長かった最終種目もついに決着です。
幼少期の頃、ボクはいつもあの二人の背中を追いかけていた。
誰よりも才能あって先頭を征く幼馴染と、
無個性でも誰かの危機に一番に飛び込む兄。
そんな二人の後ろで、その活躍を見るのが嬉しくて、身内として誇らしかった。
それが劣等感に変わったのはいつだったろう。
そんな二人を直視するのが、後ろを歩くのが辛くなったのはいつからだったろう。
歳を重ねるごとに幼馴染との才能の差を思い知らされて、知識を得るごとに兄の異常性を理解してしまった。
離れなきゃ壊れてしまう。
ボクはそう直感的に判断して、二人から逃げた。もう後ろを追わなくて、直視しなくて済むように、逃げて逃げて逃げたんだ。
そしてその決断から月日は流れ、
予想もしない出会いと命がけの戦い。
涙流さぬ時のない別れを幾度も繰り返し、何物にも替えられない絆を得て、今俺は此処にいる。
『さァいよいよラスト!!
雄英1年の頂点がここで決まる!!
決勝戦 緑谷成二 対 爆豪勝己!!
今!!スタート!!』
追いかけることから、直視することから逃げた存在と真正面に相対している。
「火炎造形 ソルド・フレイガ」
吹いた炎を剣とする。
勝己さんの爆破液が勝己さんの意思で爆ぜることはわかっている。
それが衝撃か温度などの外部要因で誘爆するかは定かではないが、炎を近づけて誘爆するなら動きを阻害することができる。
カンフーによる殴り合いはイナサの敗北から爆破の衝撃を考えると不利だからだ。
「チィ!?」
両掌めがけて振られる炎剣を躱す勝己さん。
汗腺から爆破液を分泌するならば、下手したら炎による誘爆で全身爆破が起こってしまうのかもしれない。
検証するか。
「火炎造形 ガンズ・フレイガ」
小型炎球を連続で吹き続け勝己を狙う。
「クッソガアアア!!」
それを両掌の爆破による機動で全て回避し続ける勝己さん。
爆破液を勝己さんの意思以外の要因で爆ぜさせる。それが彼の攻略法なのかもしれない。
そもそも両掌の爆破で高速機動及び空中飛行すること自体が神業なのだ。
その個性使用法は見ている以上に繊細に成り立っていて、だからこそ僅かな外部要因でくずれてしまう。
意外と勝己さんの天敵はA組の上鳴電気君なのかもしれない。
彼の電気ならば、勝己さんの爆破液を誤発動させられる可能性が高い。
炎球を放ちながら分析と検証を行う。
魔物との戦いは初見だらけ、威力と規模を表すディオガやギガノ、形状を示すガンズやガルなどの法則性はあるが、基本的にどんな呪文かはわからない。
そんな戦いであるがゆえに戦いの中でどれだけ正確に分析できるかが勝負をわけた(そして一瞬で正答をだすアンサートーカーがどれだけ無法かお察し)。
熱い炎を吹き、形状を変えて放ち、それでも心は水面一つ静かにし、頭は全開で回らせる。
それが俺の戦い方。
こうやって魔界の王を決める戦いで、最後の最後の一歩手前まで戦い抜いたのだ。
「気に入らねえなあ」
?
「気に入らねえよ、ネクラ野郎!!」
勝己さんが吠える。
叫びの声を上げていた。
「テメェはネクラでオドオドして自分からは動けねえし個性の発動すらビビる臆病者だった。
それが今じゃ、常に俺の上に居座り続けやがる」
それは今まで見たことのない勝己さん。
俺の知らない爆豪勝己の姿だった。
「その目だ。
あのビビって妬んで逃げたテメェが、今じゃ俺に勝てることを疑いもしねえ」
てっきり忘れられてると思っていた、ボクのことなんて眼中にないと思っていた。
「デクの野郎もあのクソナードもそうだ。
俺の後ろにいた連中が、いつの間にか追い越した気になってこっちを見下すんじゃねえ!!」
大爆破。
感情のままに巻き起こされる破壊熱波を俺は炎剣で斬り払う。
「死ねえ!!」
大爆破を目眩ましに背後に回った勝己さんの奇襲。狙いは俺の顔、口元つまり喉を潰せば炎を出せないと推測しての容赦なき一撃。
しかし、俺は、ボクはもう勝己さんから目をそらしたりはしない。
「『白王・虎爪』、二度目だよ勝己さん」
「!?」
奇襲を受け止め、即座に反撃。
「ゴウ・バウレン!!」
別に呪文を唱えたわけでも再現したわけでもない。そう叫んだだけのただの拳打。
でも不思議と威力は乗る気がするんだ。
あのカッコいい漢のように。
「かはっ。
けんな、ふざけんな!!
俺が取んのは完膚なきまでの1位だ!!
ようやくあの坊主野郎に勝てたんだ!!
ようやく雄英のてっぺんが見えたんだ!!」
転がった勝己さんは腹部を押さえながらもそう叫び立ち上がる。
「俺は負けねえ、
勝って最強になるんだよ!!」
「嬉しいな」
かつて後ろをついてまわり、劣等感から逃げた存在が、今では俺を追い越そう(むしろ粉砕?)と向かってくる。
その事実が嬉しくてしかたない。
そしてそれ以上に、ここまで自分を成長させてくれたあの出会いへの感謝が溢れてくる。
「でもさ、勝己さん
勝つのは俺だ」
勝己さんの叫びを受け止めた俺は、そう返しながら笑う。
「ハッ、ガキの頃からそうしてろクソが」
一瞬呆気に取られた勝己さんも、大きくニヤリと笑いながらそう呟いた。
きっと今の俺の姿は、爆豪勝己が知らない俺だったのだろう。
「全力でヤってやるよ、ネクラ野郎!!」
両掌を爆ぜさせた勝己さんは空中で回転。
その規模は最終種目初戦で、麗日お茶子さんの瓦礫流星群を消し飛ばした大火力。
そこに勢いと回転を加えてさらに威力を高める気か。
「大技対決か、いいねえ」
あの戦いでも、ディオガ級のぶつかり合いはしょっちゅうあった。
ヒーローの戦いでは中々見れないけど(大規模放出技を持つヒーローとヴィランは少ない)、その最大火力対決は胸が踊る。
ならばこちらも応じるまで、まあ勝利の為に保険は用意するけど。
大きく息を吸い込む。
轟君の時のように吹いた炎の形を変えるのではなく、吹いた勢いのまま打ち出す為に、
「「いくぜ(よ)!!」」
お互いに準備は終わり、掛け声と共に放ち合う。
「ハウザー・インパクト!!」
極大爆撃、人間榴弾の一撃。
「エンオウ・フレイガ!!」
最強種である竜族を模した極大火炎。
『エンオオオオオオオ!!』
(やっぱり叫んでるなあ)
ラオウ・ディバウレンはこうならないのにどうしてだろ?
噛み砕かんと大顎を開くエンオウ。食われてなるかテメェが死ねとより回転を増す人間榴弾。
そのせめぎあいは永遠だったのか一瞬だったのか。
激しい攻防はエンオウが内部から突き破られることで決着した。
「俺の勝ちだあああ!!」
エンオウを突き抜け減衰した威力の人間榴弾。だが人一人場外まで吹き飛ばすには充分。
「いいや、勝つのは俺だ」
しかし爆豪勝己が制したのはエンオウとの攻防まで、俺との戦いを制したわけではない。
「助言するよ勝己さん。
俺との戦いでは放たれた炎は崩すのではなく、跡形もなく吹き飛ばさないといけないとね」
既に次の呪文の準備を俺は終えていた。
「火炎造形・リテイク
エンオウ・クロウ・ディスグルグ!!」
崩れた炎が右手に集まり新たな造形と化す。
それは巨大な竜の腕。
「チックショオオオ!!」
迫りくる人間榴弾を炎の竜の掌は受け止め、コンクリート製の舞台へと叩きつけた。
叩きつけられたダメージで意識を失う最後の瞬間まで抗おうとするその気質は称賛に値する。
けど、この勝負。
――ドッパァァァンッ!!
俺の勝ちだ。
勝己さんの挟まったエンオウの腕と舞台が、ぶつかった衝撃で大爆発。
それはこの試合の決着の号砲。
「爆豪君の行動不能!!
よってーー、緑谷成二君の勝利!!」
大きなクレーターの中心で意識を失っている勝己さんを確認して主審であるミッドナイトがそう判定。
『以上で全ての競技が終了!!
今年度雄英高校体育祭1年優勝は、
B組 緑谷成二!!』
優勝と過去を乗り越えた達成感に俺は満たされたような感覚に包まれたのであった。
「見てるか相棒」
お前がヒーローと呼んでくれた俺はまた一歩進むことができた。
あの日見せてくれた導きの炎へと。
補足・説明。
体育祭最終種目決勝戦です。
爆豪勝己君の爆破液の爆破条件は不明ですが、手榴弾にもできるので振動やら熱やらで爆破できると想定します。
流石にガソリンスタンドで対策されてる静電気で爆破はないと思いますが(日常生活不可能だし)、個性レベルの炎と電気ならば誘爆するかなと。
爆豪勝己にとって緑谷成二は中々難しい存在です。入学時点、下手したら体育祭までその存在を殆ど忘れてました。
けど幼少期は僅かにライバルになるかもと期待していた時期もあります。
その劣等感塗れの目を認識してからは見限りましたが。
そんな存在と決勝で戦うことになったから、デク君とは別の苛立ちがあったてしょう。
決着後には別の感情を抱くでしょうが。
彼が成二の成長の理由を気にするのは多分これからになります。
クロウ・ディスグルグ。
バオウの技がオリジナルですが、好きな呪文で決めることが出来て作者は満足です。
次は体育祭エピローグ。
一緒にするか悩みましたが、ネタがいくつかあるので分けて書きます。