貞操逆転世界での俺、気軽にヤれるビッチ♂だと盛りのついた女子たちの間で噂になっていく 〜お前らみんな、俺で処女捨てたくせに……〜 作:水卜みう
◆(雛世)
「――せっかく綺麗な瞳をしてるんだからさ、前髪切ってみたらいいんじゃない?」
平川くんとの真っ最中に言われたその一言が、ずっと引っかかっていた。
だって今まで私の目つきは「睨みつけられてる」「怖い」「怒ってるの?」と言われまくってきたから。
ツリ目で切れ長、小さい頃は雛人形みたいで綺麗だよと親戚に言われたことはあるけれど、それがお世辞であったことにすぐ気づいた。
だんだん人と目を合わせることが苦手になってきて、私はとにかく前髪を伸ばして目が合わないようにしてきた。
そんな私のコンプレックスを「素敵だ」なんていうのは、見え透いたお世辞。
平川くんは絶対にそんなこと思ってない。ただ雰囲気を壊さないようにそういうことが言える、心の優しい人なのだ。
……でも、お世辞とわかっていてもキュンキュンする。
なんとなく好意を寄せている人からそんなこと言われたら、どんな人でもコロッとやられるに決まっている。
決して、私がちょろいわけではない!
そうこうしているうちに平川くんは私の制服を脱がせてくる。
こんな陰キャブス相手に丁寧にリードしてくれるなんて、えっちな漫画の世界だけかと思っていた。
私は顔も良くなければ、身体だって貧相だ。
こんな凹凸がなくて女らしさのかけらもない身体、見て嬉しい男の人なんていない。
しかし彼は一心不乱に私を優しく撫でてくれる。そんなふんわりした手付き、癖になってしまいそうだ。
本当に勘違いしちゃうよ、それ。
「あっ……ご、ごめん、ちょっとがっついちゃったよね」
「ち、ちち違うんです。私……ド貧乳というか、めちゃくちゃ貧相な身体なので……ぜ、絶対に萎えちゃうっていうか、こんなんじゃ平川くん興奮できないから……やっぱり今日は……」
「そんなことないよ。ほら、俺のここ、わかる……?」
そう言って平川くんは、私の右手をとった。
えっ……? これって平川くんの……?
こ、こんなにすごい……の……?
「……西目屋さん、えっちな顔してたから、ドキドキしちゃって」
「はぅ……」
なんだこの人???
めちゃくちゃ女子のツボ分かり過ぎじゃない???
男子が女子の身体とか顔を見たくらいじゃ興奮なんてしないのはこの世の常識。
それなのに、私の低レベルなものを見てもそんな反応をされたらたまったもんじゃない。
もう頭の中は沸騰してまともに思考ができなかった。
行為の最中はずっと何を言われても「はぅ……」か「もっと……」しか言い返せなくて、結局保健室でシてしまった。
こんなに精神的にも肉体的にも満たされるものなのかと、私はぽわぽわした頭でそう思った。
こうして私は無事卒業。
もしかしたら今日が人生のクライマックスかもしれない。明日死んじゃうかも。
家に帰ってからもずっと平川くんのことが頭から離れなかった。
しゅきぴとひとつになれるなんて夢みたいだ。
「はぅ……」
思い出して声が出てしまう。
それくらいえっちかった。
しかし、正気に戻ってから私はあることに気づく。
しゅきぴである平川くんで処女を卒業したのはいい。
でも、あれってよく考えたら私が脅迫まがいのことをしただけだよね……?
ということは、別に恋人同士になったわけではない。それどころかセフレですらない。
もうこれっきりで縁が切れてしまう可能性もある。
それは嫌だ。
仮にえっちなことができなくても、平川くんにそっぽを向かれるのは絶対に無理。
……いや、えっちなことができないのも無理かも。
じゃあどうしよう、私は何をすればいい?
考える前に私はハサミを手に取っていた。
目つきがコンプレックスで、今まで他人と視線が合わないようにするために伸ばしまくった前髪。
それを切ってしまおうと考えた。
「――せっかく綺麗な瞳をしてるんだからさ、前髪切ってみたらいいんじゃない?」
その言葉に騙されてもいい。なんなら、また目つきのことでいじめられるようなことになってしまっても構わない。
前髪を切ることで、「私は平川くんの言葉を意識しているんだよ」と表明したかった。
YouTubeを見て見様見真似で前髪をカット。
視界はものすごく明るくなって、鏡を見ると自分の瞳と目が合った。
「……また、素敵って言ってくれるかなあ」
大きな不安と、ちょっとした期待が入り混じったまま、私は次の日を迎えた。
※※※
登校するなり、教室がざわついた。
周りの皆の言葉が耳に入ると心が傷つきそうな気がしたので、すぐさま私は爆音のサカナクションを流したイヤホンでシャットアウトする。
かっこいいよね、サカナクション。
音は遮断できても、周囲の視線は気になる。
前髪がなくなったぶん、余計に。
みんな私を見ている。
これは多分、好奇の目というやつ。
陰キャブスが前髪を切って睨みつけている。
そう思っているに違いない。
でも関係ない。平川くんに気持ちが伝わりさえすれば、それでいい。
――とんとん
ふと、左肩を叩かれた。
振り向くとそこには平川くん――ではなく、その親友である藤崎くんだった。
長身で塩顔、ちょっとおっとりしているけれど、バスケ部で身体は鍛え上げられている。いわゆる細マッチョ。
いつも平川くんの隣にいるので、彼のこともよく知っている。
でも、全くと言っていいほど関わりはない。
どうしたのだろうか。私は左側のイヤホンを外す。
「西目屋さん、前髪切ったんだね」
「えっ、あっ……そ、そそ、そうです……」
「めちゃくちゃイメージ変わって明るくなったと思うよ。それ、すっごくいい」
「はぅ……」
平川くんに見てもらう前に、藤崎くんから予想外の反応をもらってしまった。
前髪を切ったのはとても好印象らしい。事務連絡以外で男子から声をかけられたの、初めてかも。
しばらくして藤崎くんが登校してきた平川くんを連れてくる。
開口一番に言われたのが、これだ。
「俺の言ったとおりでしょ、前髪切ったほうがいいって」
頭がいっぱいになって、「はぅぅ……」しか返せなかった。
前髪切って良かった。
ううん、ここで満足しちゃダメだ。
まだ伸びしろがあるって平川くんは言ってた。もっと自分磨きをしないと。
陰キャブス脱却に向けて、私はより一層気合が入った。
……もう少し、平川くんと関われるきっかけを作らないと。
すっかり私は、平川朝陽くんという地味な男子に沼ってしまっていた。