるで、ペンデュラム召喚が既に研究され尽くしているような……)

 

 沢渡は首を傾げる。

 

(考えすぎか? ペンデュラム召喚は榊遊矢が先日編み出したばかりの召喚法。使い手も榊遊矢だけ……だがこいつは榊遊矢を知ってて、ペンデュラムモンスターも持ってる……見たことも聞いたこともないカードを……こりゃあ……もしかすると……)

 

 そこまで考えて、沢渡は口角をあげた。

 今自分は崖っぷちだ、奇跡が起きなきゃ勝てやしないだろう。

 だが、それはそれとして。

 

(ドデカイ掘り出し物かもしれねぇな、こいつは! こいつを、上手く利用すれば……!)

 

 沢渡の頭の中では、自在にペンデュラムを操り、榊遊矢を叩き伏せる自分の輝かしい姿がアリアリと浮かんでいた。

 

「さぁ、最後の下準備! 私は魔法カード、アラメシアの儀を発動します! この魔法カードを発動するターン、私は特殊召喚したモンスター以外のフィールドのモンスター効果を発動出来ません!」

 

「……つまり、通常召喚したモンスターの効果が発動出来ないだけって事か。そもそもお前は召喚権使ってねえし……ペンデュラム使いならあってないようなデメリットだな、おい」

 

「えへへ……私のフィールドに勇者トークンを守備表示で特殊召喚し、永続魔法運命の旅路をデッキから表側表示で置きます!」

 

少女 手札4→3

 

勇者トークン DEF2000

 

 その場に光が降り注ぎ、それは静かに人を象った。

 それは手のような部分を沢渡にビシリ、と向けているようだった。

 

「攻守2000のモンスタートークン……だが、どうせこれだけじゃねぇんだろ?」

 

 勇者トークンの行動を気にする事なく、半ば挑戦的に沢渡が問い返せば、少女が仮面の向こうで笑ったようだった。

 

「ええ、勿論! さあさ皆様お待ちかね、待望のペンデュラム召喚のお時間です!」

 

 存在感を増していく光の柱、封じられしは竜騎士と機械天使。

 浮かび上がる数字は、3と5。

 少女は右手を高く掲げ、高らかに謳う。

 

「スケールは3と5、よって、レベル4のモンスターを同時に召喚可能! 揺れろ、ペンデュラム! 私の世()を切り開け! ペンデュラム召喚! 来て、私のモンスター達!」

 

 空に揺れるペンデュラムが弧を描き、それに誘われるように少女のフィールドに流星が3つ降り注いだ。

 

「レベル4解放のアリアドネ! レベル4竜魔王レクターP! レベル4竜剣士マジェスティP!」

 

解放のアリアドネ ATK1700

竜魔王レクターP ATK1950

竜剣士マジェスティP DEF1500

 

 白い機械天使がくるりとその場で回り、黒の鎧に身を包んだ男がニヤリと笑って両手を広げ、下半身が馬の女騎士が勇ましく蹄を鳴らした。

 ペンデュラム召喚の開祖榊遊矢のものではない、まったく新しいカード達で行われた、ペンデュラム召喚。

 沢渡の取り巻きの3人は目を見開き、固まっていた。

 いや、そもそも少女の凄まじい動きに目を回していた。

 

「ペンデュラム召喚された竜剣士マジェスティPの効果にチェーンして、運命の旅路の効果を発動!」

 

 だが少女にとってこれはまだ通過点に過ぎない。

 観客を飽きさせないように、つまらない効果処理は手早く行っていく。

 

「モンスターが召喚、特殊召喚された場合、デッキから勇者トークンの名前が記された装備魔法をフィールドの勇者トークンに装備するか、手札に加える。騎竜ドラコバックを手札に! そして、竜剣士マジェスティPがペンデュラム召喚された場合、デッキからフィールド魔法を手札に加え、その後手札を1枚捨てる。ドラゴニックDを手札に加えて、騎竜ドラコバックを捨てる」

 

少女 手札3→4

 

「そして、捨てられた騎竜ドラコバックは、墓地に送られた場合1ターンに1度、フィールドの勇者トークンに装備出来る! 騎乗せよ、勇者トークン!」

 

 ボコリと勇者トークンの足元から這い出る、背に鞍をつけた小型の翼竜。

 勇者トークンを跨がらせ、得意気にフン、と鼻を鳴らした。

 その視線の先にいたマジェスティPはむ、と口をへの字にした後、じっと少女へと熱い視線を向けていた。

 

「……乗らないよ」

 

 首を振る少女を見て、マジェスティPは端からわかる程度には肩を落とした。

 間をズラされた少女は気を取り直すように小さく咳払いをし、手札から1枚、誇らしげに掲げた。

 

「……コホン、さて、このカードは私のフィールドの竜剣士と竜魔王を1体ずつリリースする事で特殊召喚出来ます……。竜剣士ダイナマイトPと竜魔王レクターPをリリース! さあ! おいでますは、竜剣士の頂点、真の竜剣士……私の切り札! 至高の竜剣士よ、魔王の力を得、黄金の鎧身に纏い、ここに降臨せよ!」

 

 機械の恐竜と竜の魔王がその身を捧げる。

 空から舞い降りるように現れるのは、光輝く黄金の鎧を身に纏った神々しい竜騎士……。

 

「レベル8! 真竜剣士マスターP!」

 

少女 手札4→3

 

真竜剣士マスターP DEF2950

 

 キラキラと光輝く至高の竜剣士は、静かに沢渡を見下ろしていた。

 

「あっ、と……リリースされた竜剣士ダイナマイトPの効果で、エクストラデッキからダイナマイトP以外の竜剣士かダイナミストペンデュラムモンスターを手札に加えます。竜剣士イグニスPを手札に加えますね」

 

少女 手札3→4

 

「更に、運命の旅路の効果を発動します! 1ターンに1度、勇者トークンの名前が記されたカードを1枚手札に加えた後、手札を1枚捨てます。流離のグリフォンライダーを手札に加えて、竜剣士イグニスPを捨てます」

 

「まだ動くのかよ……」

 

 沢渡は呆れたように呟く。

 このターンだけで何枚のカードが動いたのか、自分の常識からかけ離れた洗練された動きは、最早芸術的ですらあった。

 そして……それを自分も手に入れたいと、そう思い始めていた。

 

「流離のグリフォンライダーは、私のフィールドにモンスターが存在しないか、勇者トークンが存在する場合、自分、相手のメインフェイズに特殊召喚出来ます! 流離のグリフォンライダーを特殊召喚! 更に、フィールド魔法ドラゴニックDを発動!」

 

少女 手札4→3→2

 

流離のグリフォンライダー DEF2800

 

 翼をはためかせて現れるのは獅子の体を持つ猛禽類。

 その背中に小人を乗せて、ドラコバックに跨がる勇者トークンに並び立った。

 

 そして、発動されたフィールド魔法により、床に紋章が浮かび上がった。

 その紋章の中心へと、機械天使が身を捧げる。

 

「そして、ドラゴニックDの効果を発動! 私の手札、フィールドのカードを1枚破壊し、デッキから真竜カードを手札に加えます! 解放のアリアドネを破壊し、2枚目の真竜剣士マスターPを手札に! そして三度、解放のアリアドネの効果を発動します! これが、最後です!」

 

少女 手札2→3

 

 差し出されたのは神の宣告2枚と、モンスター効果の無効に特化した神の通告。

 

「あー……3枚目かよ容赦ねぇな。……神の通告を選ぶぜ」

 

「あはは……すみません。でも、手加減なんかしたら失礼でしょう? 私は、今このデッキで出来る全力の盤面を作り上げ、貴方を迎え撃ちます! ドラゴニックDがある限り、自分フィールドの真竜モンスターは攻守が300ポイントアップします! よって、マスターPの守備力が上昇!」

 

少女 手札3→4

 

真竜剣士マスターP DEF2950→3250

 

 最後に、床に浮かんだ紋章がマスターPに力を与える。

 

「カードを3枚伏せて、ターンエンドです!」

 

少女 手札4→1

 

 状況は絶望的だ。

 伏せにカウンター罠が3枚、モンスターは4体も並び、ステータスも低い訳ではない。

 P(ペンデュラム)ゾーンもスケールの幅こそ狭いものの、エクストラデッキに眠るペンデュラムモンスター達は問題なくペンデュラム召喚出来る。

 手札には後続まで残り、例え場のモンスターを殲滅しようと同じように展開されてしまうだろう。

 

 だが。

 

「へへへ……行くぜ!」

 

 沢渡は笑う。

 状況は非常に悪く、勝機も見出だせない。

 ただ、それでも、何故か自然と笑ってしまっていた。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

沢渡 手札5→6

 

 勢いよくカードを引き、手札のカードを確認する。

 数秒の思考時間の後、早速とばかりに手札を1枚見せながら、デュエルディスクにカードを叩きつけた。

 

「俺は魔法カード、帝王の深怨を発動! 手札の氷帝メビウスを見せて、デッキから帝王魔法、罠カードを手札に加えるぜ! さあ、どうする?」

 

「ふむ……良いでしょう! 通します!」

 

「オーケイ! なら俺は帝王の凍気を手札に加えるぜ!」

 

 沢渡の周囲に浮かび上がる、黒い髑髏の靄。

 おどろおどろしい雰囲気に反して、それは沢渡にカードを与えるだけでゆっくりと霧散していく。

 

「なら、汎神の帝王を、今手札に加えた帝王の凍気を墓地に送って発動! 帝王魔法、罠を墓地に送り、2枚ドローするカードだ! さあ、どうする!?」

 

沢渡 手札6→4

 

「それは止めさせて頂きましょう! マスターPの効果発動! 1ターンに1度、魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にし、破壊する!」

 

 マスターPの体が光を放ち、沢渡のカードから力を奪う。

 沢渡の手札を潤す筈のそれは、静かに墓地へと送られていった。

 

「なら、墓地の帝王の凍気の効果を発動! こいつ自身と追加で帝王魔法、罠カード……帝王の深怨を除外し、セットカードを1枚破壊する! その真ん中のカードを破壊するぜ! 」

 

「ッ……! 通します!」

 

 沢渡の墓地から滲み出した冷気が、少女の伏せカードへと殺到し、みるみるうちに凍てつかせた。

 そうして破壊されたカードは、『神の宣告』だった。

 

「ビンゴ! やっぱり俺ってカードに選ばれてるぅー! 更に! 墓地の汎神の帝王の効果を除外して発動! デッキから帝王魔法、罠を3枚選び相手に見せて選ばせるぜ! やり返してやるぜ、おら、選びな!」

 

 そう言って差し出されたカードをは全て同じ、竜巻の中から緑の鎧を身に纏った帝王が見下ろすイラストだった。

 意趣返しとばかりに同じカード3枚を選ぶ沢渡に、少女は面白そうに即座に答えた。

 

「では、真ん中の帝王の烈旋を選びます!」

 

沢渡 手札4→5

 

「よし! ならそのまま速攻魔法帝王の烈旋を発動! このターン、俺がアドバンス召喚する場合1度だけ、自分フィールドのモンスター1体の代わりに相手モンスター1体をリリース出来るようになるぜ!」

 

「それは……止めないといけませんね! 流離のグリフォンライダーの効果を発動します! 私の場に勇者トークンが存在するなら、このモンスターをデッキに戻すことで魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にして、破壊します!」

 

「うおっ!? くっ……そいつ、そんな効果持ってやがったのかよ……!」

 

沢渡 手札5→4

 

 帝王の放った竜巻は、それに気付いたグリフォンの羽ばたきによって相殺されてしまった。

 代わりにグリフォンはライダーを乗せたままその場を飛び去って行った。

 

「さあ、こいつはどうする! ワン・フォー・ワンを、手札の氷帝メビウスを墓地に送って発動! 手札、またはデッキからレベル1モンスターを特殊召喚する!」

 

沢渡 手札4→2

 

「それは許しません! リバースカードオープン! 神の警告! モンスターを特殊召喚する効果を含む魔法、罠、モンスター効果の発動を無効にし、破壊します! この時本来ならばLPを2000払わないといけませんが、解放のアリアドネのペンデュラム効果により払うことはありません!」

 

「んなにぃっ!?」

 

 そこで流石に沢渡の表情が歪んだ。

 カウンター罠はその強力さの代償にコストが重い。

 その前提を覆されたのだから、その衝撃は計り知れない。

 

「だが……これで後は神の通告だけだ! 俺は、天帝従騎イデアを召喚!」

 

沢渡 手札2→1

 

天帝従騎イデア ATK800

 

 全身を鎧に隠した少女が沢渡の呼び掛けに答えて現れる。

 それに対して、少女は動揺を露にその体を揺らした。

 

「なっ……! 手札に持っていたんですか!? なのにわざわざワン・フォー・ワンを……!」

 

「ああ! どうやら知識はあるが、場数はそう踏んでないようだな! まんまと引っ掛かってくれたぜ! さあ、効果発動だ! デッキからイデア以外の攻撃力800、守備力1000のモンスターを特殊召喚する!」

 

 咄嗟に最後の伏せカードに手がのびたが、少女は寸前で思い止まった。

 ここじゃ、ないと。

 

「ッ……! そこは、通します!」

 

 その様子に、沢渡は自嘲の笑みを漏らした。

 先程は少女の油断を誘えたが、今回はダメそうだ、と。

 

「それなら、冥帝従騎エイドスを特殊召喚! そして、効果発動だ! このカードを召喚、特殊召喚したターン、通常召喚に加えて一度だけ、アドバンス召喚を行える!」

 

冥帝従騎エイドス DEF1000

 

「その効果に神の通告を発動します! モンスターの効果の発動を無効にし、破壊!」

 

 現れた黒い全身鎧を、神の雷が貫いた。

 脆く崩れていく黒い鎧が、静かに消えていく。

 

 そこまでして、沢渡は肩を落とし、最後の手札に視線を落とした。

 

(最後の手札は真源の帝王……もしもイデアを墓地に送れていたなら、除外されている汎神の帝王を戻してこいつを捨てて2枚ドロー出来て、ドローによってはまだわからなかったが……)

 

 チラ、と対峙する少女に視線を向ければ、展開中の何処かこっちを見ていない態度は鳴りを潜め、しっかりと此方を見据えている様子だった。

 此方のカードにあまり驚いていなかった様子から、採用されているカードを大方把握されているという予測の元動いていたが、それはどうやら的中していたようだった。

 それによって1つ妨害を使わせる事が出来たが……冷静になられてしまえばそこまでだった。

 

(召喚権を使った状態でエイドスを無効化され、相手はご丁寧に全員守備表示でイデアによる自爆も出来やしねえ。足掻いてみたが……こりゃ無理か)

 

「……俺は、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

沢渡 手札1→0

 

 相手の妨害は全て使わせたものの、乗り越えることは出来なかった。

 あと少し、あと一歩足りなかった事に、悔しさを覚える。

 

「では、私のターン! ドロー!」

 

少女 手札1→2

 

 だが、と沢渡は顔をあげる。

 道化の面を被ったふざけた相手……けれど明らかに洗練されたペンデュラム使いに対して、ビシリと指を突きつけた。

 

「おい、お前! 約束通り榊遊矢の場所は教えてやる! 代わりに、俺にペンデュラムを教えやがれ!」

 

「え」

 

 沢渡の突然の申し出にカードを引いた状態で、少女は固まってしまう。

 最初の約束と違う、と少女が突っ込む間も無く、新たな闖入者が現れた。

 

「ちょっとちょっと! なんでこの子ペンデュラム使ってるのよ! 沢渡、どういう事が説明しなさい!」

 

 赤い髪をツインテールにした少女、ペンデュラムの開祖榊遊矢の幼馴染みである柊柚子が、いたからいたのかそこに立っていた。

 沢渡に人差し指を突き付けつつ、少女の様子をチラチラと伺っているようだった。

 

「お……」

 

「柊柚子……? 丁度良いな! おい、そいつに付いてったら榊遊矢に会えるぞ! だから俺にペンデュラムを教えると約束しやがれ!」

 

「何勝手な事言ってるの!? というかこの子誰なの! 変な仮面つけて、怪しすぎるじゃない!」

 

「うるせえ! 俺は榊遊矢に勝つ為ならなんでもするぜ! さあ、さっさと決闘(デュエル)を終わらせるぞ! 邪魔すんなよ!」

 

 何処か噛み合っていない会話を繰り広げる2人に、少女は視線を行き交わせ、戸惑っていた。

 その弾みでか、被っていたフードが外れ、その髪が露になる。

 黒のショートカットのようで、首を振る度にふわりと揺れていた。

 

 いがみ合う沢渡と柚子がその距離を詰め始めた、そんなざわめき始めた場に。

 

「待て!」

 

 更なる火種が現れる。

 

 黒いマントにゴーグルにマスクで顔を隠した、少女に負けず劣らず明らかに怪しい不審者。

 背丈は少年なものの、突然の登場に流石に場が一瞬静まり返った。

 その隙にか、少年は沢渡と柚子の間を遮るように立ちはだかった。

 

「パ…………」

 

「おい、なんだお前は! 今俺はこいつらに話があんだよ!」

 

「突然何なの? 私もこの子に話を聞かなきゃいけないのよ」

 

 三者三様の反応に少年は反応せず、ただ静かに左腕な機械、この場の誰もが見たこともないタイプのデュエルディスクを徐に構えた。

 

「彼女を、傷付けさせはしない……」

 

「ハァ? ナイト気取りか? 意味がわからねぇ! そもそもまだ決闘(デュエル)中なんだよ! お前らどっちもさっさと――」

 

 誰もが好き勝手に、自分の求める事のみを口にし、あまりにも混沌とし始めた場。

 そこで素早く、大きく動きだし始める姿があった。

 

「ッ……私は! 全てのモンスターを攻撃表示に変更!」

 

竜剣士マジェスティP ATK1500

勇者トークン ATK2000

真竜剣士マスターP ATK2950→3250

 

「勇者トークンで天帝従騎イデアに攻撃! そして、真竜剣士マスターPでダイレクトアタック!」

 

「へ、あっ、おぶっ、い、イデアの効果で汎神の帝王を手札に加え――――」

 

沢渡 LP3500→2300

 

 突如として動き出したモンスター達に、沢渡は目を見開いた。

 イデアを弾き飛ばした翼竜の衝撃に悲鳴をあげる間も無く、気付けば目の前で黄金の竜騎士が大剣を自分に振り上げているところだった。

 

「うぎゃあああああああああああ!」

 

沢渡 LP2300→0

 

「「「さ、沢渡さーん!」」」

 

 刃の腹でぶったたかれたのか、沢渡はその場から大きく吹き飛ばされ、倉庫を転がっていく。

 決闘(デュエル)終了のブザーが鳴り響くなか、突然の凶行に柚子と少年が思わず沢渡の吹っ飛んでいった方向を目で追っていた。

 

「よいっしょ!」

 

「なっ」

 

 そんな一瞬呆けた少年の腕を、少女が掴んで引っ張りあげていた。

 いつの間に乗ったのか、マジェスティPの下半身の馬部分に上手いこと跨がり、少年を引っ張りあげたのに合わせてその翼がはためいた。

 女騎士は何処か満足そうな表情を浮かべていた。

 

「これにて今宵のショーはおしまい! またいつか!」

 

「おい、何をす――――」

 

「ちょっと! 貴方達は一体――――」

 

ボフンッ!

 

 柚子が思わず手を伸ばすも、遮るように煙幕が倉庫を包む。

 

バフッ

 

 そして強い風が吹き荒れ、柚子は思わず顔を手で覆い……。

 

「……誰も、いない」

 

 煙が晴れた時、気付けばそこには誰もいなかった。

 ふと上を見上げれば、倉庫の天井には穴が空き、空が僅かに覗いていた。

 少し離れた所では沢渡が取り巻きに囲まれて、痛みに呻いている。

 それが、今確かにそこには誰かがいた事を証明しているようだった。

 

「……なんだったのかしら」

 

 ペンデュラムを操る不審な少女に、何故か自分を庇おうとした不審な少年。

 幼馴染みが新たな召喚法を編み出してから、柚子はずっと言葉に出来ない何かを感じていた。

 今、この舞網市で何かが起きている……もしくは起きようとしていると。

 

「……遊矢」

 

 心細さからその名を口にし、自然と胸の前で右手首を握り締めた。

 幼少期からずっと身に付けていたブレスレットが、キラリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーやれやれ……ここまで来ればいいかな?」

 

 何処かのビルの屋上、道化の面をつけた少女はビルの下を覗き込んだ後、ゆっくりと振り返った。

 対峙するは先程のゴーグルとマスクで顔を隠した黒い少年。

 ゴーグルの奥で、その目が細められた。

 

「……君はなんなんだ。何故俺の邪魔をする」

 

 警戒心を露にする少年に対し、少女は呆気からんとした態度で口を開いた。

 少し責めるような声色を含めて。

 

「先に邪魔しようとしてきたのはそっちなんですけど……まあ、良いです。貴方()にも話を聞いてみたかったんですよ」

 

「!!!」

 

 少年はその言葉に、咄嗟にその場から飛び退き、デュエルディスクを構えた。

 隠れて行動していた自分達が複数いるという事を一方的に知られている……そこに強い驚きと、そして僅かな恐怖を感じ、少年は警戒心を漲らせながら、ゴーグル越しに少女を睨み付けた。

 

 そんな態度を気にする素振りもなく、少女はビルの縁を背に、大きく手を広げた。

 大袈裟に、大仰に。

 

「ねぇ、LDS狩りさん」

 

 その手がゆっくりと、自身の道化の仮面へと伸ばされ、カポリと音がして少しずつズレていく。

 ズレた仮面の向こう、口元だけが露になり……口が弧を描いた。

 

「貴方達は、何処から来たんですか?」




流離のグリフォンライダー

とても簡単にエクストラを圧迫せずに万能無効が立つので禁止となった1枚。
通常召喚したモンスターがフィールドで効果を発動出来なくなるという重い(?)デメリットを抱える勇者ギミック最強のカード。
マスターデュエルでは許されているし、正直いつか戻ってくるような気はする。

竜剣士ラスターP

かつての制限カード。
こういう事をするので規制された。
当時のP召喚の仕様上、基本的に発動し得だった。
主にEMEmに連なるペンデュラムデッキのエンジンカードだった。
ペンデュラムゾーンで破壊された時に、モンスター側の破壊された場合の効果を使うんじゃない。
P召喚の仕様変更で実質の弱体化を受け規制解除されたものの、名称ターン1のないサーチはやはり良くなく、なんらかで爆発する可能性を未だに残していると思っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。