遊戯王ARC-V~砕けた世壊の姫達~   作:新作アニメ待ってます

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気狂姫と成金プロモーター

キィイイイイインッ――

 

 エンジン音が響くなか、何処とも知れないレーンの中を2台のバイクが走り抜けていく。

 走るのは黒いバイクとクリーム色のバイク……先を走る黒いバイクを操る男は、ヘルメットの中でその表情を恐怖に染め、必死に走り続けていた。

 

 更に、そのバイク……Dホイールに、それぞれ追随する影……リアルソリッドビジョンで形作られたモンスター達の姿があった。

 男の場には裏側でセットされていることを示す、鳥籠に閉じ込められた人魂のような姿があった。

 そして魔法(マジック)(トラップ)ゾーンに置かれた1枚のカード……男が操るのはそれだけだった。

 LPこそ無傷なものの、その(フィールド)は心許ないものだった。

 

男 LP4000 手札0

セットモンスター1

セットカード1

 

 対して、それを追うクリーム色のDホイールに追随するのは、優しげな表情を浮かべた優男と、それぞれ中に小人が閉じ込められた4つの水泡。

 (フィールド)の限界、5体のモンスターが並び、主の指示を今か今かと待っている。

 

マナドゥム・リウムハート ATK1500

マナドゥム・トリッド ATK0

マナドゥム・ヒアレス ATK0

マナドゥム・ミーク ATK0

マナドゥム・ミーク ATK0

 

 その主、ライダースーツを着込んだ少女は、ヘルメットの中で口を歪ませる。

 そしてそのまま、吟うように言葉を紡いだ。

 

少女 LP4000 手札2

セットカード2

 

「さぁ……行くよ。レベル4、マナドゥム・リウムハートに、レベル2、チューナーモンスターマナドゥム・トリッド、ヒアレス、そしてミーク2体……4体のモンスターを……チューニング!」

 

「なっ……チューナー4体でシンクロだと!?」

 

 4つの水泡が、それぞれ2つの星となり、無数の円を作り出す。

 そこをリウムハートが駆け抜けていく。

 円を潜り抜ける度に、その体に星が宿っていく。

 

「想いの力を宿した機神よ、その力を今こそ示せ。私の領域に現れよ。白亜の鎧身に纏い、真の力を存分に奮うが良い! シンクロ召喚!」

 

 星は白い鎧となり、リウムハートの体に装着されていく。

 やがてリウムハートの全身が白の鎧に覆われ、瞳が光った。

 それと同時に鎧の隙間から同色の光が溢れ、全身を光が覆う。

 

「レベル10! マナドゥム・プライムハート!」

 

マナドゥム・プライムハート ATK3000

 

 光を纏ったその姿は、神々しさすら感じる。

 レベル10のシンクロモンスターの威容に、男は声も出ない様子で……けれど自分のセットカードにチラリと視線を向けて、僅かに口元を吊り上げた。

 

 白の鎧を身に纏ったリウムハート……改めプライムハートは、その身を躍らせ、男のほうへと駆け出していった。

 

「マナドゥム・プライムハートでセットモンスターを攻撃!」

 

「バカめ! リバースカードオープン! 炸裂装甲! 攻撃モンスターを破壊する!」

 

 それに対して男は自分のセットカードを発動しようと、意気揚々と宣言するが……そのカードが発動する事はなかった。

 

「な……何故だ! 何故発動しない!」

 

「……マナドゥム・プライムハートがマナドゥムチューナーを使ってS(シンクロ)召喚された場合、このカードは相手の効果の対象にならない。通常(トラップ)炸裂装甲は、攻撃モンスターを対象に取るカード……そのカードではプライムハートは捉えられない」

 

ビカンッ!

 

 プライムハートの眼光が、男のリバースカードを押さえ込んだ。

 

「なっ……」

 

「そのセットモンスターを打ち砕け、プライムハート!」

 

 プライムハートの拳が、セットモンスターへと放たれる。

 触れる直前、その隠されていた姿が露になり、顔のついたトマトが現れる。

 

キラートマト DEF1100

 

 顔のついただけのトマトが機神の一撃に耐える訳もなく、一瞬で弾け飛び……けれどもそこに1粒の種を残していく。

 

「くそっ……! だが、破壊されたモンスターはキラートマトだ! こいつが戦闘破壊された時、デッキから闇属性の攻撃力1500以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚する! 2体目のキラートマトを特殊召喚!」

 

 残された種は即座に成長し、まったく同じ姿のトマトとなりその場に現れた。

 男はホッと一息ついた。

 伏せカードは機能しなかったものの、(フィールド)にモンスターは残り、自分のターンがくる事に一安心と言った様子た。

 主のそんな思いが伝わったのか、キラートマトはべー、と舌を出し、プライムハートはそれを静かに見下ろし……。

 

キラートマト ATK1400

 

「……プライムハートは、S(シンクロ)素材にしたチューナーの数だけ、1度のバトルフェイズに攻撃する事が出来る」

 

 その拳をもう1度振り上げた。

 

「な、何いっ!? 使ったチューナーは4体……4回攻撃だとぉっ!?」

 

 キラートマトから呼び出せるモンスターは攻撃表示で特殊召喚される……仮にモンスターを残せた所で、LPが先に尽きてしまう。

 男のデッキに目の前の白亜の機神を止める手段は……。

 

「プライムハート、このくだらない決闘(デュエル)……」

 

ひ……ひぃいいいいい! 嫌だ、折角逃げ出せたのにぃいいいい!

 

「さっさと終わらせて」

 

 存在しなかった。

 

ドグシャアッ!

 

男 LP4000→2400→800→0

 

ガシャァアアアアン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……面白くもない決闘(デュエル)だった……」

 

 Dホイールを路肩に停めた少女は、ヘルメットを取りながら呟いた。

 視線の先にはクラッシュした先程まで動いていたDホイールと、その持ち主が操っていたカードが散乱していた。

 

「久々の決闘(デュエル)だったから少し遊んだのに……まったく歯応えがなかった……こんなんじゃ足しにもならない」

 

 自分のDホイールに身を任せながら、小さくタメ息をつく。

 こんなにもこの次元の決闘者(デュエリスト)のレベルが低いとは、予想外だった、と少女は思う。

 あの時戦ったお兄さんが決闘者(デュエリスト)の誇りもあり、取り込む前に再戦してみれば中々に善戦してくれて……。

 

「はぁ……あのお兄さん、逃がしてあげれば良かったなぁ……」

 

 そうすれば少なくとも、今こうして退屈する事はなかっただろうに……。

 常人には見えない何かは、少女の周りにたむろするだけで、その意思を露にはしない。

 ただただ少女に付き従い、彼女の為に存在するだけ。

 僅かな苦笑の雰囲気だけを感じて、少女は再度肩をおろした。

 

ブォンッ!

 

キキイッ!

 

 そんな時、不意にエンジン音が轟き、ブレーキ音と共に少女をライトが照らした。

 どうやら車のようで、ヘッドライトが向けられているようだった。

 眩しさに目を細める少女は、不機嫌そうに口を開いた。

 

「……何?」

 

パチバチパチパチ……

 

 少女の問い掛けに、黒塗りの車から降りた存在は答える事なく、手を鳴らしながらライトの前に躍り出てくる。

 その人物は浅黒い肌のギラギラとしたアクセサリーを身に付けた男だった。

 

「こんばんは、嬢ちゃん。良い夜だな。あんたの決闘(デュエル)、見させて貰ったぜ? チューナーモンスター4体でのS(シンクロ)召喚! 見たことも聞いたこともねぇ!」

 

「…………何……?」

 

 少女の声色が更に低くなる。

 眉間には皺が寄り、明らかに不機嫌とわかる様子だった。

 

「おっとすまねぇすまねぇ。興奮しちまってよ。アンタがさっき決闘(デュエル)でブッ倒した男、そいつは俺様の所から逃げ出した奴でね、追っていたんだが、そこで丁度アンタの決闘(デュエル)に出会したって訳さ。アイツから回収は出来なくなっちまったが……へへっ、今夜は運が良い。アンタが『気狂姫』だろ? 是非とも1度会いたかったんだ」

 

 ニヤニヤと笑う男、ギャラガー。

 ジャラジャラとつけたアクセサリーが闇夜にも関わらずギラギラと光り、少女はよりその目を細めた。

 

「……名乗った覚えはないけど、そんな名前で呼ばれた覚えはある」

 

「そいつぁ良かった!」

 

パンッ!

 

 少女の嫌そうな顔には目もくれず、ギャラガーは両の手を叩いてニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「アンタへの用は簡単だ。スカウトだ。俺様の地下決闘場に出てみねえか? 嬢ちゃんなら簡単に一儲け出来そうだ! へへへ、報酬は弾むぜ? どうだい嬢ちゃん!」

 

「……………………」

 

 少女は肩をすくめて息を吐くと、呆れた様子で瞑目した。

 そして無造作に左腕を掲げれば、Dホイールから独りでにディスクが分離し、その腕に装着されていく。

 不可思議な光景にギャラガーは僅かに眉をひそめたものの、深く考えることなくニヤニヤと笑ったまま、呼応するように左腕を掲げた。

 

「へへっ、()()()()()()()か嬢ちゃん。いいだろう! この俺様の超極悪スーパーゴージャスウルトラレアデッキの力、見せてやるぜ!」

 

 腕に装着されている決闘(デュエル)ディスクまで黄金色で、少女はより呆れの色を強めるのだった。

 

「じゃあ……(デュ)……」

 

「おっと! その前に嬢ちゃん、アンタの名前教えてくれよ。俺様も名乗ったし、気狂姫だなんて呼ばれたかないだろう?」

 

 宣言を中断された少女は眉間に皺を寄せる。

 不愉快で仕方ないと言った様子だったが、半ば諦めつつギャラガーの問い掛けに静かに答えを返した。

 

「……はぁ。私は()()……これで良い? 聞こえた?」

 

「おう、ユキ、ね。バッチリ聞こえたぜ! 良い名前じゃないの。ヴィジュアルも良い。こりゃあ売れるぜ! がはははは!」

 

 満足そうに笑うギャラガーに対して、少女……ユキは仏頂面のまま呆れの感情を隠す事なくタメ息を吐いた。

 そして、仕切り直すように、ユキは半目のまま口を開いた。

 

決闘(デュエル)

 

決闘(デュエル)!」

 

 瞬間、ユキの瞳が一瞬、黒く染まったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先行は俺様か……さて」

 

ギャラガー 手札5

 

 決闘(デュエル)ディスクに指し示された先行はギャラガー。

 ギャラガーは5枚のカードを引くと、手札を流し見し……その笑みを深くした。

 

「がははは! こりゃぁ早速終わっちまったなぁ嬢ちゃん! ま、運が無かったと思って諦めてくれや!」

 

 ギャラガーは意気揚々とカードを叩きつけた。

 

「まずはこいつだ。永続魔法、魔力倹約術を発動! こいつがある限り、俺様は魔法カードを発動する為のライフコストを払わなくて良くなる……よって、こいつをそのまま発動だ!」

 

ギャラガー 手札5→4

 

 あまり見ない珍しいカードの発動に警戒を露にするユキに対し、ギャラガーは嘲笑うようにカードを続けて叩きつけた。

 その一瞬、ギャラガーの決闘(デュエル)ディスクからは僅かにブザーのような音が響き……。

 

いたずら好きな双子悪魔!

 

「……! 何っ……!?」

 

 バチン、という音とともにその音は消え、2体の悪魔のビジョンが現れる。

 悪魔はユキの手札に手を伸ばし、そのうち1枚を叩き落とした。

 その想定外のカードの発動に、ユキはその目を大きく見開いた。

 

「こいつぁライフコストを1000支払い発動出来て……相手の手札を1枚奪った後、相手は自分の手札を1枚捨てなきゃならねぇ……わりいが、もう1枚捨てな!」

 

 ユキに纏わり付く悪魔はニヤニヤと笑いながら、手札を指差し続けている。

 

「……それは、禁止カード……ちっ、そういう手合か……」

 

 小さく舌打ちを鳴らし、捨てる手札を吟味する。

 発動し、ソリッドビジョンが起動している以上、これは決闘(デュエル)ディスクが行う正しい処理。

 ユキはそれに従わざるをえなかった。

 例えそれが、本来ならば禁止カードだとしても。

 

ギャラガー 手札4→3

 

ユキ 手札5→3

 

「更に、おらっ! もう1枚発動だ! 手札を1枚捨てさせ……もう1枚選んで捨てな!」

 

ギャラガー 手札3→2

 

ユキ 手札3→1

 

 再び躍動する双子の悪魔は、生き生きとした様子でユキの手札を奪っていく。

 あっという間に1枚だけとなったユキの手札を見て、ギャラガーはニヤニヤと笑う。

 

「くくくっ。俺様の決闘(デュエル)ディスクは特別製でね。レギュレーションなんてもんはねぇ! 生憎決闘(デュエル)の腕に自信はねえが……これだけのパワーカードが使えればどんな強い決闘者(デュエリスト)にだって勝てるって寸法よ! 手札がなきゃ、どれだけ強かろうと勝てやしねえだろお?」

 

 がはははと笑うギャラガーに対し、ユキは俯き、その表情が影となる。

 何の反応も見せない少女へと、ギャラガーは笑みを深めながら決闘(デュエル)を続ける。

 

「さて……とはいえ俺様の手札も減っちまった……って事でぇ、次はこれだ! 強欲な壺を発動し、2枚ドローだ!」

 

ギャラガー 手札2→3

 

 続いて現れたのは緑色の壺。

 気持ちの悪い顔のついた壺は、嬉しそうに笑い、ギャラガーへと手札をもたらす。

 無条件の2枚ドロー、当然これも禁止カードだ。

 そしてそのまま砕け散っていった。

 

「よしよし、まずまずじゃねぇの。そんじゃ続いてー……」

 

「待って」

 

 次のカードを使おうとした所に、ユキが口を挟む。

 残った1枚の手札、それが墓地に送られ、ギャラガーのデッキに向けて何かが飛び出していった。

 

「何!?」

 

「相手がドローフェイズ以外でデッキからカードを手札に加えた時、手札のドロール&ロックバードを墓地に送って発動。このターン、これ以降お互いにデッキからカードを手札に加える事は出来なくなる」

 

ユキ 手札1→0

 

 半透明な少年の操る鳥が、ギャラガーとユキ、互いのデッキに入り込み、デッキを覆い隠してしまう。

 ギャラガーが使おうとしたカードは使用不可能となり、決闘(デュエル)ディスクはうんともすんとも言わなかった。

 

「ちっ!(折角2枚目を引いたってのによ! ……仕方ねぇ)」

 

 ギャラガーは手札の2枚目の強欲の壺を睨み付け……仕方ないとばかりにモンスターを1体、リバースカードを1枚伏せた。

 

「モンスターをセット、カードをセットして、ターンエンドだ!(伏せたのはファイバー・ポッドとミラーフォースだ。くくく……攻撃してきたらドーンだ! 仮に通ったとしても全てリセットって寸法よ! こりゃ磐石だ!)」

 

ギャラガー 手札 3→1

 

 セットしたモンスター、ファイバー・ポッドはリバースした時にフィールド、墓地、手札の全てを戻し、互いに5枚ドローするリセット効果を持っている。

 LP以外の全てをリセットする強力無比な効果は、当然禁止カードである。

 

「ふっふっふっふっ……」

 

 ギャラガーは肩を揺らし、ニヤニヤと笑みを溢す。

 想定外はあったものの、相手の手札はゼロ。

 手札1枚から出来る事なんざ、たかが知れている。

 ギャラガーはそう考え、ターンを回す。

 

 ギャラガーの脳内には既に、目の前の女を従え、更なる富を築いた自分の姿がありありと映っていた。

 またたっぷりと美味い汁を吸わせて貰おうと、この先に待ち受ける甘美な未来に思いを馳せて。

 笑いが止まらない様子だった。

 

「……はぁ」

 

 だが。

 

「私のターン」

 

 それが現実になるかは……。

 

ドロー

 

 定かではない。

 

 カードを引く直前、ユキの手に闇が灯った。

 

ユキ 手札0→1

 

「良いカードは引けたかぁ? サレンダーするなら今だぜ?」

 

 引いたカードを一瞥したユキに対し、ギャラガーの煽りが飛ぶ。

 だが、ユキはそれに反応を見せず、引いたカードをそのまま決闘(デュエル)ディスクへと置いた。

 

「装備魔法ストーンヘンジを、墓地の攻撃力0のモンスターを対象にとって、発動。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する」

 

ユキ 手札1→0

 

「……ハハハッ! 攻撃力0のモンスターを呼び出してどうするつもりだ?」

 

「……DT(ダークチューナー)ナイトメア・ハンドを特殊召喚」

 

DT(ダークチューナー)ナイトメア・ハンド ATK0

 

 そのプレイイングをギャラガーは嘲笑うが……現れたモンスターの異様さ、異質さに思わず言葉を失う。

 攻撃力はゼロなのにも関わらず、不思議な威圧感のあるモンスターだった。

 

「レベル……10? チューナーモンスターにしてはレベルが高過ぎじゃ……」

 

「墓地のレベル・スティーラーの効果を、(フィールド)のレベル5以上のモンスター、ナイトメア・ハンドを対象にとって発動。レベルを1つ奪い、このモンスターを特殊召喚する」

 

DT(ダークチューナー)ナイトメア・ハンド レベル10→9

 

レベル・スティーラー ATK600

 

「ちっ……! そういう事かよ! レベル10のシンクロモンスターか! 手札ゼロから滅茶苦茶やりやがる!」

 

「……さっきのターン滅茶苦茶やった癖に、よく言う……ただ、レベル10のシンクロモンスターっていうのは……ハズレ。ナイトメア・ハンドはシンクロには使えない」

 

 悪態をつくギャラガーに対して、ユキは淡々と言葉を告げる。

 ギャラガーはその言葉を信じたのか、安心したようにほっと一息ついた。

 

「なんだよ、焦らせやがって……結局は雑魚モンスターをただ並べただけかよ……」

 

()()()()()()()()()、ね」

 

 その少女の言葉が響いた瞬間、ナイトメア・ハンドが笑い声と共にその身を星へと変える。

 その星は普通のシンクロの時とは違う、漆黒の星。

 ユキは右手を伸ばし……その右腕が不自然に紫色の光を放つ。

 

「な、なんだァ!?」

 

 ギャラガーの驚愕を置いてけぼりに、事態は進んでいく。

 

「レベル9となったDT(ダークチューナー)ナイトメア・ハンドを、レベル1レベル・スティーラーに……ダークチューニング……!

 

「だ、ダークチューニング!?」

 

 漆黒の9つの星が、小さな1つ星のてんとう虫へと宿っていく。

 てんとう虫は漆黒の星に飲み込まれ、闇が溢れ、その場を闇が満たしていった。

 

舞い降りろ闇の魔龍よ! その力を今こそ示せ!

私の領域に顕現せよ。漆黒の帳の元、冥府の瞳よ開け!

 

 ユキの腕に、突如として紫色に光る紋様が現れる。

 何かを主張するように光り続ける紋様が鼓動し、辺りに満ちていた闇が晴れていった。

 

ダークシンクロ! レベル-8!

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン!

 

 闇を割き現れたのは、紫の不気味な龍だった。

 妙に長い手足が、その不気味さを助長させているように感じる。

 その顔には瞳が1つだけついていて、ギョロリとギャラガーを見下ろしていた。

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3000

 

「な、な……なんなんだこいつは……!」

 

 ギャラガーはその余りにも異様過ぎるドラゴンに、無意識に1歩、後退りしていた。

 嫌悪感を覚える、非常に不気味なドラゴン……明らかにまともではない。

 一つ目のドラゴンは、体をゆらりと揺らしたと思えば、突如肩からギョロリと瞳が覗いた。

 瞳から紫の光を放ち、その力を解放する。

 

「ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの特殊召喚時、効果を発動する。私の手札が存在しない場合、デッキからインフェルニティカードを手札に加える。私が手札に加えるのは、インフェルニティ・リローダー」

 

ユキ 手札0→1

 

「更にサーチした闇属性モンスター、インフェルニティ・リローダーをワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果で捨てて、デッキから闇属性モンスターを墓地に送る。不意打ち又佐を墓地に送る……」

 

ユキ 手札1→0

 

「な、なんだそりゃ! そいつ、いくつ効果持ってんだよぉ!」

 

 次々と瞳を輝かせて効果を発動していくドラゴンに、危機感を覚えて声を荒げる。

 それに対してユキは、頬を吊り上げ不気味に嗤った。

 

「……ふふ、当然。ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果、それは墓地の闇属性モンスターの効果をコピーする事」

 

「な、何ぃ!? なんだそのイカれた効果は!?」

 

 インフェルニティカードをサーチしたのは、墓地のインフェルニティ・デーモンの効果、手札から闇属性モンスターを捨てて、デッキから闇属性モンスターを墓地に送ったのは、ダーク・グレファーの効果……。

 よく目をこらせば、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンに、橙色の髪の悪魔や、白髪の男の像が重なって見えた。

 そのあまりの規格外の効果に、ギャラガーは焦燥の表情を浮かべた。

 

 ユキは更に続けて、新たに墓地に落ちた効果も発動させていく。

 それと共に新たな瞳が出現し、ギョロリと紫の瞳を輝かせた。

 

「更に効果発動。この効果は手札がない時に発動出来て、カードを1枚ドローし、お互いに確認し……モンスターならばそのレベル×200ポイントのダメージを相手に与え、魔法か罠ならば私が500ポイントのダメージを受ける。ドロー……引いたのは伍世壊カラリウム……魔法(マジック)カードの為、私は500ポイントのダメージを受ける」

 

ユキ 手札0→1 LP4000→3500

 

 魔龍から放たれる弾丸に穿たれつつ、ユキは処理を進めていく。

 

「そのまま、伍世壊カラリウムを発動。発動時の効果処理で……ヴィサス・スタフロストを手札に加える。そしてそのまま、ヴィサス・スタフロストの効果を発動! このカードとは種族、属性の異なる(フィールド)のモンスターを破壊し、このカードを特殊召喚する! ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンを破壊し、ヴィサス・スタフロストを特殊召喚する!」

 

ユキ 手札1→0

 

ヴィサス・スタフロスト DEF1500

 

 異形の腕を振るい、闇を切り裂いて男が現れた。

 ただ、光を纏っているにも関わらず、その顔は闇に覆われたままだった。

 男はそのまま地面に膝をつき、防御体制をとる。

 

「な、何してやがる!? そいつは、お前の切り札じゃねぇのかよ!?」

 

 エースモンスターを投げ捨てる、突然の暴挙にギャラガーは声を荒げた。

 強力なモンスターを破壊して現れたモンスターも守備表示……意味のわからなさに、顔をしかめる。

 

 ユキはそんな反応に、更に笑みを深めた。

 

「フフフッ……破壊された、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果を発動する。私のデッキからカードを1枚選び、手札に加える!」

 

「ば、万能サーチ!? なんだそりゃあ!? インチキだ!」

 

 喚き散らす声が響く中、先程まで異形の魔龍がいた場所から闇が溢れ、ユキへと集う。

 やがてそれはユキの手の中で1枚のカードとなる。

 クルリとユキの指で回され見せつけられた瞬間、ギャラガーの顔が更に歪んだ。

 

「し……死者蘇生……」

 

ユキ 手札 0→1

 

ヒヒヒッ……! 手札に加えた死者蘇生を、発動! 蘇れ、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン!」

 

 古から存在する強力無比な魔法カード。

 青いアンクが浮かび上がり、1度は闇に葬られた魔龍が、再びその姿を現す。

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3000

 

「ヒャハハハッ! さぁ、再びワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果を発動! 手札がゼロの為、デッキからインフェルニティカード、インフェルニティ・ネクロマンサーを手札に加え、そのまま闇属性モンスターを捨てる事で、デッキから闇属性モンスターを墓地に送る! 墓地に送るのは……私の神様!」

 

ユキ 手札1→0

 

ドクン

 

 ユキは、右腕を掲げた。

 その腕に描かれた紋様が強く、強く鼓動する。

 溢れんばかりの闇が、その場を覆いつくし……ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの全身から瞳が現れ、紫の光を放った。

 

ドクン!

 

地縛神(じばくしん) Ccapac(コカパク) Apu(アプ)だ!」

 

ドクン! ドクン! ドクン!

 

 何処からか響く鼓動が轟き始めた。

 やがて魔龍の背後、瞳から放たれる光が、不気味な姿を形作る。

 見上げるような、不気味な紋様の走った漆黒の巨体。

 

ズォオオオオオオオオオオオ

 

 それはその巨大な掌を、ちっぽけな男に向けて、ゆっくりと振り下ろし始めた。

 

「な、な、なぁあああああ!? なんなんだこのバケモノはぁああああ!?」

 

「……聞いてなかった? 地縛神……私の、神様だよ」

 

 そう言って、ユキはにこやかに笑った。

 満面の笑みで嗤った。

 

 ……彼女の瞳の白目は、黒く染まっていた。

 

「クヒヒヒヒッ……! まだ色々出来るけどもう良いや! 神様が、もう我慢しきれないってさ! ……バトルフェイズ! 地縛神(じばくしん) Ccapac(コカパク) Apu(アプ)の効果を得たワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは、相手にダイレクトアタック出来る! 更に、不意打ち又佐の効果を得た事で、1度のバトルフェイズに2回攻撃する事が出来る!」

 

「こ、攻撃力3000のダイレクトアタッカーが、2回攻撃だとぉ!? そんなふざけた効果、許されねぇだろうがよぉ! インチキだろうが!?」

 

 喚き散らすギャラガーに構う事なく、ユキは右腕を伸ばし攻撃を指示した。

 

「さぁ、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンでダイレクトアタックだ! インフィニティ・サイト・ストリーム!」

 

 魔龍の開いた口から放たれる、おぞましい極光が、ギャラガーへと放たれる。

 紫の光線は主の指示に従い、真っ直ぐ主の敵へと向かっていく。

 

「ひ、ヒィイイイイイ! リバースカードオープン! 聖なるバリア-ミラーフォース-! 攻撃表示モンスターは、全て破壊だぁあああ! 消えろ化け物!」

 

バチィッ!

 

 対して発動されたのは、聖なる力を宿したバリア。

 どんな攻撃も跳ね返し、返り討ちにしてきた無敵のバリアが光線と衝突した。

 冷や汗を流しながらも、その光景に笑みを浮かべ……。

 

バキャァアアアアン!

 

 拮抗すらせず砕け散った事で、その笑みは凍り付いた。

 

「ヒヒャハハハハハハハ! 神様に、そんな小細工は通用しない! 地縛神(じばくしん) Ccapac(コカパク) Apu(アプ)の効果を得たワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは、魔法(マジック)(トラップ)カードの効果を受けない!」

 

「な、なぁにぃいいいいいいいいい!? くそっ!? こんなもん、やってられるか!」

 

 悲鳴をあげながら、ギャラガーは自身のギラギラと光る決闘(デュエル)ディスクを、即座に腕から外し、地面に叩きつけた。

 

ガシャンッ!

 

 砕け、消えていくギャラガー(フィールド)に唯一あったリバースモンスター。

 これで決闘(デュエル)は中断され、リアルソリッドビジョンも、停止する筈だった。

 

「へへっ……へはははは! 手が滑っちまったぜ! 今日の所はこの辺で勘弁して――」

 

 ……本来なら。

 

ゴォオオオオオオオオ!

 

ズォオオオオオオオオオオオオオ

 

 闇の光線と巨人の掌は、消える事なく目の前にまで迫っていた。

 ポカンと、唖然とした様子で、ギャラガーは力なく呟いた。

 

「へ……なんで、消えてなっ――」

 

 それが、彼の最後の言葉となった。

 

 次の瞬間、魔龍の放った極光がギャラガーを飲み込み、巨大な掌が、そのままその体を押し潰していった

 

ゴォッ!

 

ズゥウウウウウウウウウウウウウン

 

ギャラガー LP4000→1000→0

 

ピー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアルソリッドビジョンが消えた後、そこにはクレーターが残るのみで、何も残っていなかった。

 ギャラガーという男も、地面に叩きつけた決闘(デュエル)ディスクも、乗ってきていた黒染めの高級車も、何1つ。

 

「……ふぅ。くだらない男だった。でもちょっと大人気なかった……かな」

 

 ユキはため息混じりに言葉を紡ぐ。

 少し、やりすぎたのかもしれない、と。

 

「でも……卑怯で弱くて、決闘者(デュエリスト)の誇りも嘲笑うような矮小な男が、私の神様の糧になれたのだから……喜ぶべき」

 

ドクン

 

 ユキの手の中、先刻現れた巨人の描かれたカードが、小さく脈動した。

 不服を表しているように震えるカードに、ユキの表情が歪む。

 

「……ごめんなさい、神様。もう少し待ってて下さい。あなた様への贄も、私の世()の糧も、まだまだ足りない……」

 

 そのカードを胸に抱きながら、軽い足取りで一歩、二歩……。

 

「ごめんなさい、待たせてしまって……でも必ずいつか、私はやり遂げて見せます」

 

 未だに残っていた、リアルソリッドビジョンの名残、伍世壊カラリウムの巨大な桜。

 それに手を触れながら、ユキは僅かに微笑んだ。

 

「私を……()()()()()()皆の為、私を()()()()()()()()()神様の為……この次元を全て……」

 

 花びらを撒き散らしながら消えていく桜。

 桜が舞い散り消えていくいく中で、ユキは静かに佇み……。

 

キヒッ

 

 その頬が歪につり上がった。

 

全て! 私の糧にしてやる!

クフフフフフフ……キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!

ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうすればきっと、私の故郷を滅ぼした()()()()()を、滅ぼす事が出来る。そうだよね、リウムハート。そうだよね、神様。それまで私は、止まれない、止まらない。例え、何を犠牲にしても」




今回の脱獄カード

いたずら好きな双子悪魔
強欲な壺

単純に条件なく雑に1:2交換するカード達。
1枚が5枚になる現代遊戯王なら許して良いんじゃないという考えもあるものの、逆に1枚が10枚に、10枚を見込めるカードが1枚で潰されるという事でもあるので、やはりダメ。
一生禁止であろうカード達。

ファイバー・ポッド

勘違いされがちな事。
リバースした時の戦闘で破壊されると、こいつだけは墓地に残る。
効果はデュエルのLPと除外ゾーン、表側のエクストラ以外のアドバンテージのリセット。
サイバーポッドも戻ってきたし、もしかしてこいつもいつか戻ってくるのだろうか……?

レベル・スティーラー

シンクロ素材の水増しや、高レベルチューナーとのシンクロ、帝や冥界の宝札デッキでのリリース要員等、柔軟な活躍を見せたてんとう虫ですが、ターン1がない事とリンク素材縛りがない事で大暴れし、ぶちこまれた1枚。
リンクが存在する限り、許される事はないだろう。

『今回のアニメオリジナルカード』

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン

同名のシンクロモンスターではなく、ダークシンクロモンスター。
墓地の闇属性モンスターの効果を得る上に、破壊されたら万能サーチという、ぶっ壊れぶっ飛び効果。
その効果に加えてレベルマイナス8という、裁定が悉く面倒そうなカード。
初代満足龍。
今回も、本来はもっと色々出来た。

地縛神 Ccapac Apu

フィールド魔法が無くなると即自爆ではなく、効果を失いターンエンド時に破壊や、自分の場のモンスターが地縛神だけだとダイレクトアタックを食らう等、細部が違うが、最も違うのは魔法・罠への耐性がある事。
現代遊戯王なら対処出来そうではあるものの、流石に化け物ではある。
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