サンズと黒服は互いに視線を交わし、観察する。
“黒服”と名乗った男は紳士的な着こなしで、その名のとおり黒いスーツを身にまとっていた。
だが、一番に目に留まったのはそこではなく、頭だった。
黒服の頭は黒い炎のようなものに変化しており、体に向かってヒビが入っていた。
「…お前さんが黒服で間違いないな?」
「ええ。その名称は他の人からのものですが…まあ、いいでしょう。」
ホシノはサンズがここに現れたことに驚く。
「な、なんでここに…!?」
「hehe、生徒が勝手な行動をしそうだったからな。…先生についてけって、昔に習わなかったか?遠足の鉄則だぜ。」
冗談めかして、でも目はしっかりホシノを見据えて話すサンズ。その目には安堵とともに少しの怒りが混じっている。
「…ごめんなさい。でも、アビドスを助けるには…」
「本当にそうか?…アビドスの生徒会はお前さんしかいない。そんなお前さんがアビドスから抜けたら…一体どうなっちまったんだろうな?」
「……あ…。」
今までカイザーたちが迂闊に攻めてこられなかったのはアビドス生徒会という公式のグループがあったからだ。もし、ホシノが抜けて、アビドス生徒会のメンバーが0、つまり消えたとすると…カイザーは惜しみなく戦力を投入し、いずれ対策委員会は負けてしまう。
「クックック、流石先生、そこまで見えているのですか。」
黒服は感心したように笑い、サンズに向く。
「ああ、やはり貴方は素晴らしいですね。…ぜひ、我々ゲマトリアに来ませんか?」
「断る。」
「即決ですか。まあ分かっていたことです。…ですが、ホシノさんはもうこの契約書にサインをしてしまいました。…契約、これが意味することは分かっているはずです。」
黒服がサンズに契約書を見せると、ホシノは顔を歪め、取り返しのつかないことをしてしまったと後悔する。
…だが、サンズは一歳動揺しない。
「hehe、確かにそうかもな。だが、契約というならこいつを見てもらおうか。」
そういってサンズは自分のポケットから紙を取り出す。“退部届”と書かれた紙を。
そしてその紙にはまだ“顧問”の欄にサインが入っていない。
黒服はどこか納得したように頷き、呟く。
「なるほど、生徒と先生の関係…その契約は確かにまだ破棄されていません。…クックック、非常に興味深い。ええ、良いですとも。私の契約書は捨てておきましょう。」
そして黒服は先ほどホシノがサインした契約書をビリビリに破く。
「良い判断だ。潔い大人は嫌いじゃないぜ。」
「クック、先生と敵対しようとは思っていませんからね。…ホシノさんはお返ししましょう。」
「別に渡したつもりなんて1ミリもないが、な。」
そしてサンズはホシノに向き合う。
「まあ、言いたいことはたくさんある。だが、まずは目の前のことを解決しなきゃ、な。」
「…うん。先生、助けてくれてありがとう。」
「hehe、礼には及ばないさ。全てが解決したら、また話をするとしよう。」
「分かった。私はどこに行けばいい?」
「お前さんはアビドスのみんなを助けに行ってくれ。おそらく今頃…」
〜アビドス自治区〜
「ホシノ先輩は手紙を置いていなくなるし、先生も全然連絡つかないし…!」
「こんな時に来るなんて…!」
「これはやばいかもですね…」
「あの副生徒会長も、シャーレもいない今、我々の邪魔をする者はもはやいない!このままアビドス自治区を占領してしまえ!」
サンズとホシノというキヴォトス全体で見ても最強格の2人がいない今、カイザーの兵隊はアビドスに対して無差別攻撃を行っていた。
「ね、ねえ!どうするの!?このままじゃどうやっても…!」
「せめて先生がいてくれれば…」
だが、これも全てサンズの予想通りだ。
「…まさかオイラが何もしていないとでも?」
ドカアアアンン!!!!!
その瞬間、カイザーの兵隊がいたところで大爆発が起きた。
「な、なんだ!?」
ドカアアアンン!! ドカアアアンン!!
立て続けに起きる爆発。困惑している対策委員会の前に、とある人物達が現れた。
「クフフ!成功だね?“アルちゃん”」
「ええ。とりあえずは成功ね。でも、まだまだいるみたいよ?」
「そうだね。勝負はこっから、かな。」
対策委員会は驚く。
「な、なんであなた達が…!?」
それを聞き、”社長“は答える。
「なんでって?決まってるでしょ?」
「私たち便利屋は依頼であれば何でもするわ。たとえ、元の依頼人を裏切ることになっても、ね。」
サンズはこうなることを見越して、“便利屋に電話で依頼をしていた“。
秘密裏の密会、これこそ真のアウトローだと思ったアルは薄ら笑いをしながら依頼をうけた。
「クフフ〜、アルちゃん、内心結構ビビってたんでしょ?」
「なっ、なんで言うのよ!別にビビってないわよ!」
…はっきり言おう。このアルという女、めちゃくちゃ葛藤していたのだ。
「し、しょうがないでしょ!カイザーみたいな大企業、敵に回したら何されるかわかんないし、でも先生には借りもあるし…」
「で、結局あなた達は味方ってことで良いのね?」
セリカは少し疑うような目で便利屋を見る。
「まあそういうことでいいよ。私たちは依頼人の仕事をこなすだけだから。」
「そうね。”対策委員会と共に、アビドス自治区を守り抜け”、これが依頼よ。」
「ん、感謝する。じゃあ、そろそろ反撃の時。」
「そうですね!」
「…礼は後で言うから。」
「ホシノ先輩も、アビドスも…全部、守ります!」
「じゃあ、あなた達。仕事を終わらせましょう。」
「助っ人を呼んだから今は大丈夫だろう、だが、あの人数でカイザーの全てを相手するのは流石にきついだろう。…次はお前さんが助ける番だ。頼むぜ?」
「分かった。…もう、間違えないよ。」
ホシノが力強く頷くとサンズはホシノの頭を撫でる。
「う、うへっ!?」
あまりに急な出来事に、ホシノはびっくりし声が出てしまう。
「おっと、すまん。昔の癖でな。気に障ったなら悪かった。」
「い、いや別にそんなことはないけど…ん、じゃあ、行ってくるね。」
そう言ってホシノは走って建物を出ていった。
ホシノが建物から出ていった後、黒服は愉快そうに話す。
「サンズさん、貴方はいつもこんなことを生徒にやっているのですか?」
「何か悪いことしたか?」
サンズの平然とした態度に黒服は少し察してしまう。
(なるほどなるほど…これは生徒達は苦労しそうですね。)
「まあ、良いでしょう。では、サンズさん、本題に入りましょうか?」
「…だが、その話をする前に一つ聞きたいことがある。」
理事は言っていた。ヘイローをもつ人を一発で殺す技術はカイザーにはないと。なら、誰のだ?それは…
「ヘイローを破壊する爆弾。アレの作成者はお前たちゲマトリアか?」
黒服は悪びれる様子もなく答える。
「ああ、アレですか。実験に失敗したものですので処分しておきましたが…何故そのことを?」
「アビドスが襲われた時、一度使われた。普通の手榴弾に見せかけていたが、アレを食らっていたらおそらくオイラの生徒は一人消えていただろうさ。」
「なるほど…?それはまた興味深い…おそらく"彼女"でしょうが…それは困りました。生徒と先生という関係を簡単に壊されては実験に支障が出ますし…。我々にとっても利益にはならない行動をとったことに対しては注意が必要でしょうか…」
黒服は手を顎の前に添え、ぶつぶつ独り言を言い始めた。
「…アンタが使った訳ではないってことか?」
「おっと、失礼しました。その質問に対して私は肯定しません。しかし、否定もできない。アレには私も一枚噛んでいますので。私とて生徒を殺すことに抵抗はあります。この度は申し訳ありませんでした。」
「ホシノを実感しようとした奴がよく言うぜ…。」
「まあアレはあくまでサブプランですから。いうなれば先生と交渉するための餌にすぎません。」
「その言い方はよしてくれ。オイラは大層な存在じゃない。あと生徒を餌呼ばわりされるのは癪に触る。」
「これは失礼。ですが、それほど貴方の存在には興味があるのです。…
本題に入ってもよろしいですか?」
「ああ。聞きたいことはそれだけだ。…アンタが言ってるのはケツイについて、だな?」
「ええ、サンズさんのその力、少しですが見せてもらいました。…キヴォトスにおける”神秘“。この力と同等…いや、それ以上の可能性を秘めているもの。私はその力に強く興味を惹かれました。あなたさえ良ければ。私に観測をさせて頂きたいのですが?」
サンズは腕を組み、少し考える。
(こいつは☝︎♋︎⬧︎⧫︎♏︎❒︎と似たタイプ、か。この“力”で生徒を守れるなら、それに越したことはない。)
「いいだろう。だが、条件が3つある。」
「1つ、”アビドスの借金を半額負担してもらう”。」
「ほう?半額で良いのですか?こちらとしては全額負担してでも得たいものですがね。」
「あれはアビドスの問題だ。カイザーの陰謀とはいえ、多少なりとも責任はある。それに、あいつらだって急に借金がなくなったらそれはそれで不完全燃焼だろうさ。」
サンズの先生としてのモットー。それは生徒ができることは生徒に任せる。あくまで傍観し、アドバイスを与える程度しかしない。
だが、生徒だけではどうしようもない時。命に関わる時。その時は、“審判者”として地獄に叩き落とす。
「なるほど。…クックック、どこまでも貴方は私の興味を引くのですね。」
「お世辞はよしてくれ。…2つ。“ケツイ”に関する実験。このことについてはオイラとの共同実験とする“。」
「…ふむ?あなたはゲマトリアに入るつもりはないと仰ったのでは?」
「ゲマトリアに入るつもりはない。アンタの仲間になるつもりもない。…だが、”ケツイ“となると話は別だ。」
そういうとサンズはブラスターと真っ白いソウルを手に浮かべる。
「ものすごい力を秘めている…それが”ケツイ“の力ですか?」
「ああ。そしてこいつはオイラの”ソウル“だ。まあ簡単にいえば『心臓』だな。こいつが割れたとき、オイラは消滅する。そういうふうにできてる。」
サンズが浮かべているソウルを見て黒服は目を細め、観察する。
「神秘と似ていて…それでいて違う。クックック、ああ、なんと素晴らしいものでしょうか。この力を観測し、実験できるとは…先生には感謝してもし尽くせませんね。」
「生粋の科学者体質だな。あいつとそっくりさ。…このソウルについての実験は流石に拒否する。何かされて死んだらたまったもんじゃないからな。」
「それはなんとも残念ですが… まあ、当たり前でしょうか。」
「だが、」とサンズは言い、ソウルを自分の中にしまうと同時に先ほど出したブラスターを黒服に向かわせる。
「こいつなら、貸してやろう。ブラスターは本来なら発射したあとすぐに消滅するが、こいつは少し細工をしてるからしばらくはそのままでいるはずだ。…そうだな、大きさも小さくしたし、1ヶ月くらいなら持つと思う。」
「1ヶ月も…ですか。クックック、サンズ先生、やはりあなたと敵対しなくて正解でした。このブラスター1つにある力…これ一つで一般生徒の”神秘“を軽く超えています。何かあればぜひ、あなたに必ずお教えしますよ。」
「そうか、よろしく頼む。…そういえば、3つ目の条件を言ってなかったな。」
そう言った瞬間、今まで気さくだったサンズの雰囲気が変わり、サンズを中心に圧がかかる。
(…!?この圧は…!?)
目のハイライトが消えた状態でサンズは話す。
「”二 度 と 生 徒 に 危 害 を 加 え る な よ ?“」
「お前さんのせいでホシノは騙され、対策委員会は破滅の道をたどることになるところだった。…それは理解してるんだろうな?」
「確かに、私はあの子達の状況を利用し、神秘を観測しようとしました。ですが、これは“ルールの範疇”ですよ?先生。そこは勘違いしないで頂きたい。」
「そんなことは理解してる。お前さんのやり方は非人道的だが、合理的だ。…でも、オイラには守るべきものがある。オイラがシャーレである以上、アビドスも、便利屋も、ミレニアムやゲヘナ、トリニティだって、全てオイラの生徒だ。…シャーレを敵に回したくないなら、生徒には手を出さないことだ。」
次 は な い か ら な ?
「先生として、一人の大人として、責任をとる…。なるほど、貴方の行動理念が少し見えてきました。…ですが、理解はできません。一体なぜそのようなことを?」
サンズは黒服を小馬鹿にしたような目で見つめ、背をむけ退室しようとする。
「アンタなんかには理解できないだろうさ。何も、な。」
サンズの脳裏には、“対策委員会との日々“、”便利屋の4人との騒ぎ“、そして、地上に出たモンスターたちと一人のニンゲンの写真が思い起こされていた。
結構期間空いていましたね。いやー1ヶ月くらいかなーとか思ってたんですけどねー()
まあこっからまたのんびり亀のように投稿していきますかね。(なんとか頑張りますので応援よろしくお願いします…!!)