貞操逆転世界での俺、気軽にヤれるビッチ♂だと盛りのついた女子たちの間で噂になっていく 〜お前らみんな、俺で処女捨てたくせに……〜 作:水卜みう
「どうしたんですかあやめさん、晴人に嫌われたって……」
『うっ……ううっ……私が今日、試合をこっそり観に行ったことがバレちゃってね……そしたらもう、金輪際来ないでくれって……』
「金輪際って……よっぽどやらかしてきたんですね、あやめさん」
『や、やらかしてなんか……』
「晴人の永久保存版映像、全部で何分くらいになるんですか?」
『一テラバイトのハードディスクがパンパンのパンになるくらい』
「もう原因それじゃないですか……」
俺は電話越しに大きなため息をつく。
思っていたよりあやめさんは晴人にべったりし過ぎなようだ。
『でもでもでもでも、家族の写真とか映像なんて、みんな保存するもんでしょう?』
「何事にも限度がありますって。ハードディスクがパンパンになるのはさすがにやりすぎです」
以前、うちの親父の外付けハードディスクを見つけて中身を覗いたとき、アダルトな動画でいっぱいだったことがある。
それですら五百ギガバイトのハードディスクだったから、一テラバイトとなると膨大だ。撮影対象が弟というのも恐ろしい。
何に使うんだよその映像。……いや、使うってなんだよ。
『どうしよう……ハルくんにこのまま嫌われ続けたら、私生きていけないよぉ……』
「そんな大げさな」
『お願いだよ朝陽くん……なんとかハルくんのことを説得してもらえないかなあ』
「俺がどうこう言ったところで、晴人は変わらないと思いますよ」
『そんなぁ……』
一応、あやめさんには色々勉強を教えてもらったり、バレンタインデーに数少ない家族以外のチョコレートをくれたりと、それなりに恩がある。
だから彼女の頼みをこのまま断るのは筋が通らない。せめてアドバイスくらいはしておかないと。
俺はこの間読んだ『あらショタ』の中に出てきたこんなフレーズを思い出す。
「でもですね、他人は変えられないですけど、自分を変えることはできます」
『ど、どういうこと……?』
「あやめさんが変わればいいんですよ。晴人に嫌われなくなるように」
我ながらちょっとかっこいいことを言った気がする。
実際に世界が変わったくせに、俺は全く変われていないということには目をつぶっておこう。
『私が変わる……?』
「そうです。今のあやめさんは晴人にめちゃくちゃ依存しています。だから少しずつその依存度を下げていくんです」
『どうやって……?』
「うーん、例えば……推し活を始めてみるとか」
『ハルくんよりカッコよくてかわいい男の子なんていないよ』
「その意識を変えるんです。あやめさんにとっては晴人も大切だけれども、自分から晴人以外の人に意識を向ける努力をするんですよ」
『そんなの……できるかなあ』
「できないと一生晴人に嫌われっぱなしですよ」
『うう……それは嫌だよぉ……』
半ば脅しのようにあやめさんを説得する。
もしかすると俺、こういう言葉巧みな営業を仕掛けるの得意かもしれない。
しばらく悩んだ挙げ句、あやめさんは折れた。
『わかったよぉ、じゃあハルくん以外の推しを作るように努力する』
「その意気です」
『具体的に誰を推すかは……まだ決めてないんだけど』
「なんでもいいと思いますよ。アイドルでも俳優でもスポーツ選手でも……アニメキャラとか動物だってありです」
『うーん……あんまりピンとこないかも……』
「それじゃあ、晴人に似た人とか」
『それも……微妙な……私ね、全然知らない人のことを多分好きになれないんだと思うの』
「知ってる人ならいいってことですか?」
『誰でもいいってわけじゃないけれど……まあ、ちょっと考えてみるね。お悩み相談につきあってくれてありがとう朝陽くん』
「いえ、こんなんで良ければ全然構いませんよ」
『今度お礼にお昼ごはん奢ってあげるね。何か食べたいもの、考えておいて』
「い、いいんですか?」
『うん。最近バイトの時給が上がったから、ちょっとくらいは』
「ごちそうさまです!」
俺はラッキーと思いながら電話を切った。
唐揚げの美味しいお店にしよう。とすると、中華料理屋さんかな?
唐揚げは美味いからな。楽しみだな。
長電話をしてしまったので早いこと風呂にでも入るかと思った刹那、今度は俺のスマホにメッセージアプリの通知が鳴る。
メッセージの送り主は雛世だった。
『平川くん、夜遅くにごめんなさい。今日は楽しかったです。実は帰りに外ヶ浜さんに誘われてこういうアプリをインストールしないかと誘われたのですけれど、ちょっと一人だと怖いので平川くんもどうかなと思って連絡しました。どうやら、外ヶ浜さんの仲間内で流行ってるそうです』
ちょい長めのメッセージのあと、アプリストアのアドレスが貼られてきた。
それをタップしてアクセスすると、表示されたのは位置情報共有アプリ『
噂には聞いたことがあるが、陽キャ軍団の間では流行っているらしい。
誰がどこにいるのかを親しい仲の人だけで共有する。情報をさらけ出すことが、繋がりを強化するらしい。
凛々亜は何気なく雛世を誘ったのだろう。しかし雛世にとってしてみたら陽キャ文化に触れることは黒船来航に等しい。困惑して当然だ。
俺も全く親しみのないアプリではあるが、雛世が自分を変えようと頑張っているわけだし、一緒に始めてみようかと思った。
なんなら晴人も一緒に誘えば、あの二人はもっと仲良くなるかもしれない。いい考えだ。
『オッケー! 俺もインストールしてみるよ』
そう返信し、俺はアプリをインストールした。
程なくして、雛世と凛々亜がフレンドとなった。
風呂から上がったら晴人も誘っておこう。
そうして俺は浴室へと向かった。
……このアプリが重要な役目を果たすとは、このときの俺は知る由もない。