ぬ、主が忘れたわけじゃないのよ?!
戦場で呑気に話をしていた俺たちに飛んでくる矢の雨。
それに気がつき、顔が青ざめていく五右衛門や道三ら軍勢。
俺は冷静にこの場にいる全員を守る方法を考える。俺が読んだ本の中から多くの範囲に壁を展開するものを記憶の中から探した。それは一つだけあった。
大地のドーム。
名前はとてつもなくダサいが、防御性能や範囲、どれを取ってもトップクラスのものだ。
大地のドームとは、自分たちを覆うように土がドームになる。どういう原理かは全く知らないのだが、なぜか土の守りは鉄壁だ。
俺は多少迷ったが、これを使用することを決意した。
ゴォォ…
一瞬にして周りが暗くなる。
道三「な、なんじゃ?!」
五右衛門「あ、朱鳥氏?!」
…やっぱりびっくりするよね。
どよめく兵士たち。焦る五右衛門と道三。
そんな場所で大声をあげて俺は言った。
「安心しろ!これは俺の作った盾のようなものだ!多少、土臭くて暗いけど、我慢しろ」
だんだん静かになっていき、矢が土に刺さる音だけが響く。
少しづつ、飛んでくる量が減ってるのだろうか。音が少なくなっていく。
五右衛門「これはなんと言うにんぢゅちゅでごぢゃるか?」
「これは…土の壁でいいや」
五右衛門「ほう…土の壁でごぢゃるか」
自分で言うのもなんだが、名前をいくら変えても、ダサい名前しか浮かばない。
それから少しの時が経ち、矢の雨がやんだ。
魔法を解除し、元のあるべき場所に土を戻した。
「さってっと、さっさと帰るぞ〜!」
唖然としてる道三をよそに兵士たちを引っ張って、くる時は魔法を使ったが、帰りは川を通って帰ることを決めた。
これ以上兵士たちを混乱させたくないから。
このまま、簡単に帰れればよかったのだが、そううまくいく人生はそうそうないであろうな。
案の定、川を下っているところを両側の陸地から火の矢で狙い撃ちをされている。
ここで兵士たちを疲弊させるのはあまりよろしくないので俺はここでも先ほど使った魔法を使っている。船はいくつかに分かれて乗っているのを全て水で守っている。
あの魔法は土だけではなく、なんでも盾にできるのである。便利だ。
水の場合、周りが見えるので助かる。
五右衛門「朱鳥氏、反撃はしないでごぢゃるか?」
「んーどうするか〜」
この魔法は水との相性がとてつもなくいい。相手の攻撃を完全に無効化することが可能なのに対し、こちらは攻撃が可能。
ちなみに、魔法のことはもう全兵士に説明済みだ。
「弓兵っている?」
道三「おるぞ」
「じゃあ弓兵は反撃開始、他の奴らは弓兵の支援」
五右衛門「朱鳥氏、我は何を」
「五右衛門ちゃんは休憩してていいよ」
五右衛門「御意」
全体に指令を通したら、俺は魔法の倍倍と呼ばれる魔法陣を両側に展開した。
この魔法は相手の攻撃の威力を二倍にする代わりに、攻撃量が1/2倍になる。そして自分たちのは量が倍になる代わりに、軌道が荒くなる。
この二つの魔法を両立させるのは俺への負担が大きすぎるため、あまり使いたくはなかった。
壁と言ってはいるが、ダメージは1/10になって俺に入ってくる。体に傷は付かないものの、威力が二倍だと辛い。それに火がついている。
倍倍も俺に疲労感が来るようになっている。メリットにはデメリットが付いて回る。まさにこのことだな。
「五右衛門ちゃん!この船、スピードもっと出ない?!」
五右衛門「こ、これが、げ、限界でごぢゃるよ!」
くそぉ…
あ、先ほどは移動魔法を使用しない理由を、兵士たちを驚かせるのはよくないとかなんとか言ったが、実はあれは俺の筋力が謎の疲れに見舞われ、歩くのがやっとっていう状態になるのだ。
ちなみに距離によってその筋力の疲労は変わるようだ。
べりぃっ!
すごい嫌な音がした。
恐る恐る下を向く。
俺の服がダメージを受けすぎて破けた音だった。
なんだ、お前の服か…って思った人が大半を占めると思う。だが、これは俺の死活問題である。
「俺の服が破れたぁ!?」
道三「服程度で騒ぐでないわ!」
「おっさんにはわからないよ!俺はこの服しか持ってねえから着る服がなくなってしまうんだよ!」
なぜ服が破れたかというと、シールドは俺と俺の装備品にダメージが入るようになっているらしい。初めて知った。
俺の服が破れても、誰一人として得しねえな。
ちなみに破れたのは俺の着ていたシャツの全面が一気にべりっといっちゃった。
ほとんど上半身が見えちゃってる。
五右衛門「朱鳥氏…服…」
ただ単に疑問に思っただけであろう。なぜ破けたのかを説明してないし、面倒臭いから説明しなくていいかなって思っている。
「ご、五右衛門のえっち…」
五右衛門「ふぐぅっ?!」
不覚にも、五右衛門ちゃんが気持ち悪さで何かを吹き出したのを見て『和む』と思ってしまった。
純粋無垢な少女は正義だね(白目)
ずいぶん余裕そうに見えるだろうが、案外これでも限界が近づいている。主に服の。
上半身ローブ、下半身(この時代だと)謎のズボン。ちなみに両方黒。
だが、限界を迎える前になんとか織田領の沖に着いた。
「ひぇー助かった(服が)」
五右衛門「朱鳥氏!かこまれたでごじゃるよ?!」
…織田領だよね?ここ。
織田領とかを気にせずズケズケと俺たちの周りを囲む敵襲。どこの軍勢かは覚えてない。いちいち敵を記憶できねえよ。
五右衛門「朱鳥氏は必ず…」
「めんどくせえから、俺が全部やる。あ、邪魔だからいかだに乗ってて」
五右衛門ちゃんがなんか言ってたけど、無視して味方の群を全員いかだに乗せた。
道三「何をするつもりじゃ?!」
五右衛門「あ、朱鳥氏!」
もーうるさいなー
いかだの周りに先ほどと同じ壁を展開した。
「お前らは弱いんだから邪魔なの!一人の方が圧倒的に楽だわ」
俺の言葉にかなりショックを受けていたが、事実なので何も言い返せない五右衛門。
それに対して道三は。
道三「愚か者!自分の力を過信しおって!」
心の中で『まあ見てろ』とつぶやきながら襲い来る男の刀を躱す。何回か躱しつつ、敵の持ってる刀を頂戴しようと躱した時に、敵の肘の関節を外し、刀を奪った。
そのあとは無双だった。
襲い来る太刀を止まってるかのように避けては斬ってを繰り返す。
斬れ味が悪くなったら下から刀を拾い上げる。魔法を使ってもいいが、これ以上疲れるのはごめんだった。
しばらくして織田の城方面から大きな笛?の音がした。
その音を合図に襲ってくる織田軍に堪らず逃げ出す敵軍。
俺が一人でだいぶ減らしていたからか、勝てないと確信したのだろう。いい撤退だ。
信奈「朱鳥!」
声のする方を向く。目が少し赤いうちの主人が白馬にまたがり、やってきた。
「あれ?きちゃって大丈夫なの?」
城を開けちゃって大丈夫なのだろうか?
そう言うと白馬から降りた信奈にビンタされた。
信奈「あんた、ばっかじゃないの?!自分の命が惜しくないの?!」
その言葉は彼女の心の底からの言葉だろう。こんなことを言ってくれる主人なんて珍しいのだが、俺は素直に喜べない。
「俺は、強いから、大丈夫だよ…死なない…いや、正確には死ねるかわからないだね…」
小さく失笑した。
そしたらより一層悲しい目をして
信奈「あんた…もうクビよ…自分の命をなんとも思わないようなやつなんて、思わなかった」
なんとも思ってないわけじゃない。俺は彼女に笑って欲しくてやったのだが、裏目に出たようだ。
勝家「姫様!朱鳥は姫様を思って…」
信奈「一歩間違えば誰一人として帰ってこられないような場所に行ってくれなんて頼んでない!頼んで…無いわよ…」
俺の主人は泣いていた。
また、俺は主人を泣かせた。
俺は死んでも変わらなかったのか。いくら強くなっても、変われてないのか…
「主人の命令は絶対だ。逆らえない。ハラキリでもおかしくないことをしたんだからな」
そう言って俺は逃げるようにその場を去った。