貞操逆転世界での俺、気軽にヤれるビッチ♂だと盛りのついた女子たちの間で噂になっていく 〜お前らみんな、俺で処女捨てたくせに……〜 作:水卜みう
「こんなところで何をやってるんですか、あやめさん」
「えへへ、それはね、ハルくんの晴れ舞台をね……撮ってね……永久保存版を作ろうかなってね……」
晴人の姉であるあやめさんは、盗撮行為に悪びれる様子もなく、なぜか照れ始めた。
……なるほど、貞操逆転世界でのこの人はこういう感じか。
元の世界でのあやめさんは優しくて包容力たっぷりのお姉さん。
藤崎家の遺伝をしっかり受け継いでいて、女子だけど身長は百八十センチくらいある。
晴人の家に遊びに行くと、一緒にゲームをしてくれたり、手作りのお菓子を出してきてくれたり、テスト前なんかは勉強を教えてくれたりと、とても面倒見の良い人だった。
……まあ、ちょっと弟のことが好き過ぎかなーとは思うことがあったけど、それは家族愛みたいなものなんだろうなと俺は感じていた。
だがしかし、この世界ではあやめさんの面倒見の良さ――もとい、弟への愛がエスカレートしてしまっているようだ。
晴人の試合を撮影して、それで永久保存版の映像集を作ろうだなんて発想は、元の世界のあやめさんでは絶対に出てこない。完全にブラコンである。
大学生になって離れた街で一人暮らしをしていることも、ブラコン気質を加速させているのだろう。
「あのですねあやめさん、晴人の雄姿を記録したい気持ちはわかるんですけど、この大会は許可のない撮影は禁止ですよ」
「……えっ? だめなの……?」
「駄目なんです。昨今盗撮が増えていて、勝手に撮ったら捕まることだってあるんですよ」
「ほえ……知らなかった……」
「それにあやめさん、いくらなんでもその服装は怪しすぎますって。ただでさえ身長高くて目立つのに、サングラスとマスクとニット帽なんて……」
俺は呆れ口調でそんなことを言うと、あやめさんはうるうると涙をこぼし始めた。
ええ……俺なんか泣かせること言っちゃったか……?
この状況を見た凛々亜が「あーあ、平川くん、大人の女性を泣かせたんだー悪いんだー」と小学生みたいな煽りを入れてくるのに少し苛立ちを感じながら、俺はあやめさんにフォローを入れる。
「ちょ、ちょっと、こんなところで泣かないでくださいよ」
「うう……だって私が来ると、ハルくん嫌な顔するから……だから変装しようと思って……」
ああなるほど、この世界の晴人はあやめさんのブラコン具合にうんざりしているのか。
家族なら普通に応援に来ればいいのだ。でも、晴人はあやめさんが試合に来るのを嫌がっている。
それは貞操逆転世界でエスカレートしたあやめさんからの過剰な甘やかしに嫌気が差したから。
結果、姉弟仲はあまり良くなくなってしまい、それでも晴人の試合に行きたいあやめさんはこんな雑な変装をして市民体育館に来た――というわけだろう。
「理由はわかりましたけど、ダメなものはダメですよ。残念かもですけど、撮影した映像は消しましょう」
「そんなぁ……後生だから……」
「そう言われてもダメです。これを許したら、他の人にも晴人のことを撮られちゃう可能性だってあるんですから。もしその映像がネット海に出回ったとき、あやめさんは責任とれますか?」
やや無理矢理ではあるが、あやめさんがやっていることは倫理的に絶対よろしくないので、こんな感じに説教っぽく言うしかない。
家族だから許すではなく、親しき仲にも礼儀ありということ。
「それは……無理です……」
「ですよね。じゃあ消しましょう」
「はい……」
あやめさんはカメラを起動し、撮った映像や写真を消し始めた。
もう大学生で未成年ではないのだから、このくらいはケジメをつけてもらわなければ。
警察を呼ばないだけマシだと思ってほしい。
「……それと、外ヶ浜さんもね」
「ええっ!? 私も!?」
「そりゃそうでしょ、晴人の交代で出てきた一年生の子をこっそり撮ってたの、知ってるよ」
「ぐぅ……」
「いや、ぐうの音出るのかよ! 普通は出ないんだよぐうの音が!」
盗撮魔二人の映像や画像の消去を確認したので、これ以上あれこれ追及するのはやめることにした。
「そういうわけで、今日はもう解散にしよう。晴人の試合はおわっちゃったしね」
「……はい」「はぁ……」
「それじゃ西目屋さん、帰ろうか」
俺が帰ろうと雛世を
まずいと思ったのか、彼女はすぐにスマホ隠す。
「西目屋さん? 何してたの?」
「い、いや、な、ななな、なんでもないです……」
「いやいや、スマホのカメラを向けてたでしょ」
「そ、それは……その、い、今のやり取りを証拠として残しておこうかと……」
「ああ、なるほどね。これ以上悪いことしませんって誓約の意味もあるもんね。さすが西目屋さん、抜かりないね」
「は、ははは……当然ですよ……」
どこか雛世はぎこちなく笑うが、いつもの緊張状態だと思う。
証拠を残しておくことは悪いことではない。ナイス雛世。
そのまま俺と雛世は帰路につくことにした。
あやめさんも凛々亜も、これに懲りて次からあんなことはしない……はず。
※※※
その夜、俺のスマホに着信が入った。
画面に表示された名前を見て、俺は少し驚いた。
その人から連絡がくるのは、とても久しぶりだったから。
『朝陽くん……助けてよぉ……ハルくんに、ハルくんにぃ……嫌われちゃったよぉ……』
開口一番にそんな声を聞かされて、俺はため息をついた。
声の送り主はあやめさん。
この状況だと、どうやら昼間の事件が晴人にバレてしまったのだろう。
……仕方がない、あやめさんの弟の親友として、ちょっと協力してやるか。