短いです。
俺と夜嵐イナサの付き合いは長い。
彼らとは魔界の王を決める戦いで清麿達より先に遭遇した。
その戦いは俺にとって印象深いものだった。
まだ序盤も序盤だったその時期は、魔物の呪文主体の戦いばかりだった。
それは凡百の個性よりも魔物の呪文の方が攻撃性が高く、個性を使うよりも強力だからだ。
ギガノ級ですら免許持つプロヒーローにも有効打になりうる。
なので下手に個性を使うより呪文を唱える方が効率的なのは当然だ。
だが、そんな連中の相手ばかりしていた時に俺達はイナサとそのパートナー・サラマと出会った。
大柄の坊主頭の中学生と小柄な翼を生やした少年。そのイカツイ外見から最初はイナサの方を魔物と思ったくらいだ(サラマの外見が個性の範疇に収まっていた為)。
実は二人の関係としてはサラマの方が兄貴分であり、その外見について触れると「そんなに威厳がないんか、自分」と凹んだりもしていた。
そんな凸凹コンビとの戦いは熾烈を極めた。
魔物とパートナーの両方が高速機動しながら攻撃してくる戦法。
パートナーが魔物同士の戦いの最中に本を燃やそうとするのはよくあることだが、パートナーと魔物が連携して襲いかかってくるのはその時が初めてだった。
激戦の末、最大呪文のぶつけ合いで山一つ消し飛ばしたところで俺とエンマは勝利した。
戦いの最中に本を燃やした勝利ではない。
本こそ無事だが、イナサとサラマの両者が力尽きて倒れ伏す形の勝利だ。
敗北したがどこか満足した様子の二人。
だが俺のパートナーであるエンマはその本を燃やすことはなかった。
『魔界の王』になりたくないエンマは、『飢えのない魔界』を作りたいから王を目指すサラマをリタイアさせることを望まなかった。
それがファウードの事件まで共闘する、友誼を結んだペアとの最初の出会いだった。
そしてこの戦いがきっかけで俺もイナサ同様に自分自身も強くなろうと努力するようになったのだ。え?熊や猪を猟れる俺は元から強い?いやいや、お祖父ちゃんから仕込まれれば誰だってこれくらいはできるよ。私有地の山だから個性も使えるしさ。
そんな感じに親しくなった俺とイナサは言わばライバルのような関係。
個性の相性の良さもあって共闘することも度々あった。
ゆえにイナサの強さをよく知っていて、この結果には正直驚いた。
『準決勝第二試合。爆豪勝己の勝利!!』
それは激しい戦いだった。
風を全身から放出し高速空中機動するイナサと、両掌の汗腺から分泌する爆破液を爆ぜさせ爆速で空を駆ける勝己さん。
両者共に空中でぶつかっては拳を叩きつけあう。風と爆破、加速した拳の威力は弾丸にも劣らない。
地に足を付けずに空中で軌跡を描きながら戦う二人の姿はまさに圧巻。
俺と轟君の個性のぶつけ合いではなく、個性を使ったステゴロバトル。
それはイナサ好みの熱い戦いであり、観客達が見たいと望む戦いだった。
本来は勝己さんの戦いで打撃頼りになることは先ずない。
爆破による熱と衝撃は気絶させるには充分な威力があるからだ。
つまり勝己さんと真正面から戦うには、それこそ切島君のようにこの爆破に耐えれることが必須になる。
それをイナサは風を全身に纏うことで可能にした。これならば熱と衝撃で倒れることはない。
だから必殺の攻撃手段を防がれた勝己さんは爆破で加速した拳を直に叩きこむことにしたのだ。
如何に風を纏い熱と衝撃は散らせても、その拳を防ぎきることはできなかった。
風の吹き荒れる音、爆破液の爆ぜる音、拳のぶつけ合い音。
凄まじく暴力的で荒々しく物騒な合奏。
魔界の王を決める戦いでの経験があるイナサに、当初は劣っていたがすぐさま追いついた勝己さんの才能。
決め手となったのは試合中に生み出した勝己さんの新技だった。
勝己さんはなんとこの戦闘中に、分泌した爆破液を球形のまま操作できるようになったのだ。
あくまで多少任意で爆破出来る程度。
だが、爆破加速拳打で突き破ったイナサの風の鎧の内部の雄英高校指定ジャージにその球形爆破液を仕込み、拳打に合わせて内と外から同時に爆破したのだ。
流石のイナサもこれには耐えきれずに膝をついた。もとより飛行、加速、攻撃、防御、それらを同時に風を生み出してから実行していた。
一つが崩れれば維持は困難だったのだ。
「強いっスね勝己さん」
「ようやくぶっ倒せたぜ、クソ坊主!!」
熱い戦いができて満足なスポーツマンのように笑うイナサとは対象的に、飢えを満たせた肉食獣のような獰猛な表情で勝己さんは嗤っていた。
なおモニターでドアップで映されたその表情に、見慣れてるA組クラスメイトと幼馴染である俺以外は全員ドン引きしてしまったそうな。
イナサの敗北。
その要因はやはり勝己さんの個性『爆破』の攻撃性の高さだろう。
防御し続けなければ接近戦ができない、それは余りにも厄介すぎる。
俺ならば爆破の基点である両掌を払い続けることでなんとか出来るかもしれない。
だが、あの新技で爆破する箇所を選ばなくなるのならその対処法は使えない。
ならばコスチュームやサポートアイテムに防御性を持たせるべきか。
この対策は体育祭では使用できないが。
「やっぱり強いな勝己さん」
才能があることは知っていた。
劣等感で潰れてしまうくらい知っていた。
けれど、その才能は個性を誰よりも上手く使う才能だけではなく、戦いでの成長性も含んでいた。
実力差がある相手との戦闘で強くなり、戦闘中に超えてしまう理不尽。
初見で一撃で倒す以外に撃退法が無さそうな存在だ。
いよいよ次が最終決戦。
緊張するがそれでもワクワクもまたしていた。
憧れた舞台で、勝てないと逃げた相手と戦う。
なんとも胸が踊るというものだ。
補足・説明。
成二とイナサの関係と、イナサと爆豪君による準決勝です。
成二の実力からしたら同格であるイナサは爆豪君に負ける筈はないとも思いましたが、今回は爆豪君の勝利です。
この結果は熱い戦いをしたいというどちらかといえばエンジョイ勢なイナサと、負けたら後がないと焦燥感と勝利への激しい渇望のある爆豪君の精神面での差もあります。
個性にしても消耗するだけのイナサより、爆破液が増す爆豪君の方が長期戦では有利でした。
正直飛ばそうか悩んだ話ですが、繋ぎ回という感じでお願いします。