原作に何故か古賀さんと辻田さんのチアガール絵が無かったので悲しくて書きました。古賀澪はやれるヒロインだと思っています。
『学郎、次は誠乙ちゃんだよ。ちゃんと厳正な審査を頼むね。』
「は、はい!!」
突如、第六支部にて始まった応援合戦対決。
誰が上手く応援、チアリーディング出来るのかを競う真剣勝負らしい。
審査員は支部メンバー唯一の男である俺――夜島学郎。
気づいたら、鵺さんが用意した簡易ステージ付きの部屋で、伊達メガネをかけながら机に向かって審査表を広げていた。
審査員っぽさを出すためだけの小道具らしいが、正直、全然しっくりきていない。
既に数人の審査が終わり、現在の順位はこう。
1位――藤乃代葉
2位――留袖四衲
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選考外――新峰維朱
藤乃さんは何処からか調達した学ランに身を包み、体育祭のダンスに加えて、応援旗を用いたアレンジを見せて一位へと躍り出た。
二位以降には体育祭にて応援合戦をしていた面々が並んでいる。
一方で、新峰さんは応援そっちのけで俺にチア衣装を見せびらかし、挙句の果てに抱きつこうとして失格。
鵺さん曰く、『色仕掛けをOKにしたら、審査員の学郎は耐えられないだろう?』とのことらしい。
鵺さん、本当にありがとうございます!!
(というか、藤乃さん……あんなに完璧に踊れるなら一緒に出てくれても良かったんじゃないか……?)
そんなことを考えていた時だった。
ガチャリ、と扉が開く。
現れたのはチア衣装に身を包んだ辻田さん。
扉を勢いよく開けたせいで、頭に巻いた赤色のハチマキのしっぽが大きく揺れて、その気合いの入りようが一目で伝わってくる。
途端、部屋の隅のスピーカーからBGMが流れ始めた。
「ゴーファイウィーン!! ガク君は、うちだけを見てろ~~~!!!」
大声と同時に、満面の笑みでこちらに体ごと向けてきて、カシャカシャとボンボンを鳴らす。
キラッと光った視線がまっすぐ刺さってきて、反射的に背筋が伸びた。
その表情に、一瞬見惚れてしまったが、慌てて頭を振る。
(審査中、審査中!!)
ダンス自体は文句の付けようがない。
体育祭を見ただけとは思えないほど、手足の振りもリズムもきちんと揃っている。
そのせいか――さっきからどうも気になる。
(動きが……なんかやたら大きくないか?)
まるで何かを強調しようとしてるかのようだ。
直視しないようにしているが、視界の端では妙に揺れるものがある。
胸とか、スカートとか……。
揺れて、跳ねるたびに、その存在にどうしようもなく意識を奪われてしまう。
……ん?
(今の、見間違いか?)
いや、きっと見間違いだろう。
うん、そうに決まってる。
そう思っていた矢先、辻田さんが大きくジャンプした。
スカートが軽く舞い上がって、隠れていた布地が薄い光を受けて静かにきらめく。
その一瞬だけ、時間が止まったみたいだった。
(やっぱり、見間違いじゃなかった……!!)
「つ、辻田さん、し、下!!!」
「へ?」
「み、見えてる!!」
「あ、やっと気づいた。見んのがガク君だけやったら、アンダースコート?いうやつは無くてもええかなーって。」
そんな訳がないだろ!!!
「必要だって!!」
「ガク君になら見せてもええですよ? ほ、ほら。」
辻田さんは顔を真っ赤にしたまま、スカートの裾をつまんで、ひらひらと上に持ち上げていく。
健康的な太ももが露わになり、先ほどから見えていたライム色の布地の端が、はっきりと視界に入った。
「あ、あっ……。」
ビーーーッ!!!
隅のスピーカーから警告音が爆音で鳴り響き、赤いランプがチカチカ点滅した。
『はい、誠乙ちゃん、そこでストーップ。』
「ちょ、鵺さん!! 今、いいとこやったんですから邪魔せんといてくださいよ!!」
『審査員への色仕掛けは禁止だって言っただろう? これ以上やると、ジャンプSQへ移籍しないといけなくなっちゃうからね。』
「??? なんなんそれ。……はぁ、もうええですよ……。」
観念したようにスカートをおろす辻田さん。
だがすぐに、数歩近づいてきて、俺の椅子の横に立つ。
そして――耳元へ、そっと顔を寄せてきた。
「ガク君がどうしても見たい言うなら、見せたげますから。いつでも言うてくださいね?」
「っっっ!?」
一気に熱がのぼってくる。
囁くような声で、とんでもない事を言われて、思わず身体がガチガチに硬直してしまった。
「ぷっ、ガク君のそういう可愛らしいとこも大好きですよ?」
完全に遊ばれている。
今はとてもじゃないが、彼女の顔なんて見れない。
「あ、そうそう。次、澪姉さんなんでちゃんと褒めたってくださいよ?」
「う、うん!!」
「適当な事言って姉さんの事を悲しませたら、皆でお説教ですからね!!」
「ま、任せて!!」
『誠乙ちゃんの言ったとおり、次は古賀ちゃんだよ。頑張ってね、学郎。』
「はい!!」
……しかし、いくら待っても扉は開かない。
(遅くないか……? 何かあったんだろうか。)
待っているあいだにBGMも止まり、部屋の静けさだけが耳に刺さる。
辻田さんに振り回されていたせいで高鳴っていた心臓も、ようやく落ち着きかけていた。
気づけば十数分。扉はうんともすんとも言わない。
『うーん、これはどうしようか……。そうだ!! ねぇ、学郎?』
「な、なんですか?」
その鵺さんの楽しげな声に今までの数々の無茶振りを思い出し、脳内に警鐘が鳴り響く。
『古賀ちゃんが少し困ったことになってるみたいでね。助けてあげて欲しい。』
「助けてって、え?」
ちらりと扉へと視線を向ける。
皆が出入りしている扉。その向こうには、鵺さんがこの応援合戦のために用意した更衣室がある。
『そこには今は古賀ちゃんしかいないから大丈夫だよ。』
「どこも大丈夫じゃないんですが!!」
『いいから、いいから。そうだ、そこのクリップを持っていくといい。きっと君の役に立つ。』
鵺さんは退く気がないみたいだ。
手をひらひらさせて「行け行け」とこちらを急かす姿がありありと想像できてしまう。
これは……もう行くしかないらしい。
審査表を留めていたクリップを手にし、ひとつ深呼吸してから、扉へと近づく。
コン、コン、と軽くノックする。
「古賀さん、大丈夫ですか?」
「ひゃっ……な、なんだ。ガクちゃんか。え、えっと、大丈夫じゃないかも……。」
更衣室の扉越しの古賀さんの声は、普段より数段か細い。
不安と恥ずかしさが入り混じっている、そんな声色だ。
「なにか俺に出来る事ってありますか?」
「え、えっと……。あ、あるにはあるの……かな。でも、さすがに……それは。」
悩まし気な古賀さんの声が扉の向こうから聞こえてくる。
手元のクリップを握り直すと、金属の感触がやけに冷たく感じた。
「後ろも詰まってるし……。か、覚悟をきめろ、私。……ガクちゃん、ちょっと待ってて。」
更衣室の中で、布の擦れる音や、物を動かす音が小さく続く。
しばらくして――
「ガクちゃん、入ってきていいよ。」
「は、はい。」
「あんまし、ジロジロ見ちゃだめだからね!!」
「分かってます!!」
扉を開けて、更衣室に足を踏み入れる。
部屋内に漂っていた甘い柔軟剤の匂いがふわっと鼻をくすぐった。
なるべく周りを見ないように、視線を床に落とす。
床のタイルの目地だけを見つめておけば問題ない……はずだ。
「そのまま、真っ直ぐ進んで。」
古賀さんの声に従い、一歩、また一歩と進む。
数歩進んだところで、視界の端に柔らかそうな肌色の気配が入り込んだ。
「……っ!」
バッと勢いよく視線を外す。
今のは絶対に見てはいけないものだと、脳が勝手に判断する。
「その、ね? ほら、私って皆に比べて色々と……小さいでしょ? だ、だから、その、衣装が合わなくって。」
古賀さんはそう言いながら、腕で胸元を隠すように体を丸めていた。
背中には、余った生地がだらりと重たげに垂れている。
「皆に助けてもらおうと思ったんだけど、扉がなんでか開かなくて…。それなら、衣装に着替えずにってのも考えたんだけど、私だけってのは…。」
しどろもどろになりながらも、古賀さんはどうにか状況を説明してくれた。
「ねぇ、ガクちゃん、そっちの部屋に留めるものなかった? こっちには見当たらなくて。」
(……鵺さんがクリップ持って行けって言ったのはそういう事か。)
ようやく合点がいった。
審査表を留めていたクリップを握りしめ、喉を鳴らす。
「あ、あの……クリップでいいなら。」
「ほんと? 助かった……。ありがとね。」
ほっとしたように息をついて、
古賀さんは長い髪をふわりと肩へ流した。
そして――
背中を、俺の方へ向けてくる。
「…………え?」
一瞬、思考が追い付かない。
「お、俺がやるんですか……?」
振り返りかけた古賀さんが、小さく頷く。
顔は見えないが、耳までほんのり赤い。
「だって、その……胸のところ、合わせないと……ずれちゃうから。」
気まずい沈黙の中、俺は意を決してそっと背中側の布地へと手をかける。
その拍子に、視界の端に白地に赤の装飾が施された下着がちらりと映った。
思わず心臓が跳ねて、慌ててそこには意識を向けないようにする。
布越しなのに、古賀さんの体温が伝わってきた気がして、指先に妙な緊張が走った。
「ぎゅって……引っ張ってもらえる?」
「わ、分かりました……」
喉が渇くのを感じながら、ゆっくりと布を手前へ引く。
それに合わせて、古賀さんの身体がわずかに震えて——
「んっ……。」
と、熱のこもった息がこぼれた。
その危なっかしい声に思わず指が止まる。
背筋が凍りついたように動けなくなった。
「が、ガクちゃん、早く……」
「は、はいッ!!」
かすかに震えた声で促されて、慌てて我に返る。
心を殺して、少しずつ衣装を引っ張っていく。
だけど、そのたびに目の前から聞こえてくる、押し殺すような小さな吐息が何度も鼓膜を揺らし、思考をじんわりと痺れさせてくる。
心臓が壊れたようなリズムを刻み始めて、指先が震えた。
「そ、そこで大丈夫……。留めれそう……?」
言われた位置で軽く布を結び、その上からクリップをそっと挟んで補強する。
パチン、と軽い音がして、ようやく固定された。
その瞬間、安堵が胸に広がり、肩の力が抜ける。
「変な事させちゃってごめんね?」
古賀さんがゆっくり体を起こし、こちらに向き直る。真っ赤な顔を手でぱたぱたと仰ぎながら、申し訳なさそうに言ってきた。
「い、いえ……。俺も古賀さんにいろんな場面で助けてもらってるんで、おあいこです。」
気を紛らわすように、急いで言葉を返す。
「そ、そう?」
「はい。」
「そっか。」
古賀さんが小さく微笑み、落ち着きを取り戻したのを見て、俺はなんとか空気を戻そうと口を開いた。
「えっと……大丈夫です、安心してください。さっきのことは、全部忘れるんで!!」
そう言った瞬間、古賀さんの肩が、ぴくりと小さく跳ねた。
そして、古賀さんが、そっと俺の袖を摘まむ。。
俺の胸あたりから見上げてくる視線が、ぐい、とほんの少しだけ近づいてきて、黒目がちの瞳が、縋るようにこちらをとらえていた。
「お、覚えててもいいんだよ? その、色々見えちゃってたところとか、全部……。」
まるで、「忘れないで」と、そう懇願しているかのような甘く震えた声が、頭の中をぐらりと揺らす。
そして、全部――その言葉に、さきほどまでの光景がフラッシュバックしてしまった。
肩甲骨のすぐ下から流れる、滑らかな背中のライン。
恥ずかしさからか、ほんのりと桃色に染まった肌。
そして、彩るようにそこにあった赤い刺繍の施された白地の下着。
「……っ!」
顔に一気に熱が昇り、
誤魔化そうと手で覆おうとしたのを、すっと、その手まで古賀さんに掴まれて阻まれてしまう。
小さな指がぎゅっと包んで、逃がしてくれない。
濡れたような上目遣いの瞳が、「逃げないで」と言わんばかりにまっすぐ向けられて、心臓が跳ね上がる。
「……、こ、古賀さん……っ。」
彼女の名前を呼ぶ声が思っていたより掠れていた。
ごくり、と喉が鳴った音がやけに大きく響き――
『んん゛っ、古賀ちゃん、申し訳ないんだけど、全部こちらから見えているから、ね。』
スピーカー越しの鵺さんの声が部屋の向こうから届いてきた。
「「……へ?」」
眼前の古賀さんの表情が、羞恥と絶望を同時に叩き込まれたみたいにがらりと変わっていく。
「み、見られ……っ!? わ、わた、私、こ、これはちが……っっ!!」
真っ赤になった顔が一気に青ざめ、古賀さんは俺の袖をぱっと離す。
「~~~~~っ!!」
耐えられなくなったのか、脱兎のごとく、更衣室の反対側へ駆け出した。
呼び止める間もなく、バタンッ!!と扉が勢いよく開く。
その向こうでは、第六支部の全員が談笑していた。
「古賀!? え、どうしたの!?」
「ちょ、ちょっと、どこ行くんですか!? 姉さん、ストーーップ!!」
遠くへ消えていく古賀さんの姿を追いかけようと足を踏み出しかけた瞬間――皆の視線が一斉に刺さってきて、足がそこで固まった。
「て、おい、ガー助。どうしてお前が更衣室にいるんだー?」
「夜島君、やっぱり変態さんだったんだ……!?」
「ち、違っ……!」
俺の言い分は、誰一人、聞いてくれそうになかった。