作中小ネタ。
マスタードは本名不明のため作者に雄英高校入学を見送られた。
トガちゃんは清麿の血をチウチウした時に魔神に変身できなくて首を傾げた。
トウヤ君の最近の趣味は変装用のマスク集め。
エリちゃんはトウヤ君を幼児化しようと目論んでいる。
いよいよ準決勝。
兄さんにより目を覚ました轟君だけど、胸の内にまだ燻ぶるモノがあるように見えた。
ならばそれはトウヤさんが言ったように全力をださせることで発散できるかもしれない。
兄さんとの戦い。
あの熱波も凄まじいものがあったけど、アレはまだただ使っただけ。
轟焦凍の全力ではない。
締めていた蛇口を緩めてみて、予想外に水が勢いよくでたような感じだろう。
だからこそ俺は、彼が意識的に引きずりだす全力を正面から打ち倒さないといけないのだ。
格上ばかりのあの戦いを必死についていった自分が、まさかこんなに早く受け止める側になるなんて思いもしなかった。
「うむ、こちらだったか」
そう気合を入れて通路を進んでいると、曲がり角からエンデヴァーが現れた。
ここって関係者以外は立入禁止なのではないだろうか?いや卒業生でトップヒーローだから関係者か。
「どうもエンデヴァーさん。息子さんは反対の通路だと思いますが?」
激励やアドバイスするならば実子である轟君にのはず、なんでこちらに来たのだろうか?
「それはさっきやった。
君には別件で用事があってな?」
別件?
「雄英高校はこの行事の後に職場体験があるのは知っているか?」
「はい、担任のブラドキング先生から。だから体育祭での活躍は重要だと言われました」
「ならば話は早い。
その職場体験はヒーロー事務所からの生徒の指名をするのだが、我がエンデヴァー事務所は後継者である焦凍とは別に君を指名する気でいる」
職場体験での指名。
まだ体育祭が終わってすらいないのにずいぶんと性急だな。
「君の個性は素晴らしい。
火力、操作、応用性、どれをとっても第一線で活躍できるポテンシャルがある」
それは自分でも理解している。
反動というか欠点の火傷も対策ができないわけではない。
「だが君もわかっているだろう?
その個性は、他の炎系個性との連携があればより活きるのだと」
それもまた実感している。
如何に肺活量を鍛えようが自分で吹く炎の火力と量は知れている。
だからこそあの戦いでは、パートナーのエンマの呪文で発生した炎を造形して戦っていたんだ。
「そして、我がエンデヴァー事務所ほど炎系個性の集まったヒーロー事務所は他にはない。さらにサイドキックには炎系ではなく炎をサポートする個性持ちも多数存在する」
エンデヴァー自身が最強の炎使いなのは間違いない。そして自身をサポートさせる為に集めた者達もまた炎使いの最高峰。
「職場体験、さらにヒーローインターン、是非とも我が事務所の指名を受け給え。
そしていずれはサイドキックとして我が息子焦凍を支えるのだ」
うん。
結局そこに至るのねこの人。
あまりにも早いスカウト。
それは俺の個性が自分の事務所向きで、息子のサポートにうってつけだから。
この実力を見定める目と、躊躇わず動く決断力は、なるほどヒーローとしても、実業家として1代で成功するわけだ。
家庭人としては落第の極みだけど。
しかしこの提案、存外に悪くはない。
サイドキックは置いとくとして、職場体験とヒーローインターンは確かに最善ではあるな。
正直、俺はヒーローとしてはオールマイトよりエンデヴァーが好ましいと感じているからな。ベストジーニストには劣るけど。
「わかりました、その話をお受けいたします」
「ほう。迷わずにそう決断するか」
「いずれ、ナンバー1になろうとする身としては、貴方の元で学ぶのは最適ですからね」
ビシリと空気がヒビ割れたように激情が走る。それを発したのは果たしてどちらなのか。
「ナンバー1になるのは俺の息子だ」
「その器があるのは否定しません。
ですが、大器とは納める中身によって価値は決まるものですよ」
復讐心が取っ払われ、空になった器。
そこに何を入れるのかは轟君次第なのだから。
「存外、口の減らないようだ。でなくばヒーローなどなろうとはせんか」
「それはどうも」
その言葉を最後に俺はエンデヴァーの横を通り過ぎた。
思うところのある人物。
だが実績と実力では敬意を払うべき存在なのは間違いないのだ。
「あ、そうそう」
だが俺はそこで気になっていたことを尋ねることにした。
「なんだ?」
「お身体の具合は大丈夫でしょうか?その、超重力で全身を粉々に砕かれた感覚とか、海に沈んだ後遺症などはありませんか?」
「なんだそれは? 俺は至って健康だが」
「良かった、本当に」
どうやら『本』はきちんと無かったことにしてくれたようだ。
ファウードの時にブラゴのディオガ・グラビドンをくらい海の藻屑になりかけたヒーロー達。
報道で無事だとは知っていたが、オールマイト以外は実際に確かめたわけではなかったからな。
無かったことにされたことを尋ねられ、頭の上にいくつもの?を浮かべたエンデヴァーを確認した後に、俺はスタジアムへと進む。
あとでファウードの時に一緒だったメンバーにも伝えないとな。
シェリーさん以外はリオウとゼオン側についたパートナー達もかなり気にしていたから。
『準決勝、サクサクいくぜ。
轟焦凍 対 緑谷成二!!
スタート!!』
開始の合図と同時に両足を踏み込み前方に氷柱攻撃を放つ轟君。
それに対して氷結による氷柱群攻撃がある轟君にカンフーでの受けは望ましくない。
吹いた炎で溶かせるとはいえ、足場の凍結も考えると攻めるべきか。
「火炎造形、ソルド・フレイガ」
氷結攻撃にはこれが最適。
剣状の炎は冷気を払い、氷柱群を容易く斬り裂く。
「くっ!?」
接近すればあとは殴り合い。
鍛えてはいるが、A組の砂藤君や障子君ほどのフィジカルはなく、体術技量は尾白君やB組の庄田君と拳藤さんには劣る。
それを轟君も理解しているのか氷壁を何層も作り出し距離をとろうとする。
さっきより密度の高い氷壁ならばソルド・フレイガは防げるだろう。
ならばこれはどうだ。
「火炎造形 ラギアント・ジ・ゼモルク」
『なんだ~!?緑谷成二の腕に杭打ち機のような籠手が装着された〜!?』
「マキシマム」
その言葉と共に打ち出される炎杭は強固な筈の氷壁を障子紙のように破る。
千年前の魔物、最強格が一体、狂戦士デモルト。誰もが思い浮かべる悪魔のような姿をした肉弾戦特化の魔物。
その巨体に合わせた武具の威力は、近代の重機すらも上回る。
装弾数は4発。
ティオのマ・セシルドとて時間稼ぎにすらならない呪文を再現したコレの威力はかなりのものだ。
「っ!!」
氷壁をすべて粉砕。
その衝撃で轟君は場外まで吹き飛びかけるが、なんとか氷壁を生み出すことで逃れる。
しかし、
「・・・・・・こんなものか?」
彼の動きが良くないな。
俺の言葉に轟君はハッと顔を上げるが、すぐさま俯きだす。
兄さんによって復讐心から解き放たれて、ヒーローへの道を見つけ直した筈。
ならばもっと良い動きになると思っていたのだが。
熱を使わないのは理解できる。
生み出される炎は俺に武器を提供するだけだからだ。案外兄さんが入れ知恵したのかもしれない。
でも、それを差し引いても。
「迷ってるのか?」
「!?」
迷いながら戦っているならば動きが鈍くて当たり前。だが今更彼が何を悩む。
俺に炎を向けずとも、熱を併用して身体への負担を打ち消した冷気ならばまだ威力は高まるし、できる事も増える。
それを彼がしないのはなぜなのか。
「火炎造形 ギガノ・フレイガ」
火炎系中級呪文の再現、思い切り吹いた火の息を球形に造形した大炎球。
それを轟君は氷柱をいくつも生やしてなんとか防ぐ。しかしこの程度は、瀬呂君との戦いにも劣っているな。動きの悪さ、いったい何が原因なのか。
お互いに距離をとり、大炎球と氷柱群のぶつかり合いとなる。
そのド派手な戦いぶりに観客席は大いに盛り上がる。
会場がそうなるにはわけがある。ヒーローによるヴィラン退治劇をいつでも見れるこの個性社会。しかし都市部での戦闘であるがゆえに高威力の大技を見る機会はそうはない。
雄英体育祭が大人気な理由はこれにもある。学生レベルとはいえ、万全の防護対策された上で個性による戦闘が見れるイベントなどこれぐらいなのだから。
しかし、熱狂の坩堝と化すスタジアムとは裏腹に対峙する俺達の熱は徐々に冷めていっている。
轟君の冷気によるものではない。
お互いの空気、熱意がだ。
(参ったな)
これじゃあトウヤさんの頼みが果たせそうにない。どうして轟君はここまで調子を崩しているのか。
「悪い、お前の兄貴と戦ってから、自分がどうするべきか、自分が正しいのかどうか」
わかんなくなっちまってんだ。
炎と冷気のぶつかり合い、蒸発し合う中で、不思議とその呟きは聞こえてきた。
(なるほどね)
迷いはわかる。
今までやらかした自分がここにいていいのかと後悔しているのも察することができる。
あるいは脳裏に母の顔がよぎっているのかもしれない。
だが、
それらを含めても、全力をだすことに躊躇う理由にはならない。
「怖いのか、君」
対峙する俺がじゃない。
「なに?」
「自分が最強かもしれない。
その可能性を確かめることが怖いんだろ?」
「!?!?」
轟君が考えもしなかった発想だったんだろう。彼は目を見開いて驚いていた。
彼はおそらく全力を出したことがない。
父にして師であるエンデヴァーに反発して熱を封印していた。
そして推薦入試でイナサに負けた事実はあるが、それでも敗北したと実感はしていない、どうでも良い事柄だったから。
でも先ほどの試合で、兄さんとの戦いでその全力の片鱗が漏れ出てしまった。
自身の全力と、エンデヴァーの創り上げた成果と初めて向かいあった。
だからこそ彼は恐れた。
この力が最強であることに。
もしもこれが最強だったら、この体育祭で苦も無く勝ってしまったら。
「エンデヴァーが正しいと、証明してしまうことになるからな」
「・・・・・・かもしんねえな」
エンデヴァーの所業。
それは倫理的に最低、外道の行いだ。
配偶者を選び、優れた素質の子を選びぬき、幼少期から訓練を課す。
強い個体を創り上げる手法としては歴史上いくらでも繰り返されてきたことだ(古代スパルタなんかもっと凄い)。
それを否定したい、それを間違っていると叫びたい轟君は、熱を使って全力を出して勝ってしまうことが怖いわけだ。
なるほどね。
「舐められたもんだな」
少しばかり怒気が溢れる。
全力だしたら勝ってしまうかもしれない。
彼がそう考えるのは当然だ。
何せ、彼が知る最強はオールマイトで、
彼が実感している上位者はエンデヴァーなのだから。そんなエンデヴァーの欠点が無くなった存在が自分だと理解すれば、負けるわけなんてないと思うだろう。
けどそれは、世界を知らないからに過ぎない。
トップヒーロー達は強い。
魔物に比べても強い。
でも彼らが全員集結して挑もうと、伝説の朱色の鱗持つ竜族の神童・アシュロンには傷一つ負わせられないと断言できる。
「全力を出せ、轟焦凍。
俺はお前なんかに負けはしない。
安心して、全力だしてだしきって俺にぶつけてこい」
「いいのか?」
それはあるいは轟焦凍という少年がいつだかぶりに見せた甘えなのかもしれない。
誰かに頼る、期待する行動なのかもしれない。
自分の目を覚ましてくれた緑谷出久の弟ならば、A組最強の夜嵐イナサが自分より強いと断言した存在ならば、この体育祭で結果を出してきた俺ならば、と思ったのかもしれない。
「来い」
ソルド・フレイガを構え、何かから開放されつつある少年は冷気と熱気を極限まで高めだす。
その気温の変化はスタジアムに全体に影響を齎す。
空気が変わった。
それを理解しだした観客達が押し黙る。
俯く轟君は今や雪崩が起こる寸前の雪山のように静かだ。
限界まで体内で熱を高め、極限の冷気を放つ。
「ーーーーー!!」
名すらまだ無き、極点冷気。
突き出された右手から巻き起こる冷気は一瞬遅れて極北の峰のような氷柱群を生み出す。
「凄いな」
下手なディオガ級以上の技。
迫りくる白い絶望の波。
轟焦凍の全力にして、エンデヴァーが全てを賭けて創り上げた最強の力。
それでもなお、真の絶望を知る身は怯まない。
フー。
火力全開。
デュフォーさんの訓練メニューにより得た鯨に匹敵する肺活量、そこから吐き出される火力は膨大。
吹き出した火炎はスタジアムの高さを超える炎柱となる。けれどそれはまだ準備にすぎない。
吹き出した火炎を焼ける右手で握り締め、その造形を創り上げる。
「我が封神の型をとりて、
一心に彼奴の術を打ち破らん!!」
魔界の法律を守る一族。
魔物の力を吸う魔剣ヴァルセーレの担い手アースの奥義たる三手が一つ。
まだ未完成ながらも三度のザグルゼムで強化されたバオウ・ザケルガに匹敵する呪文。
「火炎造形 バルバロス・ソルドン!!」
火炎は巨大な刺突剣と振るう両手となって、轟焦凍の全力を迎え撃つ。
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
氷山の大津波と紅蓮の巨大剣の激突。
スタジアムを越え雄英高校全体を震わせた衝撃が発生する。
セメントスのみならず、イナサやその場のヒーロー達が急遽張った防壁により被害はでなかったが、それでも多くの観客が目を回す事体となった。
粉塵が晴れた後、舞台に立っていたのは俺。
轟君は意識こそあれ、壁に激突ししたたか背を打ち付けていた。
「どう気分は?」
「そうだな。なんかこう、
スッキリした」
トウヤさんの言っていた通りか。
全力を出し切れば見えてくるものがある。
「そうか、これが敗北か。
悪くねえ気分だけど、なんか悔しいな」
眠るように瞼を閉じて意識を失う。
その顔は年相応の穏やかなものだった。
「勝ったか」
正直ギリギリだったけど。
ナンバー2ヒーローに到った男の最高傑作。一年と少し激闘を繰り広げただけの一般人には荷が重すぎる。
けれどまあ、頼まれ事は達成だ。
『轟、行動不能!緑谷成二、決勝進出だ!』
決勝か。
イナサか勝己さん。
相手はどっちになるのかな。
補足・説明。
エンデヴァーのスカウトからの轟戦。
準決勝もまとめるつもりでしたが、無理でした。
イナサ対かっちゃんで一話、大変かも?
ヒーロー、実業家としては優秀で成功者なエンデヴァー。ぶっちゃけ拗れる前の家庭も含めたらオールマイトより成功者では?あの人書類苦手で独身なんだけど。
なので有望な人材のスカウトは欠かさない。
息子のサイドキックとして確保する気満々です。
轟、成二戦。
原作での轟君の迷いはこれも一因かなと。
半燃半冷が最強だったらエンデヴァーが正しかったことになると思ってしまいました。原作だと母との対話で乗り越えたのかなと。
それを打ち破るバルバロス・ソルドン。これが本当に書きたかった。
次の話は準決勝2戦目。
イナサのパートナーと考えに触れつつ書けたと思います。