鵺の陰陽師の妄想短編集   作:なめたけ伯爵

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中学に上がる前の妄想!!

陰陽寮の設定は作者の妄言。
優しい世界であってほしいなって。


周防七咲が市内の高校に通ってるのは、
桜楼晴日が通ってた学校だからってことにしてます。
桜楼晴日は所属してる陰陽寮に近いからって学校選びそう。
あと許嫁と離れるのもなって思ってたりしてほしい。
なんなら、桜楼晴日がオカルト部やってたり?なんて。


町田莉那(幼馴染概念) そのに

 

 

「莉菜さん、本当に良かったの?」

「なに?またその話?もー、そんな事よりさ。見て見て!!」

 

父を亡くし、唯一の家族だった妹とも離れ離れになったあの頃は、何もかもが淡く、薄く見えていた。

それでも俺は、何かを変えたくて、役に立ちたくて、張り切って人助けをしてみたり、無理に笑ってみたり、いろいろやってみた。

だけど空回りばかりで、いつしか心は擦り切れていた。

 

そんな時だった。彼女と出会ったのは。

 

明るくて、よく笑って、そこにいて、ただただ普通に一緒にいてくれた。

 

不器用な俺の言葉にも屈託なく笑ってくれて、彼女と過ごす何気ない時間が、少しずつ、ほんの少しずつ、心をあたためてくれた。

気がつけば、あのぼやけていた景色に、色が戻っていた。

 

俺は多分、彼女――莉那さんの存在に救われていたんだと思う。

 

今、その彼女は――

鏡の前で、四月から着ることになる制服をひらひらと靡かせながら、くるくるとステップを踏んでいる。

「うわー、かわいい!」なんて声を弾ませて、スカートの裾をつまんで揺らしながら、鏡の中に映る自分の姿に目を輝かせて。

まるで春そのものみたいに、制服も、彼女も、きらきらと踊っていた。

 

「だけど――」

「それ以上言うと、本当に怒るよ?」

 

そう漏らした俺に、鏡の前でくるくると回っていた彼女が動きを止める。

「いい加減にして」とでも言いたげな顔で、じとっとした視線をこちらに向けてくる。

 

……あれは、六年生の夏だった。

長期休暇中に行われる合同訓練に向かう彼女を陰陽寮まで送り届けた時のこと。

 

その時、俺がそこで知ったこと。

そして、それを俺に黙っていた彼女の優しさが、今も心の奥に影を落としている。

 

◇◇◇

 

「ありがと!土曜の夏祭り!!忘れないでね!! 約束!!!」

 

元気いっぱいにそう言い残して、莉那さんは陰陽寮に併設された宿舎へと駆けていった。

小さな背中が遠ざかっていくのを見送ったあと、俺が寮の門をくぐろうとしたそのときだった。

まるで帰る俺を待っていたかのように、玄関口に一人の男性が立っていた。

莉那さんの上司にあたる人――落ち着いた雰囲気のおじさん、よく副隊長と呼ばれている人だった。

 

「ちょっといいかな?」

 

穏やかな口調でそう声をかけられて、そのまま玄関先で短い会話が始まった。

 

「町田さん、学校ではどう? 楽しそうにしてる?」

「最近、何か悩んだ様子とかない?」

 

質問の一つひとつから、彼女のことを心から気にかけているのが伝わってきた。

親や教師とは違う、もっと近くで、もっと真剣に――そんな眼差しだった。

 

俺が答えるたび、お兄さんはほっとしたように息をついた。

 

「ありがとね。やっぱり、こういうのって友達が一番よく見てるもんだから。元気そうで、本当によかった。」

 

その表情は、まるで自分の妹でも見るような、柔らかくて真剣なものだった。

 

会話はやがて進路の話へと移る。

 

「学郎くんはさ、中学どうするの?」

 

少し迷ってから、俺は正直に答えた。

家から通える一番近い公立中学に進学する予定だと。

本当は、引き取ってくれた叔父さんと叔母さんに余計な負担をかけたくなかったから。

だけど、その理由だけは言わずに、言葉を濁した。

 

「ああ、そうなんだ。じゃあ――莉那ちゃんとは、ちょっと離れちゃうのかな。」

 

その一言に、胸の奥がどくんと跳ねた。

思わず顔を上げると、お兄さんは少しだけ申し訳なさそうな顔で、続けてくれた。

 

「うちはね、学生の陰陽師たちには、市外の学校への進学を勧めてるんだ。寮の支援で、通いやすい、環境も整えられたところにね。」

「幻妖との戦いから少しでも距離をとって、普通の学生生活を――青春を、ちゃんと味わってほしいって思ってて。」

 

親御さんも、その考えに同意することが多いらしい。

実際、ほとんどの学生陰陽師は中学、高校、果ては大学まで、県外や市外の学校へ進学していくらしい。

 

もちろん、陰陽師の活動が完全に終わるわけじゃない。

週末や放課後の一部は、またこちらに戻って訓練や任務に参加する。

けれど、それでも――日常の大半は、陰陽師としてではなく、ひとりの「子供」として過ごせるようにという配慮だった。

 

「本当はね、陰陽師の活動は成人してから始めさせたいって、上はずっと考えてるんだけどね。まぁ、でも……現実は、なかなかね。」

 

お兄さんの声は静かで、けれどどこか切実だった。

その優しさと苦悩が、妙に心に残った。

 

「ごめんね、難しい話しちゃって。気をつけて帰っ、あー、誰か付けた方がが良いかい?」

「……、いえ、大丈夫です。ありがとうございました。」

「うん、またね。」

 

お兄さんの声に見送られて帰路につく

頭の中で何度もさっき聞いた話が反響していた。

「友達」――俺が勝手にそう思ってるだけかもしれない。

でも、そんな彼女と離れて暮らす未来なんて、どうしても想像ができなかった。

ほんの少し前まで、彼女のいない生活が当たり前だったはずなのに。

 

そんなふうに思い悩んでいたまま、土曜日を迎えた。

彼女と一緒に行こうって約束した、夏祭りの日だった。

 

足取りの重い俺を、叔母さんが祭り会場の近くまで車で送ってくれた。

本当は彼女の家まで迎えに行くつもりだったけど――

「分かってないなぁ、学は」と笑って首を振った彼女は、「現地集合に決まってるでしょっ!!」と楽しそうに言っていた。

 

待ち合わせ場所に着いて、辺りを見渡す。

彼女の姿は見えない。……良かった、先に着けたらしい。

 

にぎやかな屋台の喧騒に包まれながら、雲ひとつない夜空を見上げていると――

 

「学、遅くなってごめん! 待った?」

 

「大丈夫、全然待ってないよ。」

 

振り返ると、紺地に赤い花模様の咲いた浴衣に身を包んだ彼女が立っていた。

 

(可愛い……。)

 

「んー? どうしたの学。あ、もしかして見惚れてた〜?」

 

手で口元を隠しながら、にやにやと笑ってくる。

からかうようなその声も仕草も、いつもの彼女のままだ。

 

「うん。見惚れてた。すごく可愛くて、つい。」

「なっ……!?!?」

 

意趣返しのつもりで、浮かんだ言葉をそのまま伝えた。

拙いありきたり台詞だったかもしれないけれど、それでも彼女は顔を真っ赤に染めて、浴衣の袖で隠しながら小さく唸った。

 

「あー、もうっ……! はいはい、早く行こっ!」

 

背中を押されながら、俺たちは並んで歩き出す。

 

彼女と歩いた夏祭りは、本当に楽しかった。

 

綿あめを手にして、彼女は子供のように嬉しそうに笑っていた。

「見て、これ雲みたいじゃない?」なんて言いながら、ふわりとひとかじりする。

口の中で溶けた甘さに顔をほころばせて、「あま〜い……!」と目を細めるその横顔が、やたらとまぶしく見えた。

 

かき氷の屋台では、俺が頼んだブルーハワイに、

「絶対、舌青くなるよ?」と彼女がにやにや笑いながら茶化してきた。

その言葉通り、食べ終えた俺の舌を見て、「ほら、やっぱり!!」と声をあげて、楽しそうに笑い出す。

 

次に自分が選んだメロン味のかき氷を一口食べると、

「どう? 私もなってる?」と、緑に染まった舌をちろっと出して、こっちへ突きつけてきた。

その仕草があまりにも無防備で、可愛くて――俺は返す言葉に困ったふりをして、ただ笑った。

 

金魚すくいでは、ポイをすぐ破ってしまった俺に代わって、「しょうがないな〜」と得意げにすくいあげた金魚を袋に入れて手渡してくれた。

 

「持って帰りなよ。叔父さんと叔母さんと一緒に育てるの。学のお願い、きっと喜ぶと思うよ?」

 

優しい声に、思わず返す言葉を探してしまう。

その間も、彼女はふわりと笑って、まっすぐに金魚を見つめていた。

 

いろんな屋台を回って、くだらないことで笑い合って――

ついさっきまでの不安が、どこかへ消えてしまったようだった。

どんよりと濁っていた気持ちが、嘘みたいに晴れていて。

もう自然と心が決まっていて、答えは出ていた。

 

空に花火があがり、夜の喧騒を塗りつぶすような音が響く。

空に咲く花を眩しそうに見上げる彼女は、降り注ぐ光に照らされて凄く綺麗だった。

 

「ねぇねぇ、学。また来年も――」

「莉那さん。」

「なに?」

 

「俺、一人でも頑張れるから。大丈夫だよ。」

 

優しくて彼女は、俺一人で大丈夫だろうか、なんて心配してしまうかもしれない。

だから、莉那さんが居なくても俺は大丈夫だと、そう伝えたかった。

 

元々市外に行くつもりだったよ?そんな風に言われたら、いまの俺死ぬほど恥ずかしいな。

なんて、そんなことを頭の片隅で思いながら、それでも、心に決めた想いを彼女に届けた。

 

「……え? なに? なんのこと?」

 

まるで意味がわからないとでも言うように、彼女は戸惑った表情を浮かべる。

 

俺は、市外への進学の話を副隊長さんから聞いたこと、勘違いだったら恥ずかしいけど、俺のことは気にしないくていい、そう口にした。

 

途端に、莉那さんの顔から困惑に満ちていた表情が消える。

そしてすぐに、泣きそうで、怒っているような顔へと変わった。

 

「……っ!!! 学の、ばかっ!!!」

 

ぽろぽろと涙を浮かべながら、そう叫んだ彼女は背を向けて走り出す。

次の瞬間、霊衣――黒で塗りつぶされた陰陽師の装束へと姿を変え、花火の音に紛れるようにして、闇の中へと消えていった。

 

 

あれから夜が明けて次の日を迎えても、朝からずっと、何もする気が起きなかった。

 

ベッドに仰向けになったまま、ただ天井を見つめている。

昨日のあの言葉。彼女の顔。頬を流れていく涙。叫ぶような泣き声。

思い出すたび、胸の奥がじくじくと痛んだ。

 

謝りたい。どこかで、ちゃんと話し合って仲直りしたい。

でも、顔を合わせていいんだろうか。そんな資格が、俺にあるんだろうか。

 

ぐるぐると考え続けていたそのとき――

 

ピンポーン、と玄関の呼び鈴が鳴った。

一階から、叔母さんの声が聞こえる。

 

「はーい、どなたですか?」

 

数秒の沈黙のあと、

 

「まぁっ!!」と、少しはしゃいだような、嬉しそうな声が響いた。

 

そして、すぐに――

 

「学郎ー!! お客さーん!!」

 

誰だろう、と不思議に思いながら、重い体を起こしてベッドを出た。

 

軋む廊下をぺたぺたと素足で進み、階段を降りる。

玄関まで来て、そこで俺は、立ち尽くした。

 

そこにいたのは、昨夜、俺が泣かせてしまった女の子――莉那さんだった。

 

夏の陽ざしの下を歩いてきたのか、額には汗がにじんでいる。

視線は俺と合わないように逸らされていて、手に持った鞄の端を指でくるくると弄っていた。

 

「……約束、してたから。」

「……約束?」

「プール行こうって、一緒に。」

 

その一言で、ようやく思い出す。

俺の頭の中は、彼女を泣かせてしまったことへの後悔でいっぱいで――

彼女と交わした大事な約束を、すっかり忘れていた。

 

彼女との約束だけは絶対に忘れないようにしていたのに。

 

「ごめん!!」

「……いい。」

 

短く、低い声だった。

いつも明るく笑っていた彼女の面影は、そこにはなかった。

 

その顔を見て、俺はふと気づく。

目元が、ほんの少しだけ腫れていた。

 

昨晩の泣き顔が、まるでフラッシュバックするかのようによみがえる。

 

「……莉那さん、昨日は――。」

「その話、もうしないで。」

 

ぴしゃりと遮られ、言葉が詰まる。

 

「……っ……」

「私、許してないよ。学のことは好き。でも、そういうところは本当に嫌い……。」

 

その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。

 

彼女の口から、“嫌い”だなんて言葉を聞いたのは、初めてだった。

そして、それを言わせたのが、自分だという現実。

 

顔を伏せかけたその瞬間、ふと、彼女の視線がこちらに向いた。

少しだけ潤んだ瞳で、まっすぐ俺を見てくる。

 

「私、学と同じところ行くから。ママもパパも、私がそれでいいならって。……だから、この話は、もう終わり。」

「……っ、ご、ごめん……」

 

顔を歪めてながら深く下げた俺の頭を莉那さんの手が撫でる。

 

視線を上げると、彼女は微笑んでいた。

まだどこか涙の痕を残した、けれどまっすぐで、強くて優しい瞳。

 

言葉にはしなくても、「大丈夫、気にしてないよ」って、彼女の気持ちがはっきりと伝わってきた。

 

「さっきも言ったでしょ? もうこの話は終わり。だから――約束してたプール、行こ?」

 

耳を揺らすのは、いつもの優しくて、まっすぐで、俺の背中を押してくれる彼女の声だった。

 

◇◇◇

 

「ねぇ、学。聞いてる?」

 

はっとして顔を上げる。

遠く霞んでいた記憶の輪郭が静かにほどけていく。

思いふけっていた俺の目の前にいる彼女の声が、今はっきりと耳に届いた。

 

「私が決めたことに、学がうだうだ言わないで。私が一緒に学と中学校に行きたかっただけなんだから。」

 

「ごめん……。あの時も、本当に……」

 

「んー、そう何度も謝られるとなぁ、なんか軽く聞こえちゃうなぁー」

 

「ちがっ、……っ!! 本当に、俺は――」

 

「嘘嘘、ちゃんとわかってるから」

 

彼女はそう言って、ふっと笑った。

そして一拍おいて、軽く裾をつまんで見せながら、くるりと回る。

 

「そんなことより! どう? 可愛い? 感想、まだ聞いてないぞー?」

 

空気を入れ替えるように、何気ない調子で話題を変える。

それが彼女の優しさだと、何度もそれに助けられた俺は知っている。

 

「……すごく可愛い。こんな莉那さんを、四月から毎日見られるなんて、俺、幸せだよ。」

 

「…………ふーん、そ。」

 

ちょっとだけ間を置いて、そっけなく返したその顔が、ほんのりと赤くなっていた。

 

(……学、最近口が上手くなりすぎじゃない? 誰のせい?もしかして――私?)

 

 

 




噓告白、終わらせ方に困ってる!!!
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