「イィィイヤァァァああああああ!!??」
異空間へとつながるワームホールに入ったはいいが、なぜか俺は空を飛んでいる。
飛んでいるというより飛ばされている。なぜか斜め方向に。
このまま飛ばされ続けると、俺はマンションかなんかの建物に激突する。多分ベランダに干される形になる。それは避けねばその家の主に迷惑がかかるであろう。しかしながら、俺はこんなことは生まれて初めてでして、どうやったら軌道を変えられるのかさっぱりなのです。
ガァンッ!
「ノゥゥヌウゥゥ!?」
鈍い音がする。俺の腹に、ベランダの手すりがめり込んだ音だ。
危なかった。魔術簡易結界を腹に大量に仕込んでなかったら死んでいた。
窓が開く音が聞こえる。家の主が俺に気付いたのだろう。
⁇「だ、大丈夫ですか?!」
おそらくだが、同い年ぐらいのえらく可愛くもあり、大人の魅力も兼ね備えた綺麗な黄土色の髪をした長髪の女性。
驚愕、恐怖の色が少し顔に見える。
「だ、だい、大丈夫だ…」
肋骨が一本折れた可能性があるが、何一つ問題はない。
⁇「千秋!きゅ、救急車呼んで!」
千秋「は、はい!春香姉様!」
俺に駆けつけてきた人と同じ血を引いているのであろう、同じ髪色で長髪、そしてホイップクリーム型の髪がなびいて愛らしい。
って、そんなことより、
「やめてくれ!救急車はやめて!」
金かかるから!保険証持ってないから!財布ないから!といった理由を言いたかったが腹が痛くて言えなかった。
春香「な、なんでですか!死んじゃいますよ?!」
夏奈「そうだそうだ。救急車にしっかり運ばれな」
黒髪ツインテールをなびかせたアホっぽい子も出てきた。
三姉妹かな?
「いや、金ないし」
春香「お金なら貸しますから!」
「保険証ないし、肋骨が一本折れただけですし、事情聴取とか嫌なんで」
春香「な、なんで事情聴取?」
夏奈「も、もしかして、お前は犯罪者なのかぁ?!」
その言葉でみんながピックっと反応した。
一瞬『え?!俺犯罪者だったのぉ?!』とかわけのわからんことを言いそうになった。
「犯罪者ではないのだが…んーじゃあこうしよう。俺の今あった不可思議なことと、俺の使える面白いものを見せたら救急車は無しでいいかい?」
春香「なぜそこまでして救急車を拒むのかしら…」
夏奈「面白い…先に話して、本当に面白いものだったら救急車は無しにしてやろう…」
千秋「なぜお前が決める」
「よぉ〜し、じゃあ今あったことをお教えしようじゃあーないかー」
と、言いながら俺はベランダに引っかかった体を落ちない程度にあげる。
春香「と、とりあえず、上がってください」
春香、と言ってたかな?春香さんは俺を家に上げてくれるようだ。なんて優しいお方なのでしょうかな。
無事に俺は家に入れてもらい、こたつに入って話を始める。
「まず、自分は結城朱鳥と申します」
春香「あ、私は南春香です。で、こっちが次女の夏奈」
夏奈「よろしくぅ!」
春香「で、こっちが」
千秋「千秋です。よろしくです」
「じゃあ挨拶も済んだし、話を始めるのだが、今から話すことはできる限り他言無用でお願いしたい」
その言葉を聞いて少し緊張が走る。
「俺は魔術と呼ばれる特殊なものを使えるんだが…」
夏奈「厨二病か?」
春香「か、夏奈!すみません…話の腰を折ってしまって…」
「いえ、はなっから信じられる人なんて滅多にいませんから、慣れてます」
そう言って俺は証拠と言わんばかりに発光魔術を使う。
これは光の玉を手の上に出す魔術で、明るさ調節も自由自在。とっても簡単な魔術。
出した瞬間、三姉妹に衝撃が走った。
夏奈「すげぇー!どういう手品?!私もできる?」
「手品ではないんだ。でも、練習すれば多分できるんじゃないかな…?」
千秋「魔術…」
春香「それが、魔術…ですか?」
「ちょっと地味ですからね…もう少し派手なものをやりますか」
そう言って俺は点火魔術と呼ばれるこれまた手から炎が出る魔術だ。
夏奈「うぉー!本物だ!」
春香「嘘ぉ…」
千秋「おぉ〜」
三者三様に驚いた顔をしていた。
夏奈は嬉しそうにはしゃぎ、春香は信じられないものを見た落ち着いた女性ならではの反応、千秋は幼い中にも春香に似た雰囲気で落ち着いて見せているが、興奮を隠せてない感じだ。それを見てると、こっちまで嬉しくなってしまう。
夏奈「も、もっとないのか?!もっとすごいやつ!」
「そう言われてもなぁ…あ、そうだ、忘れてたけど本題に戻って、俺はこの魔術の一つ、異空間に飛ぶ魔術を使ったんだ。そしたらここに飛ばされたってわけ」
春香「え?じゃあこの世界の人じゃないってこと?」
「その可能性もなきにしもあらずってとこかな」
千秋「おぉ〜」
千秋と夏奈は二人とも楽しそうに話を聞いていてくれているが、春香はこの話の本質を理解しているようで、少し悲しそうな表情をしている。
春香「でも、向こうに戻る方法はあるのでしょう?」
「…それは、難しい…」
夏奈「来た道を戻ればいいんじゃないのか?」
「異空間といっても、場所を指定はできないんだ。俺がまだ未熟だからな…」
春香「朱鳥さんのいた世界では魔術が普通に存在していたんですか?」
「いや?宇宙人は家にいたが、魔術使いは一人も見たことないな」
春香「え?」
「え?」
春香「じゃあ向こうでは有名人なんですか?」
「全くそんなことないけど?」
春香「え?」
「え?」
夏奈「なんか、恐ろしく噛み合ってないな。この二人」
おそらく彼女は勘違いしていたのだろう。俺が未熟者だと言ったから、熟練者とかがいると思ってしまうのは仕方ない。俺の言い回しの問題だった。
千秋「宇宙人…」
千秋はそこが引っかかっているようだ。
テンションが上がった時に、アホ毛のように動くホイップクリームがとてもキュート。テンションが上がってるかどうかは完全に俺が見ての話だが。
「まあ、あれだ。とうぶんは俺はこの辺ぶらぶらしてますんで、よかったら声かけてください」
春香「行くあて、あるんですか?」
「アッハハ、ないです…なのでホームレス生活です…早く帰り方を見つけなきゃな…」
窓から見える夕日を見てたそがれる俺。だんだん消えてくワームホールが見える。
(あ、あれ??あれをくぐれば帰れたんじゃね?)
と思ってるうちに消えた。
今までこれを使った時はだいたい近場に出てしまっていたため、通路が消えても何一つ問題がなかったのだが、ここは全く未開の地だ。
「そういえば、ここってどこっすか?」
一応土地を聞いたのだが、当たり前だが全くわからないかった。ついでに地図も見たんだが、俺の知ってる地図とは違っていた。土地の名前がほぼ全て違う名前だった。
春香「あのぉ…もしよかったら、あてが見つかるまで、泊まってもらってかまいませんよ?」
「え?いや、あの、こんな見ず知らずの男が女性しかいない家に居候するのは、危ないですよ?といっても、俺は異性に対する興味はないんですけど…」
夏奈「ならいいじゃん!朱鳥がいたら退屈しなさそうだし!」
千秋「春香姉様が良いのでしたら」
春香「この子達も、こういってますし」
なんて暖かい一家なんだ!と感動して涙が出そうになるのをこらえ、俺は決意する。
「ありがとう…ありがとう…この恩は必ず返す…!」
この人たちの行動に報いる。
(あ、でも学校には行きたいな…)
春香「あ、そういえば、朱鳥って名前、戦国時代の英雄と世界最強と謳われた殺人鬼も同じ名前ですね」
その言葉に驚きを隠せなかった。
この世界にも俺がいたことになっている。
夏奈「むむむ?その反応は…怪しい」
ぎくっ!とまた反応してしまった。
こやつ、アホそうに見えて勘の鋭いやつか?
春香「何が怪しいのよ…」
千秋「このアホは気にしないでください」
「は、あ、いや、正直に話した方がいいのかな…」
春香「どうか、しました?」
「信じてもらえないかもしれないが、殺人鬼も戦国時代の英雄も俺だ。肉体は違えど、確かにそれは俺だ」
春香「へ?」
夏奈「やはりか…」
千秋「お前は絶対違うことを予想してただろ!」
「まず、一番最初に俺はかくかくしかじかな理由で殺し屋になった。そしてかくかくしかじかな理由で戦国時代に飛ばされ、そこで死んで今の俺がいる」
歴史の話をしているようでつまらなかった部分もあったのであろう。少し眠そうにする夏奈と、頑張って理解しようとする千秋。
そして親身になって話を聞いてくれた春香。
信じてもらえるとは思っていなかったため、予想外な反応ではあったが、嬉しいことには変わりない。
春香「大変でしたね…」
「信じて、くれるのか?」
春香「そりゃあもう、目の前で神秘的な現象が起きちゃっているんですから」
初めてだった。
俺の妹たちはまともに聞いてくれなかったし、俺には友達というものがいないため、誰にも信じてはもらえなかった。でも、ここにいる人たちはみんな信じてくれた。といっても三人しかいないけど。
夏奈「壮大な、人生経験だったんだな」
千秋「何を偉そうにお前がいうか」
「壮大だよ。本当。それのせいで学は全くないんだよな〜小学校からやり直したいわ」
春香「あ、そういえば朱鳥さん、学校どうなさいますか?」
「ちょっと市役所とかでジャパニーズお話をして小学校中学校高等学校、三つに通えるようにしてやるぜ!」
春香「は、はぁ…??」
夏奈「いいなそれ!なら、私のクラスに来なよ!」
千秋「おいお前、朱鳥さんの言葉をちゃんと聞いていたのか?はっきり言って、けしていいことではないぞ」
「だいじょぶだいじょぶ。あ、あと、朱鳥って呼んでほしい」
春香「あ、あのぉ、まさか本気、じゃないですよね?」
「本気だ!みんなのクラスに俺をねじ込んでおくぜ!」
千秋「さすがにその背丈で小学校は無理だと思うが」
「お兄さんにおまかせあれだ!余裕でねじ込めるぜ!」
そう言って、俺は市役所へと駆けて行った。
け、けして、結婚とかいうめんどくさそうなとこから逃げられたことに対して、喜びを隠せないでテンションが上がっているわけではないぞ。