貞操逆転世界での俺、気軽にヤれるビッチ♂だと盛りのついた女子たちの間で噂になっていく 〜お前らみんな、俺で処女捨てたくせに……〜 作:水卜みう
『快楽CLUB』は全国チェーンのネットカフェ。
漫画の冊数は業界随一で、最近ではダーツとかビリヤードを楽しめる店舗もある。
フードメニューも充実していて、フライドポテトはテレビ番組でも美味いと評されるくらいの名物だ。
……なんか俺、この間のカラオケといいさっきのマクドナルドといい、フライドポテトばかりに縁がある気が。まあいいか。
店舗に入ると会員証代わりになるスマホアプリをインストールさせられた。
最近の会員証はみんなアプリだ。カードを持ち歩かなくていいのは助かるが、スマホのホーム画面を整理しないとどこに何があるかわからなくなって大変だ。
「――それでは奥の七十二番、ペアブースになります。未成年のお客様は、午後十時以降のご利用はできませんのでご了承ください」
「はーい」
受付で注意事項を説明されると、凛々亜は伝票を受けとった。
ブースに行く途中、二人でドリンクバーで飲み物を調達する。俺はさっきコーヒーを飲んでしまったので、メロンソーダをチョイスした。
ドリンクバーのメロンソーダは美味いんだよな。ペットボトルで売っているメロンソーダには入ってない、違う栄養素がある気がする。気がするだけだけど。
「へえー、ペアブースってこんな感じなんだね」
「俺も初めて入った。大体ネットカフェに入るときは安いオープン席だから」
「ふーん、男子もネットカフェ来るんだねー。最近はメンズ席とかメンズ割引もあるもんね」
「め、メンズ席……? メンズ割引……?」
「そうだよ? 男子は割引あっていいよねー、レディース割引とかあればいいのに」
「あ、あははは……」
元の世界では女性専用席とかレディース割引が当たり前なので、なんだかメンズ割引には違和感を覚える。
もしかして映画とかアミューズメントパークとか、男のほうが割引されたりするのか……?
めっちゃいいなそれ、今度映画見に行こう。
「じゃあ私、漫画取ってくるね。平川くんは?」
「あー俺は後でいいや、荷物番しておくよ」
「りょーかい、じゃあ行ってくるね」
凛々亜はブースのドアを開け、スリッパを履いて本棚の方に駆けていった。
それにしたってネットカフェのブース席――それもペアブースなんて初めてだ。
この店はただ囲っただけのブースではなく、本当に小さな部屋のようになっている。大手チェーン店はやはり設備面から全然違う。
四畳半くらいの広さで、寝転がっても大丈夫なフラットシート。座椅子があるので漫画を読むのにも適している。
さらには割とハイスペックなパソコンとでかいモニターまであって、お財布事情が許すのであれば何時間でも滞在できそうな空間だ。
俺はとりあえず凛々亜が帰ってくるまでパソコンをいじることにした。
どうやら店内の蔵書をウェブから検索できるらしい。便利なものだ。
漫画を読むつもりはなかったのだが、適当に探しているうちになにか読みたいものが見つかるだろうと、漫画の週間ランキングページを眺める。
男性向けと女性向けでランキングが分けられていたので、とりあえず男性向けからチェックすることにした。
「おお、結構王道の少年漫画ばっかりじゃないか。このへんは変わってなくて安心した」
トップはやはり少年誌の人気漫画。
さらに下へスクロールしていくと、青年誌とか四コマ漫画系とか色々。
ただこの辺からやはり元の世界との違和感が俺を襲ってくる。
「ランキングのラブコメ漫画……なんだかあんまり表紙の女の子の露出が少ない気が……タイトルも内容もなんだか少女漫画っぽくないか?」
元の世界の男性向けラブコメはやはりお色気が必須。
ヒロインの水着姿が表紙を飾るくらいザラにある。何なら青年誌くらいになれば乳首の一つや二つ簡単に拝めるというものだ。
しかし貞操逆転世界はそうではない。
どちらかというと男性向けラブコメは女の子の露出を控えていて、恋に落ちる過程とかシチュエーションとかそういうのを重視している感じがする。
元々俺は少女漫画でも抵抗なく読めるので問題はないが……なんだか女々しい男が主人公なのはちょっと遠慮したいところだ。
「……待てよ? 男性向けがこれってことは、女性向けは逆にエグいのでは?」
そう思って俺は女性向けランキングをクリックした。
目に飛び込んで来たのは納得のラインナップ。
ドロドロした不倫モノ、正統派純愛モノ、ドタバタラブコメディ……ほとんどが恋愛、それも性描写強めのもの。
この世界の女子たちがお盛んなのは凛々亜や雛世を見てなんとなくわかるが、こういうエンタメの消費傾向もお盛んだとは……
しかしエロティックに描かれているとはいえ、露出が多いのは男のほう。
これでは世の女性は悦んでも、俺は喜ばない。
男性向け、女性向けともに趣味に合うものがなかなか見つからないという状況。貞操逆転世界に来てウハウハだと思ったが、面白そうなエンタメが減ってしまう事実に俺は天を仰いだ。
「くそぅ……こんなところに思わぬ弊害が……いや、待てよ……?」
俺はあることに気がつく。
元の世界での女子のなかには、男同士の恋愛作品――いわゆるBLを好む『腐女子』と呼ばれる人種がいた。同人や商業問わずその勢力は大きく、一大コンテンツとなっている。
それがそっくりそのままひっくり返ったなら、女の子同士の恋愛作品――元の世界で言う『百合』がものすごい勢力になっているのではなかろうか。
元々、女の子がたくさん出てくる日常系漫画とかスポ根モノとか恋愛モノはよく読んでいた。好きか嫌いかでいえば、絶対に好きな方だ。
貞操逆転世界の腐男子(こう呼ぶのかは知らないが)パワーが集結すれば、きっと覇権コンテンツがたくさんあるはず。
俺は検索欄に『百合』と打ち込んで見る。すると出るわ出るわ百合作品。専門レーベルもたくさんある。
漫画以外も検索してみると、アニメや小説、同人誌やASMRボイスなど無限に湧いて出てくる。
さすがだぜこの世界の野郎共。最高だよ。
宝の山を掘り当てたとばかりに検索に勤しむ俺。
すると気づかないうちに性描写が目的の実写の映像作品――いわゆる
本当は年齢的に見てはいけないのはわかっているのだが、本能には逆らえない。
――この世界の百合作品、異常なまでに洗練されている。作り手の熱量が段違いだ。
いやーこれ、どちゃくそえっちだな……
思わず俺は見入ってしまっていた。
すると不意にブースのドアが開く。
入ってきたのは凛々亜だった。
しまった、最悪のタイミングで最悪の女が入ってきやがった。
彼女パソコンのモニタを一瞥したあと、俺に怪訝な表情でこう投げかける。
「えっ……うわ、平川くん、そういうの見るんだ……」
「ちょ、ちょっと待て、こ、これは不可抗力で!」
「ま、まあ平川くんは男の子だし、何を見るかは人の好みだけどさ……ちょっとそれ、私の前では見てほしくないなあ……」
あからさまに引かれてしまった。
無理もないか。
元の世界に置き換えると、凛々亜が
……うん、普通に嫌だな。
俺はごめんなさいと平謝りして、パソコンのモニタの電源を消した。
今度から百合動画はこっそり見ることにしよう。お兄さんとの約束だ。
……よし、気を取り直して俺も漫画を読むとするか。
しかしこの部屋なんだかちょっと暑いな……
脱ぐか……
その姿をハイエナのような眼光で睨まれていることも知らず、俺は漫画を取りに行くのだった。